3月に入って少しした頃。
今日私以外に寮に残っているのは、エンデヴァー事務所に行っている3人と、ギャングオルカの所に行っている響香ちゃんと障子くん、あとはファットガムの所に行っている切島くんだった。
まあ緑谷くんはさっきいそいそと出かけていったから今は寮にいない。
なんでもロディくんが弟妹を連れて日本に来るらしい。
オセオンはあんなことがあったばかりなのに、随分とまぁ豪快だなぁとは思う。
そんなに緑谷くんに会いたかったんだろうか。
寮に残っているメンバーがそんな感じなのもあって、私は響香ちゃんと過ごしていた。
音楽を一緒に聞いたり楽器の弾き方を教えてもらったりしていた感じだったんだけど、そんなことをしていたら、スマホに通知が入った。
「あれ、どうしたの?」
「……緑谷くんから……」
「緑谷?誰かに会いに行くって言ってなかったっけ?なんかあったの?」
「……寮にいる……来れそうなメンバー連れてきて……街を案内してほしいって……」
「?緑谷が自分ですればいいんじゃ……」
緑谷くんはどうやらロディくんたちの道案内を求めているらしい。
これは多分、ロディくんと面識があるメンバーにはメッセージを送った感じかな。
ただ、爆豪くんは行かないだろうし、轟くんは今日は自主トレしているみたいだから、行けそうな感じじゃない。
緑谷くん自身で案内しようとしない理由は分かるから、行くしかない、というよりも行かないとロディくんと弟くんと妹ちゃんがかわいそうかな。
私自身ロディくんに不快感は感じないから、特に拒否する理由もない。
「自分でやろうとしない理由は……割と簡単に想像つくよ……多分オタク的な場所しか知らないだけ……」
「あぁ……確かに。緑谷のことだしオールマイト関連のところしか提案しなそう」
「だから……行ってあげた方がいいかなって……ただ……私もあんまり詳しくないから……響香ちゃんも来てくれると……嬉しいかも……」
「うん、いいよ。ウチが行っても大丈夫なら、障子と切島も誘っとく?来れそうなメンバー誘って欲しいって書いてあったんだよね?」
「ん……誘ってみて……早く外出届とか出した方がいいかも……」
響香ちゃんは特に問題なく了承してくれた。
そこからの行動は早かった。
障子くんと切島くんにもどうするのか確認して、緑谷くんが外出届を出した相手だと思われるオールマイトに事情を説明して外出届を提出。
急だとちょっと渋られることもある外出届だけど、外出先がだいぶ前から外出届を出していた緑谷くんのところだったから承認してもらえた。
まあ帰省にもプロヒーローをつけるくらい警戒している今の雄英で、外出を承認してくれるだけ優しいとは思う。
承認をもらって、すぐに4人で電車に乗って移動した。
「よう緑谷!オセオンから来た友達に日本を案内したいんだって?俺らに任せな!」
公園のベンチに座って話している緑谷くんとロディくんが見えたところで、切島くんがそんな感じで声をかけた。
知らない人を呼ぶと思っていなかったらしいロディくんはちょっとびっくりしている。
そんなロディくんが、ちょっと拙い感じの日本語で呟いた。
「なんかいっぱい来た」
「波動さんとは前にも会ったよね!他の皆も雄英のクラスメイトだよ!」
「緑谷1人に案内させたらオタクツアーになんぜ」
「ん……オールマイト巡り……待ったなし……」
私も切島くんに同意しておく。
とりあえずロディくんは嫌がっている様子はないし良かった。
言語の壁の問題があるから、ロディくんが緑谷くんと普通に会話できているのも不思議だったけど、スマホの翻訳と緑谷くんの拙い英会話でなんとか会話していたっぽい。
まあでも、ヒーローとしてオセオンに行っていた時のような高性能の翻訳機能付きのインカムなんてもうないから、仕方ない問題でもある。
そんな感じでロディくんと話していると、響香ちゃんがロディくんの弟と妹にも、ゆっくりと、拙い感じではあるけど英語で声をかけていた。
