『最終種目発表の前に、予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げてもらうぞ!さぁさぁ皆楽しく競えよレクリエーション!』
『それが終われば最終種目!進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!』
昼休みが終わって、私たちは再び会場に戻って来ていた。
「トーナメントか……!毎年テレビで見てた舞台に立つんだぁ……!」
「去年トーナメントだっけ?」
テレビで見ていた舞台に立てることに嬉しさを滲ませる切島くんに、三奈ちゃんが問いかけている。去年は確か……
「1年生でトーナメントは……一昨年……去年は確か……チャンバラ……?」
一昨年の体育祭が似たような形式だった。お姉ちゃんの活躍が目覚ましかったからよく覚えている。
去年の1年生は確か……スポーツチャンバラかなにかだったかな?
去年は2年生のステージを見ていたから全然覚えてない。
「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!レクに関して進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね」
今年も最終種目まで行っていればレクの参加は自由らしい。
私は体力もそんなにないし、参加しないで最終種目のためにも見学にして体力温存しておこう。
「んじゃ1位チームから順に……」
「あの……!すみません」
ミッドナイト先生がくじを順に引かせていこうとしたところで、尾白くんが恐る恐る手を上げて話を遮った。
「俺、辞退します」
「尾白くん!なんで……!?せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
尾白くんの申し出に、周囲にざわめきが起こった。
まあ、普通に考えたらあり得ない行動だし仕方ないと思うけど……
「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでほぼぼんやりとしかないんだ。多分奴の"個性"で……」
この奴というのは緑谷くん以上のもじゃもじゃ頭で、目つきが悪い普通科の彼だろう。
尾白くんの思考の感じからして、声をかけられてからそんな感じの状態になったようだ。
あの時のぼんやりした思考と、今の尾白くんやもじゃもじゃくん本人の思考的に洗脳って感じっぽいけど、無差別ではなさそうだから、会話するとか返答するとかが個性のトリガーだと思う。
とりあえず、彼に声をかけられても反応しない方が良さそうだ。
そんなことを考えている内に、同じ理由でB組の庄田くんが辞退した。
2人の辞退はミッドナイト先生の好みによって承認されて、代わりに鉄哲くんと塩崎さんが繰り上がることになった。
その16人でくじ引きをしていって……
緑谷 ― 心操
轟 ― 波動
塩崎 ― 上鳴
飯田 ― 発目
芦戸 ― 青山
常闇 ― 八百万
鉄哲 ― 切島
麗日 ― 爆豪
私の初戦の相手は、轟くんだった。
うん。私の体育祭、終わったんじゃないかな。
戦闘訓練で勝てたのは2対1の状況だったからだし、あの時は個性の詳細も知られていなかった。
だけど今回は違う。
1対1で、かつ私に碌な戦闘能力がないこともバレてしまっている。
出来る限りのことはするけど、正直勝てるビジョンが思い浮かばない。
しかも勝てば2回戦で当たる緑谷くんは『僕も勝って轟くんも勝ったら、もう……』とか考えているし、轟くん本人は『意外と早かったな……来いよ緑谷。この手で倒してやる』とか考えている。
私なんて眼中にないらしい。
これは流石にイラっとしてしまう。
確かに私に勝ち目はほぼないけど、それでもここまで気にも留めない思考をされるのは心外だ。
正直、轟くんよりもちゃんと対戦相手への反応を示している爆豪くんの方が好感が持てる。
「麗日?」っていう一言だけだし、お茶子ちゃんはその反応に内心で悲鳴を上げてるけど、無視される私よりはよっぽどマシだ。
『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いておいて、イッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!』
それで一時解散になった。
私はレクリエーションに参加する透ちゃん、梅雨ちゃん、響香ちゃんを応援しながら作戦を考えていた。
あの失礼極まりない氷男に勝つためにはどうすればいいか。
どうすれば、轟くんの鼻を明かせるか。
だけど、考えても考えても、その結論は出なかった。
私と轟くんの相性が悪すぎるのだ。
轟くんは広範囲攻撃を得意としている上に、近づいても凍らせることができてしまう。
避け続けることも難しい上に、仮に出し抜いて近づけたとしても戦闘訓練の二の舞。
しかも私にできることはそのくらいしかない上に、もうあの時のような搦め手は使えないときている。
どうしようかな、これ……
『ヘイガイズアァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!分かるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆けあがれ!!』
