「あそこか」
「はい……入口に見張りが1人……中に2人……入口の見張りと……中の1人はおそらく雇われヴィランかと……」
「雇われ?」
「施設の方にいた信者とは……比べ物にならないくらい普通の悪党です……個性終末論を信じている感じでもないですし……多分お金で雇われてます……個性は―――……」
ミルコさんに報告しながら、倉庫にいるヒューマライズの信者たちの読心を続ける。
中にいる1人は個性終末論を信じ切っていて、フレクトに心酔している。
話が通じるとは思えない思考をしている感じからして、あれがフレクトの信を得ている人間なんだろう。
あとの2人は普通のヴィランって感じでしかない。
少しの間思考を読んでいた感じだと、多分個性は身体を岩みたいに出来るのと、腕をハンマーに出来る感じだろうか。
信者の方は多分水系統の何かだと思う。
「……入口のは……腕をハンマーに出来る個性……中のは……大柄な方が……身体を岩に出来る個性……小柄な方は……水系統の何かだと思います……」
「はっ。大層なお題目掲げてる割には、自分たちも個性使うんじゃねぇか」
「お金で個性を持ってるヴィランを雇う程度には……節操無いみたいですし……」
ミルコさんの言う通りで、個性終末論なんていう考えを元にしたカルト宗教の癖に、自分たちも個性を使えるのだ。
それにトリガー・ボムを守らせてるのもよく分からないし。
トリガー・ボムが発動したらこの人たちも死ぬ可能性が高いと思うんだけど、それすらも厭わないような思考をしているのは、3人のうちの1人だけだ。
残りの2人はお金の為にいるって感じでしかないし、命の危機を認識したら逃げるんじゃないだろうか。
「突入できるのは正面の入り口と窓くらいだな」
「はい……」
「トリガー・ボムの起動方法は分かりそうか?」
「……いえ……なんとも……尋問できるなら分かるかもしれませんけど……今の状況だと……思考がそっちに触れたりもしてませんし……」
「……お前、正面のやつやれるか」
「……1対1でよければ……なんとかします……」
腕をハンマーにする個性なら、1対1なら相手の思考と波動の揺らぎの把握で攻撃の仕方や狙う場所はある程度読めるはず。
他の2人の邪魔さえ入らなければ、負けることはないと思う。
「お前がそいつに奇襲を仕掛けて、他の2人の気が逸れた瞬間に窓ぶち割って私が突入する。んで、起動方法知ってる可能性が高い信者の方を即座に蹴っ飛ばす」
「……なるほど……分かりました……頑張ります……」
確かに、雇われヴィランでしかないトリガー・ボムを理解しているかも怪しい2人よりも、信者の方が知っている可能性は高いだろう。
ミルコさんの奇襲なら、通信とか起動とかをする暇も与えずに制圧できると思う。
私の奇襲でどれだけ気を引けるかが重要かな。
ミルコさんも私なら正面のやつ1人くらいはどうにかできると思ってるから指示してくれてるみたいだし、その期待に応えられるように頑張ろう。
ミルコさんが隣の倉庫の屋根の上、私がトリガー・ボムがある倉庫の屋根の上に移動した。
ミルコさんはもう準備はできている。
いつでも跳ね上がって窓を蹴破りながら突入できるだろう。
私も、インターンで磨いた技の見せ所だ。
技の精度は、冬休み前とは比べ物にならないくらい上がっていると思う。
波動蹴も発勁も、格闘技に近い技はその成果が特に顕著だと思う。
威力の上昇はもちろん、命中率も飛躍的に上がったのだ。
ミルコさんとのインターンでは、ある程度技の精度が上がってきたところで、技以外の色んなことにも助言をもらっていた。
だけどインターンの最初からやっていた技の精度が一番成長した部分なのは言うまでもない。
ミルコさんは、それを見ていて私ならできると思ったから、エレクプラントを待つっていう選択肢を取らなかった。
その信頼に応えたい。
私は、入口の見張りをしているヴィランが、ちょうど中から見える位置に来たところで、倉庫の屋根から飛び降りた。
中が見える位置に来たところで飛び降りたのは、少しでも中の2人の気を引くためだ。
波動の噴出で加速を掛けて真っすぐ回転しながら、ヴィランに狙いを定める。
気を引くのは戦闘音で十分。見える位置に来たんだからそれだけあれば十分気を引ける。
