那歩島から戻ってきて数日が経った。
常夏と言っていい那歩島にいたせいもあって感覚が完全に狂っているけど、こっちはもうクリスマスも間近なのだ。
明日が終業式で、明後日から冬休みになる。
まあ冬休みとは言ってもヒーロー科は夏休み同様にトレーニングがあるんだけど。
そんなことを考えていたら、先生たちが職員会議を始めていた。
実務的ヒーロー活動推奨プロジェクトが実質的に計画中止ということになってしまったせいで、代替案としてなのか"ヒーロー科全生徒の実地研修実施"の要請が来たらしい。
つまり、インターンを再開しろと急かしてきたのだ。
先生たちは学徒動員かと憤りを覚えている。
だけど一方で公安から極秘裏にとは言えそんな要請が来たことで、尋常じゃない何かがあるというのは察しがついていたようだった。
文句を言いながらではあっても、反対意見を出すような人はいなかった。
校長先生は『"冬休みの課題"だね』なんて考えている。
つまり冬休み中に全員インターンに行かせるのか。
全員となると、どう割り振るつもりなんだろうか。
ある程度の実績がある事務所となるとそんなに数はないんじゃないだろうか。
体育祭の後に配られたあのプリントからさらに絞られる可能性も考えると、1か所に複数人とかじゃないと無理な気がする。
私はこの前のままミルコさんのところでやらせてもらえる感じだろうか。行かせてもらえるなら嬉しいんだけど。
でもまだ通達もないし、今考えても仕方ないか。先生たちもこれから詳細を詰める感じだろうし。
そんな深刻な感じの会議を先生たちがしている中、A組の寮は浮かれ切っていた。
「パーティーしようよ!パーティー!」
「いいじゃん!あとは、クリスマスと言えばプレゼント交換とか!」
「いいなぁそれ!」
透ちゃんがそんな感じで声を張り上げたのを皮切りに、大盛り上がりでクリスマスパーティーの相談が始まっていたのだ。
三奈ちゃんとか上鳴くんとか、騒ぐのが好きな人が率先してどんどん意見を出していっている。
皆も拒否している様子はないし、笑顔で応じていた。
飯田くんのお誕生日会の準備をしていた時を思い出してしまう。
それにしても、プレゼント交換か。
皆でプレゼントを持ち寄って交換する感じでやるみたいだけど、何がいいだろうか。
女子だけならハンドクリームとかも選択肢に入ってくると思うけど、男子もいるのを考えるとそういう性別で使用頻度が変わってしまう物は避けるべきだろうか。
悩む。
私がそんなことを考えている最中も、皆の話は進んでいた。
「じゃあ飾り付けは誕生日の時にやってるみたいなのをクリスマス仕様にするってことで……料理とかはどうする?」
「そのあたりはあまり凝ったものを作れない私たちで話しても仕方ないですし、蛙吹さんや波動さん、砂藤さんの意見を聞いた方がいいでしょう」
三奈ちゃんが料理の話を出したら、百ちゃんが私たちの方を見てきた。
まあ自分たちは手伝い程度しかできないのに勝手に決めるのは気が引けちゃうよね。
でも皆の思考は大体期待してる感じになっているし、私も嫌じゃないから特に拒否する必要性がない。
「ん……作るよ……何がいい……?」
「ええ。頑張って御馳走を作っちゃいましょう」
「ケーキはもちろんだが、料理に関しても任せてくれていいぜ!」
私たちが肯定的な返事を返した途端、皆が歓声をあげた。
そんなに嬉しいのか。
そう思って苦笑いしてると、私が希望を聞いたのもあって皆が文化祭の時のように希望を次々と言い始めた。
「チキン!!絶対食べたい!!」
「パエリア!」
「ドリア!!」
「アメリカンドッグ!」
「たこ焼き!」
「ポテト!」
「唐揚げ!」
「チョコフォンデュ!」
「み、皆……すごい勢い……」
皆が凄い勢いで希望を言ってくるのはいいけど、その内容はあまりにも系統が違うバラバラのパーティーであったら嬉しい料理という感じになっていた。
梅雨ちゃんと砂藤くんの方を見て一応確認すると、すぐに頷いてくれた。
当日、多分大変だけど頑張ろう。
直前に作らなくてもいいようなやつは前日に作り置きしておいて直前で温め直すとかでいいだろうか。
とりあえず内容はオードブルということにして、統一感はなくてもいいだろう。
「じゃあ……オードブルってことで……色々作るね……」
「チキン、どのくらい必要かしらね。悩んじゃうわ」
「2人とも、私も手伝うからね!」
「ん……ありがと……お茶子ちゃん……」
お茶子ちゃんがフンスと気合を入れながら声をかけてくれた。
お茶子ちゃんはレパートリーはそこまで多くはないけど、基本的なことは一通りできるから作り方さえ教えればちゃんと作ってくれるしすごく助かる。
おもちのレパートリーだけは洒落にならないくらい多いみたいだから、お正月とかは大活躍なんだろうけど。
「ケーキはどんなのがいい?シンプルにショートケーキでいいか?」
砂藤くんが皆に問いかけると、すぐに同意してくれていた。
クリスマスだし、誰かの好物に寄せたりせずに皆満遍なく美味しく食べることができる可能性の高いショートケーキはいい判断だと思う。
それにしても、砂藤くんのショートケーキ楽しみだ。
仮免取得おめでとうパーティーで作ってた大きなケーキもすごく美味しかったし、イチゴたっぷりのショートケーキとかも美味しそうだ。
そんなこんなで色々決めていった。
