エンデヴァーが、広間の入り口に降り立った。
「……重病者どもが、ゾロゾロと」
フレクトは憎々し気にエンデヴァーを睨みつける。
ステージ5とか読み取れるから、多分重病人の中でも最高ランクの位置づけにされてるっぽいな、エンデヴァー。
とりあえず、私はエンデヴァーに伝えるべき内容を伝えてしまう。
「エンデヴァー……!!フレクトは反射の個性を持っています……!!直接的な攻撃はもちろん……遠隔攻撃も全て反射されます……!!」
「なるほど。だからあの熱量を当てても無傷なのか」
「さっきの奴はどうにかなったのか?」
「あいつはバーニンと後続に任せてきた」
エンデヴァーの言葉にあの通路で襲ってきたヴィランの方の波動に注意を向けると、バーニンとパンクラチオン、その他にも何人かのヒーローが連携して対応していた。
私がそんな確認をしていると、ミルコさんが跳び上がった。
「エンデヴァー!!リオル!!とりあえず、隙を与えたくねぇのと対抗策考えるために攻撃叩き込みまくるぞ!!」
「対抗策など、ない!!!」
ミルコさんの蹴りをはじきながら、フレクトが反射鏡を操作して、エンデヴァーの方に吹き飛ぶ準備を始めていた。
エンデヴァーも何かしてくるのを察しているようで、しっかりと身構えている。
私はエンデヴァーの邪魔にならないように、余波や2人の射線から外れるように跳び上がった。
エンデヴァーは、突進してくるフレクトに向かって炎を纏わせた腕を振るった。
「バニシングフィスト!!」
エンデヴァーは、フレクトの拳に対して凄まじい熱量の炎を纏った両手で、自分に反射による反動が返ってくるのも気にしないでラッシュを繰り出していた。
……フレクトが、熱がっている……?
ぬくもりが分からないなんて考えていたはずなのに……
そういうことか。
人に抱かれるぬくもりは分からなくても、暑いか寒いかは分かるってこと。
それなら……
「エンデヴァー!!熱によるダメージ!!入ってます!!熱は反射できてない!!」
私の言葉を聞いたエンデヴァーが、さらに熱量を上げたのが分かる。
フレクトの顔が一瞬歪んだけど、フレクトはさらに腕をエンデヴァーに押し付けていった。
それを受けてエンデヴァーは吹き飛んだ。
だけど、エンデヴァー自身はすぐに飛び上がって体勢を立て直している。
エンデヴァーへの追撃をさせないように、私とミルコさんは跳び上がってフレクトに蹴りを叩き込んでいく。
そして私たちが吹き飛ばされると今度はエンデヴァーが突っ込む。
そのエンデヴァーが吹き飛ばされれば、今度は私かミルコさん。
その繰り返しだった。
このままだと、ジリ貧だ。
私とミルコさんにだって体力の限界はある。
ずっと続けていれば威力も精度もどうしても落ちる。
エンデヴァーも炎を使う限界がある。
長期戦は望ましくない。
何が効く。
どうすればフレクトに攻撃が通る。
そこまで考えたところで、私は一つの技とも言えない技を思い出した。
嫌がらせに過ぎないけど、それでも、相手の集中力は削げる。
そう考えて、私は、フレクトの波動を、全力で、滅茶苦茶に乱しにいった。
「ぐぅ、なんだ!?」
フレクトの表情が、露骨に歪んだ。
正直、どうすれば不愉快な音がするかなんて分からない。
でも、適当にガチャガチャ動かし続ければ、何かしらの音は頭に響き続けるはず。
こんなのが響き続けて、冷静でいられるはずがない。
動きを止めたフレクトを見たエンデヴァーが、さらにフレクトに連撃を仕掛ける。
フレクトは顔を歪めて、熱や頭に響く異音に耐えるような思考をしながら、エンデヴァーを吹き飛ばす。
体力と集中力は削れているはず。
そう思って私は、フレクトの波動を乱し続ける。
自分の波動と感覚で共鳴させればいいテレパスと違って、そこそこ集中しないと乱し続けることができない。
だけど、それに集中しすぎたのがいけなかったんだと思う。
気が付いた時には、フレクトが、私の方に吹き飛んできていた。
まずい、今から波動を圧縮しても回避なんてできない。
横に飛び込むくらいしか……!
