波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

182 / 268
鬼と和解せよ(後)

山の周りの森の中では、鬼チームと桃太郎チームの一進一退の攻防が繰り広げられていた。

障子くんが透ちゃん対策に落ち葉や枝を周囲にばらまいた上で感知に集中して居場所を見つけていたり、百ちゃんが超強力掃除機とかいう謎の機械で豆を吸い込んだり、ダークシャドウが棍棒を片手に暴れまわったり。

基本的に鬼側が攻勢に回っている感じだけど、桃太郎側も防戦に回りながらもアウトにはならないという絶妙な立ち回りをしていた。

 

そんな戦いが繰り広げられる中、小屋の中は沈黙に包まれていた。

先生が爆豪くんに課した課題自体が結構矛盾しているのだ。

人質として接しろと言っておきながら、エリちゃんと仲良くなれとか無茶ぶりもいい所だと思う。

爆豪くんも今『ストックホルム症候群にでもさせろってか!?』とか内心でキレている。

爆豪くんの課題として必要なことだとしても、状況が矛盾していると言わざるを得ない。

実際他の鬼チームの皆、百ちゃんすらも爆豪くんの課題に惑わされて人質に対する扱いが甘いし。

人質が2人いるのに、拘束を一切していないのだ。

これ、特別課題がなかったら、私はエリちゃんを抱えて逃げているけど……

それに私とエリちゃんは隙を突いて反撃に出ていいと3個当たったらアウト判定の豆を少し隠し持っているのだ。

エリちゃんはそれをずっとぎゅって握りしめてる。

皆はそれを見て緊張していると受け取ったみたいだけど、実態はそうだけどそうじゃない。

緊張はしてるけど、それ以上に豆を当てる隙を伺っているのだ。

つまりどういうことかと言うと、人質に対して持ち物検査もしないで拘束もせずにそのまま放置している鬼チームは皆、致命的な失態を犯しているとしか言えなかった。

 

そんなことを露とも知らない爆豪くんはどうやって課題をクリアするか頭を悩ませていた。

 

「クソがぁっ!!」

 

轟くんの緑谷くんを真似したらどうかという言葉を思い出して唐突に叫んだ。

その言動は逆効果だろうと思いながら爆豪くんをしらーっと見守る。

実際唐突な舌打ちと叫びにびっくりしたエリちゃんは、ビクッと身体を震わせていた。

もうちょっと小さい子への接し方とか考えられないんだろうか。

 

爆豪くんはしばらくキレたり唸ったりエリちゃんの方に鬼のような形相を向けたりして悩み続けていた。

……その鬼のような表情が、エリちゃんを怯えさせている一方で、ちょっと好感を得ているのが意外だった。

どうやら『真剣に鬼になりきっている』というのはエリちゃん的には加点要素らしい。

まあ鬼になりきっているというよりは普段からあれなだけなんだけど。

そんな悩み抜いていた爆豪くんが、ついに重い口を開いた。

 

「…………好きな食べ物はなんだ」

 

「……え?……り、リンゴです……」

 

会話はそれで終わった。

エリちゃんの中でなんで急にそんなことを聞いてくるのかという疑問と、不信感がどんどん募っていっている。

私も笑いそうになってしまって、肩を震わせてなんとか耐えていた。

爆豪くんはそんな私を凄まじい表情で睨みつけてきている。

いつものように吠えないのは、一応エリちゃんを気遣ってのことなんだと思う。

 

 

 

そんな不毛なことをしていると、外の方では桃太郎チームがだいぶ人数を削られていた。

残っているのは緑谷くん、梅雨ちゃん、上鳴くん、峰田くん、砂藤くん、口田くんの6人だけだ。

一方で鬼チームは、豆が当たった人はいてもまだ1人もアウトになってすらいなかった。

そんな状況なのもあって、鬼チームは全員一度戻ってきていた。

皆は、苦虫を噛み潰したような爆豪くんと、爆豪くんに怯えて私の陰で震えるエリちゃん、笑いをこらえている私を見て何があったのか大体察したようだった。

そんな状況を見て、飯田くんは委員長としての使命感にかられたのか、一歩前に出てきた。

 

「エリちゃんくん!爆豪くんはこう見えていいところもあるんだ!なぁみんな!」

 

飯田くんの声掛けに、皆困惑しながら顔を見合わせた。

そんな中、切島くんが飯田くんに続いて口を開いた。

 

「爆豪はこう見えても、ウソのつけねぇまっすぐな男だぜ!」

 

