通信の後、信者と雇われヴィランは気絶しているし、まずはトリガー・ボムに最低限の処置を行うことになった。
最低限の処置とはいっても、できることはほぼない。
オールマイトが言っていた通り、万が一起動されてもガスが漏れ出さないようにすることくらいしかできることはなかった。
一応、透視して中をじっくり見た結果、多分噴出する機構が機械化されていることは分かった。
恐らく遠隔操作とかの何かしらの操作で、自動で中からガスが噴き出す構造になってる……と思う。
「……エレクプラント……電気で機械を壊すこととかって……出来ますか……」
「……物によるけど、可能だとは思う。これを壊せないかってことかい?」
「はい……透視して見た限り……少なくとも噴出させるための機構は……機械です……」
私がエレクプラントに声をかけると、彼は考え込み始めた。
電子機器や精密機械であれば壊せないわけではないっぽい。
彼が考えているのは、仮に壊せるとした時の壊すタイミングの方だ。
「一応、貴重なサンプルだ。壊すのは最終手段にしたい。起動する気配を感じたら、その時に破壊を試みる」
「私も……それがいいと思います……」
エレクプラントは私の返答を聞くと、さっきやってきたサイドキックに隣の倉庫にあったコンテナを運搬するように指示し始めていた。
コンテナの一辺を破壊して、コンテナだけを動かしてトリガー・ボムに被せるつもりらしい。
悪くない方法だと思う。
その方法なら私にできることはほぼないし、トリガー・ボムの処置は任せてしまおう。
そのまま倉庫の端で拘束具をつけたまま椅子に縛り付けて拘束している信者を監視しているミルコさんの方に移動した。
「ミルコさん……信者……起きそうですか……?」
「いや、どっかに通信されても面倒だし結構がっつり蹴り飛ばしたからな。しばらくはこのままだろ」
「……なるほど……」
信者はまだ気絶していて起きる気配はなかった。
ミルコさん、結構容赦なく蹴ったっぽい。
まあでも手加減して万が一他の信者に何かしらのコンタクトを取られて、トリガー・ボムを起動されるなんてことになったら目も当てられないから仕方ないことではあるんだけど。
「お前は休みながら尋問で聞く内容考えてろ。オールマイトに確認してほしいこと言われてたろ」
「ん……はい……分かりました……」
ミルコさんに促されて、尋問する内容と順番を考える。
オールマイトに確認を依頼された内容は多岐にわたる。
基本的に最優先はトリガー・ボム関連。
トリガー・ボムの現在地、仕掛ける予定の場所、起爆方法、起動後に止める手段はあるのか、どこで、どのようにして作ったのかとかだ。
その他にも、信者のこととか隠し施設があるのかとかヒューマライズに関してとか、フレクト・ターンのこととか、いろいろと言われてはいる。
だけどトリガー・ボムのことを確認するのを最優先にしてほしいと言われているのだ。
話を聞く順番は、まあそこまで気にしなくても最優先事項から聞いていけばいいかな。
他のことは余裕があったらだ。
尋問の方法も、那歩島の時と同じ感じでいいだろう。
そう思いながら、改めて聞くべき内容を頭の中で整理し始めた。
少ししてから、信者は目を覚ました。
キョロキョロと周囲を見渡してから憎々し気にこちらを睨みつけてくる。
こちら側もこちら側で、ミルコさんが信者を睨みつけ、トリガー・ボムへの最低限の処置を終わらせたエレクプラントが椅子に縛り付けられた信者を警戒しているような状況だった。
「……この、重病者どもが……!」
信者の感情は、凄まじい憎悪と嫌悪感に歪んでいた。
ステージとかよくわからないことを考えているけど、これは多分個性に対する考え方のランク付けか。
ヒーローをしている人間はステージを高く見積もられているようで、完全にこちらを重病人扱いしている。
「……あなたに聞きたいことがある……素直に答えることをおすすめする……」
「お前たち重病者に話すことなど何もない!」
憎々し気な表情を引っ込めて、信者はいきなり狂ったような笑みを浮かべ、吐き捨てるように言い放った。
さっきも思ったけど、思考が凄く狂信的で読んでいてこっちの気まで狂いそうになる。
早く済ませてしまおう。
「トリガー・ボム……あれ以外にもあるの……?あるとしたら……どこにある……?」
私が聞いても、信者は当然のように無言を貫いていた。
喋らないのなんて分かり切っていたことだ。
思考を読んで内容を確認していく。
トリガー・ボムは、ヒューマライズの施設がある25か国にあるようだ。
ロンドンにも、あと2つはあるっぽい。
この人はこれ以外の場所は把握していないというのがなんとも言えない所だけど……
「……トリガー・ボムの起動方法……どうしたらあれは起動する……」
「……」
信者の様子は一切変わらない。
でも、この人が知らないことは分かった。
というよりも、誰にも起動方法が教えられていないっぽい。
つまり、誰かが遠隔で起動するということか。
来るべき時に人の多い場所に持っていくように指示を受けている感じか。
「あの爆弾……こんなところで起爆するつもりはなかったはず……どこでやるつもりだった……」
……ロンドン市内、より多くのヒーローを集められる場所?
ヒーローをおびき出そうとしている?
