「経営科との特別授業があります」
珍しく全員揃っている朝のホームルームで、先生が開口一番にそう言い放った。
サポート科とは皆コスチュームの改造とかでお世話になっているけど、経営科となってくると話は別だ。
普通科と同じく、ほぼ関わりがないと言っていい。
「はいっ!それはいったいどういう授業になるのでしょうか!?」
皆内容に想像がつかないのもあって疑問符を浮かべていると、飯田くんが凄い勢いで手を挙げて質問した。
それに対して、相澤先生はスッと説明し始める。
「経営科によるヒーロープロデュースだ。経営科の生徒とペア、もしくはグループになり、1分以内のヒーロープロモーション映像を作る。そして普通科生徒による投票で順位を決める。ちなみにB組と合同だ」
「へえ~」
「面白そう!」
……皆はいつもの訓練とかとは違った感じの授業に対して期待に胸を膨らませているけど、私は嫌な予感が止まらなかった。
相澤先生が、私たちに心底同情している。
心配するような感じになることはあっても、こんな憐れむ感じになっているのは初めてみた。
あとは、経営科の方の思考が……なんていうか、直視したくもないような妄想が山となっていた。
「いいか、これはあくまで経営科主体の授業だ。どんなヒーローになるのかは経営科の生徒次第。つまり、プロモーション映像を作る時は、全部あちらの生徒の言う通りのヒーローを演じろということだ」
……もう絶句するしかなかった。
つまりこれは、経営科が理想のヒーロープロデュースを試して、その妄想を酷評されて現実を叩きつけられる授業か。
実際経営科の先生がそんな感じのことを考えてるし。
私たちはそのための生贄にされるらしい。
経営科の指示に従えというのが先生の指示だし、万が一にも言うことを聞かなかったりしたら、先生から指導が入りそうな感じだ。
普通、経営科はそのヒーローを売り出すために、そのヒーローに合ったプロモーションを考えるべきなのであって、自分の考えを押し付けるべきでは……
あ、そういうことか……
今後、自分の理想、というか妄想を押し付けて失敗させないための教訓を、経営科生徒に叩き込むための授業……
やっぱり私たち完全に生贄だ……これ……
……逃げたくなってきた……
先生の思考の感じからして、先生もさせられたことがあるみたいだった。
つまり、この生贄は雄英ヒーロー科の伝統みたいな感じになっているということだ。
先生も『言うなよ』って感じの思考を私に向けてきてるし……
どうせすぐにバレるから変わらないと思うんだけど、ここで爆豪くんとかに暴れられても面倒だって考えてるっぽい。
それならこんな授業しなきゃいいのに……
「ペア及びグループは事前に経営科で決めてある。これから顔合わせだ。行くぞ」
先生はいつも通りさっさと経営科の教室に向かうように指示を出してきた。
い、行きたくない……
だけど行かないわけにもいかなくて、渋々皆と一緒に経営科の教室に向かうしかなかった。
「プロモだって!カッコかわいく撮ってほしい~!」
「ね~!」
三奈ちゃんと透ちゃんピョンピョンしながらこの後繰り広げられる地獄を楽しみにしている。
そんな2人の横で、お茶子ちゃんが恥ずかしそうに手を頬に当てていた。
「や~でも、カメラで撮られるってなんか照れる!」
「ウチも……やだな~」
「こういうの初めてだものね、ケロ」
「少し緊張しますわね」
皆なんだかんだで楽しみしてしまっている。
私のテンションとは天と地の差だった。
「波動は大丈夫なの?なんかいつも以上に黙ってるけど」
「……すぐに分かる……」
私はそんな言葉しか返すことが出来なかった。
私とペアになるであろう子の思考を読んで、もう何も言うことができなくなっていたのもある。
本当に行きたくない。
私のテンションの低さに他の女子は疑問符を浮かべていたけど、どうせすぐに察すると思ってもう何も言わなかった。
後ろの方で男子が新人売り出し時のプロモーションの重要性とか、自分はこう撮ってもらいたい、みたいな話で盛り上がってるけど、そんないいプロモーションを撮ってもらえるはずがない。
だって、経営科生徒が思い描いているのは、ペアになるヒーロー科生徒の良い所とかじゃなくて、いかに自分の理想をこっちに押し付けるかでしかないんだから。
経営科の教室につくと、すぐに経営科が各々のペアの手を引っ張って移動し始めた。
場所がないのと、自分の秘めた妄想を披露するのはステージであることを考えているのとで、各々なるべく他の人がいない場所に向かっているらしい。
もうやだ逃げたい。
私よりもだいぶ背が高い女子生徒は、体育館の方まで移動してようやく止まった。
「じゃあ波動さん!!よろしくね!!」
「わ、私は……よろしくしたくない……ゆるして……」
「なんかテンション低い?でも大丈夫!!これから女の子の理想を体現してもらうんだから!!きっとテンションだって上がるよ!!」
ペアの子のテンションが高すぎてついていけない。
なんでこの子の背が高くて似合わないからって、私がそんな辱めに合わなければいけないんだ。
いらないと思ってるならその無駄に高い身長を私に分けるべきだ。
