ついに今日はクリスマスイブだ。
予定通り終業式も午前中で終わって、大急ぎで料理も作った。
量が多いチキンの方はまあ予想通りの大変さではあったけど、オードブルとして色んな種類の料理をそこそこの量作るのが結構大変だった。
オードブルとはいっても私たち20人とエリちゃん、あとは付き添いで来るであろう相澤先生が食べる分まで考えると、全部ある程度の量が必要になる。
そんな大量の料理を私、お茶子ちゃん、梅雨ちゃんで目を回しそうになりながら作り上げた。
午前中からできればよかったんだろうけど、学校だったんだから仕方ない。
砂藤くんは砂藤くんでチキンの下拵えを一緒にした後、大量のケーキを集中して作っている。
皆も飾り付けとか色々凝りだしていて、そもそもの手が足りていないのだ。
まあエリちゃんも参加するし、結構豪華な感じにできそうだからいいんだけど。
外もすっかり暗くなって、料理はほとんど完成した。
後はチキンが焼きあがるのを待つだけだ。
さっきからお茶子ちゃんが目をまん丸にしてチキンを凝視している。
思考からしてブルジョワって感じだから、実家ではあんまりこういうのを食べられなかった感じかな。
まあ調理済みの物を買おうとするとチキンは高いし、自分で作れないなら仕方ないのかな。
「……お茶子ちゃん……味見……する……?」
「味見……いやいや、大丈夫!ごめんね!皆で一緒に食べた方がいいもんね!」
お茶子ちゃんは涎が垂れそうになりながらも遠慮してきた。
遠慮する瞬間だけ私の方を見てきたけど、すぐにオーブンの中で焼けてきているチキンの方に視線がいっている辺り期待を隠せてない。
微笑ましく思いながらその様子を眺めていると、赤いサンタ服を着た透ちゃんがキッチンに顔を出した。
「4人とも!そろそろサンタ服に着替えておいてね!エリちゃん来ちゃうかもしれないし!」
「ん……そうだね……相澤先生……今職員会議終わったっぽいし……そろそろだと思う……」
「それなら着替えてから料理を机に並べちゃいましょうか」
「じゃあ順番に着替えてこよっか!」
「あ、私がチキン見てるよ。焦げないように見てれば大丈夫?」
「助かる……多分後15分くらいはかかるから……大丈夫だとは思うけど……万が一焦げそうだったら……そこのミトン使ってオーブンから出してくれれば……大丈夫……」
透ちゃんが見ててくれるって言ってくれたから、チキンから出てる油を上にかけなおして再びオーブンの中に入れて、本当に見ているだけでいい状態にしてからキッチンを離れた。
一度部屋に戻って百ちゃんが準備してくれたサンタ服を出す。
私のは赤いサンタ服だ。
帽子のポンポンの部分が人によって形が違うのが百ちゃんのこだわりっぽい。
女子だとお茶子ちゃんが土星、梅雨ちゃんは蛙、三奈ちゃんは白黒で半々になっているポンポン、響香ちゃんが音符、百ちゃんが本、透ちゃんは透明をイメージしたのかなしだ。
私のは波動弾みたいな感じの綺麗な飾りが付いていた。
すごく軽いけど、なんの素材で作ってるんだろう。ちょっと気になる。
まあいいか。とりあえずササッと着替えてしまう。
女子のサンタ衣装はミニスカサンタといった感じで、タイツとロングブーツを組み合わせる感じになっている。
着替え自体はすぐに終わって、キッチンに戻った。
「あ、瑠璃ちゃん!衣装似合ってるね!」
「ありがと……チキン焼けたんだよね……あとは私がやるから……透ちゃんは……そこのお皿に載ってる料理……机に運んでもらってもいい……?」
「うん!任せて!」
ちょうどチキンがいい感じに焼けたタイミングっぽくて、透ちゃんがミトンをつけようとしていた。
