ミルコさんはホークスのおかしすぎる態度で、人目があるところで口には出せない内容であることは理解していたようだった。
部屋に戻るなり私の方を向いて話すように促してきたミルコさんに、事務仕事を始めるように促してからホークスから伝えられた内容を包み隠さずにテレパスで伝えた。
『……なるほど、スパイねぇ。間怠っこしいことしてんな』
『はい……公安肝入りの作戦みたいで……』
説明に対して、ミルコさんは驚く程さっぱりと流していた。
私の血を取られた可能性に関しても、ミルコさんは『ま、しゃーない』で流していたし。
確かにあの状況だったらしょうがないと思わないでもないけど、流石に自分のやらかしに気が滅入ってしまいそうだった。
『腑に落ちることが多いから確かなんだろうが、なんでわざわざここまで偽装するように促す。部屋の中でも偽装が必要か?』
ミルコさんは書類を書きながら当然の質問をしてきた。
私も正直警戒しすぎているとは思っている。
だけど、ヴィラン連合とAFOのつながりがどこまで強いのかが分かり切っていない。
AFOの信奉者とヴィラン連合がつながっているかもまだ分からない。
そうなってくると、警戒してもし足りないのだ。
青山くんのような存在から、AFOに心酔している可能性があるものまで。
どこに誰が潜んでいるか分からない。
ホテルの中だって、遠方から監視カメラの映像とかを確認されたら、私でも気が付くことができない。
既にホークスに負担を強いることになってしまった現状では、これ以上危険な橋を渡らせるわけにはいかなかった。
『……詳細は話せません……ですが……AFOは覚えていますか……?』
『AFO?ああ、オールマイトが神野でやったやつだろ』
『はい……AFOには……多数の手駒がいます……それらが……どこに潜んでいるか……何人いるか分かりません……現状でその人たちが……ヴィラン連合とつながっているかも不明です……ですが……もしも信奉者に会話を聞かれたら……』
『最悪の場合を想定してってことか』
『はい……』
私がそこまで返答すると、ミルコさんが考え込み始めた。
ホークスから依頼されたエンデヴァーと公安への報告。
それを怪しい行動なしにする方法を考えていた。
『……エンデヴァーの方はまた考える。とりあえず明日は公安に行くぞ。公安からは普段から連絡やら呼び出しやらが多いからな。大体お小言言われるだけだから完全に無視してるが。スパイなんてやらせてんだ。あそこなら普通に話せる部屋があるだろ』
『……公安の連絡……普段無視してるのに……今回は行くのって……怪しくないですか……?』
『インターンの件で呼び出されてたんだよ。無視した結果電話で学生を育てろとだけ言われたが。まあ通りがかって気が向いたから来てやったってことならそこまで変でもないだろ』
『……分かりました……明日ですね……』
ミルコさんの提案は多少の違和感は残るけど、完全に行動を否定できるほどかと言われるとそうでもないという絶妙なラインのものだった。
確かにもともと呼び出されていたなら近くを通りかかった時に気が向いたってことで寄るのは、そこまでおかしな行動ではない。
電話で報告するのは、通信を傍受されたりとかのリスクを否定しきれない。
直接会った方が確実なのはその通りだから、明日まで待った方がよさそうだ。
そんなことを考えていたら、書類を書き終わったミルコさんが立ち上がった。
「よし。パトロールを再開するぞ」
「はい……今度は……遅れを取らないように頑張ります……」
思うところは色々あるけど、ミルコさんの指示に従ってパトロールに移っていった。
翌日。
予定通り、私とミルコさんは公安委員会の本部近くの方へパトロールをしに来ていた。
偶然を装って本部に行くならパトロールするのを近くの地域にした方がいいって考えだろう。
図らずも、いつもミルコさんの気分で活動地域を変えているっていう事実が活きていると思う。
パトロールは真面目にやって、人助けやヴィラン退治をしながらスタスタと町の中を歩いていく。
そして、公安の建物が見えてきたとき、ミルコさんが口を開いた。
「あー、そういや公安に呼ばれてたな。無視してたけど」
「……行かなくていいんですか……?」
「……いつもなら行かねぇんだが、たまには行ってやるかぁ」
ミルコさんの意図通りの言葉を返すと、ミルコさんは頭を掻きながら仕方なさそうに呟いた。
あんまりにも白々しい演技ではあるけど、必要な流れだと思ったらしい。
私が報告したどこにヴィラン連合につながる人間がいるか分からないという情報を信じて、普段だったら絶対にやらない演技までして合わせてくれていた。
普段から無駄なことするくらいならさっさと行って蹴っ飛ばすって感じの考え方をしているミルコさんからは考えられない行動だった。
それだけの状況だってことではあるんだけど。
そのままミルコさんと一緒に公安委員会の建物に入った。
「なあ、会長から呼び出されてるんだが」
「ミルコ!?す、すぐに確認します!」
受付の人にミルコさんが声をかけただけで、すごく驚かれている。
どれだけ呼び出しを無視してるんだ。
この人の思考を見る限り、エンデヴァーとか上位のヒーローは少し前に呼び出されていたみたいだけど。
確認はすぐに終わったみたいで、会長室に上がるようにと指示された。
エレベーターに乗って移動して、会長室にはすぐにたどり着いた。
会長室の中には、ビルボードチャートJPの時にテレビに出ていた女性会長と、スーツを着た男性がいた。
「ミルコ、あなたを呼び出したのは半月前だったはずだけど」
「学生も連れてきたのか……」
スーツの男の人は私を見て渋い顔をしていた。
私がいると都合が悪いらしい。この2人はしっかりと私の読心を認識している。
