大晦日。
全寮制に移行した経緯もあって、帰省は先生たちが会議に会議を重ねて、プロヒーローの護衛付きで1日だけ実家に戻れるということになっていた。
仕方ないことではあったけど、青山くんだけはその対象外となってしまっている。
青山くんを実家に帰してしまうと、家の中にまで監視を入れることができない以上腕輪での盗聴や盗撮による監視しかできなくなってしまう。
もし裏をかかれて両親になんらかの意思伝達をされても困るということで仕方なくこの対応になったようだった。
私とお姉ちゃんの護衛のプロヒーローは1人にまとめられている。
日にちを分散したとはいってもヒーローの数はそんなにいるわけじゃないし、当然の対応だった。
私たちについてきてくれているのはスナイプ先生だ。
多分私たちが襲われた場合でも、私が特定した場所を即座に狙撃できるからって感じで選ばれたんだと思う。
まあ私がいる限り早々奇襲されることもないし、私とスナイプ先生は個性の相性的にもいい。特に文句はなかった。
私が察知できないパターンとしてはヴィラン連合があのヘドロワープを使ってくるような状況だけど、そんなことをやるつもりがあるならもっと早い段階でどこかでやってきていただろう。
そんなこんなでお姉ちゃんと一緒に秋田の実家に帰ってきた。
家の近くを歩いているとたまに向けられる視線と感情が鬱陶しいけど、気にしていても仕方ないし無視だ。
ついてきているスナイプ先生がちょくちょく警戒するように周囲を見渡したりしていたけど、おそらく憎悪とか嫌悪感の視線に対して反応していたんだと思う。
私とお姉ちゃんはもう慣れ切ってるから今更だし完全に無視しているけど、慣れていないとこういう反応になるのが普通なんだろう。
お姉ちゃんをこういう視線にさらすのも申し訳ないし、スナイプ先生には余計な心労をかけてしまってこっちも申し訳ない気がしてしまう。
家についてからはお父さんとお母さんが準備してくれていた御馳走を囲んで家族団欒の一時を過ごしていた。
「インターンに那歩島に……瑠璃のことも色々聞いてはいたけど、本当に大丈夫だったの?お母さん心配で……」
「ん……色々あったけど……なんとかなった……大丈夫……」
お母さんが開口一番にそんなことを聞いてきた。
私は大丈夫だって言っているのにお母さんは全然納得してない。
どうすれば納得してくれるんだ。
「瑠璃ちゃん無理しすぎなんだよ。そんな言葉だけで納得できるわけないでしょ。先生から聞いてるんだよ。またわざと空っぽギリギリまで放出したって」
「そ、それは……ああしないと……皆死んじゃうかもしれなかったし……」
「それとこれとは話が別だって前にも言ったでしょ……心配なんだよ」
「……ごめんなさい……」
お姉ちゃんに咎められてしょんぼりしてしまう。
そんな雰囲気を変えようとしてか、お父さんが声をかけてきた。
「まあ今はいいじゃないか!瑠璃も謝ってるんだし!……そうだ!瑠璃、インターンミルコのところに行っていたそうじゃないか!」
お父さんがこれ以上楽しい雰囲気が崩れないように、結構無理矢理な話題転換を試みて来た。
まああの話を続けていてもお姉ちゃんが怒ってお母さんが心配するだけなのは目に見えてるし、素直になっておくのが吉か。
お姉ちゃんたちもお父さんの意図を読み取って普段の感じに戻ってくれたし。
「ん……体育祭の後に……指名ももらったし……インターンでも……指名してくれた……冬休みにやるインターンも……お世話になる予定……」
「あら、体育祭だけじゃなくてインターンまで指名してくれてたの?」
お姉ちゃんがリューキュウから体育祭で指名を貰ってからの流れを知ってるお母さんたちだから、この違和感も分かるようだった。
やっぱりそう思うよね。職場体験で指名を貰って、その後は継続してインターンに行かせて貰えないかお願いするパターンがほとんどだし。指名なんてすごく稀だ。