トラックで運ぶつもりだったみたいだし、振動とかはそこまで気にする必要がなさそうなのは救いか。
「トリガー・ボムの……停止方法は……?起動後に止める方法はあるの……?」
「はははははっ!そんなもの、あるわけがないだろう!!」
「こんなところだけ……正直に話すんだ……」
『貴様らのような重病人を粛清するための装置だ!』なんて考えながら、不敵な笑みを浮かべてこちらを小馬鹿にしたように笑う信者は、勝ち誇ったようにそう言い放った。
……でも今話したことで少し信憑性のある情報が増えたな。
重病人……つまり、私たちのようなヒーローを標的にしている。
確かに街中の人が多い場所にあんな危険物を置けば、ヒーローは死に物狂いで止めに行くだろう。
信者すら止める方法を知らない爆弾。
そんなもの、完全密閉して隔離できる個性や、遥か上空とかに吹き飛ばせる個性とかがないと、対処ができない。
さっき破壊できるかもしれないと言ってくれたエレクプラントを信じるなら、入れ物自体をショートさせることで破壊するという手段が取れる可能性がないわけでもない。
だけど、そもそも電気系の個性が超レア個性だ。それを対応策とするのは現実的じゃない。
「トリガー・ボムは……どこで作ってる……?」
オセオンの本部でベースを作って、こっちで最終仕上げという工程を取っているらしい。
でも、さっきの思考を見る限りもう世界各地に散らばってしまっている。
新しいものを追加されないと楽観視したとしても、既に世界的な危機に陥っている。
「ヒーローを狙ってる……ヒーローがいなくなった社会を……どうするつもり……?」
「……なるほど……そういうことか……なるほどなるほど……」
「……気付いたみたいだけど……どうすることもできない……精々足掻いてみればいい……出来るとは思えないけど……」
私が思考を元にした内容を言及したことで、ようやく信者は読心に類する個性の可能性に気が付いたようだった。
だけどそんなものに気が付いたところで、ミスディレクションも使えない人が抗うことなんて―――
毒……?
まずい……!!
その思考を認識した瞬間、私は信者に向かって駆けだしながら、足に波動を圧縮し始めていた。
「度し難い重病者どもめ!!今にこの腐った世は変わる!!"個性"と言う病がこの世から消え去るのだ!!」
波動の圧縮が終わった瞬間に、信者に向かって全力で吹き飛んだ。
ミルコさんも、私の様子を見て地面を蹴っている。
「人類の救済をっ!!!」
その言葉を言い放って、信者は思いっきり歯を食いしばるような動作をした。
その瞬間、信者の奥歯から、液体が口の中に噴出された。
信者を気絶させるために私が放った発勁と、私の動きを見てから動き出したミルコさんの蹴りは、間に合っていなかった。
「クソがっ!!自殺かっ!?」
「ミルコさん!!口の中!!歯から何か出ました!!」
私は白目を剝いて痙攣している信者の口を無理矢理開かせて、何とか毒と思われる液体を吐き出させようとする。
だけど、そんなことをしたところで毒が出せるはずもなかった。
水系統の個性を持っている人がいれば、無理矢理洗い流せたかもしれないけど、そんな個性の人は今この場にいない。
そんなことをしている内に、信者の心臓は止まって、波動は、死人の波動になってしまった。
毒物でショックを起こして死んだとしか思えない。
ここで心臓マッサージや波動の注入をしても、体内の毒物への対処ができないんじゃ意味がない。
「……し、死んじゃい……ました……」
尋問の方法を、間違えた……
狂信者がどんな行動に出るかなんて、考えることすらしなかった。
個性を持っている人間が、トリガー・ボムがどういう物か理解している人間が、トリガー・ボムを護衛していたということは、自爆テロを目論んでいた可能性があったということ。
それはつまり、目的のためなら死すらも辞さないような人間だった可能性があるということ。
そんな人間が、捕まった時の対策として、情報を抜かれないようにするためにどういうことをするか……
気付けたはずだ。
ちゃんと考えれば、予測できたことだった。
予測さえできていれば、断片的な思考から推測して、対応もできた。
だってこの男は、黙秘をしようとしていた。
私に読心されていると気が付いた瞬間に豹変した。
情報漏洩を防ぐことが出来ないと判断した瞬間に……
私が直接尋問をしないで、他人が尋問をしているところを読心していれば、この男は読心の可能性に気付くことはできなかった。
私が読心を匂わせるような言動をしなければ、気付かれることはなかった。
自殺の可能性を考えて、口の中や体内に異常な部分がないかよく見るべきだった。
毒が入っていた歯は、よく見てみれば中が空洞になっていた。
その空洞に、液体が入っていた。
歯の中なんて、今まで気にしたこともなかったせいで、完全に見落とした。
信者が気付いた時の断片的な思考。そこから自殺の可能性を推察して、もっと早く対応できていれば……
私が、軽率だったから、こんな……
私が愕然として俯いたまま座り込んでしまっていると、頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「ミルコさん……すいません……私……軽率で……あんな……自殺なんて……考えてすら……」
「……悪かった。いくらお前に尋問の適性があったとしても、お前は尋問の方法を学んだことがあるわけでも無ければ、経験が豊富なわけでもなかった。これは、お前1人に全てを押し付けた、私たちの失態だ」
ミルコさんから、自責の念が伝わってくる。
そう言ってくれるけど、でも、これは、明らかに私の失態だ。
エレクプラントやサイドキックがバタバタと走り回っている音を聞こえているのに、私は、動くことすらできなかった。