波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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バレンタイン(後)

作りに作ったチョコの山を冷蔵庫に詰め込んで、砂藤くんを除いた皆はキッチンを出た。

砂藤くんはまだチョコを作るつもりらしい。

思考が本命チョコとかいう感じになってて意味が分からないけど、逆本命チョコでもプレゼントするつもりなんだろうか。

とりあえずそんな砂藤くんは置いておいて、女子は甘い匂いをずっと吸い続けていたのもあって気分転換に外に出ることにした。

だけど思った以上に寒かったらしくて、赤くなった頬をそのままに響香ちゃんが手をすり合わせながらつぶやいた。

 

「さっむ」

 

「大丈夫……?」

 

「まだまだ寒いよねー。近々皆インターンの呼び出しかかってるし、この寒さでコスチュームは結構きつそう」

 

「百ちゃんが特に辛そうよね。マントを増やしたとは言っても下は前のままだし」

 

「そこはもう気合ですね」

 

冷たい空気の中を皆でワイワイと話しながら歩いていると、お茶子ちゃんが白い息を吐きながら声を上げた。

 

「チョコ、美味しくできてるといいねぇ」

 

「だねー。そういえば友チョコの交換ってどうやってやる?」

 

「厳正なくじ引きなどどうでしょう?」

 

「くじ引きとかは瑠璃ちゃんが遠慮しちゃうから、できれば違う方法がいいかなー」

 

「透ちゃん……?」

 

「あ!じゃあさ!音楽かけてる間チョコ回してって、止まった時に自分が持ってたのをもらうヤツは?それなら波動もわくわくできるでしょ!」

 

「お楽しみ会とかでやる方法ね」

 

友チョコの交換方法を話していると、透ちゃんが私に気を遣ってくじ引きを拒否した。

それを受けて、三奈ちゃんが別の方法を提案してくれる。

私は慣れてるからそこまで気にしなくてもいいんだけど、透ちゃん的にはこういう部分も一緒に楽しめないのは良くないと思っていたらしい。

 

「……気にしなくてもいいのに……」

 

「いいから!それに、私あれドキドキして楽しいから好きなんだよね!」

 

「じゃあそれで!」

 

結局透ちゃんと三奈ちゃんに押し切られてその方法に決定した。

皆も特に嫌がっている様子はない。

まぁ、皆がいいならいいか。

そんなことを考えていたら、透ちゃんが自分のお腹を撫でながら口を開いた。

 

「夕飯は軽めにしよー。チョコいっぱい食べたいもん!」

 

「いや、デザートは別腹やろ?」

 

「ん……甘いものは……別腹……」

 

「別腹別腹ー!」

 

甘いものは別腹だろう。

お茶子ちゃんも三奈ちゃんもそう言ってるし、私だけの感想じゃない。

なんだったら夕飯のしょっぱい系の味と中和されてカロリーゼロまである。

好きなだけ食べていいのだ。

むしろ食べる。夕飯の後が楽しみだ。

透ちゃんも私たち3人の意見を聞いて、「そうだよね!」って気合を入れなおしていた。

分かってくれたらしい。

そんなことを考えていたら、さっきからこちらの様子を伺っていた2年生の眼鏡をかけた女子生徒が声をかけてきた。

 

「あの……あの……」

 

当然全員面識なんてない。

そしてこの女子生徒は手にすごく凝ったチョコレートが入った可愛い感じの紙袋を持っている。

 

「あの、何かご用でしょうか?」

 

「あっ……あの、これ……A組の王子様に渡してくださいっ……!」

 

眼鏡女子はそれだけ言うと、百ちゃんに紙袋を押し付けて脱兎のごとく逃げてしまった。

 

「え?」

 

「A組の王子様?」

 

「どういうこと?」

 

皆がきょとんとする中、三奈ちゃんだけは目をキラーンッ!と光らせながら興奮気味に袋を百ちゃんから受け取った。

 

「それは本命チョコだよ……!!」

 

「ん……中身……すごく凝ったチョコレート……間違いないと思う……」

 

「やっぱりそうだよね!!」

 

三奈ちゃんの言葉を受けて私が中身に言及すると、皆紙袋の中を覗き込んだ。

まあ可愛くラッピングされた包みがあるだけだけど、私が透視した上で言っているから間違いは絶対ない。

だけど、それを受けて皆慌て始めてしまった。

本命チョコを託されるというのは皆にとってそれだけ重いことだったらしい。

 