私も実情はお願いしてそういうことにしてもらっただけだし。
うちのクラスでも常闇くんと轟くんだけだし。轟くんは親子だから例外と考えると、常闇くんだけだ。
「仮免取りましたって……電話で報告したら……指名してくれた……」
「すごいじゃない!ねじれもリューキュウのところでお世話になってるし、瑠璃はミルコでしょ?姉妹2人ともトップ10入りしてるヒーローのところでインターンなんて、お母さん鼻が高いわ」
「この間ニュースになっていた時の記事、印刷してスクラップにしたんだ。見るかい?」
「見たい見たーい!」
「お姉ちゃん……お茶子ちゃんたちの記事と一緒に見てたよね……?」
「こういうのは何回でも見たくない?」
「まあ……お姉ちゃんの記事なら……何回でも見たいけど……」
お姉ちゃんが嬉々としてスクラップ帳を見始めた。
あれ、お姉ちゃんのことが書いてある記事を集めてたスクラップ帳だったと思うんだけど、私のもそこに入れたのか。
お母さんたちがそれでいいならいいんだけど。
「瑠璃、指名ももらえたってことはミルコに気に入られてるのかしら」
お母さんが私がわしゃわしゃ撫でられている写真を見てニコニコしながら聞いてくる。
まあ気に入られているかは別として、親しくはさせてもらっているけど。
「……気に入られてるかは別として……普段から技の助言もらったりしてるし……親しくは……させてもらってる……」
「気に入られてるでしょー!インターンの時のミルコ、すっごくかっこよかったし!」
「……心配してくれたりはしてた……気も遣ってくれた……優しくしてくれたと思う……」
「それを気に入られてるって言ってるんだよ!」
お母さんとお父さんがニコニコしながらこっちを見ている。
そんなに楽しいだろうか。
感情的に楽しんでいるのは間違いないんだけど。
なんというか、そういう微笑ましいって感じの感情を向けられるともにょもにょとした気恥ずかしいような気分になってしまう。
「……まぁ……ミルコさん……私の読心にある程度気付いたうえで……職場体験の時から指名してくれてるし……教えても態度……変えなかったし……放任主義ではあるけど……聞けば教えてくれるし……信頼してる……」
「瑠璃もねじれ以外に信頼できる人ができたのね」
「その辺はもう大丈夫だよね!葉隠さんもいるし、A組の皆にも打ち明けたんだもんね?」
「そうなのか!?」
……そういえばお父さんとお母さんには透ちゃんや皆に打ち明けたことは言ってなかったか。
お姉ちゃんに報告して満足してしまっていた。
お父さんとお母さんは驚愕して固まってしまっていた。
流石に薄情だったかな。
前に帰って来た時も透ちゃんのことを伝えようと思えば伝えられたけど、青山くんのことで頭がいっぱいだったしそんな話するのも忘れてしまっていた。
「ん……透ちゃんには……夏休みが始まってすぐに……事情があって……他の皆にも……寮に入ってすぐに……話した……皆……怖くないって……これから一緒に……楽しい思い出を作ろうねって言ってくれた……大事なお友達……」
「そっか……そっか」
「……雄英に入ってよかったなぁ!」
私が皆のことを大事なお友達だって言った瞬間、お父さんとお母さんは号泣し出してしまった。
心配してくれていたのは分かっているけど、それでもそこまでだとは思っていなかった。
「……そ、そこまで……大げさに泣かなくても……」
「それだけお父さんとお母さんも心配してたんだよ。瑠璃ちゃんなら分かるでしょ。瑠璃ちゃん、私とお父さんとお母さんで態度が違うのは、最初の反応がずっと引っかかってたんでしょ?大丈夫だよ。お父さんもお母さんも、瑠璃ちゃんのこと、すっごく大好きで心配してるんだから」
「……ん……そっか……」
お姉ちゃんの言う通り、私がお姉ちゃんとお父さん、お母さんへの対応の差が大きいのは、波動の個性で読心ができていることに気付かれた時に、最初に怖がられたからだ。
