波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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雄英入試

時間はあっという間に過ぎて2月26日。受験……実技試験の当日になった。

私は一人暮らしをして雄英高校に通っているお姉ちゃんの部屋に、少し前から泊まらせてもらっていた。

私がお姉ちゃんと同じ雄英高校ヒーロー科を受けると知った時の担任の顔は面白かった。

向こうが必要以上に関わってこないから、特に何かを言ったりしたわけでもないけど。

 

「瑠璃ちゃん、準備出来た?」

 

「うん……忘れ物もないと思う……」

 

ねじれお姉ちゃん。

すっごく優しくて可愛いくて美人で嘘を吐かない天然さんな私の大好きなお姉ちゃんだ。

今回の受験のための同棲だって、嫌な感情一つ抱かずに歓迎してくれた。

むしろ合格したら一緒に住もうとまで提案してくれている。

 

「緊張は……してないね!いつも通りの実力を出せば瑠璃ちゃんなら大丈夫だから頑張ってっ!」

 

お姉ちゃんから感じ取れる波動は相変わらず言葉通りの感情が伝わってくる。

 

私の個性、"波動"。

人や物が必ず持っている波動を読み取ることができる個性だ。

こういうとただの感知系統の個性に聞こえるけど、この個性はオンオフの切り替えができない。

人が放つ波動からはその人の感情や考えていることが伝わってくるし、周囲の波動がずっと見え続けている。

この感情や考えていることが伝わってくるという部分がなかなか厄介で、ずっと周囲の心の声のようなものを聴き続けているような状態なのだ。

あまりにも煩わしいから、普段は不快に感じないある程度の人たちに集中することで範囲を絞って詳細に聞き分けるか、なるべくたくさんの人の波動を意識してなんとなく感じている感情しか読み取れなくするかの、どちらかの状態で過ごしている。

この無差別な読心のせいで友達がいなくなってしまったし、私自身も友達を作りたいと思えなくなってしまった。

 

ただ、利点が無いわけでもない。

周囲の波動を感じ取れるから、目を閉じていてもどんなに視界が悪くても周囲の状況を知ることができる。

さらにいえば、意識すれば波動の透視もできるし、私を中心に1km先まで周囲の波動を読み取り続けているから、どこに誰がいるのか、どんなことを考えているのかも知ることができる。

私とかくれんぼなんかした日には、感知範囲の1kmよりも外に行かないと5秒もかからずに隠れている場所の特定ができてしまうだろう。

つまり、レーダーと透視が可能な上に嘘発見器にもなるというとんでも個性だ。

波動をビームみたいに放出したり飛んだりできるお姉ちゃんとは対照的に、サポート特化と言っていいと思う。

お姉ちゃんみたいに放出してみたこともある。

自分の中の波動も感知できるから、色々試して手に波動を集めてみたのだ。

でも、手から少し放出した途端に気絶しちゃって、大騒ぎになってしまった。

だから、放出はできないけど、サポート役ならすごい個性として私は認識している。

 

これで倍率300倍の雄英ヒーロー科の実技に受かるかは分からないけど、もうなるようになれと思っている部分もある。緊張はない。

筆記に関しては、私にとってはあってないようなものだから一切心配していない。

筆記試験は周りの感情や考えていることが伝わってきちゃうから、否応なしに常にカンニングしているような状態になってしまうのだ。

周囲の思考全てを感じ取っちゃうんじゃ意味はないのでは?と思うかもしれないけど、それがそうでもない。

だって、正解はほとんどの場合で多くの人が思い浮かべていることで間違いないからだ。

正答率が低い問題だとどの思考が正解かなんて分からないけど、そんなのほとんどの人は分からないんだから解けなくても問題ない。

さらに言えば、諦めているわけじゃないのに余裕を持ってすいすい解き進めている人の思考を集中して読むと、全く考えなくても高得点が取れてしまう。

さすがにやろうとは思わないけど。

 

だって、馬鹿がお姉ちゃんのサイドキックになるなんてそんな恥ずかしいことはない。お姉ちゃんの恥になるつもりはないのだ。

だからちゃんと勉強もしてるし、自分でしっかり問題も解いている。

そのうえで、聞こえてくる多数派の答えが違ったら解きなおしたりはするけど。

そんな感じだから筆記試験は一切心配していない。

今日の実技試験で、受かるか受からないかが決まるのだ。

 

「じゃあ、瑠璃ちゃん!いってらっしゃい!一緒に通えるの、楽しみにしてるからねっ!」

 

「うん、いってきます……!」

 

お姉ちゃんの声を背に試験会場に向かう。

これが私の夢の第一歩になる、はず!

