『すべては悲劇である。"個性"は人類にとっての福音ではなく、終末への始まりだったのだ。この"個性終末論"に記されている……』
それは、壇上で青い肌の男が演説をしている映像だった。
『世代を経るにつれ"個性"は混ざり深化し……やがて誰にも、その力をコントロールできなくなる……人類の八割が"個性"という病に冒された時代……残された2割の純粋な人類も"個性"保持者と交わり、その数を減らしていく。絶滅は目の前に迫っているのだ』
男の周囲には、白いローブを羽織り、顔全体を覆うマスクをした無数の人間がいた。
『我々、ヒューマライズは、今こそ立ち上がらなければならない。たとえ大地を血に染めてでも……人類の救済を!!』
その後はローブを纏った者たちによって繰り返されるコールで映像は終わった。
「……これが……犯行声明ですか……?」
「ああ。まあ分かりやすいカルト宗教だな」
空港に向かう道すがらミルコさんが見せてくれていたのは、多数の被害者が出たガスによるテロの後に、ヒューマライズが世界に向けて公表したらしい犯行声明だった。
今日は私……というよりもインターンに行っている雄英生ほぼ全員にインターンの招集がかかっていた。
透ちゃんたちと何だろうねって不思議がっていたら、ミルコさんからパスポート持ってるかとかいう確認の電話が来て驚かされたのだ。
インターンなのにパスポート?と不思議に思っていたんだけど、ヒューマライズによる世界同時多発テロの犯行声明を受けて、世界各国のヒーローで協力して対応に当たることになったらしい。
ミルコさんも当然のように招集がかかったらしく、ミルコさんのところでインターンをしていた私にも、ミルコさんからお呼びがかかった。
あまりにも突然の話だったけど、I・アイランドに行った時に作ってはいたから、パスポート自体は持ってて問題はなかった。
「んで、私らが担当することになったのはイギリスだ」
「イギリス……」
「おう。作戦の詳細は現地に着いてからってことになってる」
まあ信者がどこにいるか分からないカルト宗教の相手をしなければいけない状況で、その辺で作戦なんか話せるわけもない。
当然の対応か。
「他のヒーローとかは……いるんですか……?」
「日本からは私たちだけだな。現地のヒーローは知らねえ」
「なるほど……」
それにしても、イギリスか……
イギリスとなると、英語が公用語のはずだ。
私もそれなりに頑張って勉強してるし、百ちゃんには劣るけど偏差値70越えの雄英ヒーロー科でクラス2位の成績を取っている自負はある。
英語も最低限は話せるし、聞き取れるとは思うけど、コミュニケーションに影響は出てしまう。
私は波動の形や質から思考を読み取っている関係上、普通に読心はできるとは思う。
思考が英語っぽかったメリッサさんとかも普通に読み取れたし。
だけど問題はテレパスの方だ。
波動を共鳴させて同じ思考を頭の中に響かせてる感じだから、基本的には伝わるとは思うけど、細かいニュアンスがちゃんと伝わるかが分からない。
考える時に使ってる言葉が日本語と英語でテレパスに違いが出るかなんて試したことがないのだ。
ちゃんと伝わらない可能性を考えた方がいいと思う。
あとは、いつも習ってるのはアメリカ英語だけど、行くのはイギリスだしイギリス英語になるだろうから多少違いが出てる可能性も考えないとダメか。
あれ、そういえば……
「……そういえば……ミルコさんって……英語話せるんですか……?」
「話せると思うか?」
「……ごめんなさい……」
「ま、お前は成績優秀な雄英生だし、多少話せるだろ?それに読心までできる。通訳は任せたからな」
「……はい……頑張ります……」
案の定話せなかったらしい。
ミルコさんの思考的に、学生時代に英語の授業とかは受けてはいても話せるレベルまではいってない、一般的な日本人としての英語スキルしか持ってないっぽい。