「皆、落ち着いて!あの眼鏡女子はきっとずっとここでA組の王子様に会えるのを待ってたんだよ!チャイム押す勇気もなくて、でも諦めきれなくて……そんな時、寮から私たちが出てきたから、必死でお願いしてきたんだよ……!!」

 

「三奈ちゃん正解……あの人……結構前から……タイミング伺ってた……流石に声をかけるのはどうかと思って……無視してたけど……」

 

「はわー!恋だ!」

 

「そんなチョコを託されたんだよ……これはもう協力するしかなくない!?」

 

「そやね!人の恋路は応援せんと!」

 

透ちゃんと三奈ちゃんが凄い興奮している。

そんな2人を筆頭に、皆も協力する気は満々みたいだった。

 

「しかし、A組の王子様というのは一体誰なんでしょう?」

 

「瑠璃ちゃん誰のことか分かった?」

 

「……あの人……名前知らないんだと思う……助けてもらった人のことを……王子様って思ってただけ……ちょっと待って……深く読心してみるから……」

 

私がそういうと、皆が固唾を呑んで見守り始めた。

そんな中、お茶子ちゃんが緑谷くんのことを思い浮かべて焦り始めていた。

深く読心を始める直前にそんな思考を見てしまって、私は思わずお茶子ちゃんに声をかけてしまった。

 

「お茶子ちゃん……?」

 

「麗日……?もしや今……?」

 

「ちゃうねん……!ちょっと虫がいただけ!」

 

「……でも……今みどり「ちゃうわ!!」

 

お茶子ちゃんに口を塞がれた。

そんな様子を三奈ちゃんと透ちゃんが「ほほう……?」なんて言いながら楽しそうに見ていた。

 

 

 

気を取り直して、少しの間深く読心をし続けた。

そんな中で読み取れたことは正直信じがたいことだった。

紫色の、丸い髪が、かっこいい……?

 

「は……?」

 

「瑠璃ちゃん、何か分かった?」

 

透ちゃんが私の反応に疑問符を浮かべながら聞いてくる。

どうやら皆はA組の王子様っぽい人って誰だろうなんて話をしていたらしい。

透ちゃん一押しのイケメンの轟くんや見た目がそのまま王子様っぽい青山くんとかは当然のように候補に挙がっていた。

だけど、さっきの眼鏡女子の本命は……

 

「……自分の読心の結果が……初めて信じられなくなった……」

 

「え、どういうこと?」

 

「……紫色の……丸い髪って……誰の事だと思う……?」

 

私がそう言った瞬間、皆が固まった。

まあ、そういう反応になるよね。

 

「え、マジ?」

 

「冗談とかじゃなくて?」

 

「ん……私……嘘は嫌い……」

 

今度こそ皆絶句してしまった。

……あの女子、峰田くんの本性を知らないんじゃないかな。

助けてもらったって思考が最初に読めたし。

 

「……あの人……多分峰田くんの本性……知らないんじゃないかな……」

 

「あー……」

 

「最近の妙に親切な感じで助けたのかな……」

 

「……これ、どうする?」

 

皆が沈黙する中、響香ちゃんが本命チョコを指さしながら聞いてきた。

でも、渡さないわけにもいかないよね、これ……

 

「……渡す?」

 

「一応……峰田くんの位置も……さっきの女子の位置も……把握してる……返すこともできるよ……」

 

「ですが、突き返されてそれで納得できるものでしょうか……?」

 

「……渡そっか」

 

皆で静かに頷きあって、そういうことになった。

さっきまでのテンションはどこにいってしまったのかというくらい異様な雰囲気の中、峰田くんの所に向かいだした。

 

 

 

私たちが峰田くんの所に近づいた辺りで、峰田くんと上鳴くんの2人が私たちの方に近づいてきた。

 

「おー!みんなでどっか行くの?」

 

上鳴くんが妙に嬉しそうに声をかけてくる。

その横でブドウ頭が「おっ……」なんて言ってから改まったように渋い表情を作って口を開いた。

 

「……寒いから、風邪ひかないようにもっと厚着しろよ……?」

 

このブドウ頭、下心しかない。

その裏に凄まじい欲望が渦巻いている。

読心ができない皆でも……百ちゃんすらもこのスケスケ具合は丸分かりだったらしく、全員がしらーっとしたなんとも言えない表情でブドウ頭を見つめていた。

 

「……一応……聞いておきたいんだけど……最近眼鏡かけた先輩女子を……救けたりしなかった……?」

 

「眼鏡女子ぃ?いや~ないけど」

 

