波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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閑話:???

「イカレ女、こんなところにいたのか」

 

「ノックくらいしてください」

 

部屋でくつろいでいたら、荼毘くんがノックもせずに入ってきた。

私が文句を言っても気にしている様子もなくそのまま近づいてくる。

 

「いやなに、お前に頼みたいことがあるんだよ」

 

「頼みたいこと?」

 

「ああ。イカレ女、お前確かあいつの血を持ってたよな」

 

「あいつって誰のことですか?」

 

私が今持っている血は結構あるから、どれのことを言っているのかは流石にすぐには分からない。

持っている血を順番に思い出していると、荼毘くんが少し笑いながら口を開いた。

 

「あいつだよ。あのめんどくせぇチビ女。おまえが執着してる読心してくるやつだ」

 

「ああ!瑠璃ちゃんのことですね!はい!持ってますよ!」

 

どうしようもないやくざの所に行って手に入れた瑠璃ちゃんの血。

ナイフについてた血を大事に大事に集めて集めて、保管ケースに入れておいた2滴分の大切な血。

飲みたかったけど、大好きな瑠璃ちゃんの血なら個性も使えるだろうから大切に取っておいた血だった。

 

「量はどのくらい持ってる。ちょっと読心してもらいてぇ奴がいてな」

 

「2滴くらいですね。なのでそんなに長くは変身できないです」

 

「じゃあ2回は変身できるな。それだけあれば十分だ」

 

「……?1滴じゃ1分も持たないですよ?」

 

「いいんだよ。少しでも本心が見えればいいからな。ついて来い」

 

「えー、今からですかー?」

 

荼毘くんはニヤリと口角を上げながら、文句を言う私を無視して部屋から出ていった。

私も仕方なくその後を追いかけることにした。

 

 

 

「あいつだよ。読心して欲しいのは」

 

物陰に隠れながら荼毘くんと一緒に向こう側を覗き込む。

荼毘くんが示す先には、仁くんと話しているホークスがいた。

 

「ホークスですか?」

 

「ああ。ベストジーニストの死体を持ってきてるから大丈夫だとは思うが、本心を確認したい。特に関わってるのが取り入りやすいトゥワイスなのも胡散くせぇ」

 

「んー……まあいいですけど、変身できる時間は短いので話を誘導してもらわないと多分意味ないですよ?」

 

「俺が話しかけるからその辺は心配すんな。おまえは俺が話しかけたら変身して読心してくれればそれでいい」

 

「まあいいです。瑠璃ちゃんの血は私も飲みたかったので。今からやるんですよね?」

 

「おう。じゃあ頼むわ」

 

仁くんが離れていったのを確認してから、荼毘くんはホークスに近づいていった。

その様子を眺めながら、ケースに大事にしまっていた瑠璃ちゃんの血を取り出す。

瑠璃ちゃんは私と同じ。

私が同じになろうとしなくても、似たことを経験して、同じ生き方をしてきた女の子。

今度会った時には、きっとここに来てくれる。

そんな大切なお友達。

だから―――

 

瑠璃ちゃんの血を一滴口の中に入れた。

個性はすぐに発動して、私は見た目も瑠璃ちゃんと同じになった。

瑠璃ちゃんのことを調べて、個性のオンオフの切り替えはできないことは分かってる。

だから、変身すればすぐに……

 

 

 

あれ?

なんで何も変わらないの?

荼毘くんとホークスを見ても普通にしか見えない。

瑠璃ちゃんなら波動が見えてるはずなのに。

瑠璃ちゃんはずっと波動を感じて、心の声を聞いているはずなのに。

そうじゃないとおかしい話がいくつもあったのに。

 

だから、変身すれば使えるはずなのに、なんで何も聞こえないし、何も見えないの?

これ、個性が、使えてない……?

 

瑠璃ちゃんのことは、好きなはずなのに。

大切で、大好きなお友達なのに、なんで、なんでお茶子ちゃんみたいに"個性"が出せないの。

大好きなのに、好きになれるはずなのに……なんで……なんで私は……瑠璃ちゃんになれないの……!?