まあ決めていったとは言っても誕生日会とかの時と同じで途中からは役割分担したんだけど。
透ちゃんは飾り付け班。
私はいつも通り梅雨ちゃん、お茶子ちゃん、砂藤くんと料理班だ。
こういうのだと大体同じグループにはなれない。まあ料理となると透ちゃんは切ったりとかの基本的なことはできても、それ以上のことはあんまりできないから仕方ないんだけど。
料理の内容自体は、皆の意見を参考にオードブルの内容を決めていった。
チキンは丸々1羽売ってるところがあればそれを使いつつ、それ以外にももも肉のローストチキンをたくさん作ることで決定。
あとは希望のあった料理を中心に、色んな種類を、それぞれそこそこの量で作ることになった。
チョコフォンデュとケーキを砂藤くんが作ってくれることになって、それ以外にも量が必要なチキンの下拵えとかも手伝ってくれると言ってくれた。
だからチキンは皆で作って、それ以外の料理を私と梅雨ちゃん、お茶子ちゃんで分担して、甘い物系を砂藤くんに任せることになった感じだ。
その後は料理に必要な材料やその量を4人で相談したりしていった。
クリスマスイブ当日に買うんじゃ作るのが間に合わないと思うし、混みそうなのも困る。
そもそもイブが終業式だから午前中は準備できないのだ。
だから明日一度スーパーを覗きに行こうと思っている。
値段の確認や日持ちするものの購入を先に済ませて、足が早いものは前日に買う方針にした感じだ。
翌日、スーパーにはお茶子ちゃんたち以外にも透ちゃんたち飾り付け班の数人が付いてきてくれた。
期限的に大丈夫なものや、冷凍できるものを大量に買い込む予定だ。
食材の買い物をする前に透ちゃんたちと色々なお店を覗いたりもした。
皆プレゼントをどうするか悩んでいるようだ。
「プレゼントどうしようかなー」
「迷っちゃうよね……」
「どうせならびっくりさせたいよね!」
「……びっくり箱とかは……流石にやめようね……?」
「あはは!流石にそこまではしないよ!」
透ちゃんが若干不穏なことを言っているのが気になる。
どんなプレゼントにするつもりだ。
驚かせるってどういう方向性にするんだろう。
不安だけど、とりあえずびっくり箱とかじゃないならまあいい、のかな?
梅雨ちゃんはかわいい感じの雑貨を見てるし、お茶子ちゃんはなぜかお徳用大袋のおもちを凝視して悩んでいた。
梅雨ちゃんはいいとして、お茶子ちゃんはそれをプレゼントにするつもりなのか。
少なくとも自分用にする思考じゃない。プレゼントに悩んでいる思考をしながらの凝視だし。
おもち……まあ実用的ではある。誰がもらっても美味しく食べることができる。
そう考えると悪いプレゼントではないのか。
私はどうしようかな。
食べ物系も悪くはないと思うんだけど、物にしたいとは思っている。
そして梅雨ちゃんが悩んでいる雑貨の辺りとかを色々見て回りながら考えていたら、いい考えが浮かんだ。
これなら完璧だ!喜ばない人がいるわけない。
だって私なら嬉しいから!
とりあえず可愛すぎない感じの誰がもらっても使えそうなデザインの物を選んで買っておいた。
後は寮に帰ってから選別作業だ。
……あ、一応許可も取っておいた方がいいのかな。
うん。やっぱり許可も取っておこう。ダメって言われたらそれはそれで代替案もある。
私がそう考えながら小さく笑みを浮かべていると、透ちゃんが話しかけてきた。
「何かいいのあったの?」
「ん……!完璧なプレゼントを思いついた……!もらった人は運がいい……!大喜び間違いなし……!」
「あー、なるほどね……うん!きっとそうだね!」
透ちゃんが一瞬微妙な表情を浮かべていたけど、気にする必要はない。
だって同意を示してくれてるし。
透ちゃんが当たっても大喜び間違いなしなんだから。
そのまま透ちゃんは自分のプレゼント選びに戻っていった。
プレゼントも選び終わって、食材や飲み物もある程度買い揃えた。
皆意気揚々とパーティーの準備を進めている。
そんなに楽しそうじゃないのは爆豪くんくらいだろうか。
一応プレゼントは用意するように切島くんと上鳴くんが説得してくれていたから大丈夫だと思いたい。
ここで準備してくれないとちょっとなんともいえない空気になっちゃいそうだし。
企画班の百ちゃんが張りきって全員分のサンタ服を用意してくれたりもしていた。
そこに関しては百ちゃんにお願いして1つ子供用のサイズも作ってもらった。
教師寮の先生たちがパーティーをしてあげられるならいらないかなと思ってたんだけど、先生たちは色々忙しそうで準備とかは全然できてない。
まあ忙しい中でもエリちゃんのサンタさんになろうとほとんどの先生たちがプレゼントを用意してあげているみたいではあったけど。
でも、エリちゃんはこういうパーティーとかをしたことがないと思うから、できることなら参加させてあげたいなと思ったのだ。
百ちゃんに相談したら、すごく乗り気で小さな赤いサンタ服を作ってくれた。
インターン組でエリちゃんに渡しに行ったら、すごくキラキラした目でサンタ服を見ていた。
サンタさんへの期待で溢れるその思考がかわいらしくて、思わず笑顔になってしまったくらいだ。
そんな感じで皆でパーティーの準備を進めていった。
前日にチキンも買って、できる下拵えとかもやっておいた。
そしてついに、クリスマスイブ当日になった。