お姉ちゃんの私への態度を見て考えを改めてくれたのも分かっているし、その後は純粋に心配してくれていたのも、娘としてかわいがってくれていたのも分かっていた。
私のせいでお父さんとお母さんまで悪口を言われているのにも気付いていたし、それでもお父さんたちが態度を変えていなかったことにも気づいていた。
それでも、最初に向けられた恐怖という感情が、私の中に棘みたいに刺さり続けていた。
信用しきっても大丈夫なのか、また何かあったら怖がられるんじゃないかって思ってしまっていた。
でも、今のお父さんとお母さんの様子を見て、お姉ちゃんに言われて、少し、甘えてみてもいいかなと思えた。
……お姉ちゃんにするほど甘えるつもりはないけど。
お父さんたちが落ち着いた頃を見計らって、スマホに保存されている写真をお父さんとお母さん、お姉ちゃんに見せていった。
I・エキスポで撮った透ちゃんとのツーショットや、寮で皆と寛いでいる写真。
飯田くんのお誕生日会で撮った写真や、共有スペースで女子会をしているときの写真。
仮免試験の後に透ちゃんと撮った仮免を持った写真。
透ちゃんが私が描いた似顔絵を持った状態で撮ったツーショット。
ミスコンの衣装を着た後にやり切った表情をしている透ちゃんと撮った写真。
エリちゃん一行と文化祭を回っていた時に撮った写真。
文化祭のフルーツ飴で打ち上げしていた時の皆との写真。
クラス対抗戦の後に拳藤さんたちB組の人も交えて撮った写真。
那歩島の仮設ヒーロー事務所を立ち上げた時に第一歩として皆で撮った記念写真。
お茶子ちゃんたちと料理を作っているところを透ちゃんに盗撮された写真。
これまた透ちゃんに盗撮されていた爆豪くんにサンタ服を強制的に着せている写真。
クリスマスパーティーでどんちゃん騒ぎしているところを撮った写真。
そんな感じで、とにかくたくさんの写真を見せていった。
どの写真でも、皆も私も笑顔で写っていて、どれも楽しかった思い出だ。
最近だとコルクボードの写真もお姉ちゃんとの写真の量を減らして皆との写真を増やしていっているところだし、近いうちに貼る場所もなくなってしまいそうな勢いだった。
お父さんたちは写真を見ていくうちにまた泣き始めていて、お姉ちゃんも笑顔で頷き続けている。
とりあえずお父さんたちにお願いされたのもあって、写真を共有しておいた。
印刷して取っておきたいらしい。
思考が大量に印刷しようとしている感じだからちょっと気が引けたけど、それだけ心配をかけていたということだろうと自分を納得させて共有した感じだった。
「よし、早速スライドショーを作ったから上映会をしよう!」
「えっ……ちょっ……待って……!」
お父さんがどこからかプロジェクターを取り出しながらそんなことを言い出した。
急に何言ってるんだこの人は。
お姉ちゃんとお母さんは期待に満ちた表情でお父さんが準備するのを見ているし。
流石に恥ずかしいからお父さんを止めようと立ち上がる。
「はーい、瑠璃ちゃんはこっちだよー!」
「っ!?お、お姉ちゃん!?」
急にお姉ちゃんに後ろから抱きしめられてお姉ちゃんのいい匂いに包まれた。
びっくりして素っ頓狂な声が出た気がするけど、辱めに合わされる前にお父さんを止めないとと思ってバタついていると、お姉ちゃんにさらに強く抱きしめられた。
さらに頭まで撫でられ始めている。
あ、ダメだこれ。身体から力が抜けちゃう。
この至福の状況から抜け出すなって身体が勝手に力を抜き始めている。
私は完全に脱力してお姉ちゃんのされるがままになってしまった。
そんな状態で止めることなんてできるはずもなく、無情にも私の写真上映会が始められてしまった。
私の写真を壁一面に映して3人が口々に感想を言っていくなんていう辱めに合わされながら、年末の夜は更けていった。