イギリス国内の夜空を飛行する軍用輸送ヘリ。
その中に、ミルコさんと私、それにエレクプラントとそのサイドキックたちといったイギリスのヒーローたちがいた。
ヘリの中のモニターは、今回の作戦の概要を示した映像とともに、アメリカのニューヨークに設置された統括司令部の長官の声が流れていた。
この映像は、作戦開始に備えている25か国のヒーローたちに同時に伝わっている。
『先日の無差別テロの犯行声明を出したのは、"ヒューマライズ"。人類救済を標榜する指導者、フレクト・ターンによって設立された思想団体である。テロに使用される装置は、個性因子誘発物質イディオ・トリガーを強化したものだと推測される。以後、この装置を"トリガー・ボム"と呼称する』
イディオ・トリガー。
個性を強制的に暴走させる、異常な物質。
最初のテロの現場はこのガスが散布されて、多大な被害を被った。
腕に羽根の生えた者は、その羽根が巨大化した。
液体化する個性を持つ者は、人の形を保つことすらできなくなった。
亀の個性を持つ者は、亀そのものになってしまった。
水を出す個性の者は、凄まじい勢いで竜巻状に水を噴出し続け、周囲の建物を崩壊させてしまった。
このテロにいち早く駆け付けたヒーローも、ビームの個性を全身から過剰放出してしまって被害をさらに拡大させてしまった。
たった数分で、その町は瓦礫の山となったのだ。
テロリストたちは直接手は加えていない。
やったことは、ただ一般人やヒーローの個性を暴走させただけ。
本来はここまでの物じゃなかったはずだ。
そんなものなら、ヴィランたちが利用しないわけがない。
だけど、ヒューマライズによって強化されたそれは、常軌を逸していた。
だから、多数の被害者を出したこのテロを、二度と繰り返させてはならないと、世界規模での作戦が行われることになったのだ。
『我々、選抜ヒーローチームの任務は、世界25か所にあるヒューマライズの施設の一斉捜索。団員たちを拘束したのち、一刻も早く保管されている"トリガー・ボム"を回収することである。施設では、団員たちの抵抗が予想される。また、トリガー・ボムを使用するリスクも高く、各国の警察への協力要請は自粛せざるを得ない。可及的速やかにこの任務を実行してほしい……オールマイト』
本部にいる長官は、控えていたらしいオールマイトに話すように促していた。
『ヒーロー諸君、この作戦の成否は君たちの双肩にかかっている。テロの恐怖に怯える人々の、笑顔を取り戻そう』
オールマイトは世界的にも偉大なヒーローとして認知されているだけあって、イギリス勢の士気も上がっていた。
そんな中、再び長官の声が響いた。
『各ヒーローチーム……スタートミッション!!』
その声を合図に、世界中で作戦が開始された。
「信者の方はお前らに任せていいんだな?」
「ああ。君たちの個性は聞いた。個性からしても、伝え聞く性格からしても、君たち2人には遊撃として動いてもらってトリガー・ボムを発見してもらうのが一番効率がいい」
ミルコさんの問いかけに、エレクプラントがサッと答える。
エレクプラントは英語で話しているけど、普通に話すことが出来ている。
現地についてすぐに対策本部から支給されたインカムが、何故か翻訳機能までついていたのだ。
誤訳とかがあるかまでは分からないけど、少なくとも今のところ変な訳し方をされている様子はない。
「それが分かりゃ十分だ。リオル!行くぞ!!」
「……はい……!」
ミルコさんは私に威勢よく声をかけると、ヘリのハッチを開いて躊躇なく飛び降りた。
私もその後を追って飛び降りる。
身体が浮遊感に襲われながら急降下していく。
激しい風圧の中、散々訓練した跳躍からの落下の経験も活かしてバランスを取っていく。
落下しながら近づいてくる建物の中と、そこから伸びる地下室、さらに範囲内の人間の思考を感知していく。
トリガー・ボムは、最初のテロ現場で押収は出来なかったものの、あったであろう場所は分かっている。
そのおかげで、床にどんな感じで置かれていたか、どのくらいのサイズの物かは分かっているのだ。
普通じゃないガスが詰まった大きな箱状の物。