切島くんがそう言ってにっこり笑うと、背中を押されたように皆が爆豪くんの良い所を言い出した。

 

「そうですわ!爆豪さんはこう見えても……そうですわね……あ、そう!とてもきれいに食事をされる方ですわ!所作が美しいんですの」

 

「爆豪はこう見えても……こう見えても……寝起きがいい。朝、慌てているのを見たことがない」

 

「……俺か。爆豪はこう見えても…………そうだ、洗面所を綺麗に使う。水滴が飛んだらちゃんと拭いている」

 

皆、こう、なんというか……絞り出すようにいい所をひねり出してきている。

もうちょっといい所あると思うんだけど。

百ちゃんも障子くんも常闇くんも無理矢理感が酷い。

 

「爆豪はこう見えても……こう見えても……?」

 

ついに轟くんが思いつかなかったようで、完全に言葉に詰まってしまった。

 

「じゃあボクが先に言うね!爆豪くんはこう見えても、すっごく器用なんだ!今すぐにでも下がりそうに腰で穿いているズボン、一度も下がったところみたことないよ☆」

 

青山くんが代わりに言ってくれてるけど、それもだいぶ無理矢理だ。

 

「……皆……もうちょっといい所あるでしょ……爆豪くん……こう見えても……すごく視野が広くて……色々見てる……言葉にはしなくても……行動で気を使ってくれてるよ……」

 

飯田くんの誕生日会の時しかり、結ちゃんが脱走した時しかり、文化祭のライブの時しかり、最近だと緑谷くん関連とか細やかに気を使ってくれてる。

まあ口が軽いせいで私的には全然よろしくないんだけど。

私が付け足したところで、ようやく轟くんもいい所を思いついたようで、顔を上げた。

 

「爆豪はこう見えても、講習はきっちり受ける。あと、緑谷の幼馴染だ」

 

……幼馴染っていい所なのか。

爆豪くん、それをいい所に含めたら大爆発すると思うけど……

 

「んだそりゃ!!なんで俺のいいところがクソデクと幼馴染なとこなんだ!!」

 

「え、デクさんと?」

 

爆豪くんが吠えてるけど、エリちゃん的にはそこは加点要素だったらしい。

興味深そうに爆豪くんを見始めた。

 

「なりたくて幼馴染になったんじゃねぇわ!!あとなんだ!こう見えてもって!俺はいったいお前らにどう見えてんだ!!!」

 

せっかく興味を持ってくれたのに、あまりのキレ具合にエリちゃんが完全に怯え切ってしまった。

かわいそうなことに完全に私の後ろに隠れてしまっている。

 

「……どうもなにも……いい所もあるけど……口も行動も思考も……荒っぽい……小さい子相手なんだから……もっと穏やかに接しないと……」

 

「ぐっ……この、クソチビがぁ……!」

 

言い返せないからって唸るように睨みつけないで欲しい。

エリちゃんが完全に怖がっている。

 

 

 

そんなこんなでわちゃわちゃと騒いでいたら、鬼チームはまた外に出ていった。

……進行方向的に、桃太郎チームの罠にかかるなこれ。

そう思って波動を眺めていたら、案の定梅雨ちゃんの舌で青山くんの足を掴まれて、そのまま引きずって行かれた。

それを追いかけていった百ちゃんたちは、もぎもぎや口田くんが呼び寄せたカラスで対策を練られた状態の桃太郎チームに囲まれた結果、一網打尽にされてしまった。

 

……さて、これでいつ奇襲しても大丈夫なわけだけど、どうしてくれようか。

さっきまで何もしてなかったのは、爆豪くんの特別課題を考慮してすぐに終わらせるのはまずいと思ったからだ。

もう爆豪くんしか鬼チームがいない現状で、ここから気を遣う必要もないだろう。

ただ、飯田くんたちが桃太郎チームに特別課題のことを頼み込んでる。

なんか『泣いた赤鬼作戦』とかいうのをアウトになった鬼チームまで一緒になって考えている。

……少しだけ待ってあげるか。

でも、ここで私が動かないのもそれはそれで相澤先生に何か言われそうだ。

どうしよう。

 

悩んだ結果、『泣いた赤鬼作戦』が始まった瞬間に攻撃することにした。

せっかくエリちゃんが気合を入れているし、私がいいタイミングでテレパスしてエリちゃんに合図を送って、爆豪くんに豆を当ててもらおう。

 

少ししたら、マントをつけた大根役者が小屋に入ってきた。

 

