『一時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!オイ、イレイザーヘッド飯いこうぜ……!』
『寝る』
『ヒュー!!』
マイク先生の漫才のような掛け合いが響いて、お昼休憩になった。
障害物競争から時間が空いていて良かった。直後だったらお昼ご飯なんて食べられなかった自信がある。
「くぅ~!負けた!瑠璃ちゃん、おめでとう!」
透ちゃんが脱いでいた上着を着ながら祝福してくれる。
騎馬に男子もいたのに一切気にしてない透ちゃんの強靭なメンタルは素直にすごいと思う。
「ん……でも……爆豪くんのおかげだから……」
褒めてくれるのは嬉しいけど、正直自分の実力で勝ち上がれたとは言い難い。
爆豪くんは多分私が居なくても通過していたと思うけど、私は爆豪くんのチームじゃなければ勝ち目がなかった。
近くで三奈ちゃんと梅雨ちゃんも似たような話をしていた。やっぱり思うところは同じなんだろう。
「いやいや!爆豪くんの目に留まるものがあるからメンバーに入れてもらえたんでしょ!瑠璃ちゃんの実力あっての結果だよ!私なんて組んで欲しいってお願いしても無視されちゃったし!」
「……そうかな……ありがと……」
そんな感じで会話をしながら昼食に向かった。
体育祭会場にはランチラッシュのメシ処が出張してきているのだ。
その道中で、お茶子ちゃんが緑谷くんを探し始めていた。
「……ていうかその緑谷くん、デクくんは……?」
「緑谷くんなら……ゲートの方……轟くんと話してる……」
そう、彼は今轟くんとゲート付近で話し込んでいるのだ。
競技が終わって早々に2人で抜け出していた。
「え、そうなん?」
「ん……さっきの続きだと思う……」
「なるほど!男のアレだな~~~~」
お茶子ちゃんがさっきも飯田くんに言っていた言葉を繰り返す。
どうやら男同士の友情とかライバル関係みたいなのが好きらしい。
そしてこっちは言わないけどオールマイトとエンデヴァーも何やら話しているようだ。
示し合わせたわけでもないみたいなのに、親子と師弟同時になんてすごいタイミングだ。
食堂に到着するとそこは凄い人でごった返していた。
遠目にチアリーダーの衣装を着ている人も見える。
生徒以外も使うんじゃ混むのも仕方ないなんて思いつつ、昼食をどれにするか考える。
結局、今日は体力を使ってお腹が空いてるし、カツ丼とデザートのプリンにしようなんて考えながら長い列に並んだ。
「あ!瑠璃ちゃん!こっちこっち!」
プリンまで買い終えてから皆に合流すると、透ちゃんが席を取っておいてくれていた。
波動でどこにいるか把握していることも分かってるはずなのに、大きく手を振ってアピールしてくれている。
「ん……ありがと……」
「どういたしまして!」
お礼を言いながら席に着く。
というか今気がついたけど、なんで爆豪くんは食堂に来ないで緑谷くんたちの話を盗み聞きしているんだろう。
最初は居なかった筈だからわざわざ盗み聞きしに行った訳ではないと思うけど、方向音痴なんだろうか。
そんなことを考えたり、透ちゃんたちA組女子と話したりしながらご飯を食べていたら、嫌な波動を感じ取った。
上鳴くんと峰田くんだ。
……まだ考えただけだから、何も言わない。
行動に移したら……どうしてくれようかな。
「あれ、瑠璃ちゃんどうしたの?嫌いなものでも入ってた?」
透ちゃんは『さっきまでニコニコしてたのに急に無表情になったけど、どうしたんだろう』とか考えている。
美味しいご飯を味わいながら食べていたのに急にテンションが下がったから、心配させてしまったようだ。
「……大丈夫……なんでもないから……」
「そう?大丈夫なら良いんだけど……」
なるべく気にしないようにしながら続きを食べる。
せっかく買ったデザートも、気分を害されたせいで味が落ちた気がしてしまう。
そして、食事を食べ終えた頃、奴らは近づいてきた。
「なあ、ちょっといいか?」
「あら、どうかしましたか峰田さん」
ブドウ頭はまず百ちゃんに話しかけた。奴らの思惑は百ちゃんの協力が不可欠だから、そこから説得することにしたらしい。
そしてブドウ頭は、向こうで食事を食べている外国人チアリーダーを指差しながら話を続けた。
彼女たちはオフショルダーでヘソ出し、マイクロミニスカートといった露出がすごく多いオレンジ色のチア衣装に身を包んでいる。
「午後は女子全員、ああやって応援合戦しなきゃいけねぇんだってよ!」
「……聞いてないけど……」
あまりにも胡散臭いその言葉に、響香ちゃんが怪訝な表情を隠そうともせずに聞き返す。
普段からセクハラばっかりしてくるブドウ頭の言うことなんて、信じるわけがない。当然の対応だ。
そんな様子を見た上鳴くんが、深刻そうな表情で続けた。
「信じねぇのも勝手だけどよ……相澤先生からの言伝だからな」