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』

 

案内に従って座った講堂の中央でプレゼントマイクが声を張り上げている。

倍率300倍となる程膨大な数の受験生がこの講堂の中にいるけど、誰一人として反応を返さず講堂は静まり返っていた。

 

『こいつぁシヴィー-!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHHHH!!!』

 

普通の人にとってはだけど……

 

「うる……さいっ……!」

 

私の小声のつぶやきに隣の人が驚愕の感情を向けているのが伝わってくるけど、そんなの関係ない。

私にとっては、こんなに集まられると感知してしまう感情のせいで凄まじい騒音が常に鳴っているようなもので、ただただうるさい。

深いところまで感知しないようにプロヒーローの思考を少し深めに読んでおくけど、それでも『緊張する』『不安だ』『プレゼントマイクだ!』なんて表層で強く考えられている思考が、頭の中に無理矢理押し込まれてくる。

正直、説明が騒音に紛れちゃってまともに聞こえないし集中すらできない。

配られた資料を読み込むのと、表示されたモニターに映る情報を見るのとで何とか理解していく。

そんな私を尻目に、眼鏡の男の子が質問をしているようだ。

プレゼントマイクの質問への返答だけはなんとか聞き逃さないようにしないと……

 

つまり今までの情報をまとめると……

10分間の市街戦で、1~3ポイントの仮想ヴィランを行動不能にしてポイントを稼げということみたいだ。

0ポイントのお邪魔虫もいるようだけど、それは基本的に無視でいいだろう。

この試験形式ならなんとかなる、と思う。戦闘向きじゃない個性の人がいることも考えれば、少なくとも1ポイントのやつは個性なしでも倒せるだろうし。

むしろ壊した仮想ヴィランのパーツを武器にして、索敵してサーチ&デストロイすればある程度のポイントは稼げそうだ。

仮想ヴィランが一切波動を宿してないとかだったら話は変わるけど。

 

『俺からは以上だ!!最後にリスナーに我が校"校訓"をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った「真の英雄は人生の不幸を乗り越えていくもの」と!!"Plus Ultra"!!それでは皆良い受難を!!』

 

考え事をしている間に話は終わったらしい。

指示された試験会場へ向かう道すがら、周囲の波動に集中してみると、特定のエリアに資料にあった大量の仮想ヴィランのような形の波動を感じた。

波動を宿していないなんていう対策がされていなくて一安心だ。

試験会場に着いてそのままスタートラインで待機しておく。

思った以上に会場は広かったらしくて、感知の範囲も試験会場全域はカバーできない。走り回って感知しながら仮想ヴィランを叩いていくしかなさそうだ。

 

とりあえず最初のターゲットにする他の受験者に取られなさそうで、孤立している1ポイントヴィランに当たりをつける。

そこまでの最短のルートを思い描きながら周囲の受験生とかち合ったりしないように警戒して『ハイスタートー!』

 

その言葉を聞いた瞬間、弾かれたように思い描いていたルートを走り出した。

私が走り出したのを見て、開始したのに気が付いたらしい他の受験生たちが焦っているのがやかましいくらい伝わってくる。

後ろの雑音を聞き流しながら予定通りの位置に居た1ポイントヴィランに背後から蹴りを食らわせて破壊する。

予想通り、個性なしでも簡単に壊せるくらいの脆さだった。

そのままの流れで仮想ヴィランの腕をもいで鉄の棒を装備する。

 

「ん……これくらいの棒なら……振り回せる……?うん……なんとかなる……」

 

これがあれば効率よくポイントを稼げそうだ。

周囲の状況を再確認すると、3ポイントヴィランと戦っている受験生の様子も伝わってくる。

その戦いぶりを見るに、素の身体能力で戦わないといけない私だと倒すのに時間がかかって非効率っぽい。

1ポイントと2ポイントにターゲットを絞るのが良さそうだ。

 

 

 

順調に試験は進んで、私のポイントは25ポイントになっていた。

 

「あと……もうひと頑張り……」

 

うん、索敵ができるとは言っても身体能力はごく普通なのに結構頑張ってると思う。

周囲からは『45!』とか『32!』とか、ちらほらと私よりも高得点っぽい人の思考が聞こえてくる。

流石に疲れてきたけど、こんなところで休憩していたら落ちるだけだから身体に鞭打って何とか動き続ける。

追い上げをかけようと範囲内の動いている波動に集中すると、動き出した特大の何かの波動を感知した。

ようやく0ポイントヴィランのお出ましらしい。

0ポイントヴィランが動き出した方向に目を向けると、凄まじい轟音を立ててビルを破壊しながら動いているロボットの姿が目に映った。

その瞬間、ヴィランの足元、というよりも崩れたビルのすぐ下あたりに人間の波動が見えた気がした。

それに気が付いた瞬間、その近辺の波動を集中して見始める。

同時にその近辺の正確な状況が脳裏に写って、そこにいる人の波動から思考も集中的に読み取る。

 

『なにあれぇっ』

『いやいやあれはないってっ』

『やばいやばいやばい!』

『え!?ちょっ!?閉じ込められた!?!?』

 

前半はどうでもいい。

最後に感じ取った思考から考えるに、つぶされはしなかったけど、閉じ込められて身動きが取れなくなってしまったらしい。

自力で脱出する気配もない。

 

「……これ、まずいよね……このあと……本当に潰されちゃうかもしれないし……他の人、気付いてないし……」

 

自分のポイントが芳しくないのは理解している。

多分合格ラインすれすれで、1秒だって無駄にできない。

でも、これはダメだ。彼女が閉じ込められてる瓦礫は、いつ崩れてもおかしくない不安定さだ。本当に命に関わる。

これに気が付いていて見捨てたら、いくら試験中のことだからといっても二度とヒーローになりたいなんて言えなくなる。

無視なんかして、それで高得点を取って、そのことをお姉ちゃんに胸を張って報告できるのか?

