「真幌ちゃんと逃げて!」
緑谷くんが私たちの後ろにいる活真くんに、そう叫んだ。
活真くんも、真幌ちゃんの方にすぐに駆けて行った。
そのまま真幌ちゃんの手を握って引っ張って距離を取ってくれていた。
それを確認すると同時に、緑谷くんと爆豪くん、私の3人は一気にナインに向かって飛び掛かった。
私たちの蹴りも、拳も、全方位に張られたバリアによって容易に防がれた。
ナインは目を閉じたままではあるけど、それでも衝撃波を放つことで私たちを弾き飛ばした。
ナインはそのままバリアを張って警戒しながら、こちらを憎々しげに睨んできた。
「……どうやって私の稲妻を?」
「アレは前に受けた!」
緑谷くんのその声とともに、私たちはもう一度同時に蹴りを放った。
緑谷くんと爆豪くんが、バリアの上から押し込むように渾身の力を込めている。
私もそれに合わせて、波動を噴出して圧力をかける。
高まった圧に耐えきれなくなったのか、バリアが砕け散ってナインが後ろに回転しながら吹き飛んだ。
「そう何度も同じ手を食らうわけねぇだろ!!」
爆豪くんたちは雷が落ちる直前に、爆破やフルカウルによって横に吹き飛ぶような形で大きく動いて雷を避けていた。
目が見えず、サーチで動きしか見えていないなら、雷の爆発によって吹き飛んだと勘違いしてもおかしくない。
実際ナインは私と同じように吹き飛んでいた2人の動きを見て、勘違いしたんだろう。
確かに落雷の衝撃とかの影響もあって、無理して避けた結果、吹き飛んだまま着地できずに地面に叩きつけられたりしていたけど、それだけだ。
ダメージを負ってはいるけど、2人が動けなくなるほどのダメージじゃない。
ナインは表情を憎々しげに歪めながら、爪弾と使い魔を放ってきた。
私の方にも使い魔が迫ってくる。
使い魔はまっすぐこっちに向かってきている。
目が見えていないせいで、サーチで感知した地点に単調に向かってくるだけになってしまっている。
私はそれを波動の噴出によって急加速をかけてその地点から脱して回避して、そのままさらにナインの方に向かって加速をかけて距離を詰めていく。
「羽虫も……鬱陶しいものでしょ……!!」
それに合わせて、両手から次々に真空波を放って使い魔を吹き飛ばしながら、ナインの方にもダメージを与えていく。
緑谷くんも使い魔を次々と切り裂いていっている。
私と緑谷くんの攻撃にナインが気を取られた瞬間、爆豪くんは一気にナインへと距離を詰めて、爆破の連続できりもみ回転しながら勢いをつけていった。
「死ねやぁ!!!」
爆豪くんの掌がひと際強く光った次の瞬間、地面を大きく抉る程の大爆破の炎がナインを降りかかった。
凄まじい爆発の衝撃と爆風が辺り一帯を襲った。
炎を前に、爆豪くんと緑谷くん、私は着地した。
ナインは、まだ意識を保っている。動けないわけでもない。
彼の思考を埋め尽くしているのは、激しい焦燥感だった。
「へっ」
「……まだ終わってない……気を抜かないで……」
爆豪くんが鼻先を擦りながら鼻で笑っている様子を見て警告する。
そしてその予想の通り、ナインは動き出した。
「まだ……終われない……!終われるハズがない……!!」
ナインは爆発の影響でボロボロになった腕を空へと伸ばし、個性を発動させた。
空に凄まじい速度で暗雲が立ち込めていき、巨大化していく。
それはすぐに、凄まじい大きさの雷雲となった。
紫黒の雷光がその内部を生き物のように蠢いているのが、容易に見て取れた。
「この程度で、終わってなるものかぁあああぁあああぁあああ!!」
焦り、怒り、憤り。
そんな感情を抱えながら、ナインは激情のままに叫んだ。
そして全身に紫色のヒビが侵食していくのさえ無視したナインの両肩のボトルが一際強く光って、紫色の何かを一気に噴射した。
その直後、炎の中にいたナインの周囲に紫色の力の奔流のようなものが迸り、炎を切り裂いていった。
それに合わせて、周囲には爆発のような衝撃波が生まれていた。
炎と爆風がこちらを襲ってくるのを必死で耐える。
そんな中感じ取ったのは、炎の中で浮かぶナインだった。
髪をたなびかせ、紫色の力の奔流を翼のように纏ったナインは、こちらを一瞥してから回転した。
次の瞬間、巨大な竜巻が発生した。
その竜巻は、炎を飲み込んで巻き上げていき、同時に生成されていた2つの炎の竜巻すらも飲み込んで、極大の炎の柱として狭い島に打ち立てられていた。
これが、暴走?