 

「なんで……!?瑠璃ちゃんとお茶子ちゃん……!!何が違うの……!?なんで使えないの……!?なんでっ!?」

 

頭を抱えながら、どうにかして瑠璃ちゃんの個性が使えないかを考えてみるけど、どうにもできなかった。

好きなはずの瑠璃ちゃんの個性が使えない。

個性を使っているのに同じになれない。

その事実に、私の目からは涙が滲んできていた。

 

45秒くらい経ったところで、私は元に戻ってしまった。

私は、瑠璃ちゃんのことが好き。

同じ境遇で、同じ経験をしてきた子。私と一緒に、普通に生きても文句を言われない社会で、自分らしく生きる、大切なお友達。

お茶子ちゃんのことも好き。

出久くんにとっても信頼されてるお茶子ちゃんが羨ましくて、私も好きな人に近づきたくて、私も、お茶子ちゃんみたいになりたいくらい、好き。

2人とも大好きなのに、何が違うのかなんて分かるはずもなかった。

 

 

 

「イカレ女、どうだった……って、おまえなにしてんだ」

 

「荼毘くん……個性、使えませんでした……」

 

「は?……おまえ、あいつのこと好きだったんじゃねぇのか?」

 

「好きです……好きなはずです……なのに、使えないんです……」

 

私がそう伝えると、荼毘くんは考え込み始めてしまった。

少ししたら荼毘くんは顔を上げて、私を引っ張り始めた。

私はそのまま自分の部屋まで連れて行かれてしまった。

 

「イカレ女。おまえ最初に個性使えてから、他に試してみたか」

 

「いえ……普通の人しか試してないです」

 

「他に好きだと思える奴の血はどれだけ持ってる」

 

「……出久くんもお茶子ちゃんも使い切っちゃったので、瑠璃ちゃんの残り1滴しかないです」

 

荼毘くんは小さく溜め息を吐いてから、部屋に置いてあった私のナイフで自分の腕に傷を付けた。

そのまま傷から血を滴らせながら、私の目の前に腕を差し出してくる。

 

「飲め」

 

「荼毘くん……?」

 

「条件を明確にしとかねぇと作戦の勘定に入れづらい。確認のためだ。飲め。少なくとも俺たちには好感持ってるんだろ」

 

「……確かに荼毘くんのことも好きですけど……」

 

引き下がらない荼毘くんに促されるままに、血が滴る腕に舌を這わせた。

すぐに変身して、荼毘くんと視線が同じ高さになる。

 

「……火、どうやって出してるんですか?」

 

「……俺の顔でその話し方はやめろ。まあいい、火の出し方はーーー……」

 

荼毘くんの言う通りにして火が出せないか試してみた。

何回も、何回も。

それでも、火が出ることは1度もなかった。

 

「やっぱり使えねぇか」

 

「やっぱり、ですか?」

 

「ああ。おまえ、俺たちとあのチビ女に対する好意と、個性使えたやつに対する好意で、ものが全然違うだろ」

 

「どういうことですか……」

 

荼毘くんの言う意味がいまいち分からなくて、そのまま聞き返してしまう。

 

「どうもこうも、おまえ普段イカレた好意向けるやつには同じになりたいって散々言ってるだろ。俺らに対してもそう思ってんのか?」

 

「荼毘くんや弔くんには、そこまで思ったことはありません」

 

「だろうな。ただの仲間として友愛を向けてるだけってことだ。あのチビ女に対しても同じだろ」

 

「……瑠璃ちゃんは、私と同じなんです……私と同じことをしてきてる……だから、一緒に新しい社会で過ごしたいって……」

 

「それはつまり、同族意識、仲間意識から好意を向けてるだけじゃねぇか。同じになろうとしなくても初めから同じだと思ってるやつってことだろ」

 

荼毘くんのその指摘で、ようやく瑠璃ちゃんとお茶子ちゃんの違いが腑に落ちた。

 

「つまり、私が同じになりたいと思うくらい好きじゃないとダメってことですか」

 

「確証は持てねぇけど、高確率でそうだろ」

 

「それじゃあ瑠璃ちゃんをどんなに好きになっても個性は使えないってことになりますよね……?」

 

「仮定があってるなら、少なくとも自分と同じだと予め思ってるうちは無理だろ」

 

じゃあどうすればいいんだろう。

瑠璃ちゃんには、出久くんやお茶子ちゃんみたいに同じになりたいとは思わない。

一緒に楽しく過ごしたいだけだ。

瑠璃ちゃんと同じになりたいと無理矢理思い込む?

