波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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経営科との地獄の授業(後)

数日後。

壇上に大きなスクリーンを張った体育館に、普通科、経営科、ヒーロー科の3科が集まっていた。

目的は言わずもがな。

経営科による、ヒーロープロデュースという名の妄想の押し付けのプロモーション映像の発表会である。

よく考えたら、心操くんはこの地獄の授業を回避したのか。

ちょっと羨ましくなってしまった。

 

私たちは、体育館のパーテーションで仕切られたエリアで待機していた。

経営科は普通に制服だけど、ヒーロー科は全員フード付きの黒マントを羽織っている。

皆経営科特製のコスチューム紛いを着ていて、映像を流した後にマントを脱ぐように指示を受けている感じだった。

……透ちゃんだけ存在感が凄まじいな。サイズが違い過ぎる。

これマント着てる意味あるんだろうか。

 

まあそれはいいとして、常闇くんを除いたヒーロー科の生徒はB組も含めて皆深刻な表情をしていた。

 

「……誰かウソだって言ってくれよ……」

 

「マジでやんのか……?」

 

「……帰りたい……」

 

私も含めて、皆暗い呟きをブツブツと呟いている。

そんな私たちの所に、相澤先生とブラドキング先生がやってきた。

 

「お前らの気持ちは分かる!だが、これも大事な授業だぞ。覚悟決めて舞台に立て!」

 

「プロヒーローになれば、理不尽なことも一つや二つじゃすまない。これはそのための予行演習でもある」

 

「……ここまでの理不尽……早々ないと思うんですけど……」

 

思わず先生に文句を言ってしまう。

今から漏れなく公開処刑されて来いって言ってるんだから、多少文句を言っても許されるだろう。

先生もやったことがあるとはいっても、流石に文句しか出てこない。

 

「早々ないからこそ、こういうのを乗り越えておけば今後の糧になる。カメラの前であがりにくくなったりな。経営科の方が主目的であるとは言っても、ヒーロー科としても得る物があるからしている合同授業だ。諦めて恥を捨ててステージに立つしかない」

 

先生にそこまで言われて、結局それ以上文句を言うこともできなかった。

皆も先生たちの言葉に諦めて、それぞれ覚悟を決めている。

そして、経営科プロデュースによるヒーロープロモーション映像鑑賞授業が始まってしまった。

 

 

 

順番はA組から出席番号順になった。

最初は青山くんだ。

 

「えー、コンセプトは病弱ヒーローです。病弱だってヒーローになれるんだという社会への強いメッセージを表現しました。それでは、ご覧ください!」

 

経営科の生徒がコンセプトを説明して、映像が始まった。

そこには病院のベッドと思われるような場所で点滴を受けている青山くんが、ヒーローに憧れている様が映されていた。

そのまま場面が切り替わると、ヴィランの前に入院着を着て点滴棒を持った青山くんが立ちふさがっていた。

 

『残り少ないこの命、僕は正義のために生きる……!』

 

かっこよく決めた青山くんはそのまませき込んで倒れ込み、さらには吐血し始めた。

ヴィランが思わず心配して声をかけたところで、青山くんがガバっと動き出していた。

 

『なんちゃって目つぶしビーム!!』

 

そのままレーザーの直撃を食らって、ヴィランは倒れた。

 

『病弱だって武器のうち……病弱ヒーロー・青色吐息……っ』

 

「よ、よろしくね……☆」

 

青白い顔の青山くんがウインクして映像が終わると同時に、壇上の青山くんがマントを脱ぎ去って入院着を晒し、吐血した演技をしながら声を絞り出した。

 

なんだ、これ。

普通科の生徒は呆然としながらその様子を眺めている。

あんまりにもあんまりな地獄のような空気に、私を含めたヒーロー科全員が震えあがっている。

先生たちは、離れたところで私たちに聞こえないように注意しながら、『二度とやりたくない』とか呟いている。

先生たちもそう思うなら、こっちにもやらせないで欲しい。

 

そこからは地獄が続いた。

特攻服を着て仏恥斬りとか喧嘩上等とか夜露四苦とか言って、ヤンキーヒーローをさせられている三奈ちゃん。

2人組で歌って踊る映像が流れる、アイドルヒーローのお茶子ちゃんと梅雨ちゃん。

……よく考えたらこの2人はマシだな。

普通科も普通に「おお~」って感じの反応を返してるし。

普通のアイドルヒーローだ。まあ歌いながらヴィラン退治してるのは意味が分からないけど。

バーでバーテンをしてるダンディヒーローの飯田くん。

クソ真面目な飯田くんにバーテンなんて押し付けたせいで、映像の後に飯田君が「映像の中に出てくるカクテルは本物ではありません!!」とか叫んで経営科の生徒ともめてしまっていた。

ここでもダンディに決めるつもりだったらしい。

 

その後も、ビジュアル系ヒーローの尾白くん、〇ーベル大好きと公言する経営科生徒プロデュースの雷神デーとかいうヒーロー名にされた上鳴くん、漁師ヒーロー切島くんと続いていく。

……大漁旗の伏線、こんなところで拾ってくるのか。

経営科の生徒が漁師大好きって公言しているし、切島くんの提案ではなさそう。

ヒップホップにラップを披露する力技ラッパーヒーローな口田くん。

スナックのママにされた砂藤くん。

一人人形劇を売りにしている、一人人形劇団ヒーローの障子くん。

チャイナドレスで女スパイにさせられた響香ちゃん。真っ赤な顔でキョンキョンというヒーロー名を言うのに、言葉が詰まってしまっているのがかわいい。

いや、まったく笑えないんだけど。私も人のことは言えない。

まずい、どんどん順番が近づいてくる。

披露が終わった人たちの燃え尽き具合はすごいけど、このまま私もそっちにワープしたい気分だった。

 

