目を覚ましたら、知らない天井だった。
まあ周囲の感じからして間違いなく病院ではある。
頭から血が出てたよなと思って頭に手を当てると、包帯でグルグル巻きにされていた。
「やっと起きたのかい」
起き上がって声を掛けられた方を向くと、そこにはリカバリーガールが立っていた。
「……リカバリーガール……?なんでオセオンに……あれ、ここオセオンですよね……?」
「間違いなくオセオンだよ。まったく。あんた何かあるたびに気絶しないと気が済まないのかい?」
「……今回のは……私が油断した結果で……無茶をしたというよりも……ポカをしたって……感じなので……」
「どっちだとしても結果がこれじゃ変わらないよ。とりあえず横になりな」
治癒してくれるつもりなのはすぐに分かったから、大人しく横になる。
そのままいつもの「チユー!」という掛け声とともに頬にキスされた。
頭の鈍い痛みがどんどん引いていく。
相変わらずリカバリーガールの治癒はすごい。
「それで、なんでここにだっけ?理由は簡単だよ。ここが重傷者が一番多かったから、治療しにきただけさ。ほら、とりあえずペッツをお食べ」
「……ありがとうございます……」
ペッツを受け取って口に放り込む。
でも、やっぱりここが重傷者が一番多かったのか。
本部への突入作戦なんてしているから仕方ない部分はあるとは思うんだけど。
ただフレクトと戦って重傷を負っていたのは私くらいだし、他はミルコさんとエンデヴァーが軽傷を負っていたくらいだったはず。
となると他の信者にやられたのかな。
そう思って病院の中の波動を見てみると、バーニンやMr.プラスティックとかが入院しているのは分かった。
入口と通路で幹部っぽいヴィランと戦ってたメンバーが重傷を負ってるのかな。
あとは緑谷くんが入院しているっぽいけど、緑谷くんはどこで怪我をしたんだろうか。
少なくとも本部ではないと思うから、逃亡生活中に負った傷か。
「じゃあ私は他の患者の所を回るから、大人しくしてるんだよ。院内を歩くくらいなら何も言わないけど、間違っても他の患者に波動の譲渡なんてしようとするんじゃないよ」
「はい……ありがとうございました……」
少し話した後に、リカバリーガールはそんなことを言いながらササッと出て行ってしまった。
もう結構な年のはずなのに、相変わらず忙しそうだ。
そんな忙しい中わざわざ来てくれて、こんなに早く傷を治してもらえたんだから、もっと感謝しないといけない。
私はどうしようかな。
ミルコさんとかエンデヴァーは範囲内にいないあたり、事後処理とかに駆り出されている感じだろうか。
このまま眠って体力回復に努めてもいいけど、流石に暇すぎる。
緑谷くんのところとかに行ってみるかな。
緑谷くんは病室の中で誰かと話していた。
波動を見て分かっていたことではあるけど、とりあえず元気そうでなによりだ。
来客がいるみたいだけど、どうしようかな。
その人の思考を見ても、すぐに帰る感じじゃないし入っちゃおうかな。
そう思って、ドアをノックした。
「はーい、どうぞー」
緑谷くんが普通に返事をしてくれる。
ドア越しにちらっと顔を覗かせると、緑谷くんはパッと笑顔を浮かべた。
「波動さん!よかった、目が覚めたんだ!」
「ん……さっき……リカバリーガールが……治癒してくれたから……緑谷くんは……?入院してたってことは……結構な怪我してたの……?」
「あー……うん。そこそこの怪我かな。でもリカバリーガールが治癒してくれたから、もうすっかり良くなったよ!」
緑谷くんのことを聞くと、グッと力こぶを作るように元気であることをアピールしてきた。
「元気ならよかった……指名手配されたって聞いて……心配してたから……」
「それは大丈夫!ロディ……彼が色々助けてくれたから!」
「……どーもー」
そういって緑谷くんがベッドサイドに座っていた同い年くらいの少年を示した。
ロディという人は気まずそうに頭を掻いている。
ふむ。ちょっと気恥しくて、気まずいから帰ろうかなと思ってる感じか。
それはそれとして、彼の肩に乗って気まずそうにしているピンク色の鳥が気になる。
ロディくんが主人なんだろうけど、こんなに波動が似ていることがあるだろうか。
常闇くんとダークシャドウみたいな感じで、波動が似通っている。
常闇くんたちが感情とか思考が異なっているのに対して、彼はその辺まで同じだし。
そういう個性なんだろうか。
「あー、そっか。そうだよね。波動さんなら気になっちゃうよね」
「なんだ、どういうことだ?気にしてるのって明らかにピノのことだよな」
「……その子……あなたの個性……?その子と……あなたの感情とか……考えてることが……同じだったから……ちょっと気になった……」
「うえっ!?え、今そんなに分かりやすかったか!?」
ロディくんが驚くと同時に、肩のピノというらしい鳥も、分かりやすいくらいびっくりしていた。
うん。間違いないかな、これは。
私としてはすごく好感が持てる個性だ。
「えっと、波動さんのはそういうことじゃなくて……」
「私……常時読心しちゃうから……あなたと……その子が……全く同じこと考えてるのが……分かっただけ……」
