あれからある程度時間も経って、私もようやく落ち着いてきた。
死んだのを確認した信者も、エレクプラントのサイドキックが一応病院へ連れて行った。
他の2人の雇われヴィランはエレクプラントが探りを入れてくれてるところを読心したけど、あの2人は本当に何も知らなかった。
司令部の人たちも大急ぎで来たのが分かるくらいの早さで来て、トリガー・ボムへの対処を始めていた。
私が司令部の人たちにトリガー・ボムはある程度の振動とかは問題なさそうなことを伝えると、特殊なケースのようなもので覆ってトリガー・ボムを運び出そうとしていた。
見た感じ、気密性が凄く高い感じっぽい。組み上げた後の隙間が全然見当たらない。
これでそのまま飛行機で空輸してしまうらしい。
そんな様子を尻目に、私は私でミルコさんと一緒に司令部への報告をしていた。
通信をすると、向こう側はすぐにオールマイトに変わってくれていた。
「すいません……オールマイト……私のせいで……」
『……いや、全てこちらの責任だよ。波動少女の負担が少ない方法で行うべきだった。こちらの浅慮が招いた結果でしかない……辛い思いをさせてしまった……すまなかった』
信者が死んでしまったことを伝えて謝ると、顔を歪めた沈痛な面持ちのオールマイトが、頭を下げて謝罪し始めた。
狂気的な感じの思考を読んでいたせいもあって、信者が死んだという事実に対するショック自体はそこまででもなかったけど、自殺されたという事実に、私のせいで失敗したとしか思えなかった。
「いえ……自分を過信してました……もっと……うまくやるべきだったと……」
『いや……既にミルコから第一報で報告はもらってる。そのような手段を取ってくる者が相手となると、誰が尋問をしても情報が得られないか、自殺されているかの2択だっただろう。自分を責めないでくれ。本当に、今回の件は指示をした私の責任であって、波動少女の責任じゃない』
オールマイトの懺悔のような謝罪の言葉に、何も言い返せなくなってしまう。
お互いに何も言えなくなってしまって、今にも土下座しかねないくらい申し訳なさそうな、後悔しているような表情を浮かべているオールマイトと、少しの間モニター越しに見つめ合っていた。
少し経って、オールマイトが意を決したように口を開いた。
『本当にすまない。本来なら、すぐにでも休んでほしいくらいなんだけど、時間がないんだ……尋問で得られた情報を、教えてくれないだろうか』
「分かりました……トリガー・ボムに関する情報だけですけど……」
オールマイトがこちらを心配そうに見ながら読心した内容を教えて欲しいと言ってきた。
必要なことだというのは分かっているし、言わない理由なんてない。
私は、順番に読心で得た情報を話した。
トリガー・ボムはヒューマライズの施設がある25か国に仕掛けられていること。
ロンドンにもあと2つ残っていて、あの信者はロンドン以外は把握していなかったけど、1つの国に複数個仕掛けられている可能性があること。
トリガー・ボムはその存在をしっかりと把握していた信者ですら起動方法を知らないこと。
少なくともあの信者が把握している限りでは、誰にも起動方法を伝えられていないこと。
受けている指示は、来るべき時に人の多い場所にトリガー・ボムを運ぶこと。
そこから考えられるのは、遠隔で起動する可能性が高いということ。
そこにヒーローを誘き出そうとしている可能性が高いこと。
そこまで話したところで、話を聞いて唸っていたオールマイトが口を開いた。
『ヒーローを誘き出す?目的は……』
「それを聞こうとしたところで……自殺されました……一応……それまでの思考や言動から……個性を消し去ることが目的であることは分かっています……でもこれは……ヒューマライズの思想そのままなので……」
『そうか……いや、すまない。ここまでの情報を引き出すことが出来ているだけでも、素晴らしい成果だ』
オールマイトが気休めのように褒めてくれるけど、まだ少し情報がある。
「あと少しだけあります……トリガー・ボムは……起動後に止める方法は存在しないと言っていました……思考も嘘はなかったです……」
『止める方法はないか……そうなると早急に見つける他に手がないか……』
「一応……中のガスを噴出する機構が機械なので……エレクプラントは壊せる可能性があると言っていました……あとは……セメントス先生のような個性で……密閉してしまうのもありかと……今さっきここのトリガー・ボムに行っていた気密性の高い物で密閉する処置も……有効だとは思います……」
『そうか。それなら、早急に見つけて処置を施すのが一番だな』
渋い顔をしていたオールマイトの顔に、少しだけ笑顔が戻った。
対処法が全くないというわけじゃなくて安心したんだろうか。
「最後です……トリガー・ボムは本部でベースを作って……各地で組み上げているらしいです……大きな箱のまま運んでいるわけでは……ないようで……」
『なるほど……だから空路や海路で運び込まれていないか確認しても、不審な情報が見つからないわけか……既存のルートの洗い直しや、陸路で運び込む方法を再考しつつ、再調査を徹底するよ。ありがとう波動少女』