時間はあっという間に過ぎて、最終種目の時間になった。
私は2戦目が出番だから、控室で待機していた。
あの2人の個性だし、決着はすぐだと思う。
普通科の人が緑谷くんを操るか、緑谷くんが操られずに勝つかのどちらかだ。
『1回戦!!成績の割になんだその顔!ヒーロー科、緑谷出久!!バーサス!!ごめんまだ目立つ活躍なし!!普通科、心操人使!!』
『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!!ケガ上等!!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!!道徳倫理は一旦捨て置け!!だがまぁもちろん命に関わるよーなのはクソだぜ!!アウト!ヒーローはヴィランを捕まえる為に拳を振るうのだ!そんじゃ早速始めよか!!レディィィィイスタート!!』
マイク先生は素早く説明を終えると、試合開始の宣言を叫んだ。
「瑠璃ちゃん、大丈夫?」
そんな感じで試合が始まる中、1回戦を見ないで控室まで一緒に来てくれていた透ちゃんに、心配そうに問いかけられた。
「大丈夫……ありがと……」
不安で埋め尽くされている内心を誤魔化すように、笑みを浮かべながらお礼を言っておく。
透ちゃんも、これが強がりであることはすぐに気が付いたようだった。
「いやぁしかし!まさかの轟くんかぁ!轟くんにとってはリベンジマッチな訳だ!」
「ん……そうだね……」
透ちゃん自身も、私と轟くんが1対1で戦ったら勝ち目がないことなんて分かっている。
それでも、私の意を汲んで明るく振舞ってくれていた。
その後も少しの間ぽつぽつと透ちゃんと話して過ごす。
『二回戦進出!!緑谷出久ー---!!』
試合の決着は、予想通りすぐに着いたようだ。
「じゃあ……行ってくるね……」
透ちゃんにそう告げて、控室を出ようとする。
「瑠璃ちゃん!」
呼び止められて、足を止めて振り向く。
「応援してるから!頑張ってね!」
そう言って右手をグーにして突き出す透ちゃん。
それに対して、私も手を透ちゃんの方に突き出す。
「ん……!頑張る……!」
お互いに笑顔を浮かべてから、ゲートの方に駆け足で向かった。
『お待たせしました!!続きましては~~こいつらだ!』
事前の指示通り、アナウンスに合わせてステージに上る。
『ここまで4位・2位と優秀な成績!こいつに見通せないものはあるのか!?ヒーロー科、波動瑠璃!!バーサス!!2位・1位と強すぎるよ君!同じくヒーロー科、轟焦凍!!』
轟くんと向かい合う。
轟くんから発せられている波動は穏やかだ。
間髪入れずに攻撃なんてことはしてこないだろう。
『スタート!!』
開始の合図が響いても、お互いに少しの間睨み合う。
轟くんは搦め手を気にしているみたいだけど、そんなのこの状況でしたところで意味がない。
私が何もしてこないことが分かったのか、轟くんの波動が揺らいだ。
その瞬間私は斜め前に走り出して、一気に飛び込むようにして受け身を取った。
次の瞬間、私が立っていたところには、スタジアム上空まで広がる大きな氷柱が一瞬で出来上がっていた。
轟くんの思考を深く読もうとしなくても、この行動は読めていた。
前回もビルを凍らせるような大規模な氷撃を放ってきたんだし、予想の範囲内でしかない。
そこに攻撃直前の思考である程度の範囲を、波動の揺らぎでタイミングを判断すれば、避けられない攻撃じゃない。
『なんっだこれ!?どんだけ規格外なんだよ!?それを余裕をもって避ける方もやべぇな!!?』
「お前なら避けるよな。もう油断はしねぇ」
「油断してくれた方が……ありがたかったんだけどな……」
轟くんの言葉に、思わず本音を漏らしてしまう。
眼中にはなくても、油断はしてくれないらしい。
だけど、本気で臨んでくれているということでもある。
さっきの攻撃でステージ全体を凍らせなかったことを考えると、そこまではできないんだろうか。
直線的な氷が迫ってから、そこから氷柱が立ち上がってきていた。
近く以外はあの直線的な動きが基本になるのかな……?
過信しすぎるのはだめだけど、一つの指針にはなる。
そんなことを考えていると、再び轟くんの波動が揺らいだ。
轟くんの意識が向いている方向から、全力で身体を逃がす。
避けること自体には成功した。
放たれたのはさっきほどの氷撃ではなかったけど、それでも結構ギリギリだった。
どんどん氷で動けるところが減っていくのを考えると、長期戦は得策じゃない。
それは轟くんも分かっているのか、何度も同じ攻撃を繰り返してくる。
私もどんどん逃げ場がなくなっていって、少しずつ追い詰められていく。
このまま繰り返していても、凍らされるだけだ。
滑った瞬間に終わるリスクがあるからあんまりしたくなかったけど、仕方ない。
そう思った私は、足に波動を集めてステージ中に作られている氷柱を蹴ることでジャンプして射線からの回避を続けた。
「埒が明かねぇ」
氷まで利用し始めた私に、轟くんは呟くように吐き捨てた。
さらに、離れた所からの攻撃では埒が明かないと判断したのか、轟くんはこっちに向かって走り出してきた。
『波動、またしても回避!!痺れを切らした轟はすかさず近接へ!!』