「遅い!!」
そう思った時には、もうフレクトが目の前にいた。
どうにか避けようとしたけど間に合わなくて、フレクトの拳が、私のお腹に突き刺さった。
反射による衝撃も、何もかも叩き込まれたそれを受けて、私は壁まで一気に吹き飛ばされた。
「がっ!!?」
凄まじい衝撃とともに、壁に叩きつけられた。
それと同時に、全身に激痛が襲ってくる。
そのまま地面に崩れ落ちるけど、フレクトはさらに追撃を仕掛けようとしたのか、私の方に向かってきていた。
「人の弟子に、何してくれてんだよっ!!!」
私が痛みに悶えて動けないでいると、ミルコさんが今まで見たことがないようなラッシュを、自分に返ってくる反動も気にしないで叩き込み続けていた。
それに続くように、エンデヴァーもバニシングフィストのラッシュを叩き込んでいる。
どうにか身体を起こして立ち上がろうとするけど、痛みのせいでちゃんと動いてくれない。
頭から何かが垂れてきてるのも感じる。これ、確実に血だ。
さっきまでの動きは絶対に出来ない。
もう、サポートに徹するしか……
そう思ってフレクトの情報を頭の中で整理し始めたところで、あることに気が付いた。
フレクトは音を反射していない。音を反射してるなら、機械をつけてない耳がその音を拾うはずがないし、自分が出した声の振動もおかしくなって普通に会話なんて出来ない。
呼吸、息も反射してない。これを反射しているなら普通に肺が膨らんだりするはずがない。
食事も取れてる、このことから、確認はできないけど排泄も普通の人と同じだとしか思えない。
もしも排泄物も反射するなら、凄まじい速度で飛び散る汚物を受け止めるための設備が必要になるはずだけど、そんなものはなかった。
つまり、生きるために必要なものや、自分が出すものはまとめて反射してないのだ。
こう考えた時に、1つの可能性に思い当たった。
フレクトが、他に反射していないもの……
波動だった。
フレクトは、自分の波動を反射していない。
波動はすごく軽度にだけど振動している。
この振動を反射しているとしたら、身体から離れた波動は、間違いなくあらぬ方向に飛んでいって即座に霧散するはず。
それなのに、私はフレクトが纏っている波動を普通に読んで、読心することが出来ていた。
つまり、波動は、反射していない。
発勁とか波動蹴が反射されたように見えたのは、私の足と手を反射で吹き飛ばされているだけの可能性が高い。
なら、物理的な要素がない純粋な波動の塊なら……通る可能性が高いと思う。
そこまで考えたところで、ミルコさんが声を張り上げた。
「エンデヴァー!!反射してくる力が弱くなってやがる!!」
「そんなことは言われなくても分かっている!!攻撃の手を緩めるな!!」
ミルコさんとエンデヴァーは、フレクトに対して容赦なく重い一撃を放ち続けていた。
その甲斐もあってか、フレクトの反射に綻びが生じてきているらしい。
私もミルコさんとエンデヴァーを助けるために、フレクトの波動を乱しにかかる。
フレクトの波動を乱しながら考えるのは、反射の綻びに関してだ。
フレクト自身は、反射を常時発動型のコントロールできない個性であると考えていた。
だけど、それなら反射に綻びなんて出るのだろうか。
私の常時発動型の波動の感知は、酷使しても綻びなんて生じない。
深く読心していて1人に集中すれば、他の波動は気にならなくなるけど、あくまで気にならなくなっているだけ。
出来なくなっているわけではないのだ。
じゃあそう考えた時にこの綻びの原因を考えると……
フレクトの個性は、常時発動型なんかじゃない可能性が、浮上すると思う。
エンデヴァーとミルコさんも、この可能性に思い至っているからこそ攻撃をし続けている。
負荷をかけ続ければ、個性の上限、キャパオーバーになって、反射が出来なくなる可能性があるから。
そのタイミングで、鍵を持っていると思われる緑谷くん、爆豪くん、轟くんと、あとは飛行機を操縦している人の4人が乗った飛行機が、範囲内に入ってきた。
もう1時間も経っていた?
