ナイン目掛けて波動の噴出で吹き飛んで急接近をかける。
私が近づいている間にも、先に戦闘をしかけていた爆豪くんが攻撃を続けている。
「食らえ!」
爆豪くんが空中から跳びかかりながら炎玉を繰り出し続けているところに、さらに緑谷くんが飛び込んでいった。
「セントルイススマッシュ!!」
そのまま凄まじい勢いで飛び蹴りを放つけど、ナインは目を閉じたまま周囲に大きく衝撃波を放つことで緑谷くんを吹き飛ばした。
緑谷くんも爆豪くんも、サーチがある以上目が見えていなくても防がれるのは予想している。
だけど、攻撃を続けることで対応するためにサーチを使い続けないといけない状況にすることができる。
2人はそれを理解したうえで、なるべく個性を使わせることを意識しながら行動していた。
そのせいもあってか、普段の爆豪くんからは考えられない行動をした。
爆豪くんは衝撃波で吹き飛んできた緑谷くんを掴むと、爆破で高速回転をかけると緑谷くんを凄まじい勢いでナインに向かって投げ返した。
「
緑谷くんもすぐに意図を理解して、加速をつけて再びナインに強力な蹴り技を放った。
ナインは急いで緑谷くんの方向に手を向ける。
全周囲にバリアを張ることで何とか弾いているけど、目で確認できていないその防御は明らかに出力が不足していた。
ナインが後ろの方に吹き飛んで怯み、バリアは消えた。
そのタイミングで懐まで飛び込めた私も、両手に波動を圧縮して攻撃を繰り出した。
「発勁!!」
「この……!!」
この至近距離での攻撃なら、傷つけることができる可能性がある。
防がれるのはほぼ確定事項だ。
だって、周囲に衝撃波を放つだけで手を弾かれた状態からでも全周囲に攻撃できるから。
だけど確実にある程度の規模の攻撃を強制できる。
実際波動が噴出し始めて発勁があたりそうになった瞬間に、私は衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされながら波動の噴出で勢いを殺して、体勢を立て直す。
緑谷くんと爆豪くんも既に体勢を立て直して、身構えてナインを見据えていた。
意図せず緑谷くんを中心に3人で並ぶような状態になっていた。
「ここから先は」
「ブッ殺す!」
「休む暇なんて……与えない……」
「忌々しい羽虫どもが……!」
ナインは目を閉じたまま忌々し気に顔を歪めて、こちらに注意を払っていた。
私たちはすぐに散開してナインを囲むように分散した。
そのまま緑谷くんはデラウェアスマッシュによる空気砲、爆豪くんはAPショット、私は波動弾と真空波を次々と打ち込んでいった。
サーチでこちらの動きだけを見ている以上、遠距離攻撃に弱いはず。
そう思っての攻撃だった。
実際にこれは有効だったようで、ナインは前後左右からの絶え間ない攻撃にバリアを全方位に張りつつ、時折爪弾をサーチで感知した位置に飛ばすことでなんとか反撃してきていた。
今は両手で緑谷くんと爆豪くんに爪弾を放って、反撃している。
2人に比べると威力の低い私の攻撃をひとまず無視して、2人をどうにかしようとしているらしい。
緑谷くんはなんとか防いでいたけど、爆豪くんは小手に当たってしまっていた。
小手はそのまま爆発して吹き飛んでいた。
当たったのを感じ取ったナインは、追撃して爆豪くんに止めを刺そうとしている。
「させない……!!」
私はそれを阻止するために懐まで一気に飛び込んで、爪弾を放とうとしている腕をありったけの波動を使って弾き飛ばした。
その隙に、密かに近寄ってきていたお茶子ちゃんも、どうにか触れて浮かせようとナインの背後に跳びかかっていた。
「ぐぅっ!?」
だけど、ナインは背中から青い骨が連なったような使い魔を繰り出した。
私とお茶子ちゃんは噛みつかれて遙か上空まで持ち上げられた後、地面に向けて勢いよく投げ捨てられた。
抵抗しなきゃいけないのに、こんな勢いを殺せるほどの波動なんてもう残ってない。
自分では、どうしようもなかった。
お茶子ちゃんの方は凄い勢いで飛んできた緑谷くんがなんとかキャッチした。
私も地面に叩きつけられる直前で、爆豪くんが咄嗟に滑り込んでキャッチしてくれた。
「あり……がと……」
爆豪くんは私を一瞥した後、すぐ近く駆け寄ってきていた透ちゃんの方に下ろされた。
「透明女。こいつ見てろ。からっきしの奴がいても邪魔なだけだ」
「わ、分かった!」
爆豪くんは、投げ飛ばされた後に一切足掻くことができていなかった私を見て、波動が枯渇しかけていることに気が付いたようだった。
昨日からずっと波動を使い続けて、夜にも治療のために波動の譲渡をして、すでに限界に近かったのもあって、まともに身体に力を入れることができなかった。
あの状態になるほどではないけど、最後に爆豪くんの方に攻撃させないために全力で少なかった波動を絞り出してしまった。
透ちゃんも透明なスーツ以外装着していない状態でいる場所を見抜かれたことに驚きながらも、しっかりと了承した。
爆豪くんと緑谷くんがナインに向き直った時、それは起こった。
さっき私とお茶子ちゃんを攻撃した使い魔。
それを空中高くに伸ばして、爆豪くんたちの方に向かって勢いよく動き出した瞬間、使い魔は崩れ去った。
「こ、これは……」
「う……うう……ううあぁあああぁあああ……!!」