褒めてくれる透ちゃんに応えつつ、チキンは私がやることにして透ちゃんには配膳をお願いした。
竹串を刺して焼き具合を確認してから作業を進める。
タコ糸とかを取って、お皿に移して、焼いた野菜も一緒に盛り付けて見栄えをよくしていく。
チキンの切り分けは向こうで、皆の前でやるのがいいだろう。
食べやすいもも肉のチキンをいっぱい用意した上で丸鶏のローストチキンを作ったのは見栄えの為でもあるし。
エリちゃんとかこれを見たらきっと目を輝かせるんじゃないだろうか。
チキンも机の方に運んでしまう。
私たちがオードブルを作るために早い時間から料理をするのを察した百ちゃんが、大きめの卓上保温プレートなるものをいくつか創造してくれていたのだ。
これがあるとお皿ごとこのプレートに載せておくだけで温かく保ってくれるらしい。
何これ便利。オードブルをビュッフェ形式で時間をかけて少しずつ食べていく関係上、温め直しても冷める可能性を心配していたけど、これならゆっくりと時間をかけても美味しく食べられると思う。
そんな感じで準備も終わって、後はエリちゃんが来るのを待つだけになった。
皆ソファに座ったりして雑談をしながら待っていた。
「インターン行けってよー。雄英史上最も忙しねぇ1年生だろコレ」
切島くんがホームルームで先生からされた話を切り出した。
結局全員行くようにという通達があって、今までインターンに行ってた人はその事務所で良ければそれで良し。
事情があって同じ所に行けない人や新しく選ぶ人の中で体育祭で指名があった人は、そのリストを学校側で既に取捨選択してくれてるからそこから選択可。
それ以外でも学校側提供のリストから選択といった感じだった。
この学校側提供のリストに関してはなかなか豪華だった。
ヨロイムシャやウォッシュ、チームラーカーズにギャングオルカ、マジェスティックなどなど。トップランクヒーローから聞いたことがあるヒーローまで豪華なメンツが揃っていたのだ。
先生たちが安全確保のためにどれだけ尽力したかがこのリストから伝わってきた。
「2人はまたリューキュウのとこ?」
「そやねぇ。響香ちゃんは?」
「ウチは……あのリストの中だとギャングオルカかな。感知に関して相談出来そうなのがそれくらいしかいなかったし」
「ん……確かにそうかも……超音波を感知に利用するギャングオルカは……響香ちゃんにとってはいい相談先かも……」
響香ちゃんはギャングオルカのところを候補として考えているらしい。
確かにあの中で感知に関して聞きたいならギャングオルカが1番だろう。
そう考えると障子くんもギャングオルカのところだろうか。
「瑠璃ちゃんはミルコのところだよね!」
「ん……ミルコさんに……ダメって言われなければ……透ちゃんは……?」
「私はまだ悩んでるかなー。職場体験させて貰ったところは今回は弾かれてたし、隠密活動してるようなヒーローリストにいなかったし」
「そっか……じゃあ……ゆっくり考えて決めた方がいいね……」
透ちゃんはまだ決めかねているらしい。
あのリストだと透ちゃんにぴったり合うところとかはなかなかないだろうし、どういうことを学びたいかと言う視点で選んだ方が良さそうだ。
そう考えると相澤先生に指摘されてた決定打の欠如とかを克服できるようなヒーローのところとかはありかもしれない。
ナイン相手にやって貰った目潰しも決定打と言えば決定打だけど、透ちゃん単体であれをやるのはリスクが大きいし。
「聖夜最高」
……ブドウ頭が私たちの方にスマホを向けて妄言を宣っていた。
覗きだけじゃなく盗撮もするのかこのブドウ頭。
