波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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冬休み明け

ミルコさんと特訓に明け暮れた冬休みはあっという間に過ぎ去って、始業の日になった。

インターン中ミルコさんについて回って色んな街を移動したけど、ミルコさんはよくあんな生活を続けてられるなと思った。

毎日毎日泊まるホテルは変わるし、知らない街をパトロールしているのだ。

普通に疲れるし、そこまで身体も休まらない。

後は自分でご飯を作ったりもできないから食事は全部外食になる。

ミルコさんが毎日豪快に奢ってくれたから、美味しい物自体は食べられたんだけど。

まあそれはそれとして、特訓の日々はひとまず終わった。

ミルコさんのおかげで全体的に身体の動きと技のキレが鋭くなった気がする。

冬休みが明けて学校があってもインターンは続くし、これからも鍛えてもらう予定だ。

 

 

 

「明けましておめでとう諸君!」

 

寮でもう年明けの挨拶はとっくにしたのに、教卓に立った飯田くんはそう言って話を切り出した。

年明け早々の授業での皆への呼びかけはこれだと決めていたらしい。

 

「今日の授業は実践報告会だ。冬休みの間に得た成果・課題等を共有する。さぁ皆、スーツを纏いグラウンドαへ!」

 

飯田くんが今日の授業の内容を伝達し終わったところで、教室のドアがカァンッ!と大きな音を立てて開いた。

 

「いつまで喋って―――」

 

そこまで言ったところでコスチュームを持って移動を始めている私たちを見た相澤先生は固まった。

 

「先生ーあけおめー!!」

 

固まる先生の横を駆け出した三奈ちゃんを先頭に次々と通り抜けていく。

 

「本日の概要伝達済みです。今朝伺った通りに」

 

「飯田が空回りしてねー」

 

「マニュアルさんが保須でチームを組んでリーダーをしていてね。一週ではあるが学んだのさ……物腰の柔らかさをね!」

 

ソレ!なんて掛け声を出しながら飯田くんが盛大に腰を振り始めた。

 

「……さっそく空回り……」

 

「すぐチェーン外れる自転車みてぇ」

 

さっきまでちゃんと委員長してたのに、一気に崩れ去って空回りし始めている。

空回りしてない飯田くんは物足りないけど、この空回りはそれはそれで困ってしまうからなんとも言えない所だった。

そんな様子を横目で見ながら透ちゃんと並んで廊下を歩いていると、校内放送が響き渡った。

 

『相澤先生、職員室までお願いします』

 

その放送を聞くと、訝し気な様子で先生は職員室へ向かっていった。

先生も要件を知らないらしい。

 

 

 

「お茶子ちゃんコスチューム変えたねえ!似合ってるねえ!」

 

「ん……かわいい……いい感じ……」

 

「ホント?よかったぁ」

 

私と透ちゃんがお茶子ちゃんを褒めると、お茶子ちゃんは照れくさそうに笑った。

それにしても本当に似合ってると思う。

ヘルメットのバイザーが無くなって飾り付きの耳当てみたいになっているのと、後は腕に装着するパーツの形が大幅に変わっていた。

 

「うららかリスト重!!」

 

「ワイヤー入っとる。私の"個性"なら重さハンデにならんから。ケースは重いけど」

 

「……なるほど……緑谷くんリスペクト……」

 

「はぅっ!?ち、違うからね!?」

 

私がお茶子ちゃんの思考を読んでツッコむと、お茶子ちゃんが慌てだした。

相変わらず隠してるのか隠してないのかよく分からない感じだ。

 

「こっちには何が……「あーーー!!!」

 

三奈ちゃんがもう片方のお茶子ちゃんリストを持ち上げた途端、小さなハッチが開いて中からぽろっとオールマイト人形が落ちた。

当然のように皆の視線がオールマイト人形に集中する。

 

「麗日!!」

 

「違うの三奈ちゃん!?」

 

ホアアア!!なんて言いながら三奈ちゃんがお茶子ちゃんの方を勢いよく振り返った。

まあ流石に察しがつくよね。お茶子ちゃん否定してるけど。

三奈ちゃんと透ちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんしながらお茶子ちゃんに迫り始めていた。

 

「本当に……違うんだ。これはしまっとくの」

 

「……しまっちゃうの……?なんで……?」

 

お茶子ちゃんがそういった顔は清々しい感じだったけど、思考が理解できなかった。

何でこんなに好きな感情で溢れてるのに、恋心をしまっちゃうって結論になるんだろう。

ちょっと意味が分からなかった。

緑谷くん、脈あると思うんだけど。

 

「なんでも!とにかくしまっておくことにしたから!」

 

……思考を読んで理由は大体わかったけど納得しかねる。

目標のために緑谷くんがいっぱいいっぱいだから?

余裕のない姿をかっこいいと思ったから?

