クリスマスも終わって年末が近づいてくると、やらないといけないことが出てくる。
まあやらないといけないことなんて言っても、ただの大掃除なんだけど。
出来たばかりの寮とは言っても、半年近くも住んでいれば汚れも溜まるものだ。
自室は当然各々の裁量で、共有スペースは担当場所を決めてやることになっていた。
今は自室の大掃除をしていたところ。
大掃除とは言っても私は普段から掃除をしているし、普段あまりやらないベッドとかの裏とかの細かい所を掃除していくだけだった。
「瑠璃ちゃーん!掃除は順調?」
「順調だけど……どうしたの……?そっちもまだ終わってないよね……」
「ちょっと休憩がてら様子見に来たの!」
……それはいつまで経っても掃除が終わらないパターンじゃないだろうか。
まあ私はあとちょっとで終わるし、少し待ってもらえれば一緒に休憩するのも吝かでもないけど。
「……10分待てる……?そしたら掃除終わると思うから……一緒に休憩しよ……ジャスミンティーとか紅茶とか……飲みたいの淹れるよ……」
「本当!?やったー!!」
透ちゃんが両手をあげて喜んでいる。
とりあえず期待に応えるために、さっさと掃除は終わらせないと。
透ちゃんご希望の紅茶を一緒に飲みながら一息つく。
それにしても、掃除が順調そうな人とそうじゃない人ですごい差が大きい。
普段から家事をしていたかどうかの差なんだろうけど。
梅雨ちゃんとお茶子ちゃんはテキパキと進めていてもう終わりそうだし、百ちゃんは色々四苦八苦しながら作業を続けているけどまだまだ終わりそうにない。響香ちゃんは息抜きに楽器を触っている。作業自体はそこそこの進度っぽい。
三奈ちゃんは……透ちゃんと同じ感じだ。
全然終わってないのに雑誌を読んでいる。整理していたら目についた雑誌が気になってしまったようだ。
男子は男子で結構カオスだ。
緑谷くんの部屋に集まった轟くん、峰田くん、青山くんはすごい騒いでいる。
さっきまで緑谷くんのオールマイトを青山くんのライトで照らして盛り上がっていたと思うんだけど、今は違う感じで騒いでいた。
ブドウ頭がそういう雑誌のエッチな袋とじをライトで透かそうとしたら、すごい光量のライトの熱で燃えたらしい。
あわやぼや騒ぎになるというところを轟くんが氷で鎮火したようだった。
何してるんだあのブドウ頭。
流石に危険だ。轟くんがいなかったらどうするつもりだったんだ。
「紅茶おいしー!」
「……まあそれはいいんだけど……少ししたらちゃんと掃除しなきゃダメだよ……いつまで経っても終わらないし……」
「それはそうなんだけど、掃除してると色々気になっちゃうんだよねー。漫画とか雑誌読みたくなったり、皆が何してるか気になったり……」
「……休憩終わったら……掃除、手伝おうか……?一緒にやれば……気が散ってたら注意できるし……」
「いいの!?ならお願い!」
透ちゃんが抱きつきそうな勢いでお礼を言ってきた。
そんなに嬉しかったのか。どれだけ掃除が行き詰まってたんだ。
そんなことを話していたら、臨時のゴミ捨て場の方に壊れたサンドバッグを捨てに行っていた切島くん、飯田くん、口田くん、常闇くん、障子くんの足元の地面が崩れて地下に落下した。
「えぇ……」
「どうしたの?」
「ん……なんて言えばいいのか……切島くんたちが崩落した地面に飲まれて……地下に落ちた……」
「えぇ!?大丈夫なの!?」
「一応……今は怪我してないし……あの場所は先生が広げてる場所だから……大丈夫だとは思うけど……」
透ちゃんに事情を説明すると、驚愕したような表情をした後に心配し始めた。
崩落に巻き込まれているあたりちょっと心配だし、先生に報告した方がいいだろう。
あそこの拡大をしているのはパワーローダー先生で、他には校長先生しか入っているのを見たことがない。