なら、トリガー・ボム起爆までもう30分くらいしかない。
ミルコさんとエンデヴァーが攻撃し続けて、少しずつ反射の綻びが明確になってきているけど、まだ全然戦える程度でしかない。
エンデヴァーとミルコさんの2人を相手に、正面から殴り合いをして問題なく捌けているのがその証拠だ。
そんなことを考えていると、緑谷くんたちが凄い勢いで本部の中を突き進み始めた。
入口に双子の信者や、通路の半ばにバーニン達が押さえているブーストしている巨漢の信者がいるけど、プロヒーローが3人をどうにかして素通しさせている。
これなら……手はある、と思う。
作戦を伝達しようにも、時間がない。
ミルコさんとエンデヴァー、多少雑になってもいいから、同時にテレパスをかけるべきだ。
そこまで来て、私はフレクトの波動を乱すのをやめて、ミルコさんたちにテレパスをかけた。
『ミルコさん、エンデヴァー……作戦があります……デク、バクゴー、ショートが……この部屋の近くまで、来ています……フレクトの個性の綻び……個性のキャパオーバーを狙って……5人の大技を、一気に叩き込むべきだと思います……ミルコさんと、エンデヴァー……2人が叩き込んで、3人が、部屋に入る直前に……私がフレクトの意識を逸らします……そうすれば、3人の攻撃は……奇襲にもなると……』
『……いいだろう。時間がないのは事実だ。やるだけの価値はある』
『それなら、私から叩き込んでやるよっ!!』
2人は、テレパスに対して明確に思考を返してくれた。
良かった。どのくらいノイズが混ざっちゃったか分からないけど、それでも、ちゃんと伝わった。
ミルコさんが一際大きく跳び上がるのを確認して、私は緑谷くんたちにも同じ内容をテレパスを始める。
『緑谷くん、爆豪くん、轟くん……作戦を、伝える……フレクト・ターンは……反射の個性を持ってる……反射の個性は凶悪……これがあると……攻略のしようがない……この個性の、キャパオーバーを狙うために……ミルコさん、エンデヴァー、あなたたち3人の……大技を、叩き込む……あなたたちは……そのまま全力で、奥の広間まで駆け抜けて……入った瞬間に……全力の必殺技を、叩き込んで欲しい……』
『分かった!!』
『俺に命令すんな!!!』
『それはいいが、波動、お前、このテレパスの乱れ方は……』
『……いいから……お願いね……』
緑谷くんはすぐに了承して、爆豪くんは反発しながらも納得はしていて、轟くんは、私のテレパスの乱れ方を指摘して心配してきた。
正直、全身の痛みと出血のせいで意識が朦朧としている自覚はあるから、ノイズとか以前に、このせいだっていうのは分かってる。
それでも、やるしかない。
このまま策もなく殴り続けても、トリガー・ボム爆破までにフレクトを倒せる保証がない。
だから、これに賭けるしかないと思った。
「
「ぬぅっ!?」
ミルコさんが、フレクトに対して蹴りの連打を叩き込む。
そして、最後の一撃を叩き込んだところで、大きく跳び上がってフレクトの周囲から飛び退いた。
私も、波動弾を練り上げ始める。
速度が出るように、より高密度、高濃度で、可能な限りの圧縮を……
動けない私の攻撃なんてこの1撃しか当てられない。
今の波動弾に威力なんてそこまで期待できない。
でも、波動を反射できないなら、まともな痛みをほぼ知らないフレクトなら、波動弾が命中すれば、一瞬こっちに気を逸らすことくらいはできる可能性が高い。
私は、波動弾を必死で練り上げながら、エンデヴァーの唸るような雄たけびを伴った、赤い閃光を凝視していた。