「いえ……それはいいんですけど……」
「で?今後私たちはどう動けばいい。残りのトリガー・ボムの捜索をしてればいいのか?」
伝えるべき情報を伝えきったところで、今まで静かに見守ってくれていたミルコさんが口を開いた。
『ああ。イギリスも含めて各地のヒーローを増員して、トリガー・ボム捜索に当たる。ロンドン郊外の倉庫に隠されていた実例を伝えて、各地に捜索を徹底してもらう。各国の公安にも協力を要請して、少しでも捜索しやすい状況を作るつもりだ。今回波動少女が得てくれた、施設がある25か国にトリガー・ボムがあるという情報があれば、承諾は得られると思う』
「それなら……良かったです……」
オールマイトが言ってくれた言葉に、さっきの失態で落ち込んでいた気分が少しだけ晴れた気がした。
だけど、私が安心していると、オールマイトの表情にちょっとだけ影がかかった。
『ただ、イギリスは波動少女がいるからね……これから増員の割り振りを決めるんだけど、他国に比べると増員が少なくなってしまう可能性が高い』
「……こいつがいたらそうなるのも理解できなくはないが、さっきこいつに押し付けてやらかしたばっかだろ。また押し付ける気か」
『……本当にすまない、人手が足りてないんだ。学生であっても、短時間で唯一トリガー・ボムを見つけることが出来た波動少女がいるという事実を、人員の割り振りに反映せざるを得ないくらいに。もちろん波動少女1人にやってほしいと言っているわけじゃない。確実ではないけど、イギリスの公安にも依頼して、現地のヒーローの増員も要請はする。エレクプラントにも、全面的に協力してもらうつもりだ』
「日本の公安もだが、統括司令部も大概だな」
『返す言葉がないよ。私としても、波動少女にかかる負担や心労は、分かっているつもりなんだ。だけど、より多くの人命を救けるために、協力してほしいと懇願することしかできない』
オールマイトが凄く深刻な表情で頼み込んできた。
まあ、人助けに狂った狂人みたいな思考をしているオールマイトだし、こう言うことしかできないよね。
一教師として私のことが心配でも、それ以上に何十万、何百万の人たちの命には代えられないということなんだろう。
「……いえ……大丈夫です……頑張ります……」
『すまない、ありがとう。ミルコ、波動少女を頼む』
「……私もあのクソ信者どもは気に食わねぇ。見つけて蹴っ飛ばすだけだ」
ミルコさん的にも、いろいろ思うところがあったらしい。
イライラしながらぎらついた感じでそう言い切った。
『それで十分だ。そのついでに気にかけておいてあげて欲しい。追加の指示があればまたこちらから連絡するよ』
そこで通信は切れた。
そうなると、私はこれからトリガー・ボムの捜索に当たらないといけないってことか。
トリガー・ボムを追加で見つけることが出来れば、また信者を捕縛できるかもしれない。
そうしたら、さっきの反省を生かして、もっと情報を引き出せるかもしれない。
さっきの失敗を、挽回しないと……
そう思っていたら、急に頭をぐりぐりと撫でまわされた。
「気ぃ張りすぎだ」
「ミルコさん……?」
「少なくとも、さっきの尋問で来るべき時ってのはいつだったか分からなかったんだろ?」
「……はい……」
「なら数分、数時間後ってわけじゃないはずだ。そうだとしたら準備を始めてないとおかしいからな」
「……そう、ですね……」
「時間はある。気を張りすぎてると無駄に疲れる上に碌なことがねえ。少し休んでこい」
「え、でも……」
ミルコさんが、急にそんなことを言い出した。
数時間後とかじゃなくても、早い方がいいのは確かなのに……
「いいから休め。夜中から作戦開始してそのままトリガー・ボムの対処、信者が起きるの待ってからすぐに尋問までして寝てもいない。一度ホテルに戻るから、仮眠取っておけ」
「このくらいなら……大丈夫です……」
「お前自分の顔色自覚してんのか?自責の念に駆られるのは分かるが、気負い過ぎだ。いいから寝ろ」
ミルコさんはこのまま捜索に入るつもりみたいだったから大丈夫だって言ったのに、休むように言われてしまった。
そんなに顔色悪かっただろうか。
でも、ミルコさんがそういうなら休んだ方がいいのかもしれない。
ミルコさんの思考は純粋に私を心配してくれているし、ミルコさんがわざわざ言うほどってよっぽどだ。
そう思って、これ以上言い返すことはせずに了承の返事だけ返した。
ミルコさんはもう一度頭をぐしゃぐしゃ撫でてくる。
相変わらず髪の毛が乱れるのは気になるけど、ミルコさんの撫で方は荒っぽくはあるけど気遣ってくれてる感じがする。
優しく慈しむ感じのお姉ちゃんの撫で方とはだいぶ違う感じだけど、ミルコさんの撫で方も嫌いじゃなかった。
その後はミルコさんと一緒にエレクプラントに声をかけてから、ロンドン市内に取ってあったホテルに戻った。
そのままシャワーを浴びて、ベッドに横になったら一気に睡魔が襲ってくる。
ミルコさんが怒気を滲ませながらホテルを出ていく波動を感じながら、私は睡魔に身を委ねた。