相手は本物のヴィランだ。
声を出さずに、一気に決められるなら決めてしまいたい。
そう思いながら、落下の勢いそのままに、ヴィランの頭に波動蹴を叩き込んだ。
「ぐっ!?」
そのままサッと距離を取る。破れかぶれで適当にハンマーを振り回されたら当たりかねないし。
頭に直撃させることはできたのに、ヴィランはヨロヨロしながらまだ意識を保っている。
ヴィランのくぐもった声が聞こえてこっちを見たらしい中の2人は、私の襲撃に気が付いていた。
雇われヴィランの方がこっちに近寄ってきているのを感じる。
でも中の2人は無視だ。
ミルコさんが私を信じてくれたように、私もミルコさんを信じる。
私は波動の噴出を使いながら一気にヴィランとの距離を詰めた。
奇襲を受けたヴィランもまずいとは思ったのか、ヨロヨロとしながらハンマーを振りかぶった。
だけど、そんな攻撃当たるわけない。
目線の向き、振りかぶられたハンマーの届く範囲、思考の感じからして、攻撃が来る場所は予測できる。
「このっ!!クソヒーローがっ!!」
倉庫の方で窓が割れる音を聞きながら、ハンマーをいなした。
そのままヴィランの懐に潜り込んで、手に波動をどんどん圧縮していく。
そのまま両手での掌底突きを、思いっきりヴィランのお腹に叩き込んだ。
「発勁っ!!」
ハンマーのヴィランの意識は、それで落ちた。
思考は読めない。確実に気絶している。
私はそのまま、倉庫からこっちに走り寄ろうとしたけど窓を割っての奇襲に気が付いてどうすればいいか分からなくて困惑している岩のヴィランの方に跳躍した。
入口から斜めに跳躍しているせいでいつもよりも高さはない。
だけど、こんな状況もミルコさんとのインターンで何度も経験してる。
そのままいつも以上に圧縮する波動の量を多くしながら、足に波動を集中させていく。
落下の速度を足せなくなった分の威力は、波動の噴出による加速で補う。
そのまま回転を始めて、さらに波動の噴出で加速をかける。
ヴィランが岩になっているのが見えるけど、そんなの気にしちゃいけない。
躊躇すると技のキレも落ちるし、威力もガタ落ちになる。
思い切りよく、ガツガツと、ヴィランに対しては、爆豪くんみたいな剥き出しの殺意を持つくらいの勢いで……!!
「波動蹴っ!!」
「
私の高速での低空波動蹴が岩の身体にひびを入れるのと、ミルコさんの
ミルコさん、私よりも後に突入したのに、もう1人を制圧してこっちを蹴り飛ばしに来たらしい。
流石ミルコさんだ。
岩のヴィランは私の渾身の一撃と、ミルコさんの踵落としを食らって岩への変化を保てなくなったらしい。
元に戻った瞬間に、ミルコさんがすかさずお腹に回し蹴りを叩き込んで気絶させた。
「上出来だ。拘束具持ってるな。こっち2人はやっとくから表のやつ縛ってこい」
「はい……!」
岩のヴィランを縛っているミルコさんの指示を受けて、入口の方で気絶したままのヴィランの方に移動する。
そのタイミングで、エレクプラントが倉庫までやって来た。
サイドキックは施設の後始末に残して来たっぽい。
「リオル!大丈夫だったか!?」
「はい……制圧……完了しました……中の信者も……ミルコさんが拘束してます……周囲に他のヒューマライズの人間はいません……トリガー・ボムは……中に……」
「やってくれたか!ありがとう!―――ミルコっ!」
エレクプラントは、私に労いの言葉をかけてから、ミルコさんの方に駆け寄って行った。
私もハンマーのヴィランを拘束して、身体強化をかけてヴィランを引き摺りながらミルコさんの方に戻る。
ミルコさんはちょうど統括司令部の方に連絡を取ろうとしているところだった。
ヴィランを他の2人のところにまとめて置いておいて、私も司令部とのやりとりが聞こえる位置まで近寄る。
「トリガー・ボムは確保、守ってたやつも拘束済みだ。どうすればいい」
『やってくれましたか!トリガー・ボムの状態は?』
「とりあえず起動する気配はねぇよ。起動方法も尋問してみねぇと分かんねぇ」
『なるほど……少々お待ちください』
通信手が一度会話を中断した。
まあ一介の通信手が決められることじゃないし、長官に指示を仰いでいるんだろう。
少ししてから、通信が再開された。