ナインが、頭を抱えて苦しみだした。
顔にも紫色のひび割れのような傷が浮かび始めている。
「デメリット……限界……」
爆豪くんと緑谷くんは、そのナインの変化に確かに勝機を感じていた。
「かっちゃん!畳み掛けるぞ!!」
「命令すんな!!」
2人ともこのチャンスを逃すまいと、一気に飛び出した。
そんな2人を感じ取りながら、ナインは必死にどうすべきかを考えているようだった。
「さ、細胞活性さえ手に入れば……温存など……必要ない!!」
その結論はすぐ出てしまったようで、ナインはスーツの中の小さなボトルから液体を注入していった。
顔のひび割れが、引いていった。
ナインは長い白髪を振り乱しながら、咆哮を上げ始めた。
「うぅうあ゛あ゛あぁああ゛ああ゛あぁあ゛あああ!!!」
上空に凄まじい速度で暗雲が形成さて空を覆いつくし、雷鳴が轟き始めた。
緑谷くんたちもあまりの異常事態に足を止めて空を見上げてしまっていた。
黒雲の中の雷鳴がひと際強く鳴り響き、光が激しく明滅した直後、緑谷くんたち目掛けて、大規模な落雷が落ちた。
その落雷は地面を引きはがしながら、緑谷くんたちを吹き飛ばした。
離れた位置にいた私と透ちゃんすらも、その衝撃で少し吹き飛ばされていた。
辛うじて保っている朦朧とした意識の中で、活真くんの波動を感じ取る。
響香ちゃんと障子くんがどうにかナインを撃退しようと橋を落としたりしていたようだけど、音を頼りに近くにいることを見抜いて、辺り一帯を使い魔によって薙ぎ払われてしまった。
それを受けた2人は、遠く離れた位置まで血を噴き出しながら吹き飛ばされてしまっていた。
ナインは、苦しみながらゆっくりと、活真くんの方に歩みを進めていった。
ナインも、活真くんも、真幌ちゃんも、ほぼ思考通りの言葉を叫んでいる状態になってしまっているから、会話は分かる。
分かってしまった。
『活真、逃げて』
『お、お姉ちゃん?』
『いいから逃げて!!』
真幌ちゃんは、震えそうな足で、ナインと活真くんの間に立ちふさがり、両手を広げた。
私たちが不甲斐ないばかりに、真幌ちゃんは、活真くんとの思い出を思い出しながら、『気が弱くて優しい、すぐ泣く弟を守るのは自分の役目だ』って考えながら、ヴィランに立ち向かっていた。
『お姉ちゃん!』
『来るな!私の弟に手を出すな!来るなって!!』
真幌ちゃんは、ナインの恐怖に負けそうになっているのに、それでもなお自分を奮い立たせて、近づいてくるナインに向けて駆け出した。
ナインは、そんな真幌ちゃんの首を掴んで持ち上げた。
『こ……こいつの命が惜しければ、こちらに来い』
『ダメ、逃げて……!逃げて……』
真幌ちゃんは首を絞められているのに、それでも必死で活真くんに呼びかけていた。
ナインはさらにその首を絞めつけながら、活真くんに迫り続けている。
その顔には徐々にあの傷が広がってきていて、もう余裕はない。
ブーストをかけて無理矢理どうにかしていたけど、もう限界なんだろう。
だけど、だからこそナインは真幌ちゃんを人質にして必死で活真くんに懇願していた。
『叶えさせてくれ……!私の……願いを……!』
『……逃、げて……活……真……』
『いやだああ!!僕が守る!僕がお姉ちゃんを守るんだあ!!』
活真くんはお姉ちゃんを助けるために、ナインに向かって駆けだしていた。
真幌ちゃんと活真くんを、お姉ちゃんと私に重ねて見ていた。
子供だって言っても、嫌いな嘘を許容して諭すだけに留めたのはそれが理由だったし、普段の私だったら気を使ったりしないで、すぐに私が接触して注意して終わってたと思う。
常に弟のことを考えている優しいお姉ちゃんと、そんなお姉ちゃんが大好きな弟。
今、そんな2人が、ヴィランの魔の手に掛かってしまいそうになっている。
弟を守るんだって頑張っているお姉ちゃんと、お姉ちゃんを守るってヴィランに向かって駆けていく弟。
そんな様子を感じ取っているのに、何もできない自分が情けなかった。
「真幌ちゃん……活真……くん……」
同時に私は、激しい怒りを覚えていた。
2人の気持ちを踏みにじるヴィランの行い。
そんなものを感じ取って、怒りを感じないはずがなかった。
どうにかしたくて、脱力する身体に鞭打って、地面に指を食い込ませながら必死で立ち上がろうとしていた。
怒りと申し訳なさ、何もできない自分に対する情けなさ、悲しみ、そんな感情に苛まれていると、私の身体から、波動が湧き上がってきた。
どんどん膨らんでくるそれは、万全の状態よりも全然大きくなっていた。
それを認識した瞬間、私は手と足に詰められるだけの波動を詰め込んで、ナインに向かって吹き飛んだ。
いつもの波動の噴出なんか目じゃないくらいの速度で吹き飛びながら、さらに波動を四肢に圧縮していく。
その段階で、圧縮しきれずに手足から漏れ出す波動が可視化して、私の四肢に纏わりついていた。
だけどそんなことは一切気にせずに、空中で波動を噴射して急制動をかけて、ナインに向かって急降下をかけた。
「波動蹴!!」
「スマァッシュ!!」
青白い波動を纏った私の足と緑色の電流のような力の奔流を纏った緑谷くんの足が、ナインの腕に同時に突き刺さった。
真幌ちゃんが宙に放り出されるけど、爆豪くんがキャッチしてくれた。
私と緑谷くんは活真くんを庇うようにナインの前に立った。