「反射など間に合わぬ煉獄、とくと味わえ!!!赫灼熱拳、プロミネンスバーンっ!!!」
轟音とともに、部屋の中を凄まじい熱波と衝撃と灼熱が襲った。
私たちへの影響を考えて、最低限の加減はしていると思う。九州の時の太陽のような閃光に比べると、明らかに弱かった。
私の方にも、すごい熱量の暴風が吹き荒れていて、意識が持っていかれそうになるけど、どうにか凝視し続ける。
そして、炎が晴れてきて、3人が部屋の目の前まで来たところで、波動弾をフレクトに向かって勢いよく押し出した。
「―――まさか……個性の、限界……!?そ、そんなことが……」
「波動、弾っ!!」
私が放った波動弾は、高速でフレクトに突き刺さった。
やっぱり、反射されてない。
フレクトが信じられないものを見たような、苛立たし気な表情で、私を睨んでいた。
フレクトは痛みなんてまともに感じたことがないからか、動揺していた。
その視線は、私に釘付けになっている。
「フッ、フフッ、まだ動けたかっ!」
そう言って私に反撃を仕掛けようとするフレクトの背後の広間の入り口に、爆豪くんと轟くんが姿を現した。
「
「膨冷熱波!!」
爆豪くんの個性による最大火力の大爆発と、轟くんの氷と炎の温度差の収縮膨張による大爆発が合わさって、凄まじい衝撃が、フレクトを中心とした室内に襲う。
さらに、そんな爆風を切り裂いて、緑色の閃光が、フレクトに突き刺さった。
「セントルイススマッシュ!!!―――まだっ、まだぁっ!!マンチェスタースマァアアアッシュ!!!」
緑谷くんは、セントルイススマッシュだけじゃ足りていないと判断して、すぐに踵落としを叩き込んだ。
フレクトも反射で全力で対抗していて、緑谷くん側にも凄まじい衝撃が跳ね返っている。
だけど、緑谷くんの蹴りの勢いを相殺しきれなかったフレクトは、地面にめり込みながら叩きつけられた。
もう反射を保つことが出来ていない。
でも、まだ意識自体は保っている。
そんな状態でなんとか起き上がろうとするフレクトの頭上から、ミルコさんが凄まじい速度で落下してきていた。
「あいつの傷の礼だっ!!!受け取れクソったれっ!!!」
いつも以上に力のこもった踵落とし、渾身の
フレクトは、それでようやく気絶した。
振動、爆風、大爆発、衝撃波。
種類は様々でもそれだけの必殺技の衝撃を受けた部屋は、ヒビだらけになって、天井が崩落し始めていた。
部屋の至る所に瓦礫が落ちてくる。
動けないで、本棚に寄りかかっている私の頭上も、例外じゃなかった。
轟音を立てながら瓦礫が降り注いでくる。
もう私には、それを避けるだけの気力も、体力もなかった。
衝撃を覚悟して、波動で見えてても無意識に目を閉じてしまっていたんだけど、その衝撃はいつまでも来なかった。
いや、波動を見てるから何があったかは分かってる。
轟くんが、氷で庇ってくれたんだ。
「波動、無事か!?」
「……ん……あり、がと……」
「血が……ちょっと待ってろ」
氷のドームに守られながら、轟くんが布か何かを探しているのは分かった。
でも、今はそれどころじゃないはずだ。
「轟くん……解除、キーを……あそこの、奥の……下りの……階段……その奥が……最深部だから……そこに……怪しい機械が、あるから……」
「ああ、任せろ。緑谷!!―――」
轟くんが緑谷くんを呼んでいるのまでは認識できた。
解除キーは、緑谷くんが持っているのか。
今、轟くんが緑谷くんに伝えてくれたし、時間も、間に合うくらいの距離しかないはず。
これなら、きっと大丈夫。
そこまで認識して、私の目の前は真っ暗になった。