波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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鬼と和解せよ(前)

時は過ぎて行って2月。

今日は節分だ。

 

「―――というわけで、今日は鬼チームと桃太郎チームに分かれて対決してもらいます」

 

雄英の施設の一つであるこのエリア。

中央に小高い山がそびえ立ち、それを囲むように森が広がっている謎施設だ。

その施設の入り口で、相澤先生はそんな説明を始めた。

普通に演習って言えばいいのに、わざわざ桃太郎と鬼で節分感を出しているのは、中央の小高い山に立つ建物の中にいるエリちゃんのためだろうか。

 

「中に鬼のくじと桃太郎のくじが入っている。さっさと引け」

 

先生はそう言っていつもの箱を取り出した。

皆はくじを引くために先生の方に近づいていく。

 

「あれ、瑠璃ちゃん引きに行かないの?」

 

「今回は……久しぶりに人質役って……言われてる……」

 

「人質役?」

 

「ん……多分この後説明してくれる……」

 

私と透ちゃんが話していると、面倒くさそうにくじを引こうとしていた爆豪くんに対して、相澤先生が口を開いた。

 

「爆豪、お前は引かなくていい。鬼チームだ。理由はあとで説明する」

 

「あ?」

 

他の皆が引いていく中唐突にそう言われた爆豪くんは、訝し気に呟いた。

そんな爆豪くんに対して笑いをこらえるように震える上鳴くんが話しかける。

 

「爆豪、お前鬼っぽいもんなー!」

 

「んだと、コラ!」

 

煽りに対して爆豪くんがキレて返す。

そんなことをしていると、皆くじを引き終わった。

 

桃太郎チームは、緑谷くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、峰田くん、上鳴くん、響香ちゃん、三奈ちゃん、尾白くん、透ちゃん、砂藤くん、口田くん。

鬼チームは爆豪くん、轟くん、常闇くん、飯田くん、障子くん、切島くん、百ちゃん、青山くんになった。

 

「先生!チーム対決にしては人数差がある上に、波動くんがくじを引いていませんが!?」

 

「人数差は鬼の方が有利だからだ。今説明する。桃太郎チームは鬼に棍棒を当てられたら失格、鬼チームは桃太郎に豆を3回当てられたら失格。豆は一度当てたら終わりではなく、手元にある限りは何度でも使用可能。そして、鬼チームの勝利は桃太郎を全滅させること。桃太郎チームの勝利は、鬼に捕えられた人質を救出することだ」

 

「人質?」

 

説明に唐突に出てきた人質と言う言葉に、透ちゃん以外の皆はきょとんとした反応を返す。

 

「人質役はエリちゃんと波動にやってもらう。あの山の頂上の小屋で人質として捕まっている設定だ。いいか、両チームとも、人質2人を本物の人質として接するように」

 

「……波動くんも人質役なのですか?」

 

「ああ。今回の訓練は人質対応以外にも、作戦立案にも重きを置いている。波動をチームに入れてしまうと、その相手チームは波動への対策に注力することになる。そういうヴィランの存在を考えて入れてもいいんだが、毎回それだと作戦の幅が狭まる。だから今回は人質役としてチームから外れてもらうことにした。代わりに波動には、自分が2つのチームに入った場合に取るべき作戦のレポートを提出してもらう」

 

「なるほど……納得しました!ありがとうございます!」

 

授業の前に事前に先生にこれを伝えられていた私は、特に文句はない。

確かに私が入ることで相手は作戦を考えることが制限されるし、早口で伝えたりしないと私に思考から漏れる関係からコミュニケーションもうまく取れなくなる。

広範囲感知と読心能力を持っているヴィランなんて超レアケースなんだから、そんなレアケースの訓練ばかり積んでいると、通常時の作戦立案の練習機会が減ってしまう。

理由にも納得しかなかったし、レポートも作戦の概要、相手の行動予測、もたらされる結果を両チーム分書けばいいと言われたくらいだからそこまで負担でもない。

 