常闇くんは、もうなんというかすごくノリノリだった。

闇の貴族ヒーロー・ダークシャドウ13世、らしい。

凄く中二病な発言を言わされてるのに、いつもがいつもなせいで全くかわいそうじゃない。

本人も嫌がってない。なんでこんなところでベストコンビみたいな感じになってるんだこの2人。

経営科の妄想と本人の趣向が合致しないで欲しい。

 

轟くんはイケメン過ぎて見た人に激しい動悸を引き起こすというコンセプトの、顔を見せたがらない鉄仮面ヒーロー。

透ちゃんは、もうなんというかカオスだった。

透ちゃんの衣装は着ぐるみなのだ。

それを何個も何個も早着替えしていく感じのやり方。

セリフも「ウサギさんだよ~……ウサギさんキック!!」とか結構意味が分からない感じだ。

だけど、透ちゃんも他の人のを見て自分はマシだったと気が付いたらしい。

壇上で着ぐるみを着ている透ちゃんは、ちょっと清々しい感じの顔をしていた。ずるい。

これなら私もそれが良かった。

 

爆豪くんも爆豪くんでなんだこれ。

なんだヴィランヒーローBack&Goって。爆豪くんが人を殺せるくらいの眼力で経営科の生徒を睨みつけていた。

そんな様を眺めていたら、私の番になってしまった。

 

 

 

『普通の女の子だったはずが、ある日特別な力を手に入れた……そんな少女が街を守るって、すごくいいと思うんです!!そんな魅力を表現したヒーローを目指しました!!』

 

スクリーンに映像が映し出される。

凄い少女趣味の服を着せられた私が、魔法少女のアニメを見せられている。

なんだこれ。ほんとになんだこれ。

穴があったら入りたい。

 

『私も……あんな風に……』

 

あんな風にじゃないが?本当に無理。

なんなんだこれ。私は幼女じゃないと声を大にして言いたい。

映像が切り替わると、映像の私は既に魔法のステッキを持っていた。

 

『メタモルフォーゼ!』

 

ここ、何回もとちってやり直しさせられまくったんだよなぁとぼんやり眺めることしかできない。

映像がまばゆい光で覆いつくされると、あのフリルがたくさんついたフリフリの衣装を身にまとった私が、女児が持っているのが似合う魔法のステッキを握った状態で映っていた。

 

『愛の力でヴィランをやっつける!魔法少女ヒーロー、マジカル・ルリリ、参上です!』

 

周囲から伝わってくる感情と思考がただただ煩わしい。

顔が燃えるように熱いし、どうすればいいんだこれ。

映像の私は、ステッキを手から吹き飛ばされた後に、波動弾を叩き込みながらステゴロでヴィランを退治した。

 

「ま、魔法少女ヒーロー・マジカル・ルリリ、です……よ、よろ……しく……」

 

「波動さん!?はきはき言う練習沢山したでしょー!!なんでそんな消え入るようになっちゃうのぉ!」

 

経営科の生徒が不満そうだけど、知ったことではない。

もう義務は果たしたし、私は逃げるようにパーテーションの向こう側に走った。

 

 

 

「瑠璃ちゃん、お疲れ様……」

 

「……ん……透ちゃんも……お疲れ様……」

 

「だ、大丈夫?」

 

「……心に……多大なダメージを……負った……」

 

透ちゃんが心配してくれるけど、私にはそれどころじゃない精神的ダメージがきていた。

普通に可愛いって思われているだけならまだマシ。この反応が一番多かったのが救いではあった。

だけど、『きっつ』とか、『うわっ』とかいう思考も読み取れるのだ。

さらにいうと普通科の中にいるロリコン。

こいつが私の胸に文句を垂れている思考を垂れ流しているのもただただ不愉快。

 

「私……幼女じゃない……ちっちゃくもない……」

 

「うん、大丈夫。瑠璃ちゃんはちゃんと高校生だから」

 

その後はしばらく再起不能になっていた私を、透ちゃんが優しく慰めてくれた。

途中で上鳴くんが素で似合ってるとか言ってきたけど、響香ちゃんがすぐに上鳴くんの耳を引っ張って制裁してくれていた。

こんな衣装、似合ってるとか言われても全く嬉しくない。

 

私がようやく再起動したころには、B組生徒の発表も終わっていた。

結構な人数が私と同じように深刻なダメージを負っている。

死屍累々といっていい様相を呈していた。

結局優勝したのは、最後の方にトラブルがあって、老朽化していた機材の落下から普通科生徒を守った鱗くんになった。

理由は、「助けてくれたから」でしかない。

経営科は経営科で綺麗に鼻を折られて自信喪失している。

だけど、例年は普通科生徒たちの辛辣な投票理由が延々と並べられるらしい。

あんな目に会わせてくれたのだ。もっとダメな理由をちゃんと伝えて欲しかった。

実際妄想の押し付けが駄目だという教訓を理解できてない経営科生徒が結構いる。

さらに、普通科に『ヒーロー科も大変なんだな』とか思われていたり、心操くんが『編入前でよかったかもしれない』とか思っていたりしていて、すごく何とも言えない気持ちになってしまった。

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