どう対応しようか。
とりあえず飯田くんたちには慌てないようにテレパスするとして、先生への報告が問題だ。
パワーローダー先生、校長先生の発案で地下を掘って、置き場に困った発目さんの発明品をあそこに押し込んでいるのだ。
だけど、先生はあそこに専用工房やサーキット場を作ったり、休憩用の映画館や温泉を作ったり、食事ができるスペースを作ったり、割と好き放題している。
飯田くんたちが落ちた場所は先生が生徒のために厚意で作っていたサバイバル施設ではあるんだけど……
校長先生以外があそこに行ってなかったり、気付いている素振りが一切ないのを考えると、多分他の先生には秘密の場所なんだと思う。
どうしよう。
さっきパワーローダー先生は飯田くんたちを見ているし、とりあえずパワーローダー先生に連絡すればいいかな。
あとは、一応校長先生にも連絡するか。万が一パワーローダー先生に何かあった時に、他の先生は知りませんでしたじゃ困るし。
「よし……ちょっとテレパスと……電話するから待ってて……」
「う、うん。それはいいんだけど……」
透ちゃんに了承を取ってから、まずはテレパスで飯田くんに声をかける。
『飯田くん……聞こえる……?』
『は、波動くんか!?すまない!!俺たちは今!遭難してしまっているのだ!この場所がどこか分かるだろうか!?』
飯田くんにテレパスをかけた瞬間、すごい勢いで最低限の状況を伝えてきた。
それだけ焦っているってことなんだろう。
『落ち着いて……そこは地下迷宮……使われてないサバイバル訓練施設……基本的に危なくないはず……』
『しかし先程猿の玩具に襲われたぞ!?』
『それは発目さんの発明品……置き場所に困ったパワーローダー先生が……校長先生に相談して……そこに置いてるみたい……だから発明品の暴走とか……機械が意図しない動きをしない限り……危険はないはず……』
『は、発明品?』
飯田くんの困惑している感じが伝わってくる。
『ん……だから慎重に進めば大丈夫なはず……今から先生に……そこに落ちちゃったこと伝えて……救助に向かってもらうから……怪我とかにだけは気を付けて……』
『助かる!すまんが頼む!』
飯田くんがそこまで認識して返答が返ってきたところでテレパスを切り上げた。
そのままスマホを取り出してパワーローダー先生にかける。
先生はすぐに電話を取ってくれた。
『なんだい?』
「先生……崩落した地面に飲まれて……地下に生徒が落ちてます……飯田くん、切島くん、常闇くん、障子くん、口田くんの5人です……」
『なっ!?ほ、本当か!?』
「はい……先生はさっき地上であってましたよね……落ちた場所はそのすぐ近くです……対応をお願いしてもいいですか……?私の方で校長先生にも……伝えておくので……」
『分かった。すぐに向かう』
自分が広げた地下に生徒が落ちたとあっては流石に焦っているのか、すぐに走り出していた。
あとは校長先生だ。
まあ伝える内容自体はパワーローダー先生に伝えたものとほぼ同じものだし、連絡自体はすぐに終わった。
校長先生も『連絡感謝するよ!』なんて言って電話を切って、すぐに向かってくれた。
「あとは……先生たちに任せよう……」
「瑠璃ちゃん、エクトプラズム先生のを知ってたのは前にも見たけど、校長先生とかパワーローダー先生の番号も知ってたんだ」
「ん……私の場合……事情があるから……」
「事情?」
透ちゃんが不思議そうに聞いてくる。
だけどまあこの理由の説明は簡単だ。
「トガのことがあったでしょ……あの後……もし校内に疑わしい人物がいたら……教師の誰でもいいから……すぐに教えてほしいって言われて……先生たち全員分の……番号もらったから……」
私がそういうと、透ちゃんはすぐに納得してくれた。
実際こんな事情を説明されて納得しない人間なんて早々いないだろう。