それを探しつつ、トリガー・ボムに関して考えている人間の思考を探り続けていた。
地面が迫っている。ミルコさんはどうやっているのか分からない身のこなしでパラシュートを開かずに着地した。
相変わらず理解できない動きをしている。
素の私じゃ到底真似できない。
私は波動の噴出で減速を掛けつつちょっともたつきながら着地した。
「止まれ!!」
「許可のない立ち入りは「邪魔だぁ!!」
ミルコさんの蹴りが、警備兵と思わしき信者の仮面を割りつつ、顔面にめり込んだ。
私ももう一人の衛兵のお腹に加減した発勁をめり込ませながら、ミルコさんに警告する。
「ミルコさん……!!ここにいる人はほとんど無個性です……!!ある程度加減しないとダメです……!!」
「分かってるよんなこたぁ!!」
「ミルコ!リオル!足を止めるな!先に進め!」
少し遅れて着地したエレクプラントが、私たちに前進するように促してきた。
周囲に続々と集まってきていた信者に対して、エレクプラントは容赦なく放電している。
無慈悲かつ高速で迫る雷撃を、無個性の人間がどうにかできるわけもなかった。
私たちはヒューマライズ信者の悲鳴を背に、屋敷の中に突入した。
……あれ……?
誰も、トリガー・ボムに関して考えてない?
そんなことが、あり得るのだろうか。
少なくともここの屋敷の中にも、地下にも、トリガー・ボムも無ければ、それに関して考えている人間もいない。
「ミルコさん……!!おかしいです……!!この建物の中……!!トリガー・ボムはおろか、それを認識している人間すらいません……!!」
「あ!?どういうことだそりゃあ!」
ミルコさんが周囲の信者を薙ぎ払いながら聞いてくる。
私も真空波でミルコさんを援護しながら、感知を続けた。
どういうことだ。
まさか、ここにトリガー・ボムがない?
でも、あれだけ盛大に犯行予告をした組織の人間が、その種のトリガー・ボムを全く把握していないなんてあり得るはずがない。
つまり、今ここいる人間はあくまで末端も末端。
フレクトは自分の信を置ける人間にしか、種を明かしていない可能性が高いんじゃないだろうか。
そうなると、トリガー・ボムの在りかとして可能性があるのは……
どこかにある隠し施設か、あるいは、この建物の外の街中のどこか。楽観視をすれば、イギリスには存在しない可能性もあるけど……
だけど各国の公安に察知されずに大掛かりな隠し施設を作れるなんて思えないし、トリガー・ボムなんて劇物を外から容易に持ち込めるとは思えない。
生成するのに大掛かりな設備も必要なはずだ。
「……ミルコさん!!ここの制圧はエレクプラントに任せましょう……!!こんなに誰も知らないなんてあり得るはずがありません……!!イギリスにない可能性もありますけど……!!仮にあるとするなら、どこかに隠し施設があるか……!!一部の人間しか知らなくて……その人間がトリガー・ボムを持って逃げているかのどちらかしかありえません……!!」
「チッ……分かった!!一度出るぞ!!」
そういうとミルコさんは私を小脇に抱えて、窓から凄まじい速さで跳躍した。
ミルコさんが私を抱えて移動してくれている間にエレクプラントにテレパスをかける。
『エレクプラント……!!報告です……!!この施設内にトリガー・ボムは見当たらず……!!それどころか、それを認識している人間すらいません……!!』
『なんだと……!?空振りか!!』
『はい……!!私たちはここを出て……別の隠し施設や隠れている人間がロンドンにいないか探します……!!この施設の制圧はお任せします……!!』
『……任せろ!!街に危険がないか確かめてくれ!!』
エレクプラントはすぐに了承して、そのまま制圧を続けてくれた。
今度は司令部の方へコンタクトを取る。
「イギリス、ロンドンのヒューマライズ支部から司令部へ……!聞こえますか……!」
『波動少女か!?』
「オールマイト……?はい、そうです……!」
何故かオールマイトが応答した。
さっきのマイク、まだオールマイトが持ってたのか。
通信は全部モニターしてるだろうし、オールマイトが返答してくることも……あるのか?