……私が頑張らないと……ミルコさんに活躍してもらうためにも……
そんなことを考えていると、空港に着いた。
それはいいんだけど、ロビーに着いた瞬間に凄まじい黄色い歓声が聞こえてきた。
「キャアアアホォクスゥウ!!!!」
「ヘイヘイストップひなどりちゃん。ここ空港だよ。騒いじゃダメだぜ……とまんね」
「なぜ俺まで」
ホークスが凄い人数の女性ファンから襲撃を受けていた。
彼は常闇くんと一緒にそのままどこかへ連れていかれてしまっている。
ホークス、元気そうでよかった。
少なくとも今まではうまくやってくれていたらしい。
私のせいで殺されている可能性もあったから、結構気にしていたのだ。
私が安堵の溜息を吐いていると、ミルコさんが頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。
ミルコさんも私が気にしていることに気が付いていたらしい。
「いい加減自分を責めるのはやめろ。あれは仕方なかった。学生のお前にそこまで気にしろってのは酷だ。どっちかっていうとプロの私の落ち度だしな」
「……ありがとう……ございます……」
私がお礼を言うと、ミルコさんは気にすんなと言わんばかりにひと際強く撫でてきた。
髪が乱れるのはいただけないけど、ミルコさんに撫でられるのは悪い気はしなかった。
「お!ようエンデヴァー!!」
「……ミルコか」
そんなことをしていたらミルコさんがエンデヴァーを見つけて意気揚々と声をかけにいった。
エンデヴァーの近くには緑谷くんたちもいる。
私は髪を整えながら緑谷くんたちの方に近づいていった。
「緑谷くん……轟くん……爆豪くん……」
「あ、波動さん!波動さんも今から飛行機なんだね!」
爆豪くんはこっちをちらっと見て無視、轟くんは無言で片手をあげて挨拶してくれて、緑谷くんは笑顔で反応してくれた。
「ん……緑谷くんたちは……どこに向かうの……?」
「僕たちはオセオンに行くんだ!波動さんは?」
「私は……イギリス……」
私がどこに行くのか答えると、緑谷くんが目を輝かせ始めた。
……何かそんなに反応する要素があっただろうか。
「イギリスかぁ!イギリスといえばエレクプラントが有名だよね!強力な電気系の個性の中でも最上位の"発電"の個性を持っててロンドンを拠点にしてるヒーロー!体内で電気を作って、それを使った強力な電撃を武器にしてて―――……」
いつものブツブツが始まってしまった。
現地のヒーローの情報を教えてもらえるのは助かるけど、すごい勢いで迫ってくるから相変わらず怖い。
爆豪くんは爆豪くんで緑谷くんを睨んでイライラしてるし。
一応緑谷くんの話は聞き流しながらもある程度は聞いている。
役に立つかもしれないし。
とりあえず、エレクプラントは上鳴くんの上位互換っぽい個性を持っていることは分かった。
「ショート、バクゴー、デク。そろそろ時間だ。行くぞ」
「オヤジ」
「なんだショート」
「なんで俺がおまえの隣の席なんだ。笑えねぇ冗談か!?」
轟くん、最近憎悪とかはマシになってきたとはいっても、まだまだ受け入れることは難しいらしい。
それにしても、これに爆ギレ爆豪くんまでいたりするし、結構空気最悪な感じのインターン現場なんじゃないだろうか。
この前救援要請した時はそんなことはなかったんだけど、ヒーロー活動をしている時か否かで空気が変わるんだろうか。
「緑谷と爆豪の隣にしろ」
「と、轟くん……!!」
「てめぇまだ俺を友達だと思ってんな?」
緑谷くんが冷や汗をだらだら流しながら轟くんの提案に焦っていた。
爆豪くんも爆豪くんで友達じゃないとか思ってる。
……友達じゃなかったのか、爆豪くんと轟くん。
思考もツンデレとかそんな感じじゃないし、心底嫌がってる。
でもじゃあ友達の条件ってなんだろう。
もしかして私と爆豪くんも友達じゃない?