走りながら繰り出される、直線的な氷撃を横に飛んで避ける。
だけどその瞬間、轟くんは氷を足場にして駆けあがった。
轟くんは、受け身を取って倒れていた私の上から飛び掛かってきていた。
まずい。
すぐに立ち上がろうとするけど、頭では分かっていても身体が付いてこない。
急いで手に波動を集めて、腕の力だけで無理矢理身体を横に飛ばす。
ほぼ距離は出なかったけど、上空からのパンチと着地直後の拳からの氷は避けることが出来た。
だけどこれだけで終わるはずがない。
彼の思考は、飛んでいる段階から避けられることを考えていた。ここからの追撃は絶対にあるはず。
そう考えた私は、受け身を取ってそのまま転がって、反動を利用して一気に立ち上がった。
案の定、叩きつけられた拳から生えた氷から、さらに氷柱が伸びてきた。
予測出来ていたその攻撃を、急いで横に飛ぶことで回避する。
『避け続ける波動を追う轟……なんつーか……こう……弱いものいじめを見てるみてぇでモヤっと……』
飛び込んで避けるなんて行動を続けている私の体操服は、ボロボロになってきている。
避けきれずに氷が掠ったりしたせいで、身体の一部に霜が降りたりもしている。
そんな私を哀れに思ったのか、マイク先生が同情してきていた。
『何言ってんだ。むしろ、力を認めているからこそ本気で追い続けてんだろ』
『は?』
『波動は授業で2対1の状況とはいえ、轟の確保に成功している。そんな何をしてくるか分からない相手の力を認めているからこそ、反撃の隙を与えないために攻撃し続けてんだろって話だ』
だけど相澤先生がその同情をすぐに打ち消してくれた。
相澤先生の反論に、会場が少しざわつく。
でも、手加減される方が気分が悪い。
氷だけとはいっても、全力でかかって来てくれるなら、悪いことではない。
轟くんがゆっくりとこちらに向き直る。
一見するとこっちの様子を伺いながら注意深く観察しているその動き。
だけど私には、その動きがどこか鈍っているように見えた。
これじゃあ、こっちも埒が明かない。
反撃に出ないと……でも、チャンスは一度きりだ。
轟くんがこちらの動きを観察しているその隙に、足に波動を集められるだけ集める。
全身の波動を集める勢いで足に集中させる。
普段は軽く集めるのを連続で何回かするだけで、キャパオーバーになって動けなくなっているのに……
今日……というよりも轟くんとの試合では何故かそんなことになっていないけど、ここまで集中させるのは始めてだ。
もしかしたら今日は調子がいいのかもしれない。
これでダメだったら、どんなに調子がよくてもキャパオーバーになると思うけど、もともとこれしか勝ち目がない。
次で、決めよう。
私がそう心に決めた瞬間、轟くんが動き出した。
轟くんも、私が何かを決意したのに気が付いたらしい。
また最初の大氷撃をして、今度こそ終わらせるつもりだ。
轟くんの足元から氷が生え始める。
思考からして、最初と同じ氷撃をしてくるのかと思ったけど、最初よりも規模が小さくなっている気がする。
私は波動を使わずに、射線から外れるように、倒れない程度に斜め前に跳ねる。
ギリギリのところを氷が掠めて行って右腕を思いっきり凍らされてしまうけど、そこ以外は無事だ。
右腕も動きながら掠めただけだったからか、氷柱の中に巻き込まれずに凍らされるだけで済んだ。
上出来だ。
『轟の氷を波動が間一髪で回避!!だが右腕を凍らされちまったぞどうすんだおい!?』
着地と同時に、私は足に集中させた波動を利用して全力で地面を蹴った。
その瞬間、足に集めていた波動が弾けたような気がした。
その弾けるような感覚に合わせて、私の身体は前方に吹き飛んだ。
轟くんが、目の前に迫る。
自分でも予想外のその速度に、パンチとか器用なことはできなかった。
そのまま勢いに任せて轟くんの身体を押し出そうとする。
轟くんも驚愕したような顔をしていたけど、すぐに気を持ち直した。
すかさず自身の後ろに氷を出して、吹き飛ばないようにしてくる。
氷に阻まれて勢いを殺されてしまった私は、無防備な状態で轟くんの前に立っている状態になってしまった。
そのまま私の方に右手を向けると、私は頭以外を全て凍り付かされてしまった。
「一応確認するけど……波動さん……動ける?」
「無理……私の負け……」
私の言葉を聞いた半分凍ったミッドナイト先生が、大きく息を吸い込んだ。
「波動さん行動不能!!轟くん二回戦進出!!」
その宣言とともに、静まり返っていた会場に歓声が響き渡った。
轟くんはすぐに炎を出して氷を溶かし始めてくれている。
「すまねぇ……やりすぎた」
「前も言った……私が選んだ作戦の結果……気にしてない……」
相変わらず謝ってくる轟くんに、前回と同じく気にしていないことを伝える。
それでこちらの意思は伝わったようだった。
その様子を眺めながら、無言で氷を溶かし続ける轟くんに声をかける。
「ねえ……轟くん……私……少しはヒヤリとさせられた……?」
私の質問に、轟くんは少しびっくりしたような顔をして返答してくれた。
「ああ……最後の反撃は危なかった」
「そっか……じゃあ……よかった……」
どうやら、最後の一撃で轟くんを出し抜けていたようだ。
そこまで確認して、キャパオーバーで限界だった私は、目の前が真っ暗になった。