目を覚ましてからミルコさんと連絡を取って、私も残りのトリガー・ボムの捜索に合流した。
ロンドンが結構広いのもあって、すぐには見つけられない。
昨日数時間で見つけられたのは運が良かったのもあるんだろう。
端っこからしらみつぶしに練り歩いて、範囲内を少しの間集中して感知して悪意のある者やヒューマライズ狂信者、トリガー・ボムの存在を感知し続ける。
悪意のある者としてただのヴィランやごろつきまで引っかかってくるから、雇われヴィランかどうかを確認するのにもいちいち時間がかかる。
「……範囲内……ヴィラン1人……これからヴィランになりそうなのが1人ですね……予備軍の方はエレクプラントに連絡します……」
「任せた。ヴィランの場所は」
「……ここから北西に900mくらいです……」
「よし、お前は感知続けてろ」
ミルコさんは私が場所を伝えると、すぐさま飛び跳ねて向かっていった。
ハズレの時は、ただのヴィランならミルコさんで対処して、ヴィランの数が多い時や予備軍でしかない時はエレクプラントに連絡を取って場所を共有し、サイドキックや現地のヒーローに対処や警戒をしてもらっている。
この辺は現地のトップランクヒーローであるエレクプラントが、トリガー・ボムの対応に当たっていないヒーローの力量に合わせて再配分する役割を担ってくれていた。
あの後、イギリスの公安から申し出があったのだ。
トリガー・ボムの捜索への増員や街に検問を敷いて警戒の強化を行う。
ただその分ロンドン市内のヒーローが減ってしまうから、もしもヴィランを見つけることがあれば、対処にも協力してほしいって感じの内容だ。
イギリスの公安としては、どうせトリガー・ボム捜索に市内を練り歩くことになるなら、ついでにヴィランを見つけた時だけでもいいから対処してほしいって感じっぽかった。
この協力要請自体は、ヴィランを見つけても対処できなくてイライラしていたミルコさん的には渡りに船だったみたいで、嬉々として了承していた。
その結果がこの役割分担だった。
私は基本的にトリガー・ボム捜索のための感知に集中。
移動するたびにまず最初に悪意のある者を判別して、ヴィランがいればミルコさんとエレクプラントに共有。
ミルコさんが対処に行っている間に、私はトリガー・ボムが範囲内にないかの感知を集中して行う。
ミルコさんが戻ってきて、私の感知も終われば次の位置まで移動するという作業を、ロンドンの端から順番にしていたのだ。
大きい箱とは言っても、トリガー・ボムを見落とさないように感知するのは中々骨が折れる作業だった。
「ほれ」
朝からずっと同じ作業を繰り返していると、ミルコさんがヴィランを確保して戻ってくると同時に袋を差し出してきた。
さっき昼食について考えていたみたいだから、手軽に食べられるものをテイクアウトで買って来てくれたんだろうか。
「腹が減ってたら集中力も落ちる。食っておけ」
「これ……フィッシュアンドチップスですか……?」
「おう。あとはスコーンだな。お前こういう甘いの好きだろ」
「スコーン……!食べてみたかったやつです……!ありがとうございます……!」
2つの袋を受け取って、ミルコさんとベンチに移動して休憩しつつ食事をすることにした。
フィッシュアンドチップスは、見た目そのまんま白身魚のフライとフライドポテトって感じ。
味は無難に美味しい。
衣はカリっといい感じに揚げられているし、中の魚はホクホクしてるし、付け合わせのタルタルソースもなかなかだ。
淡白な白身魚を使っているだけあってそこまでしつこい感じの味でもない。
レパートリーに加えるならちょっと色々工夫してみたいかなって感じだ。
スコーンはもうすごい。
小さなテイクアウト用の器に入っていたベリー系のジャムとクロテッドクリームをたっぷり載せて食べたけど、これが凄く美味しかった。
塩っ気のあるスコーンに、濃厚なクロテッドクリームと甘酸っぱいジャムがベストマッチだったと言っていい。
百ちゃんの紅茶があるともっと良かったかもしれない。
ジャムとクリームを合わせたスコーン自体の味が結構濃いから、紅茶も濃くないと負けちゃうかな。
多分アッサムのミルクティーとかがぴったりだと思う。
今度寮でスコーン作ってみようかな。
砂藤くんにジャム作りを協力してもらって、紅茶を百ちゃんに淹れてもらって……いい感じのティータイムになるかもしれない。
「ちょっとは気分が紛れたか?」
「……はい……ありがとうございます……」
ミルコさんがわざわざ私の好みの甘い物ってことでスコーンを買ってきてくれたのは、昨日の尋問での失敗をいつまでも気にしていた私に気を遣ってくれてのことだ。
そのことは、言葉にはしていなくてもしっかりと伝わってきていた。
「いつまでも気負っててもいいことねえ。硬くなってまた失敗するだけだ。切り替えが肝心だからな」
「はい……肝に銘じます……」
私が返事をすると、ミルコさんは食べ終わったゴミを近くにあったゴミ箱に放り込んだ。
私もそれに倣ってゴミ箱にごみを捨て、既に歩き出していたミルコさんの背中を追いかけた。
それからも午前中と同じ作業の繰り返しだった。