情報として聞いてはいたけど、完全に甘く見ていた。
「この島もろともブッ壊す気か……!!」
『どうする!?まだ活真くんたちが……!それに、避難している人たちにも危険が……!』
周囲への被害を一切気にしていないその攻撃に爆豪くんが唸ると同時に、緑谷くんが後ろの岩陰にいる活真くんと真幌ちゃんを気にしている。
この中で、一番火力が出ないのは私だ。なら……
「後ろの2人は私が守る!!2人は全力で行って!!」
私は後方に吹き飛びながら、炎の柱と活真くんたちの間に身体を滑り込ませる。
それを確認した緑谷くんは、返事はしていないけど心配することはなくなって、『絶対に止める!!』という決意を胸に目の前の脅威に向き合っていた。
「ワンフォーオール……100%!!!」
「あんなもん、最大火力でフッ飛ばす!!!」
2人は、炎の柱に向かって飛んでいった。
私もあの2人ほどじゃなくても、ここからできることがある。
熱風に煽られながら両手を上にあげて、漲っている波動を放出して頭上で循環、圧縮して波動弾を形成していく。
普段はバレーボールくらいの大きさが関の山だけど、今は数mはあるかというくらい巨大な波動の塊になっていた。
「デトロイトスマァアアアアッシュ!!!」
「ハウザーインパクトォオオオ!!!」
「巨大……波動弾!!!」
2人が攻撃するのに合わせて、私も作り上げた波動弾を炎の柱に向けて射出した。
私たちが放った一撃と炎の柱が激しく衝突し、そのエネルギーの余波が気流を乱していた。
だけど、私たちが放った渾身の一撃は、ナインが操る炎の柱によってそれ以上の力で押し返されて、弾かれてしまった。
炎の柱から発生し続けている渦巻く炎が、辺り一帯に猛威を振り続けている。
竜巻が破壊した岩々が、気流から外れて周囲に降り注ぎ始めていた。
その一部が、活真くんたちの頭上に迫っていた。
ダメだ。破壊は間に合わない。
私だとノータイムで破壊出来るのは精々2つ。
今降ってきている10を超える数の岩に対処なんてできない。
なら、私が取れる手段は……
「真幌ちゃん!!活真くん!!」
2人の方に吹き飛んで抱え込み、自分の身体の下に入れて庇うことだけだ。
気休め程度の効果しかないだろうけど、背中側に波動を集中して身体強化をかける。
大量の岩が、私の背中に次々と落下してきた。
凄まじい衝撃と激痛が襲ってくる。
少しの間耐えて、なんとか2人は庇い切ったけど、それで動けなくなってしまった。
「瑠――ん!!――さん!!」
真幌ちゃんと活真くんが私に縋って呼びかけているのが分かる。
だけど、朦朧とする意識ではその声すらもまともに認識できていなかった。
薄れゆく意識の中で、周囲の波動を感じ続ける。
そんな中で、信じがたい思考を察知した。
『方法が1つだけ……たった1つだけある……』
『私の"個性"は、聖火のごとく引き継がれてきたものなんだ。力を譲渡する"個性"』
『ヒーローは守るものが多いんだよ……だから、負けないんだよ……!』
『ヒーローとは、常にピンチをブチ壊していくもの!!』
『守る方法が……』
『勝つ方法が……』
『『たった1つだけ……!』』
緑谷くんのOFAが、爆豪くんに、譲渡されていた。
確かに、それなら可能性はある。
2人のOFAがいれば、打倒することもできるかもしれない。
でも、それじゃあ、緑谷くんは……
なのに緑谷くんは、一切の後悔をしていなかった。
「「デトロイトォォォォォスマァアアアアッシュ!!!」」
2人が放った拳による一撃が、天を貫いた。
暗雲を吹き飛ばして、そこから希望の光が降り注いでいた。
「活真……くん……あり……がとう……」
私は激痛に苛まれる身体に鞭を打って、起き上がった。
今まで細胞活性をかけてくれていた活真くんのおかげで、なんとか動ける。
そのまま波動を噴出して、並んで立つ2人の後ろに崩れ落ちそうになりながら降り立って、2人の背中に手を添えた。
「私の……ありったけ……!!持って行って……!!」
今出せる波動を限界まで絞りだして、2人に譲渡していく。
私の身体が薄く光を纏って、バチバチと波動が迸っている。
それでも、できる限りの量を2人に注ぎ込んだ。
せめて、全力で戦いやすいように。
「かっちゃん、行こう!!」
「ああ!?俺に命令すんじゃねぇ!!」
私の声かけにしっかりと頷いてから、崩れ落ちる私を振り向くことなく、2人はナインに向かっていった。
ナインから使い魔と爪弾が、次々と繰り出される。
迫りくるそれらをいなしながら、2人は倒れそうになりながらも、着実に近づいていった。
爆豪くんが地面を、城壁を溶かして、そのままナインを弾丸のような速度で強襲した。
バリアでなんとか防いだナインに対して、爆豪くんはその場で大爆発を放った。
爆風で飛ばされる爆豪くんと入れ替わるように、緑谷くんが抉られた地面を滑走してくる。
凄まじい速度で空中へ飛び出すと、高速回転しながらバリアを張るナインに向かって突っ込んでいった。
何層も張られているバリアが一気に破壊されて、桁違いの威力による衝突で、凄まじい光が生じながら大爆発が起こった。
その爆発とプラズマの発生によって、ナインは上空へと吹き飛ばされた。
そんなナインを、緑谷くんと爆豪くんが即座に追った。
「スマァアアッシュ!!!」
ナインも抵抗しようとしていたけど、その身体に緑谷くんの渾身の蹴りと、爆豪くんの大爆発が突き刺さった。
一瞬で海まで届いた炎とともに、ナインは遥か遠くまで吹き飛ばされていった。
2人も、力尽きたように瓦礫とともに落下してきている。
「これ……で……なんと……か……」
感知範囲内に、ホークスと思われる形の波動が入ってきた。
そこまで認識して、私の目の前は真っ暗になった。