私の読心、というよりも個性を利用したがっていたのはこの2人が筆頭っぽい。
「事情が変わった。ここは盗聴される心配はないんだろうな」
ミルコさんが盗聴と言った段階で2人の表情が変わった。
呼び出しを利用して接触しただけだということを、すぐに理解してくれていた。
「ええ。ここのセキュリティは世界トップクラスを自負しているわ。好きに話しなさい」
「それがわかりゃ十分だ。ほら、話せ」
ミルコさんに話すように促される。
私も促されるままに一歩前に出る。
「雄英高校ヒーロー科1年A組……波動瑠璃です……ご存じみたいですので……詳細は省きます……ホークスと接触しました……」
「そういうこと。ホークスから何か報告が?」
「ホークスからの報告は……公安委員会にもされていると聞いています……敵は解放軍……数10万以上……4か月後に決起予定……死柄木とその裏にいる者の居場所と……その目的は未だ読めず……」
「ええ。報告は受けているわ。何かそれ以外にあるのかしら?」
会長が探るような視線で私の方を見てくる。
悪意があるわけじゃないけど、ちょっと嫌な感じの視線だ。
「……お二人は……私の個性を把握していると承知した上で報告します……トガの個性が……成長しています……条件は分かりませんが……変身先の個性を使えるようになっていると……」
「……それは確かに悪い情報だが、わざわざ報告に来るほどか?ホークスの暗号で伝えれば……」
スーツの男の人が訝し気に呟いた後、会長も、男の人も、驚愕したような表情に変わった。
気が付いたらしい。
「待ちなさい。まさか……」
「私の血を……トガに取られている可能性があります……死穢八斎會で接触した際に……首にナイフを押し当てられて出血しています……ナイフは……トガがそのまま……」
「つまり、考えられる限り最悪の成長をされたということか」
苦々し気な表情を浮かべて、男の人の方が吐き捨てるように言った。
会長も冷や汗を流しながら頭に手を当てている。
「ホークスは、なんて言っていたのかしら?」
「……私に個性の詳細を確認して……ヴィラン連合に戻りました……思考を偽装することができれば……なんとかなるかもしれないと……」
「……ホークスに話した内容を、私たちにも話せるかしら?ミルコや雄英の動きを見る限り、あなたの個性を利用しようとしていたことも分かっているだろうから、話しづらいでしょうけど……」
正直気は進まないけど、そうもいっていられない状況なのは分かっている。
読心の深度や深く読むために必要なやり方、少量の血しかないという制約のなか、これを習得できるかは疑問が残ることとか、ホークスに話したことは全て話した。
「なるほど……つまり、ホークスが表層の思考さえ誤魔化し続けていてくれれば、乗り切ることができる可能性があるということね」
「……だが、これは……報告の頻度はまず間違いなく下がるとして……調査が間に合わないことも覚悟した方がいいな……」
2人は唸りながら考え込んでしまっている。
ミルコさんはそんな2人を一瞥すると、背を向けて出口に向かい始めた。
「伝えることは伝えた。帰るぞ」
「……はい……」
「待ちなさい、ミルコ」
私もミルコさんについていこうとすると、会長がミルコさんに声をかけた。
ミルコさんも、一応足を止めている。
「もともと呼び出して伝えようとしていたことよ。学生に……リオルにより多くの会敵の経験を。トップランクのヒーローたちや、頼らざるを得ない個性を持っている学生のインターンを見ることになっているヒーロー全員に伝えていることよ」
「学生を保険に使うこと自体、どうかしてるとしか思えねぇけどな」
「外道なのは百も承知よ。でも、それだけ強大な敵を相手にしなければいけない。おそらく決戦となる時には、何人かの学生は前線に駆り出さなければいけなくなる。行方が分からない死柄木に、人体実験で一部とはいえAFOの力を手に入れたナイン、サーチの完全複製……もしも死柄木が同じ人体実験を受けているとしたら……最悪の予測をしていかなければいけない。特に死柄木発見の遅れは、致命的な損害を出しかねないのよ」
「はっ。どこまでもクズだな」
「ええ、クズよ。分かっていてやっている。きっと私は地獄に落ちるでしょうね。でもそうしなければ、被害を抑えられない」
会長は、覚悟を決めていた。
学生をヴィランとの決戦の最前線に駆り出すことがどれだけ非道で、外道で、狂っているか、この人は分かっている。
それでも、そうしないとどうにもならないものがある。
敵の数に対してヒーローが圧倒的に足りていないから、学生を駆り出すしかない。
圧倒的な力を持つ存在がいるから、その対策となる学生は前線に押し出すしかない。
死柄木の場所を掴み切れるか分からないから、探せる可能性のある学生を前線に出すしかない。
その先に待っている最悪の可能性を防ぐために、使えるものはなんでも使おうとしている。
死柄木が、ナインに施した実験をさらに発展させたものを受けて、AFOの個性を完全に使えるなんて事態になったら、超常黎明期のAFOの再来になる可能性すらある。
AFOが、10万の兵力を持った場合の被害なんて考えたくもない。
それを防ぐために、この人の構想の中では、解放戦線の対策として、上鳴くんと常闇くん、小森さん、骨抜くん、あとは、死柄木探しで私を前線に出すことが、想定されていた。
「リオルの個性にも頼らざるを得ない可能性が高い。だからこそ、あなたにはリオルを、このインターンで可能な限り成長させてあげて欲しいと考えているの」
「……帰るぞ」
「はい……」
「確かに頼んだわよ、ミルコ」
イライラしながら退室しようとするミルコさんの後を、走って追いかける。
そんなミルコさんの背中に、会長が重ねるように声をかけてきていた。