単純にオールマイトが雄英生からの通信で勝手に応答しただけな気もするけど。
でも読心のこととかを説明しなくていいからすごく楽だ。
「報告します……!ロンドン支部にはトリガー・ボム、並びにトリガー・ボムを認識している人間すら見当たらず……!制圧はエレクプラントらに任せ……!私とミルコさんはロンドン市内に隠し施設や、襲撃を察知して逃走している人間がいないか捜索に入ります……!」
『……分かった、気を付けてくれよ!』
『長官!!クレア・ボヤンスからも報告が―――……』
オールマイトの声の後ろから、別の人が報告している声が聞こえる。
この感じだと、他の施設もトリガー・ボムは見当たらなかったか。
「報告は終わったな。なら感知に集中しろ。運搬はしてやる」
「はい……ありがとうございます……」
ミルコさんは私を抱えたまま、建物の屋根から屋根に跳躍して跳びまわっていた。
運ばれながら、私は目を閉じて周囲の波動に集中する。
街の人たちはあそこがヒューマライズの施設だって知らなかったらしくて、突然の爆音や争う音で騒然としていた。
不安の感情とかが全体的に強くてちょっと不愉快ではある。
だけど、このくらいの波動なら黒霧に比べれば屁でもない。
気にせずに感知を続けた。
ミルコさんに運ばれながら、しばらく感知を続けていった。
その時間は、正直どのくらいかかったかも覚えてない。
だけど、ロンドンの端の方に辿り着いた時に、悪意のある波動を感じた。
「ミルコさん……止まってください……」
私がそういうと、ミルコさんはすぐに止まって私を下ろしてくれた。
感知の邪魔をしないように、私の様子を静かに伺ってくれている。
あのローブ……あの男たちは……ヒューマライズの人間だ。
その近くには……大きな倉庫がある。
倉庫の中の……四角い箱状の何か……
あれは……
「トリガー・ボムを発見しました……!!ミルコさん……!!ここから南西に約950mの倉庫……!!ヒューマライズの人間数人に守られて……倉庫の中央に置かれてる箱状の物がトリガー・ボムです……!!」
「よぉし、よくやった」
そういうとミルコさんは、大きく跳躍した。
私も慌ててミルコさんを追いかけながら、司令部に通信をかける。
「ロンドンから司令部へ……!トリガー・ボムを発見しました……!ロンドン南西の端、郊外の倉庫の中に……!トリガー・ボムと、それを守るヒューマライズ信者を発見……!これよりミルコさんとともに襲撃を仕掛けます……!」
『本当ですか!?長官!!オールマイト!!ロンドンからトリガー・ボム発見の報告が入りました!!』
今度は普通に通信手の人が応答してくれた。
それから少し間があってから、司令部から通信が返ってきた。
『エレクプラントによる施設制圧は既に終了しています。これからそちらの増援に向かわせるので、もしも手に負えない場合や、暴走の可能性があるなら、増援を待ってから対応に当たってください。緊急時の為に何かあればすぐに報告を』
そこで通信は切れた。
エレクプラントたちも向かってくれているらしい。
増援もある。敵は油断している。
ここだけ見るとこちらの圧倒的な優位な状況。
だけど、トリガー・ボムを使われる可能性もあるから、それを加味するとこちらが不利か。
警戒しないといけない。
そう思って気を引き締めながら、ミルコさんを追いかけた。
ヒーロー解説
・エレクプラント
イギリスのプロヒーロー。
設定を見る限りはイギリスで活躍しているはずなのに、映画で出るたびにアメリカにいる謎の男。
トリガー・ボムはイギリスにもあったはずなのに、なぜアメリカに……?
詳細は前話の緑谷の解説通り。
・クレア・ボヤンス
オセオンのプロヒーロー。個性透視のお姉さん。