その言葉に、百ちゃんや響香ちゃんを含めた他の女子は信じかけてしまっていた。
確かに先生の名前を出すのはリスクが大きすぎるから、信じそうになるのは理解はできるけど……
「じゃあ、確かに伝えたからな」
手応えを感じたのか、いつものようなセクハラを重ねてくることもなく2人は去ろうとし始めた。
私は今、自分がすごく冷めた目をしている自信がある。
私は、ヴィランはもちろんのことだけど、そうじゃなくても悪感情を意味もなく向けてくるような人は嫌いだ。
だけどそれ以上に嫌いなのは、私利私欲を満たすために笑顔で嘘をついてくる人間だ。
そしてこいつらも自分の欲望に従って、私たちを騙そうとした。
考えただけなら見逃してあげようと思っていたけど、あろうことか実行に移した。
もう我慢する必要はない。
「ねぇ……」
去ろうとする2人の背中に声をかける。
私の声に反応した2人は、足を止めてこちらを向いた。
「なんだ?何か聞きたいことでも「なんで嘘吐くの……?」
被せて言った言葉に、2人の様子が明らかにおかしくなった。
「な、何言ってんだよ波動、俺たちは本当に相澤先生に……」
「嘘……」
ブドウ頭が反論してきた。
すぐに認めるつもりはないらしい。
「……相澤先生……さっきのアナウンス通り……放送席で寝てる……貴方達とは接触してない……」
「事前に言われてたんだよ!」
「事前っていつ……?私たちに言わずに……あなたたちに言う理由は……?」
「朝だ朝!」
「残念……今日、相澤先生は……私たちと別れてから……一回も貴方達に接触してないのも知ってる……」
私の反論に女子全員が厳しい視線を2人に送り始めていた。
「で、電話で言われたんだよ!電話!」
上鳴くんが苦し紛れに絞り出すけど、その反論は意味がない。
というか電話できるなら当事者の女子にしない理由はなんだ。
「じゃあ着信履歴見せてよ。電話で言われたなら見せられるでしょ」
響香ちゃんがそう言ってスマホを寄越せと言わんばかりに手を差し出す。
当然そんな証拠なんてない2人の嘘はすぐに露見した。
嘘吐き2人組は百ちゃんが出したロープで腕を縛ったうえで、床に正座させた。
「波動さんが居なければ危うく騙されるところでしたわ……」
「まさかここまでアホだとは思わなかった」
「2人ともダメよ。そういうの」
「嘘はあかんよ、嘘は」
「私は素直に言ってくれれば着たかもしれないけど……嘘はダメだよね!!」
「……嘘吐き……変態……最低……」
「いやぁ嘘は駄目でしょ。しかも先生の名前まで出して」
皆で思い思いに2人を罵る。
透ちゃんの発言を聞いた辺りで上鳴くんの表情が若干明るくなって、ブドウ頭が「じゃあ……!」みたいなこと言い出したけど、反省してないのかこいつら。
「……反省してない……先生に突き出す……?」
「それもありかもしれませんね」
「じゃあどうやって放送席まで連れて行く?簀巻きにして引きずる?」
「あ!私が簀巻きにした2人を浮かせよっか!」
「「すいませんでしたぁ!!どうか、どうか先生に突き出すのだけはご勘弁を!!」」
私たちが2人の処遇を話し合っていると、本格的に突き出されそうだと感じたのか2人は腕を背中側で縛られたまま頭を擦り付ける勢いで土下座し始めた。
そんな2人を尻目に話し合った結果、2人は簀巻きにして飯田くんに突き出すことになった。
私は先生の名前を利用したんだし、先生に突き出して良いと思っていた。
私利私欲のために人を騙そうとしたんだから、相応の制裁を受けるべきだと思っていたのだ。
だけど続けられる土下座を哀れに思ったのか、皆先生だけは勘弁してあげるかみたいな雰囲気になってしまった。
とはいえ、先生は勘弁してあげるにしても何もしないのでは気が収まらない。
そこでクラス公認のクソ真面目委員長、飯田くんにお説教してもらうことにしたのだ。
百ちゃんに布団とロープを出してもらって、2人を簀巻きにして縛ろうとする。
だけど2人は、あろうことか隙を見て逃げ出そうとしていた。
「逃げたら……居場所も含めて……先生に報告するから……」
だから、ちょっと脅しをかける。
こっちの慈悲で先生に報告しないであげてるのに、どういうつもりなんだ。
皆もこの所業で本格的に対応を考えなおし始めている。
だけど再び土下座の体勢に移行した2人に、結局対応が変えられることはなかった。
完成した簀巻きは、すぐに飯田くんに引き渡した。
事情を説明したら、酷く憤慨した様子でお説教することを約束してくれた。
「女子の皆を貶める恥ずべき行為」、「先生の名を騙るなど卑怯千万」と憤る様子に、彼に託して間違いなかったと確信できた。
このタイミングで合流してきた緑谷くんが、何があったのか理解できなくて困惑していたのが少しだけ面白かった。
飯田くんは約束通り2人をこってりと絞ってくれたようで、ヨロヨロしながら解放された2人に少しだけ胸の空く思いがした。