トガのことが言えるのは透ちゃんと緑谷くんだけだけど、他の人に聞かれたら不審者がいたらすぐに教えてほしいって言われていると言えばいいだけの話だし。
「じゃあ掃除……再開しよっか……」
「飯田くんたちのことはいいの?」
「ん……先生には教えたし……一応……そこまでの危険はないはずだから……何かあったら……それはそれですぐに分かるし……」
「そっか!じゃあ一緒にお掃除、お願いしちゃうね!」
「ん……ぱぱっと終わらせちゃお……」
そんな感じで飯田くんたちのことは先生たちに任せて、私たちは透ちゃんの部屋の大掃除をし始めた。
透ちゃんの部屋も基本的な掃除自体は普段からしているだけあって、2人がかりでやったら掃除はすぐに終わった。
そんなことをしている間に、飯田くんたちは校長先生の手によって救助されていた。
パワーローダー先生もいるけど、校長先生が色々な施設を見てしまった飯田くんたちにはパワーローダー先生の関与を隠すことにしたらしい。
まあ先生が決めたならそれでいいんだろう。
パワーローダー先生は雄英でも貴重なコスチューム開発のライセンスを持っている先生だし、校長先生も人付き合いが苦手なパワーローダー先生の息抜きの場としてそのまま残すつもりみたいだ。
まあ今後崩落するようなことが無いようにだけしてもらえれば私から言うことは何もない。
パワーローダー先生なんてヴィラン連合対策でも色々と開発させられていてすごく忙しそうだし、そういう場所も必要だろうとしか思わないからだ。
懸念事項も解決したし、後は皆の掃除を終わらせるだけだ。
男子の方は男子に任せるとして、女子で掃除が残っているのは響香ちゃんと三奈ちゃんと百ちゃんだ。
響香ちゃんはゆっくりではあるけど1人で片付けられそうなペースで進められている。
あとは三奈ちゃんと百ちゃんか。
百ちゃんの方にはお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが手伝いに行っている。
となると、私と透ちゃんは三奈ちゃんの方に手伝いに行くべきだろうか。
透ちゃんに提案してみると、さっきまでの気の散り方が嘘のように了承してくれた。
2人で一緒に三奈ちゃんの部屋の方に移動する。
チャイムを押すと雑誌を読んでいたのを中断した三奈ちゃんが出てきた。
「どったの波動?」
「三奈ちゃん……掃除……手伝うよ……気が散っちゃって進んでないみたいだし……」
「マジ!?すんごい助かるよ!」
「マジだよ!私も瑠璃ちゃんに手伝ってもらっちゃったし、一緒に手伝うよー!」
「とりあえず……2人で別のこと始めるのだけは……やめてね……」
三奈ちゃんも三奈ちゃんで行き詰っているのは自覚していたみたいで、大喜びで部屋に招き入れてくれた。
その後は皆で掃除をしただけで終わった。
案の定三奈ちゃんと透ちゃんがアルバムを見たりし始めてしまった。
切島くんと同じ中学出身なことを三奈ちゃんは口に出したりしてないけど、卒業アルバムを見られてバレてしまっていた。
三奈ちゃんが切島くんの高校デビューは秘密にしてあげて欲しいって言ってて、透ちゃんもすぐに納得していた。
私に関しては特に強く言ってこなかったけど、読心で分かってるだろうし今更だと思ったらしい。
透ちゃんは言葉には出さないけどキラキラした目で三奈ちゃんを見ていた。
……まだ恋愛的な物には発展してないと思うけど……三奈ちゃんも透ちゃんの様子には気付いてないし、言わない方がいいか。
そんなこともあったけど、なんとかアルバムに脱線するのもやめさせることに成功して掃除を終わらせた。
とりあえずこれで女子側の大掃除は終わったし、安心して年末を迎えられそうではある。
共有スペースの方は帰省の前までに協力して終わらせればきっと大丈夫だろう。