ただ、少しとはいえ気分転換できたのもあって、午前中よりは落ち着いて感知出来ていたと思う。
そんな感じでしばらく感知を続けて、ついに2つ目のトリガー・ボムを見つけた。
場所はロンドンの中央から少し西に外れたあたりの、下水道の中。
下水道内の小部屋のようになっているスペースに置かれていて、そこには案の定信者と雇われヴィランもいた。
今回のヴィランはお金じゃなくて、個性を淘汰した世界での地位を確約したっぽい。
そんなの、トリガー・ボムの効果とヒューマライズの思想を考えれば、ありえないことだって分かると思うんだけど……
まあでも、対処自体はあっけなく終わった。
袋小路にいたせいもあって、基本的に近接戦闘頼りになる私とミルコさんだと信者が本部に連絡を取る可能性があったから、エレクプラントにどうにかしてもらったのだ。
トリガー・ボムが電気で起動するようなものじゃないことは確保済みのサンプルで確認が取れていた。
だから、袋小路の入り口の通路にエレクプラントが手だけをこっそり出して、電撃を放って一気に戦闘不能にしてもらった。
その後に私とミルコさんがすぐに突入して、ヴィランと信者はあっさり拘束できた。
「よし、さっさと報告するぞ」
「はい……トリガー・ボムの対処の指示……仰ぎましょう……」
ミルコさん、エレクプラントと一緒に、司令部へ通信をかける。
だけど応答した司令部は、明らかに異常な雰囲気になっていた。
「……?あの……トリガー・ボムと信者の確保の報告なんですけど……」
『ほ、本当ですか!?ただ、少々お待ちください。今長官に指示を仰ぎますが、早急に対処すべき事案が発生しているので……』
「何かあったんですか……?」
『……今真偽を確認中なんですが、オセオンに行っていたヒーロー、デクが、大量殺人で指名手配されたんです。その対処に当たっているので、少しだけ待っていてください』
「は……?」
緑谷くんが、殺人で指名手配……?
あの人助けに狂った思考をしている緑谷くんが、殺人?
「デク……あいつが?デカブツ相手に子供庇うようなやつが、殺人して逃走なんてするわけねぇだろ」
「……私も……あり得ないと思います……緑谷くんは……人助けに狂った……狂人みたいな思考をしている人です……狂ったみたいに人助けをしようとする彼が……万が一誤って殺人を犯してしまったとしても……逃げるわけがありません……最後まで……その人が助かるように手を尽くすと思います……」
「……オセオンは、ヒューマライズの本部があるはずだ。君たち2人からそこまで信頼されている人物の指名手配となると、何か都合の悪いことを知られたとしか思えないな……」
ミルコさんが死穢八斎會の時のことを思い出しながら呟くのに合わせて、私も自分の今までの読心とかからの所感を伝える。
エレクプラントも私たちの意見を受けて、ヒューマライズの何かを知ったのではないかと呟いていた。
実際、エレクプラントの言う通りの可能性は高いと思う。
緑谷くんが殺人を犯して逃走するなんていうあり得ない指名手配。
ヒューマライズの本部があるオセオン。
トリガー・ボムのベースは本部で作られているという事実。
これらから考えて、そういう結論にならないわけがなかった。
それから少しして、ようやく通信手が話し始めた。
『先のトリガー・ボムと同様の処置ができるように、道具と人員は既に送っています。そろそろイギリスに到着するころだと思いますので、その者たちにトリガー・ボムの対処を引き継いでください。信者は別室に隔離し、見張りを立ててください。尋問は身体検査と毒物摂取を含めた自殺の方法を可能な限り潰してから行います。その準備が済むまで、3つ目のトリガー・ボムの捜索に当たってください』
「……捜索は構わねぇが、その言い方……またこいつに尋問させるつもりか?」
『……少し待ってください―――』
通信手を通して伝えられる指示に、ミルコさんが低い声で返す。
通信手はそのまま何かを確認し始めていて、少しするとまた話し始めた。
『まだ詳細は未定ですが、尋問自体は別の人間に行ってもらう予定です。ですが、何も話さない可能性が非常に高いと思われます。可能ならば、リオルに尋問中の思考を、別室からでいいので読心してもらいたい、とのことです』
「……分かりました……それでいいなら……協力します……」
「いいんだな?」
「はい……トリガー・ボムの回収に失敗すれば……平和なんて簡単に崩壊しますし……そんなことは私も望んでません……」
お姉ちゃんは、リューキュウたちと一緒にフランスに行っている。
お姉ちゃんの負担軽減の意味合いもあるけど、それ以上に、そんな崩壊した世界でお姉ちゃんが苦しむ姿は見たくないし、ヒューマライズが跋扈した世界で個性持ちが生かしてもらえるとは思えない。
協力するしかないと思う。
そう思って頷きながらミルコさんを見つめ返すと、ミルコさんも納得してくれたみたいだった。
その後は司令部の指示に了承したことを通信で伝えて、通信を終えた。
トリガー・ボムの見張りと信者の移送はエレクプラントのサイドキックに任せて、私とミルコさんはすぐに3つ目のトリガー・ボム捜索に戻っていった。