「さぁさぁ、みんなで作った鍋だ!遠慮しないでたくさん食べてくれ!」
乾杯してすぐに、飯田くんがB組に鍋を勧め始めた。
B組で一番最初に鍋を覗き込んだのは物間くんなんだけど、明らかに品定めを始めていた。
「これは豆乳鍋……あっちはキムチ鍋かな?そしてあっちは寄せ鍋……あれは担々ゴマ鍋か。ふふふ……ずいぶんベタな鍋をそろえたものだね」
「……定番だけど……味付けは自信あるよ……」
「みんなで一生懸命作ったんだぞー。美味いから食べてみろって!」
物間くんの軽いジャブのような煽りに食べるように勧めると、上鳴くんも続くように勧めてくれていた。
B組が持ってきている鍋が常軌を逸している感じだから仕方ない部分はあるんだけど、こっちはちゃんと味付けにこだわって作ってる。
私、梅雨ちゃんとお茶子ちゃん、砂藤くん、爆豪くんというA組の料理ができる5人がそれぞれの鍋を監修して作っているのだから、味は保証できる。
「……A組……僕たちが持ってきた鍋も見るがいい。これは僕たちからの挑戦状さ。どちらが美味しい鍋を作ったのか、勝負しようじゃないか!!」
「ごめんね?こいつ、言い出したら聞かなくてさ……」
拳藤さんが疲れたような苦笑を浮かべながら謝ってきた。
物間くんの暴走を止めるために苦労したのがありありと伝わってくる。
まあこの程度の煽りまで抑えてくれたならそれで充分な感じはする。
そんな拳藤さんを一切気にしない物間くんは、B組が持ってきた鍋の蓋を開けていった。
「こ、これは……すき焼きやん……!!!」
「……すき焼きは卑怯じゃねぇか!?」
「鉄鍋で煮るんだから、立派な鍋料理だろ?ほら、卵も持ってきたからつけて食してごらんよ」
すき焼き……流石にずるい気がするけど、まあ鍋と言えば鍋だ。
普通に美味しそう。卵までもってきてくれて気が利いている。
その横には白身魚が入った鍋が置いてある。
「これ、海鮮鍋か?でもそれにしちゃ白身魚しか入ってないじゃん。これじゃ波動が味付けしてくれた寄せ鍋にはかなわないだろ」
「……上鳴くん……ちゃんと見てから言った方がいい……これ……タラとかじゃない……ただの白身魚でもないし……クエか何かじゃないの……?」
「み、見ただけで分かるのかい……?それとも読心か?まあどちらにしても、そうだよ!!その通りさ!!」
料理にあんまり詳しくない上鳴くんに、明らかに普通の白身魚じゃないことを指摘する。
案の定物間くんがすぐにクエであることを明かしてくれたけど、クエ鍋までもってきてくれるとか太っ腹すぎる気がする。
値段とか知ったらお茶子ちゃん卒倒するんじゃないだろうか。
「くえ?」
「スズキ目ハタ科の海水魚ですわ。九州地方でアラと呼ばれたりもしているようです。クエを食べたら他の魚は食べられないなどと称されるほど、美味で有名ですわ。クエ鍋は鍋の王様とも呼ばれています」
「付け加えると、クエは超高級魚さ。うちの宍田の実家から送られてきたものなんだ」
「そ、そんな高価なものを……」
お茶子ちゃんが恐れ慄いて絶句している。
単純に今までほとんど触れてこなかったせいか価値を知らなかったらしい。
「いや、お気遣いなく。実家でお歳暮にいただいたものですので」
「おせいぼ……ちょうこうきゅうぎょ……ぶるじょわや……」
「しっかり、お茶子ちゃん」
お茶子ちゃんが完全にフリーズしてしまった。
お歳暮ってことはもしかしなくても天然もののクエだろうか。
私も食べたことないからちょっと楽しみ。
それにしても、お茶子ちゃんは百ちゃんからもらった紅茶とかには反応を示さないのに、この差はなんだろうか。
クエよりもゴールドティップスインペリアルの方が高いと思うんだけど……
「さて、じゃあ鍋も揃ったことだし、勝負をしようじゃないか!!」
「いやいや、勝負とかじゃなくてフツーに鍋食べようぜ」
「おやぁ?もしかして僕たちB組の鍋が怖いのかい?ええ?爆豪くん」