「うおおおお~!その子をよこせ~!!」

 

「俺たちゃヴィランだぞ~!」

 

「悪いヴィランだぞ~!」

 

「うわぁ……」

 

あまりにも酷い演技に、思わずつぶやいてしまった。

砂藤くん、上鳴くん、峰田くんなんだけど、もうちょっとどうにかできなかったんだろうか。

爆豪くんもあまりにも酷いそれに、溜まっていたストレスが爆発したようだった。

棍棒で暴虐の限りを尽くし始めた爆豪くんの顔は、すごく生き生きとしている。

 

「後ろのやつら!!かかってこねえならこっちから行くぞ!!おらぁ!!」

 

『エリちゃん……今なら当てられると思うけど……いけそう……?』

 

私がテレパスで声をかけると、爆豪くんの怒気を受けてひきつった表情のままのエリちゃんは小さく頷いてから、爆豪くんに忍び寄り始めた。

 

「ちょ、ちょっと待って!かっちゃん!」

 

「ちょこまか動くなやデク!!」

 

「え……」

 

エリちゃんが緑谷くんの名前に反応して、気合を入れなおした。

どうやら自分が緑谷くんを助けるんだと気合を入れたらしい。

緑谷くんに向かって棍棒を振り上げる爆豪くんの油断した背中に、エリちゃんが腕を振りぬいた。

 

「おにわそとっ、おにわうち……っ」

 

「―――あ?」

 

『爆豪、アウト。これで鬼チームは全滅だな。よって桃太郎チームの勝利だ』

 

先生の声に、呆然としていた爆豪くんが再起動して叫んだ。

 

「どういうこったよ!?」

 

『初めに言っただろ。エリちゃんと波動を本物の人質として扱うようにと。人質はいつだって脱出の機会を狙っているし、武器を隠し持っているかもしれない。よって、エリちゃんと波動には最初から反撃用の豆を渡してあったんだ……波動は特別課題を考慮して待ってくれていたようだが』

 

先生がそこまで付け加えると、爆豪くんは私の方をキッと睨んできた。

エリちゃんは緑谷くんと興奮気味に話してるから、多分聞かれないよね。

 

「……人質の荷物検査も……拘束もしない鬼チームが悪い……特別課題を無視してたら……爆豪くんが一人になって……他のメンバーとある程度距離ができた瞬間に……奇襲を仕掛けてる……完全に油断してたから……当てるのは難しくない……そしたら……私がエリちゃんを抱えて逃げるだけ……」

 

「この……っ……!!」

 

爆豪くんは何も言い返せなくなっていた。

まあ人質を放置してたのは自分たちだし、落ち度は理解できただろう。

凄まじい表情で私を睨みながら、爆豪くんはさっきまでのエリちゃんの様子を考えていた。

怯えたように私に隠れながらも、頑張って爆豪くんを視界に収め続けていた姿を。

そして、手に豆を握り続けていつ投げるか様子を伺い続けていた姿を。

そこまで思い至って、爆豪くんはひとしきり歯ぎしりをした後にスッと無表情になった。

そのままエリちゃんの方に歩いていくと、エリちゃんに声をかけた。

 

「……お前、なかなかやるじゃねぇか」

 

「え……」

 

「エリちゃん!かっちゃんが褒めるなんて、めったにないことだよ!」

 

「そう……なの……?」

 

「ん……すごいことだよ……エリちゃんががんばったから……やったね……」

 

緑谷くんが説明するその姿に、爆豪くんは舌打ちだけして背を向けた。

私もエリちゃんの近くにしゃがんで頭を撫でてあげる。

エリちゃんは爆豪くんの背中を見ながら、ちょっとだけ表情を和らげていた。

エリちゃんの爆豪くんに対する好感度がちょっと上がってる気がする。

今褒められたのと、鬼に本気で取り組んでたからってところだろうか。

 

その後、エリちゃんが13号先生に連れられて寮に帰ってから講評が行われた。

案の定両チームの作戦の荒さや人質放置に関して苦言を呈されて、鬼チームも桃太郎チームもちょっとしょんぼりしていた。

爆豪くんの特別課題もエリちゃんの好感度が上がったからクリア。

まあ鬼を本気でやってたからって部分で上鳴くんに「素でやってただろ」って煽られてたけど。

とにもかくにも無事に終わってよかった。

ただ、私はレポートが残ってるからまだ終わってない。

この後時間もあるし、さっさと済ませるのが吉かな。

そう思って、私ならどういう作戦を立てていたかに思いを馳せた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。