いちいち注意するのも面倒だし、とりあえず睨んでおくだけにしておく。
パーティーの前に雰囲気を悪くするのもよくないだろうし。
「緑谷くんはどうするんだい、その……ナイトアイ事務所……」
「ナイトアイは活動休止だけど、センチピーダーが引き継いでるんだろ!?久々に会えるじゃねぇか!」
「僕もそう思ったんだけど……忙しくてそれどころじゃないみたいで。グラントリノもダメだから、今宙ぶらりん」
「そっかぁ」
緑谷くんは緑谷くんでインターン先で悩んでいるらしい。
ナイトアイは最近義手と義足でリハビリを始めたと聞いたけど、それでもヒーロー活動なんてするにしてもまだまだ先だろうし、引き継ぎをしたばかりのセンチピーダーに面倒を見る余裕はない。
グラントリノもヴィラン連合にかかりきり。
なんというか、仕方ない気もするけど運がないな緑谷くん。
まあ轟くんがインターンに誘うのを考えているから大丈夫だとは思うけど。
そんな真面目な話をしている裏で、三奈ちゃんがある企みをしていた。
「コソコソなんだコラ」
「え?なんのこと?」
どうやら爆豪くんにサンタ服を着せたいらしい。
……私も協力するか。
クソチビ呼ばわりされてる仕返しだ。
いつか何か仕返しをしようと思っていたのに色々あって特に何もできてないし、爆豪くんは着るのを心底嫌がっているし、エリちゃんのためにも皆でサンタ服を着ておきたいし。
私の心がスッとする、爆豪くんがイライラする、エリちゃんが楽しくなる、一石三鳥だ。
そう思った私は爆豪くんの視界や意識の外を移動して忍び寄り始めた。
「爆豪はジーニストか?」
「あ!?」
切島くんが爆豪くんに話を振った瞬間、上鳴くんが爆豪くんに帽子をかぶせた。
やるな上鳴くん。
爆豪くんは爆豪くんでベストジーニストが行方不明になっていることに思うところがあるのか、無言で帽子を脱ぎ捨てた。
そして爆豪くんが切島くんに返答したタイミングで、三奈ちゃんが爆豪くんの背後から飛び掛かってサンタ服を羽織らせた。
「今更有象無象に学ぶ気ぃねぇわ……着せんじゃねぇよ!!」
爆豪くんが自分の背後にサンタ服を叩きつけて三奈ちゃんに文句を言い始めた。
三奈ちゃんからは私が見えているから何をしようとしているか分かっている。
そのまま気を逸らすように爆豪くんと話し始めてくれた。
「着なよー同調圧力に屈しなよー」
今だ。
拾い上げたサンタ服の袖を無理矢理爆豪くんの腕に通して半分くらい着せた。
そのまま三奈ちゃんが正面から一気にサンタ服を着せてくれる。
上鳴くんもすごい勢いで帽子をかぶせてくれた。
サンタ爆豪くんの完成だ。
「っ……なにしやがんだクソチビに黒目にアホ面ぁ!!!」
「ふっ……いい仕事した……」
「ナイス波動!」
三奈ちゃんといえーい!って感じでハイタッチしてしまう。
爆豪くんもいい加減埒が明かないと思ったのか、そのまま脱いだりせずに大人しく着たままでいてくれた。
いい仕事をしてしまった。満足感が凄い。
そんな感じで私たちがわちゃわちゃとしていると、インターンの話を続けていた皆の方で峰田くんが吠えていた。
「清しこの夜だぞ!!いつまでも学業に現抜かしてんじゃねーーー!!!」
峰田くんも峰田くんで極端な文句を言ってるな。
まあこれに関してだけは気持ちは分からなくもないけど。
「まぁまぁ、峰田の言い分も一理あるぜ。御馳走を楽しもうや!」
峰田くんの文句に同意しながら、完成したケーキを持った砂藤くんもキッチンから出てきた。
ケーキも食卓に並んだことで、完全に準備は完了した。
あとは寮の目の前まで来ているエリちゃんを迎え入れるだけだ。