「あ、あぁ……なるほど、そういうことね」
説明すると、ロディくんはすぐに納得していた。
納得しちゃうのか。読心に対して全く負の感情を感じない。
「読心……怖いと思わないんだね……」
「いやぁ、俺は常に垂れ流しにしてるようなもんだからなぁ。今更読まれたところでなぁ」
「なるほど……いい個性だね……」
「全然良くねーよ。いくら俺が嘘ついても、ピノを見られると本音がバレちまうんだぞ。大したことない個性だ」
彼は手をひらひらと振りながらそう言った。
個性に愛着を感じてはいるけど、なんとも言えない微妙な感情を抱えているらしい。
「いい個性だよ……嘘をつけないって……すごく優しい個性……本音と言ってることの差が酷い人なんて……不快感しか感じないから……」
「……まぁ、こんな個性でも捨てたもんじゃないとは思ってるよ」
照れ臭そうにそっぽを向きながら、彼はそう呟いた。
なるほど、素直になりたくないけど、個性でバレるのが分かり切ってるから隠しても仕方ないって感じか。
「……そういえば……結局なんで指名手配されたの……?やっぱり解除キー……?」
「えっと、うん。そうだよ」
緑谷くんが一瞬答えに詰まってから頷いた。
……今ロディくんがちらついたな。
ロディくんの思考まで見たら、どういうことかはすぐに把握できた。
「なるほど……そういうこと……運び屋か何か……?しかも……犯罪の片棒を担ぐ類の……」
「……そうだよ。だけど、もう足を洗うことにした」
「え、そうなの!?」
「……今回の件で、身に染みたんだ。弟と妹を守るためにも、危ない橋は渡るべきじゃない」
……あんまり事情を聞いてない私が口を挟んでいい話じゃないな、これ。
ロディくんはまだ緑谷くんと話したそうにしているし、その後は一言二言話して、挨拶をして早々に部屋を出た。
せっかくできた友達みたいだし、邪魔するべきじゃない。
部屋を出ようとしたところで、ピノがお礼を言うように手を合わせていたのが印象的だった。
それから数日後。
私は帰国の途につくために、ミルコさんと空港にやってきていた。
さっきまではロディくんが弟と妹を連れて緑谷くんたちに挨拶しに来ていた。
今回は私とミルコさんも、エンデヴァーたちと一緒に帰ることになっているのだ。
今は搭乗手続きを終えて、ロビーで待っているところだ。
だけど、ここでまたひと悶着があった。
司令部の方で用意してくれたチケットが、綺麗に前列3人、後列3人という並びだったのだ。
目の前では、1週間くらい前だったはずなのに、だいぶ昔に感じてしまう光景が繰り広げられていた。
「ショートは今度こそ俺の隣だろう!!」
「お前の隣は嫌だ。友達の隣にしろ。緑谷か爆豪か波動の隣だ」
「友達じゃねぇって言ってんだろうがよ!!」
なんでこんなにも同じ内容で喧嘩できるんだろうか。
あまりにも酷い。
ミルコさんとかめんどくさくなって完全に無視してるし。
「……ミルコさん……エンデヴァーと同じ並びでいいですか……?」
「おう。面倒だからあの争いさっさと収めてくれ」
「……分かりました……頑張ります……」
とりあえずミルコさんの了承も取れたし、あの喧嘩を収めに行こう。
「ちょっといいですか……?」
私が声をかけるけど、騒いでいる3人は完全に無視してきた。
気付いているのは緑谷くんだけだ。
……流石にちょっとイラッとした。
仕方ない。声をかけてもこの調子じゃすぐには気付いてくれなそうだし、強制的に気づかせるか。
そう思って、わざと乱して思いっきりノイズがかかるようにして、3人同時にテレパスをかけた。
『ちょっといいですか……?』
流石に不愉快だったらしくて、3人は動きを止めてこっちを見てきた。
爆豪くんに至っては完全にこっちを睨みつけてきている。
「並び……前列を……爆豪くん……エンデヴァー……ミルコさん……後列を……私……轟くん……緑谷くんにしましょう……いい加減周囲に迷惑です……」
要望が通る意見だった轟くんと爆豪くんはそれで納得して、唯一希望通りじゃないエンデヴァーだけがちょっと不服そうにしていたけど、周囲への迷惑という部分を気にしてそれ以上何も言ってくることはなかった。
思考も拒否している様子はないから、そのままチケットを配ってミルコさんの方に戻った。
「よしよし。よくやった」
ミルコさんが頭をぐしゃぐしゃと撫でてくる。
相変わらず荒っぽい撫で方だけど、悪い気は全くしない。
むしろ、フレクトと戦っている時のミルコさんの言葉もあって、ミルコさんに撫でられるのはすごく嬉しかった。
ミルコさんが、あのミルコさんが、私のことを弟子って言ってくれた。
関係だけ見れば、今までも師弟と言えるものだった。
だけど、一匹狼で、学生の間しか面倒を見ないって公言しているミルコさんが、私のことを弟子だって、はっきり言ってくれたのだ。
こんなに嬉しいことはなかった。
私はそんな浮かれた感情を抱きながら、飛行機に乗り込んだ。
友達と飛行機の旅……バスとかと違いはあんまりないかもしれないけど、それでも、これはこれで楽しみだった。