「ロロくんとララちゃんだよね。ウチらも一緒に行ってもいいかな?」
「うん!皆で遊んだほうが楽しいよ!」
この2人も、子供らしい純粋な思考をしてる。
普通のいい子だ。
「そうと決まれば、大衆娯楽に触れるもよし!食べ歩きするもよし!行き当たりばったり街歩きツアーだ!」
そんな感じで、当初の緑谷くんのお願い通り、切島くんたちプレゼンツのツアーが始まった。
……私、この辺のこと全然知らないから足手まといだな。
まぁ仕方ない、うん。
「知らない人について行っちゃダメだぞ?」
「はーい!」
ロディくんがそう言って弟と妹に注意を促している。
移動している中少し話を聞いたけど、ロディくんは何もお金があったわけじゃなくて、以前から弟たちの思い出作りのために応募していた日本への旅行券が当たったらしい。
金銭的にはすごく苦しいけど、思い出の為に貯金を使える凄くいいお兄ちゃんだった。
で、今日が旅行の2日目。明日の日中には帰国するらしい。
「Piーーー!」
「どうしたピノ?」
移動していたら、ロディくん、というよりもロディくんの本心であるピノが、ショーケースに飾られたゴーグルに釘付けになり始めた。
……本人は飄々としているけど、欲しいのか、それ。思考からして『いいなぁ、これ』って感じになってるし、ロディくんは分かりやすいな。
そんな様子を、ロロくんが眺めていた。
プレゼントがあげたいけど、何をあげようか迷っていたらしい。
「……プレゼント……迷ってるの……?」
「え?な、なんでわかったの?」
「ん……まぁ色々と……お兄ちゃんの個性は知ってるだろうから……分かってるだろうけど……ロディくん、ちゃんと欲しがってる思考してるから……あのゴーグルなら間違いないよ……」
「ほんと?」
「ん……ほんと……ピノからして欲しがってるしね……お金……持ってる……?5000円くらいするけど……」
「そ、それくらいなら、大丈夫。今まで貯めてたお小遣い持ってきたから」
このくらいの子供にとっての5000円ってすごい価値があると思うけど、何年もかけてコツコツと貯めたお金をお兄ちゃんの為に惜しみなく使うつもりらしい。
ロロくんもいい子だ。
仲のいい兄弟にほっこりして、思わず頭を撫でてしまう。
ロロくんはちょっと不思議そうにしてたけど、撫でられるのを嫌がったりはしなかった。
「あーーーっ!プリユアだ!」
「っ!?……ぷり……ゆあ……」
「お、お姉さん、どうしたの?」
「な、なんでもない……ちょっと……トラウマを抉られただけ……」
「波動、大丈夫?」
「ん……ありがと……響香ちゃん……」
あまりにもタイムリーなトラウマに、思わず怯んでしまう。
そんな私の背中を響香ちゃんが摩ってくれていた。
「アニメ好きなの?」
「プリユア見てる!」
「日本の文化に興味があるのだな」
「うん!サムライ!ニンジャ!カタナ!」
「じゃああれ、やってみる?」
ウキウキした様子の2人に、響香ちゃんがコスプレ衣装のレンタルまでしてくれるプリクラを指し示した。
ロロくんが忍者っぽいエッジショットのコスプレ、ララちゃんが、私のトラウマを抉ってくる魔法少女のコスプレに着替えた。
「どうかなお兄ちゃん!」
「え、ああ。良く似合ってる」
子供2人が凄く楽しそうにしている。
うん、響香ちゃん提案のここ、当たりだったかもしれない。
トラウマは抉られるけど。
ちっちゃい女の子の魔法少女コスなんて普通。私とは無関係と自己暗示をかけてなんとか乗り切るしかなかった。
プリクラ自体はすぐに撮り終わったけど、ロディくんがササッと回収してしまった。
どうやらピノが楽しそうにしているのが恥ずかしかったらしい。
緑谷くんが見せてもらおうと掛け合っていると、ロディくんはパルクールみたいなことをして屋根の上に登って逃げてしまった。
そんな隙を見て、ロロくんとララちゃんが話しかけてきた。
「ヒーローのお兄ちゃん、お姉ちゃん。あのね……お願いがあるんだけど―――……」