受け入れてくれたし友達だと思ってたんだけど……
コルクボードから爆豪くんが写っている写真を外した方がいいんだろうか。
それはちょっと寂しいかもしれない。
そんなことを考えていたら、大喧嘩しているエンデヴァーと轟くんと爆豪くん、その横でアワアワ慌てている緑谷くんの方を一瞥しながら、ミルコさんが話しかけてきた。
「あの3人、いつもあんななのか?」
「……まあ……こんな感じです……」
あの3人っていうのは轟くん、爆豪くん、緑谷くんのことっぽい。
ミルコさん的にはめんどくさいと思う一方で、私に爆豪くんをちょっとでも見習ってほしいとも思っている。
……見習った方がいいのか、爆豪くん。
「……見習った方が……いいですか……?」
「お前は覇気がなさすぎんだよ。無理にとは言わないが、少しはあいつの覇気とか、剝き出しの殺意を見習った方がいい」
「覇気……殺意……」
「それくらいガツガツ行くつもりがねぇと、思い切りよくならなそうだしな。傍観が根っこまで染みついてやがる。あと、個人的にヴィランに対する剥き出しの殺意を持ってるやつは嫌いじゃない」
剥き出しの殺意っていうのは、今みたいなのじゃなくて爆豪くんが普段からギラギラヴィランを狙っている感じのことを言っているっぽい。
この前会った時の様子から感じたっぽいけど、エンデヴァーをおちょくりながらそこまで見えてたのか。
相変わらず視野が広い。
そんなことを話していたら、人の波を抜け出してきたホークスがエンデヴァー事務所3人の大喧嘩を収めていた。
席の並びを、前列爆豪くん、エンデヴァー、後列に緑谷くん、轟くんにすることを提案したっぽい。
唯一望みがかなえられてないエンデヴァーも、『ショートが俺の背を見るか……悪くない』とか考えている。
本当に、どこまで親バカなんだこのナンバーワン。
むしろなんでこんな親バカなのに虐待なんてしてたんだ。
理解に苦しむ。
それはそれでいいとして、私はホークスにテレパスをしてしまわないと。
公安とエンデヴァーに無事に報告できたこと、せっかく会えたんだし伝えておいた方がいい。
ミルコさんと話しながら、ホークスにササッとテレパスしてしまう。
『ホークス……以前頼まれた件……公安……エンデヴァー……どちらも無事に報告できました……バレてはいないはずです……』
『ありがとう。解放戦線の方でも察知している気配はなかった。大丈夫、うまくやってくれたね。助かった』
公安に関しては私の不始末のせいでしなきゃいけなくなった報告だし、ホークスに余計な心労をかけてしまっているし、お礼を言われるようなことじゃない。
ホークスは人の波に再び飲まれて行ったけど、範囲内にはいるしテレパスは続けられる。
『トガの件……大丈夫でしたか……?』
『ああ。一度目の前で君に変身されたよ』
『目の前……ですか……?』
『そ、目の前』
なんでホークスの目の前で私に変身する必要がある。
ナイフをつたった血なんて少量しかないんだから、そんな警戒されるようなことをしたら情報が引き出せなくなるだけな気が……
短時間しか変身できなくても、誰か別の人が探りを入れながら遠くで読心すればいいだけの話だ。
それなら、そんなことをして得られる利益となると……
『……個性……使えてないんですか……?』
『その可能性が高いかなとは思ってるよ。俺にブラフを仕掛けてきてると考えると腑に落ちる部分が多い』
『なるほど……それなら……よかったです……』
『泳がされてる可能性もゼロじゃないし、気は抜けないけどね。何があるかは分からない。だから君も、力をつけて備えておいて欲しい』
『はい……がんばります……』
トガは、私の個性を使えていない可能性が高い。
もちろんホークスの言うように、泳がされてる可能性もある。
だから気を抜けないのは確かだし、備えておくに越したことはない。
そう思って気合を入れなおした。
そんなことを考えている間に、ホークスは飛行機に乗り込んだらしい。
私に一言かけてから思考が私に向けたものじゃなくなった。
そのタイミングで、エンデヴァーたちも飛行機に乗るために移動を始めようとしていた。
「じゃあ波動さん!お互いに頑張ろうね!」
「ん……緑谷くんたちも……気を付けてね……」
お互いに手を振り合って、緑谷くんたちを見送った。
そうこうしているうちに、私たちが乗る飛行機に乗れる時間が近づいてきた。
「よし、私たちもそろそろ行くぞ」
「はい……!」
これから世界規模でテロを仕掛けてくる集団を相手にしなければいけないのだ。
頑張らないといけない。
飛行機に乗り込みながら、そう考えて改めて気合を入れなおした。