もう同じなのに?

思い込むとしてどこを同じにしたいと思うの?

同じ境遇で、同じことをしてきて、同じ身体に変身して、個性を使えなかったのに?

あとは何を同じにしたらいいの?

考え出したら止まらなかった。

結論も、そう簡単に出るものじゃなかった。

 

「まあいい。使えないなら使えないで、使い道はある」

 

「どういうことですか」

 

「個性の条件調べるのに協力してやったんだ。おまえももう1度協力しろ」

 

荼毘くんはそう言ってまたニヤリと笑った。

協力するのはいいけど、嫌なことはしたくない。

 

「協力するのはいいですけど、辛いこととか嫌なことはしたくないですよ」

 

「ホークスを試す方法を変えるだけだよ。たとえ個性は使えなくても、ブラフとしては使える」

 

「ブラフ?」

 

「ああ。演技に協力しろ。たとえスパイだったとしても、ブラフをかけて行動を制限しておきたい。いいな」

 

「……まあ、いいですけど」

 

「よし。準備が整ったらまた声をかける」

 

私が頷くと、荼毘くんは腕を焼いて止血しながら部屋を出て行った。

 

 

 

しばらくしてから、私は荼毘くんに会議室に呼び出された。

協力すると言ったし拒否する気もない。

素直に会議室に向かった。

 

会議室に入ると荼毘くんは奥の机でふんぞり返っていた。

 

「おう。あと10分もすりゃホークスが来る。それまで好きにしてろ。おまえは俺が合図したらチビ女に変身してくれりゃそれでいい」

 

「それだけでいいんですか?」

 

「余計なことはしないでいい。おまえは変身する前も、した後も、黙ってればそれでいい。戻るタイミングも分からねぇように、変身した姿を見せたらどっかに引っ込んどけ」

 

「まあそれでいいならそうします」

 

余計なことをしないでいいなら楽でいい。

瑠璃ちゃんの残りの血を使っちゃうのは勿体無いけど、荼毘くんに協力するって言っちゃったし仕方ない。

 

10分くらい経ったところでホークスが部屋に入ってきた。

ホークスはキョロキョロと室内を見渡して、荼毘くんの方に視線を向けると笑顔を浮かべながら近づいてきた。

 

「いやぁ待たせた!わざわざ呼び出しなんて珍しいな!」

 

「いやなに、そろそろおまえを本格的に信用するためにテストしようと思ってな」

 

「テスト?ベストジーニストだけじゃ足りなかったか?」

 

ホークスは訝しげに聞き返してきた。

私の方もチラチラ見てきて居心地が悪い。

 

「それだけじゃあ信用しきれねぇな。だが今回のテストはそう難しくない。おまえが本当に心から俺たちに共感してればな……ホークス、雄英の読心個性の持ち主を知ってるか?」

 

「……いや、聞いたことがないな。可能性があるとしたら、体育祭で広範囲の何かを感知していた子か?」

 

「知ってるじゃねぇか。なら話が早え。こいつの血を、俺たちは持っててな……イカレ女に変身させて、読心しながら質問していく。イカレ女」

 

「はぁい」

 

荼毘くんの指示に従って、瑠璃ちゃんの血を飲んで変身する。

ホークスが私の方を真剣な表情で見てくるけど、相変わらず個性は使えないから意図までは読み取れない。

 

「じゃあ荼毘くん、私は自分の部屋で横になりながら読心してるので。報告は後でします」

 

荼毘くんは私の声に返答しないで、笑っただけだった。

ドアを開けて会議室を出る。

その後ろで、荼毘くんの声が聞こえた。

 

「さあ、楽しいおしゃべりを始めようか。ホークス」

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