なんでそこからしまっておくって思考になるのかがちょっとよくわからなかった。

 

「……あ……」

 

「どうしたの?瑠璃ちゃん」

 

お茶子ちゃんのしまっておく宣言を聞いて少し残念そうにしていた透ちゃんが、思わず呟いてしまった私に確認してきた。

 

「……私……緑谷くんに……困ったらお茶子ちゃんに相談してみるといいかもって……言っちゃった……しまっておく邪魔になっちゃったら……ごめん……」

 

「えっ!?ちょっ!?なんでっ!?」

 

「文化祭の後……悩んでるみたいだったから……抱え込まないで……誰かに相談しろって言っておいた……その時に……お茶子ちゃんなら誰よりも真剣に話を聞いてくれるって……言っちゃった……」

 

お茶子ちゃんが顔を真っ赤にして完全にフリーズしてしまった。

しまっておくなら、余計なことを言ってしまっただろうか。

私がそんなことを考えていたら、透ちゃんが私の肩をちょんちょんつついてきた。

そっちに顔を向けると、透ちゃんと三奈ちゃんが揃ってサムズアップしていた。

 

「グッジョブ瑠璃ちゃん!」

 

「いい仕事だよ波動!」

 

いい仕事だったらしい。

この2人は嬉しそうにしているし、とりあえずまあいいか。

そんなことよりも、早く着替えないと。

お茶子ちゃんに構い過ぎて私自身が全然着替えられてない。

 

 

 

そう思った瞬間、激しい憎悪の思考が、職員室から伝わってきた。

憎悪、嫌悪感、悲嘆……とにかく濃密で凄く不愉快な感情が、相澤先生から伝わってくる。

その思考が、近くにいたマイク先生にもすぐに伝播した。

2人の負の感情の強さに吐き気を覚えて、思わず口を押さえてしまう。

 

「ぅ……」

 

「ちょっ!?どうしたの瑠璃ちゃん!?急に顔色真っ青だけど!?」

 

透ちゃんに話しかけられるけど、まともに取り合えない。

2人の思考は、『白雲』とか、『そんな素振りは』とか、『趣味が悪い』とか、いろいろ湧いては沈んでいく。

白雲っていうのは、確か相澤先生たちの同級生だったはずだ。

相澤先生の思考から時折読み取れる、インターンか何かで在学中に殉職した人。

それに、黒霧に関する思考と、趣味が悪いとか、そんなはずはとか、どんどん色んな思考が読み取れてくる。

つまり、黒霧は、脳無は、人の死体を、使っているってこと?

相澤先生たちが移動し始めたのを感じる。

その思考の中に私の名前が浮かんだのも確認した。

私も、呼ばれていた?でも、それを相澤先生の判断で止めたっぽい……

 

「瑠璃ちゃん!?どこ行くの!?」

 

「ごめん……!先に授業行ってて……!」

 

それを認識した瞬間、私は脱いでいたジャケットを羽織りなおして、走り出していた。

 

 

 

先生たちが車に乗ろうとしているところに、なんとか追いついた。

相澤先生もマイク先生も、思考や感情だけじゃなくて、表情もすごく険しくて、怖い感じになっていた。

 

「先生……!」

 

「……波動。お前は来るな」

 

「でも……私も呼ばれたんじゃ……」

 

私がそういった途端、先生は私を睨んできた。

ここに来た目的なんて、すぐに分かってしまったようだった。

目つきがいつも以上に鋭くて、怯んでしまう。

 

「ああ。確かに可能なら連れてきて欲しいとは言われた。だが俺が拒否した。行った先で読心することになるのは黒霧だ。お前が錯乱した相手の読心を、させるわけがないだろう。塚内さんもそれで納得している」

 

先生は強くそう言い放った。

こんなに憎悪に塗れてるのに、私に対して気を使ってくれている。

その事実が少しうれしかったのと同時に、それ以上に先生たちが心配だった。

確かに、あの波動を読むのはまだ少し怖いけど、でも、先生の親友だった人かもしれないっていうなら、放っておきたくなかった。

 

「嫌です……!先生は、私に気を使ってるんですよね……!?なら大丈夫なので……私も連れて行ってください……!!先生たちの憎悪も、嫌悪感も、悲しみも……こんな感情……見たくないです……!私で役に立てることがあるなら……使ってください……!!」

 

私がそう言い切ると、先生は意外そうな表情で私を凝視してきた。

私がこんなことを言うとは思っていなかったらしい。

先生はそのまま私の目を見つめながら、口を開いた。

 

「……正直、お前の目的はヒーローになることとか、人助けとかじゃなくて、姉の後を追うことだと思っていた」

 

「……それは……ずっとそうです……今までも……一度だって……心からヒーローになりたいなんて思ったことは……ないです……でも……こんな感情になってる先生たちを……放っておけないです……」

 

「……お前も、成長してるってことか……好きにしろ。山田!車変えるぞ!」

 

先生たちが乗ろうとしていたマイク先生の車は、2人乗りだった。私が乗るスペースはない。

マイク先生は相澤先生の言葉を聞いて、走って職員室に戻っていった。

学校の車を借りるつもりみたいだった。

 

「すいません……私のせいで……車……変えなきゃいけなくなって……」

 

「気にするな。ただし覚悟はしておけ。もしこの話が本当なら、奴は死体の成れの果てだ。おまえが前に錯乱した理由にも納得がいく。正直俺も、この状況で奴を前にして、冷静でいられる自信がない」

 

「はい……自分で行くって言ったんです……迷惑は……かけないようにします……」

 

先生は、相変わらず怒りに震えながらではあったけど、私を心配し続けてくれていた。

だけど、向こうに行ったらそうも言ってられない。

先生たちの感情からして、私を気にする余裕なんて皆無と言っていい。

今は私と話して間が空いたから少し冷静になっているだけだ。

本人を前にしたら、絶対に冷静でなんていられない。

私は自分で行くことを望んだんだから、足手まといにならないようにしないとだめだ。

先生たちの役に立つためにも……

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