「あとは、爆豪。お前には特別課題を出す。この授業中、エリちゃんと少しでも仲良くなるように」

 

「……はぁ!?」

 

爆豪くんもそんなことを言われると思っていなかったのか、一瞬フリーズして少し間をおいてから声を上げた。

皆も似たような反応をしている。

 

「今回は人質を取る側だが、これから先、幼児救出の任務もあるかもしれないだろう。そんな時、幼児に心を開かせることは任務の成否にもかかってくる重要なことだ」

 

「……っ、そんなもん、さっさと救出しちまえばいいだけ―――」

 

「仮にヴィランの目を盗んで救出する状況だったとして、強引に連れ出されたら幼児にとってお前はヴィランと変わらない存在になる。泣かれでもしてヴィランに気付かれたら、幼児を守りながらの戦闘だ。ヒーローにとって、最優先するべきは救出者の安全だ。わかるな?」

 

凄まじい眼力で爆豪くんを見ながら有無を言わせない感じで説明する相澤先生に、爆豪くんは何も言い返せなかった。

 

「では10分後に鬼チームと人質は小屋から、桃太郎チームは森の前からスタートだ。全員配置につけ」

 

 

 

私は鬼チームと一緒に小屋に向かっていた。

爆豪くんがずんずんと苛立ちを隠そうともせずに山を登っていく。

ちょっと怖い。

でもそんな爆豪くんの怒気を一切気にせずに、切島くんが爆豪くんに駆け寄った。

 

「爆豪、すげぇ課題出されたな。俺も協力するから、エリちゃんと仲良くなろうぜ!」

 

そんな切島くんの姿を見て、飯田くんたちも後に続いた。

 

「もちろん、皆で協力しよう!」

 

「でも、どうすれば爆豪さんがエリちゃんと仲良くなれるのか……」

 

「……正直……物間くん以上に……相性悪いと思う……」

 

「爆豪と幼女……まさに鬼門」

 

「確かに」

 

あまりの難問に、皆も頭を悩ませていた。

実際どうすればエリちゃんと爆豪くんが仲良くなれるかと聞かれても、答えを思いつかない。

そんな皆の様子を見て、私の隣を歩いていた青山くんが口を開いた。

 

「まずはキラキラの笑顔じゃない?ほら、ボクと緑谷くんみたいに☆」

 

「緑谷はその子と仲いいからな。緑谷を参考にすればいいんじゃねぇか?」

 

「あぁ!?デクが俺を参考にすることはあっても、その逆は天地がひっくり返ってもねぇわ!!頭沸いてんのか!?」

 

青山くんと轟くんの提案に、爆豪くんが噴火した。

この調子だとエリちゃんと仲良くなるのは厳しいんじゃないだろうか。

さらにそれに付け足すように、百ちゃんまで口を開く。

 

「後は、波動さんも参考になるかと。その、爆豪さんには難しいかもしれませんけど……」

 

「……?私……そんなに難しいことしてないよ……?」

 

「波動さん、エリちゃんと接している時はとても柔らかい笑顔を浮かべて優しく撫でたり抱きしめたりしていますし、爆豪さんがそれをする姿が想像できなくてですね……」

 

「天地がひっくり返ってもないな」

 

「うっせぇぞポニテに鳥ぃ!!」

 

……そんなに表情変わってただろうか。

正直変えてるつもりはほとんどなかった。

確かにエリちゃんを撫でたり抱きしめたりはよくしているけど、それはエリちゃんが喜んだり安心したりするからしている感じだったし。

 

 

 

「ひ、人質役のエリです、よろしくお願いします」

 

頂上の小屋についてすぐに、エリちゃんが緊張気味に挨拶してきた。

ぎゅっと握った手の中には豆が忍ばせてある。

私にも少し渡されてるけど、大事に握って無くさないようにしていたみたいだ。

 