そう思ったら、勝手に足が動き出していた。

 

0ポイントヴィランから逃げてくる人たちの波に逆らって、閉じ込められてる子の波動を感じるところまで全力で走っていく。

すれ違う人たちが「正気か!?」とか「逃げねぇとやべぇぞ!」とか声をかけてくるのが聞こえるけど、そんなの無視だ。

降ってくる瓦礫の波動を見て、落下地点を予測して、瓦礫を避けながら走り続けて、閉じ込められてる所のすぐそばにたどり着いた。

瓦礫の隙間から中を覗くと、見下ろさないといけないようなところに、浮かぶジャージと肉眼的には何も見えない位置にある人型の波動が、くっきりと私の目には映っていた。

 

「そこにいる人……!大丈夫……!?聞こえる……!?」

 

「き、聞こえるよ!怪我とかは特にしてないけど、閉じ込められちゃったの!」

 

波動で見た通り、意識もしっかりしているし、怪我もしていないようだ。

見た感じだと、この子の個性は透明人間かなにかだろうか。

それだと自力で脱出できないのも納得だ。

 

「うん、閉じ込められてたところ見てたから、助けに来たっ……!そこから動かないで……!こじ開けてみるから……!」

 

「う、うん!」

 

返事を確認してから、自分の体内の波動に集中する。

そのまま自分の波動を操作して、体内の波動を両手に集めていく。

波動を身体の一部に集中させることで、身体強化系の個性には劣るけど普通の人よりも力が強くなるのだ。

ただ、当然リスクも大きくて、短時間しか使えない上に加減を間違えるとキャパオーバーになって自分も動けなくなる諸刃の剣だけど。

コントロールを誤らないように、慎重に波動を集めていく。

集まったところで瓦礫を崩さないようにゆっくりと持ち上げた。

自分の腕を突っ張り棒のようにして持ち上げた瓦礫の崩落を防ぎつつ下に手を伸ばす。

 

「手……取ってっ……!長く……持たないからっ……!早くっ……!」

 

「うん!」

 

透明の子がよじ登って手を取ったのと同時に、力を入れて引っ張り上げる。

彼女が抜けだしたのを確認して、瓦礫をゆっくりと下ろしていく。

瓦礫から手を離して、そのまま倒れるように横になる。

もうキャパオーバーで指一本動かすこともできそうにない。

 

「あ、ありがとうー!!助かったよ!!一時はどうなるかと思った!!」

 

透明の子が動けなくなった私の手を取って大げさにぶんぶんと手を振ってくる。

元気そうで安心した。

 

「無事で……良かった……」

 

「もうだめかと思ったよ!!でも、どうして私があそこにいるって分かったの?声も0ポイントヴィランの音でかき消されてた『終了~!!!!』」

 

透明の子が質問し始めたところで、プレゼントマイクによって試験終了が告げられた。

結局ヴィランポイントは25ポイントのまま。

周囲の思考や会場の数を考えると、正直ダメなんじゃないかなと予想できる結果だった。

 

「あっー!!ご、ごめんね!!私のせいで最後の方時間無駄にしちゃったよね!?」

 

「大丈夫……それも覚悟して……助けに行ったから……」

 

「で、でも……」

 

「本当に大丈夫だから……」

 

心から謝罪をしてくる彼女に、こちらまで申し訳なくなってしまう。

受験で大変な目にあって、時間を無駄にしたせいで合格できるかも分からない状況なのに、彼女の波動から感じられる感情は、裏表なく言葉と一致している。

心の底から、感謝と謝罪をしてくれている。

優しくて正直な子なのはそれだけで理解できた。

この子は、今までの人たちと違いそうだ。

 

「私……波動瑠璃……あなたは?」

 

「わ、私は葉隠透」

 

「ん……じゃあ、葉隠さん……助けたお礼として……また学校であったら……友達になって欲しいな……私、友達いなくて……」

 

正直私はもう不合格な気がするけど、ただただ申し訳なさそうにしてるのが可哀そうになってきた。

気を紛らわせるためにそんな提案をしてみる。本当に2人とも受かっていたとしてもこの子だったら友達になってみてもいいかなと思えるくらい正直な子だったというのも理由だけど。

透明の子がびっくりしているのが伝わってくる。

でもそんな感情をすぐに振り払った彼女は、私の手をぎゅっと強く握ってきた。

 

「そんなことでいいなら、いくらでも!!むしろ私が友達になって欲しいくらいだよ!!」

 

「えへ……じゃあ……また学校で……」

 

疲労に加えてキャパオーバーで既に限界だった私は、なんとかそこまで伝えてから意識を手放した。

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