答えたのは切島くんなのに、なんで最後に爆豪くんに振ったんだ。
爆豪くんに振って煽れば勝負に持ち込めるとインプットされちゃってるのか。
「あぁ?んなもんどっちでもいーわ」
「……そうだね、僕らB組の鍋はA組の鍋とは比べ物にならない。例えばこのキムチ鍋なんてただキムチを突っ込んだような創意工夫もない鍋だもんねぇ!?」
「てめえ、俺のキムチ鍋にケチつけんのか」
「ケチじゃないよ。ただそう見えるだけさ」
「そんじゃ食ってみろや!!」
完全にキレ始めた爆豪くんに、砂藤くんが助け船を出すように口添えした。
「この鍋は俺の出汁ベースに爆豪が自分の激辛調味料で味を調えたんだぞ!何度も味見して、仕上げたんだ。ただ辛いだけじゃない、うまみとコクが複雑に絡みあって豚バラと野菜を引き立ててるんだ!」
「爆豪、おめえ、そんなにこの鍋に思い入れがあったのかよ……ようし、みんな鍋対決引き受けよーぜ!俺たちの鍋が負けるわけがねえ!」
何やら爆豪くんのキムチ鍋への入れ込み具合で感激したらしい切島くんが立ち上がって皆に語り掛けた。
なんだかんだで皆乗り気になって、鍋対決をすることに決まった。
まあそこはいいんだけど……
「……勝負もいいんだけど……鍋……今がちょうどいい煮え具合だから……いい加減食べない……?勝負……皆でゆっくり一通り食べた後に……投票形式にすればいい……煮過ぎて味が落ちたら勿体ない……」
「た、確かに!」
「……まあ、勝負するというならその形式でもいいよ」
物間くんも煽りはしながらもちゃんと美味しく食べたかったらしい。すぐに承諾してくれた。
それを合図に、皆思い思いの鍋を取り皿に取り分けて食べ始めた。
「豆乳ナベが最強」
「このキムチ鍋、メシにぶっかけてえ!」
「ウマーイ!」
「やっぱ寄せ鍋だよねー」
「担々ゴマ鍋、癖になる」
「これは……肉のうまみが甘からいタレで最大限に引き出されてる……!舌でも切れそうな柔らかい牛肉が新鮮な生卵にからまって、よりまろやかに口の中を幸せで満たしてくれる。けれど肉以上にポテンシャルを引き出されているのは野菜だよ。肉のうまみと脂が溶け出したタレでくたりと煮込まれ、野菜のみずみずしい甘みと歓喜のハーモニーを奏でている!卵が上手に味を調和して「鼻につく食レポしてんじゃねえ!!」
皆美味しそうに鍋を食べていた。
緑谷くんのブツブツなんかも久しぶりに見た気がする。
私は私でクエ鍋を食べている。
クエが柔らかくてすっごく美味しい。なにこれすごい。
とりあえずこれを食べたら、次は爆豪くんのキムチ鍋にしようかな。
あっちも美味しそうだ。
「フフフッ、それねぇ、まだ火通ってないよ!」
「透ちゃん……そのネタ好きだね……」
透ちゃんが新しく追加した野菜を指さしながら相変わらずなネタを披露している。
私は分かるけど、他の人には一切分からないから完全にネタでしかない。
伝わらないのを分かってやってるし、私に向けて言っているわけでもない。
透ちゃんは相変わらずだった。
しばらく鍋を食べて最初の取り合いが落ち着いてきた頃、ようやく皆和やかに話し始めていた。
「暖かくなったらもうウチら2年生だね」
「あっという間ね」
「怒涛だった」
「後輩できちゃうねぇ」
「私たちも……お姉ちゃんたちビッグ3以外と……関わりないし……関わる機会なさそうだけどね……」
いつの間にか話題はもうそろそろ後輩が来るなんて言う話に移り変わっていた。
でも実際関わる機会なんてほぼないと思う。
授業で何か指示があれば関わるだろうけど、基本的に時間もないし。
「有望な子来ちゃうなぁ、やだ~!」
「君たち!まだ約3か月残ってるぞ!!期末が控えてることも忘れずに!」
「やめろ飯田!鍋がまずくなる!!」
透ちゃんが嘆くのに合わせて、飯田くんが皆に釘を刺してきた。
相変わらずの真面目さだ。
そんな飯田くんに峰田くんが苦言を呈している。
「味は変わんねぇぞ」