聞こえて来たのは、オールマイトの声だった。
『ミルコ、波動少女、よくやってくれた。翻訳を通して会話して意思伝達に齟齬が生じても困るから、ここからは私が話をさせてもらうよ。まず指示を伝える。トリガー・ボム起動の条件が分からない以上、動かすこと自体がリスクだ。本部から人を回すから、そこで待機してほしい』
「待機はいいが、爆弾をこのまま置いとくつもりか?起動方法が遠隔操作だったらどうする」
『そこが問題なんだ。エレクプラント、君のサイドキックにトリガー・ボムを密閉したりできる個性のものはいるかい?あるいは、ロンドン市内のそういう個性を持っていて信頼できる人間でもいい』
オールマイトが途中から英語に切り替えて話し出した。
バイリンガルだからオールマイトを通信役にしたのか。
オールマイトの英語はアメリカ英語だと思うけど、翻訳抜きで話そうとするなら確かにこれが1番か。
私とミルコさんもインカムの翻訳を通じて意味自体はちゃんと伝わってくるし。
「いや、いないな。後者はいないでもないが、ヒューマライズと無関係であるという確信が持てない」
『そうか……なら、司令部からの増援がつくまで監視を続けるしかない。トリガー・ボムを覆えるようなコンテナとか箱があれば、一応それを被せておいて欲しい』
「……一般人の避難とかは……しないんですか……?」
『こちらからイギリスの公安に要請するよ。どうするかはそちらの判断に委ねざるを得ないけどね』
監視しておくしかトリガー・ボムへの対処法がないなら、本部の人間が対処するまではこの周辺の一般人を危険に晒したまま放置することになってしまう。
避難させた方がいいかと思ったんだけど、本部から避難指示とかは出せないらしい。
『……ここからが、一番頼みたいことになる。トリガー・ボムだが、それ以外は、1つも、見つけることが出来なかった。他の24ヵ国では、トリガー・ボムの存在を知る信者を見つけることすら出来なかったんだ』
「まんまと一杯食わされたわけだな。私らが最初に突入した施設と同じだったわけだ」
『情けないことに、そう言わざるを得ない。ヒューマライズに、作戦を察知されていたとしか思えない。手掛かりすらも一切見つからなかった。君たちが確保してくれたトリガー・ボムと、拘束した信者が唯一の手掛かりなんだ』
……言いたいことは、もう大体分かった。
だからオールマイトがわざわざ通信してきたんだろう。
翻訳なしで話すためなんて言ってたけど、本命はこっちか。
頼みたいことは、私に対してのものなんだろう。
だから、オールマイトがここまで言い淀む。
『そこで、この頼みたいことが出てくるんだ……波動少女、君が那歩島でした、口を割らないヴィランへの尋問。その正確さ、読み取った内容……全てが素晴らしいものだった。君が悪意を苦手としていることは、重々承知している。だけど、それを押して頼みたい。申し訳ないが、確保した信者の尋問をしてもらえないだろうか。イギリスも、トリガー・ボムがそれだけとは限らない。25ヵ国の市民の命がかかってるんだ……』
オールマイト、青山くんの件での物間くんの様子とかを気にしてるな、これ。
確かに信者の狂った思考を読むのは不愉快極まりない。
それでも、流石にこの状況で拒否するほど、私も非情じゃない。
「分かりました……やってみます……」
『すまない、ありがとう波動少女。こちらも、可能な限り早く人を送る』
「指示はそれだけか?」
『ああ。ミルコ、波動少女を頼む』
オールマイトの言葉に、ミルコさんは特に返事はしなかった。
だけど、ミルコさんはそれを拒否したわけじゃない。
私も精神的にも成長して来てるから、このくらいなら助けはいらないって信頼してくれてるだけだ。
その後、少しの間エレクプラントも交えて報告と確認、今後の方針、尋問で確認すべき内容を固めて、通信は終わった。
私は信者が目を覚まし次第、尋問をしないといけない。
一般人の集団パニックの思考なんて読みたくないし、お姉ちゃんの負担を減らすことにもつながる。
最悪の場合に失われるかもしれない、多くの命を助けることにもつながる。
これらのためにも、ミルコさんやオールマイトの期待に応えるためにも、頑張らないと。