「波動さんは魔法少女って好きかな!?」
「す、好きじゃない……もうとっくに卒業してる……ゆるして……」
「卒業ってことは昔は好きだったんだよね!!じゃあ大丈夫だよ!!」
……これは何を言ってもダメなやつか。
大幅な拒否は授業内容と先生の指示的にできないし、最低限、せめてもの抵抗をし続けるしかないか……
「というわけで、もう分かったかもしれないけど!!波動さんには魔法少女ヒーローになってもらいます!!私こういうの大好きなんだよねー!!」
「そ、そう……」
「だけど私、背が高くてコスプレとか似合わないし……でもその点波動さんは背も小さいし可愛いし、顔も幼さが残っててもう最高!!胸だけはちょっと残念だけど……でも、街を守るために小さな女の子が頑張るのって最高だと思うの!!だから、魔法少女ヒーロー!ウケると思うんだよ!!波動さんあの青いので魔法みたいなのもできるでしょ!?もうぴったり!!私すぐに波動さんとのペアを希望しちゃったもん!!」
「背の小ささなら……小森さんとか……」
「あー、小森さんねー……うん、やっぱり駄目だね。小森さんって、私の目測的に152cmはあるし。背の高い魔法少女がダメとは言わないけど、150超えてきちゃうと私の求める魔法少女像からズレてきちゃうんだよ。あと個性がかわいくない」
「か、かわいく……ない……?」
なんだこの人、なんで見ただけでそんな一の位まで身長言い当てられるんだ。
多分あってるし。
しかもこの人の基準、あまりにも酷すぎる。
その条件じゃ梅雨ちゃんすらもダメじゃないか。
さらにいうと個性の可愛さってなんだ。
小森さんのキノコ、幻想的だから浮世離れした感じになっていいと思うんだけど。
私の個性、全然可愛くなんてないし。
「そ。キノコはねー、魔法少女が持ってる魔法じゃないでしょ。あれは敵側だよ、敵側。その点波動さんの個性は青くて幻想的な弾を飛ばしてるでしょ?あれとかもう最高だと思うの!それに、波動さん身長14「まだ伸びるから!!」
この人、私のコンプレックスをぐりぐりと抉ってくる。
私の身長だってまだ伸びるはず……きっと、高校の間にも伸びれば……夢の150cmに届くはず……
それなのにこの人、いくらなんでも酷過ぎる。
「まあ今後伸びるかもしれなくても、今はそうじゃないから!というわけで、私が用意した特製のコスチュームとサポートアイテムがここに!!ささっ、着替えて着替えて!!」
「は、話を聞いて……」
この人、自分の理想を押し付けることが出来る相手の出現に、異常なテンションになってる。
多分私のことを一切気にしてくれなかったり、コンプレックスを抉ってくるのはこれが原因だとは思う。
だって普段からこんな感じの言動してたら、絶対に周囲から煙たがられたり嫌がられてると思うし。
そこまでの波動を経営科から感じたことがない。
つまり、暴走状態なのだ。
どのペアも今まさに私と同じような状態になっているし……
当然、押し付けられるものを拒否できるわけもなかった。
私の手には、フリルたっぷりのフリフリふわふわの水色の衣装と、先端に透き通った水色のハートが付いている、おもちゃとは思えない本格的な質感のステッキが握られていた。
こ、これを着ないといけないとか……洒落にならないんだけど……
エリちゃんがこういうのを持ってる分には、私も微笑ましく思いながら見るだけだけど、なんで私が……
地獄のような時間が終わって、寮に辿り着いた。
ほとんどの人たちは帰ってきていたようで、寮の中はお通夜のような雰囲気になっていた。
授業の前まではウキウキしていた皆も、現実を思い知らされたらしい。
透ちゃんはまだペアの人と着せ替えショー紛いのことをしているから、響香ちゃんたち女子がいるところに向かっていった。
「あー、おかえり、波動……その感じだと、波動もだよね……」
「ん……響香ちゃんも……」
響香ちゃんは、普段だったら絶対に着ないレベルの露出度のドレスを着せられていたはずだ。
こうもなるだろう。
響香ちゃんの後ろでは、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんが「歌を練習しないと……」とか言っている。
あの2人はグループで色々させられてたはずだ。
三奈ちゃんもなんか自分のイメージのヒーロー像と真逆の物を提示されたっぽくて珍しくテンション低いし、百ちゃんは……多分提案された内容を理解できてないな。
部屋に戻って調べてからが本番か。
女子の中で一番マシなのは透ちゃんだな、これ。
「波動がテンション低かったのって、これを察してたの?」
「……ん……もう……経営科の妄想が……どかどかと流れ込んできて……」
「あの類のが大量にってこと?洒落になってないね……」
「今日の感じだと……乗り気なのは常闇くんだけ……皆同じだと思って……乗り切るしかない……」
私がそういうと、響香ちゃんはすごい渋い表情を浮かべた。
私も同じ気持ちでしかない。
今後あの衣装で、あの人の要望通り魔法少女としてPVを撮って、それを、皆に晒される?
どんな地獄だ。
常闇くん以外全員同じ気持ちだから、そう思ってなんとか耐えるしかなかった。