「おっ……おまえ、それもう天然とかじゃなく……!?」
「皮肉でしょ、"期末、慌ててんの?"って」
「高度!!」
「俺は味方だぞ峰田ー」
……味方宣言をするのもいいけど、峰田くんは成績だけはそこそこいい。
心配するべきは三奈ちゃんと上鳴くんだ。
透ちゃんは私とちょくちょく勉強会をしてるし、多分大丈夫……だと思いたい。
それにしても、緑谷くんがまた考え込んでいる。
そんなにさっきのオールマイトとの話が響いたんだろうか。
今も常闇くんにポン酢を取ってほしいって頼まれて、「恵まれすぎてる」とかいう思ったことそのまんまな謎の返答をしてたし。
そんな感じで和やかに鍋パは進んでいった。
B組も含めて皆のインターンがどんな感じだったかも聞けたし、皆がどういうところを伸ばすために頑張ったのかっていうのも聞けた。
私のことも話したけど、普段のミルコさんの印象からはかけ離れた熱心な指導に皆がびっくりしていたくらいだ。
そしてある程度時間が経ったところで、物間くんが勢いよく立ち上がった。
「全員すべての鍋を試食したね!?それじゃあ……投票だ!自分が一番おいしいと思った鍋の前に移動してくれ!」
物間くんの声を受けて、皆悩み出した。
私はクエ鍋とキムチ鍋で迷ったけど、キムチ鍋の方に投票することにした。
単純な味で見ればクエ鍋なんだけど、なんていうかあれは、クエが美味しいだけだと思ったのだ。
キムチ鍋は素材は単純なのに香辛料をこだわりぬいているのが一口食べてすぐに分かったし、正直どうやって味を調えたのか気になる出来だった。
私のレパートリーに加えたい。
だからクエ鍋よりもキムチ鍋がいいかなと思った。
爆豪くんに聞いたらレシピを教えてくれるだろうか。教えて欲しいなぁ。
お姉ちゃんにも食べてもらいたい。
あと、すき焼きを鍋っていうのはなんか嫌だ。
理論は納得できるし、そう言われると鍋と言えるのかもしれない。
だけど、あんなの美味しくて当然なのだ。奇をてらっているんだろうけど、なんか納得できないから論外だった。
だけど皆はそうではなかったようで、投票自体はクエ鍋とすき焼きに集中していた。
……クエ鍋はともかく、私が味を調えた寄せ鍋がすき焼きに負けるのか……なんか釈然としない。
「おいみんな……!つーか爆豪、お前もクエ鍋かよ!?」
「……うめえんだよ」
爆豪くん、あれだけ自信あり気な感じだったのに、クエ鍋に投票していた。
爆豪くんの手には、一味が大量にかけられて辛さを足されたもみじおろしが乗った取り皿があった。
……あれで絆されたのか。まあクエ鍋が凄く美味しかったのは事実だから、否定はしないけど。
「フフフ……どうやら勝負は決まったようだね。僕たちB組が大差で勝利だ!!!さぁ、勝負に負けたからには罰ゲームと相場が決まっているよねぇ!?」
「えー!?」
「そんなの聞いてねぇぞ!」
物間くんの勝利宣言の後にされた罰ゲーム宣言に、A組皆が文句を言い始めていた。
「対戦して、あぁ楽しかった、だけで済むはずないだろ?負けた方には何らかのペナルティがあって当然じゃないか。それともA組は皆そんな平和主義者なのかな?」
「とりあえず……煽るのやめて……変な方向になりそうだし……皆嫌がってるし……B組も……物間くん以外その気なし……」
「波動、まさか君逃げるのかい!?」
「……逃げるとかじゃなくて……どうせこの後闇鍋するんだから……A組はそこで取り皿1杯分は食べることとかでいいでしょ……」
物間くんの煽りに、何とも言えない気分になりながら止めに入る。
だけど、物間くんに言った通りA組は普通に嫌がっているし、B組も『そんなつもりはなかった』っていう思考がありありと読み取れた。
どうせ作ったものを無駄にしないために闇鍋を完食しないといけないんだから、これくらいでいいだろう。
「……まぁ、それなら良しとしよう」
「ん……じゃあ闇鍋……準備しよ……」
私がそういうと、皆机の上の整理を始めてくれた。