「オイラもないな……それがどうかしたのか……?」

 

このブドウ頭、まだキメ顔をしながら話してくるけど、相変わらず論外だ。

この発言に嘘が全くない。

つまり、本命目的で救けたくせに、それすらも覚えていないということだ。

私が皆の方を向いて渋い表情をすると、どういう意味なのか分かったらしい皆もすごく微妙な表情を浮かべていた。

私たちがそんなことをしていると、上鳴くんがソワソワしながら訊ねてきた。

 

「なーなー、チョコあんの?」

 

「いっぱいあるよー。ケーキにプリンにトリュフチョコに……」

 

「やー、そういうんじゃなくて、こうバレンタインっぽいチョコ!」

 

「……じゃあ……上鳴くんは……夕飯後のチョコは……なしでいいの……?」

 

峰田くんと上鳴くんが強く望んだから女子皆でお金を出し合ってA組皆の分のチョコを作ったのに、その言い草は酷いんじゃないだろうか。

 

「え、ちょっ!?違う違うっ!!ごめん!ただバレンタインだから女の子からいっぱいチョコもらいたかっただけだよ!両手で抱えきれないくらい!悪気があって言ったわけじゃねぇって!!」

 

あまりにも素直なその発言に、皆呆れてしまっていた。

まあ謝ってくれたし、とりあえず良しとしよう。

 

それはそれとして……頼まれごとはなんとかしないと……

 

「三奈ちゃん……」

 

「あぁ、そうだよねぇ……うん!はい!峰田!」

 

「あ、芦戸!?―――とりあえず、今すぐオイラの部屋に行こう……!!なんならそこの木陰でも!!」

 

「は?」

 

「……やっぱり……渡すのやめた方がいいかも……」

 

その言葉を聞いた瞬間、三奈ちゃんの口から今まで聞いたことがないくらい低い声が飛び出していた。

案の定過ぎる反応を返してくるブドウ頭に、女子全員半眼でドン引きしている。

 

「違うから。これは頼まれただけ。眼鏡かけた先輩女子に、A組の王子様に渡して欲しいって……峰田は忘れてたみたいだけど」

 

「ほ、本当にオイラに……?」

 

「……読心した結果だから……間違いはない……間違いだったと思いたいけど……」

 

私がそこまで言うと、ブドウ頭は三奈ちゃんからチョコをもぎ取ってどこかに駆けて行った。

 

「行っちゃった」

 

「あれ、何しに行ったのかしら」

 

「……眼鏡女子を……探してるみたい…………あっ」

 

「え、どうしたの波動?」

 

ブドウ頭は謎の嗅覚で眼鏡女子を探し当てて、さっきの三奈ちゃんに言ったのと同じことを言い放っていた。

 

「……すぐに見つけて……先輩に告白されたのに……さっき三奈ちゃんに言ったのと同じこと言って……ドン引きされてる……感情が……高揚から……憎悪に近い嫌悪まで……一気に落ちた……峰田くん……ビンタされてチョコ……取り返されちゃった……」

 

「告白直後の下ネタはあかん……」

 

「峰田サイテー」

 

「完璧にフラれたわね」

 

お茶子ちゃんと三奈ちゃんが呆れた様子で言って、梅雨ちゃんが小さく首を振った。

本命チョコはどうにかなったけど、なんとも言えない幕切れだった。

 

 

 

夕飯後のチョコパーティー自体は大成功だった。

皆美味しいって言いながら嬉しそうに食べてくれてたし。

峰田くんは灰のように絶望した感じになっていたけど、砂藤くんが峰田くんのために準備していた本命チョコで感情が噴火して気を持ち直していた。

砂藤くん、峰田くんが本命チョコを欲しがっていたけどもらえないだろうと思って、それっぽいチョコを作ってあげていたらしい。

結局それで復活した峰田くんは、私たちが用意したチョコを食べて満足そうにしていた。

美味しそうに食べてくれているし、よしとしよう。

これであの白々しい感じが元に戻れば嬉しい。普段も普段だけど、あそこまで下心が透けてると行動や言動と思考の差のせいで、私からしたら違和感と嫌悪感が凄まじいのだ。

 

女子同士での友チョコ交換も盛り上がったし、少なくとも記憶にある範囲で友達とバレンタインを楽しめたのは初めてだったから、すごく楽しかった。

色々思うこともあったけど、甘いチョコをいっぱい食べられて、皆でワイワイ楽しめて、大満足のバレンタインだった。

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