「おう!エリちゃん、よろしくな!」

 

「よろしくお願いいたしますわね」

 

「私も人質役だから……一緒に頑張ろうね……」

 

「ルリさんも……うん!がんばる!」

 

私が声をかけると、エリちゃんはにっこり笑って頷いてくれた。

後は面識がある切島くんと、私やお茶子ちゃんたちと一緒に教師寮に何度か行っている百ちゃんだけが挨拶した感じだ。

他の皆はクリスマスパーティーとかで顔見知り程度の関係だから、ちょっと距離がある。

 

そんな中、爆豪くんは一番後ろで顔をしかめながらエリちゃんを見ていた。

その視線に気づいてしまったエリちゃんが、驚いてしまって肩を竦めている。

 

「―――チッ」

 

エリちゃんの反応を見た爆豪くんは、面倒くさそうに舌打ちした。

これは課題に対する苛立ちから出たものなんだけど、エリちゃんにそんなことが分かるはずもなかった。

ビクッと驚いた後、すぐに私に駆け寄ってきて、爆豪くんから隠れてしまった。

 

「大丈夫だから……落ち着いて……」

 

「ぅ……うん……」

 

私がしゃがんで目線を合わせてからエリちゃんの頭を撫でると、目を閉じてそのまま受け入れてくれる。

落ち着いたところで手を離すと、エリちゃんはゆっくりと目を開けてから、私の身体からちょっとだけ顔をのぞかせて爆豪くんの様子を伺い始めた。

 

「爆豪くん、女児の前で舌打ちなどっ!」

 

「うるせえな」

 

「もう少し波動さんみたいに優しく声をかけてあげられないのかい?」

 

飯田くんの注意に文句を言う爆豪くんの声は、明らかにいつもよりも覇気がなかった。

エリちゃんのために控え目にしているのは分かる。

だけど、エリちゃんは救けられてから、優しい教師寮の先生たちに囲まれて過ごしているのだ。

よく接する私や緑谷くん、通形さん、お茶子ちゃんたちもそんな粗暴な言葉は使わない。

爆豪くんのもともとの荒々しい言動がやくざを想起させてしまっているようで、エリちゃんはわずかな恐怖を感じてしまっていた。

 

そんな不穏な空気の中で、スタートを知らせるブザーが響き渡った。

それが開始の合図であることを把握した切島くんが爆豪くんを少し心配そうに見ながら声をかける。

 

「……とりあえず、爆豪はエリちゃんと波動の見張りだな!」

 

「……あぁ!?」

 

「……えっ」

 

切島くんのその提案に、爆豪くんが叫ぶのとエリちゃんが思わずといった感じの声を漏らすのは、同時だった。

その後に2人はお互いに顔を見合わせて、気まずそうに目を逸らした。

……私が抱きしめちゃうとエリちゃんは安心するだろうけど、爆豪くんの課題の邪魔になる。

それに、普通に考えて人質にそんなことをさせるとは思えない。

そう思ってとりあえずエリちゃんの隣に座る。

 

「る、ルリさん……」

 

「ごめんね……人質役だから……あんまり抱きしめたりとか……良くないと思うの……終わったらね……」

 

縋りついてくるエリちゃんに、苦笑いしながらそういうことしかできなかった。

一応、エリちゃんも人質役ということは理解しているし、死穢八斎會では見張りとかもいたからどういう感じなのかは理解している。

私がそう伝えると、エリちゃんもちょっと気合を入れなおして隣に座り込んだ。

爆豪くんはそんな私たちをチラ見してどうしたらいいか悩んでいる。

 

エリちゃんはなんの説明もされてないから、怖い男の人に睨まれて舌打ちされて、さらにその人が見張りに残ったなんていう状況だ。

特別課題をクリアするの、相当難易度高いと思うんだけど、どうするつもりなんだろう。

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