中身が無くなっている鍋を下げて、中央に闇鍋のスペースを作ったのだ。
正直、皆が持っているものの組み合わせが悪すぎて味がどうなるか全く予想がつかない。
「私……電気消してくるから……皆は電気が消えたら始めちゃって……」
「瑠璃ちゃんありがとー!」
透ちゃんがお礼を言ってくれる。
その声を背に、電気のスイッチの所まで進んで電気を消した。
それと同時に、闇鍋が始まった。
「ん?なんか甘い匂いするー!」
「今、入れたの食べ物だろうな!?なんかガチャンって音したけど」
「……え、なんか発酵臭しない!?」
「闇の饗宴……」
「暗黒の宴……」
部屋が暗くなったせいか、常闇くんと黒色くんが悦に入った感じで謎の発言をしている。
まあそんなのは無視して私も入れるか。
皆の間を縫って鍋に近づいて、あんこを一袋分放り込んだ。
ちなみにつぶあんである。どんなに混ぜられても形が残る方にした。
これで甘くなる、といいなぁ。
入れられている物を見る限り、ならないとは思うけど。
しばらく皆が入れていくのを眺めていたけど、流石にまずいものを入れようとした物間くんの腕をつかんだ。
「物間くんストップ……それはダメ……」
「なんだい波動。キノコが苦手だとしても、それは流石にズルくないか」
「そういうのじゃなくて……それ……小森さんが持ってきたやつでしょ……毒キノコだからダメ……」
「毒キノコ!?」
「ちょっと!?袋に入ってたやつのこと!?それコセイボン茸!波動さんの言う通り、スープを飲むだけで昏睡状態、直接食べちゃうと"個性"が暴走しちゃう毒キノコなのよ!?たまたま生えてるのを見つけたから後で処分しようと思ってたのに、なんで勝手に入れようとしてるの!?」
「……悪かった」
私が止めに入ったことに不満そうにしていた物間くんだったけど、怒れる小森さんにすぐに顔を真っ青にしてキノコを返していた。
物間くんもわざとじゃなくて小森さんが入れ忘れたのを入れようと思っていただけだし、防げたからいいんだけど、こんなところに毒キノコを持ってくる小森さんも悪いのではないだろうか。
余計なことは言わないに限るから何も言わないけど。
毒キノコという単語が聞こえた皆も戦々恐々としている。
まあ当然の反応だ。鍋に毒キノコ投入なんて常軌を逸しているし。
そして闇鍋は完成した。
皆で順番に食べていくけど、やっぱりひどい。
ほうれん草、お肉、キュウリ。この辺りはまだまともだ。
他には、浅田飴、りんご、殻ごとエスカルゴ、コーヒー、サルミアッキ、ニガニガ茸、臭豆腐、納豆、チョコレート、ケーキ、ハンバーガー、ポテトチップス、いちごミルク、バナナ、パイナップル、はちみつ、アイス……他にもいっぱいあるけど、もうカオスだ。
順番に皆食べていっている。
そして、ついに私の番になってしまった。
私が自分で掬うのは不公平だと思うから、透ちゃんにも一緒に来てもらって掬ってもらう。
そのまま取り皿に入れてもらった闇鍋の闇を、口に運んだ。
「どう?瑠璃ちゃん」
「入ってた固形物は……ケーキだと思う……味は……苦くて甘くて臭くてしょっぱい……舌がしびれる……つまりまずい……」
「うわぁ……」
透ちゃんがドン引きしている。
だけど透ちゃんだってさっき炭酸ジュースを投入していた。
透ちゃんのせいでもあるだろう。
あんこを入れた私も反省しないといけない。
そんな感じで進んでいった闇鍋も、皆一通り食べて何とか鍋を空に出来た。
良かった。なんとかなった。
でもとにかく美味しくなかった。
まあ無事に終わったからいいんだけど、男子はそれでもまだ対決し足りなかったらしい。
食欲が失せたらしい彼らは、そのままお風呂に移動して我慢比べ大会なるものを始めようとしていた。
なんでそうなる。意味が分からない。
煽ってくる物間くんもそっちに行っていなくなったし、当然女子がそんなものに参加するわけがない。
女子は女子で食後のお茶会を開こうとしていた。