ロロくんが緑谷くんの耳元に顔を寄せて内緒話をしている。
まぁでも、お願いは分かりやすい。
ロディくんにバレないようにさっきのゴーグルを買いに行きたいだけだ。
それに協力してほしいってことだった。
「俺を差し置いて仲良しこよしかい?」
「……ロディ!行きたいとこない?やりたいことは?」
「ロロとララがやりたいことを一緒にするさ」
「あ―……腹減ってねーか?何か温かいもんでも!」
「そうだなぁ……」
ロディくんがロロくんとララちゃんに常に気を配っていて、なかなか連れ出せそうにないなこれ。
しかも多分2人をこっそり連れ出したりしたら、ロディくんは大慌てして発狂しかねない気がするし。
ララちゃんだけを連れ出すのは割と簡単なのだ。
女の子だし、トイレに行きたがってるとでもいえば私と響香ちゃんで連れ出せる。
問題はロロくんだ。
プレゼントを買うお金の大部分を捻出しているのはロロくんだし、きっと自分で買いたいだろうし、どうしようかな。
そう思っていたら、ロディくんが珍しい形状の飛行機に視線が釘付けになっていた。
あれは確か、航空系ヒーローが使用している飛行機だったかな。
でもこれは好都合だ。
ロディくん、今はビルをよじ登って高い所から眺めてるし。
ロディくんを追いかけてくれている緑谷くんに、ロディくん用の言い訳を伝えておこう。
『緑谷くん……今からちょっと買ってくるから……ロディくん引き止めといて……多分気付いたら慌てると思うけど……2人をトイレに連れて行ったって伝えてもらえれば……多分大丈夫だと思うから……護衛は私たちが付いてるって言っておいて……』
『うん、わかった!お願い!』
緑谷くんもすぐに了承してくれた。
切島くんはロディくんの足止めの方に合流してくれている。
私と響香ちゃん、障子くんの3人はロロくん、ララちゃんを伴って、さっきのお店まで戻った。
無事に買い物も終えて、観光に戻った。
ロディくんはちょっとハラハラしながら待っていたっぽいけど、大慌てって程ではなかったはずだ。
ただ、ロロくんとララちゃんが戻ってきた瞬間の安堵した様子のピノが、彼の心情をありありと示していた。
そして夕方になって大体の観光を終えた頃合いで、ロロくんからロディくんにプレゼントが手渡された。
「はい!お兄ちゃん!」
「これは?」
「サプライズ!いつもお兄ちゃんロロとララのために頑張ってるから」
「ララたちも何かお返ししたいって思ったの」
2人の言葉にびっくりした様子のロディくんは、箱をゆっくりと開けていく。
そこには、さっきロディくんが欲しがっていたパイロットゴーグルが入っていた。
「パイロットゴーグル……」
ロディくんは感動した様子でそれを見つめた後に、おもむろにゴーグルをつけだした。
「どうだ?兄ちゃんカッケーだろ?」
「「うん!似合ってる!」」
「ありがとな!」
感動して大泣きしながら飛び跳ねて喜んでいるピノを尻目に、ロディくんはロロくんとララちゃんを抱きしめていた。
ロディくんが落ち着いてから、3人が泊っているホテルまで来てお開きにすることになった。
「今日は本当に楽しかった!」
「ありがとうヒーローのお兄ちゃんたち」
「俺たちも楽しかったぜ!」
「国に帰っても元気でね」
「お兄ちゃん……大事にするんだよ……」
「うん……」
ロロくんとララちゃんはちょっと寂しくなってシュンとしてしまっている。
そんな様子をみた緑谷くんは、ロディくんに話しかけ始めた。
「ロディ……必ずまた会おう!今度は僕が―――」
「おいおい、そう湿っぽくなるなよ。またいつだって会えるだろ?」
「……?」
「俺がパイロットになったらな!」
ロディくんは、自分も寂しさを感じながらもそう締めくくった。
その後は、若干名残惜しかったけどお互いに手を振り合って別れた。
私たちは5人で電車に乗って、雄英に戻っている。
そんな中、ふと気になったことを緑谷くんに聞いてみた。
「ね、緑谷くん……ロディくんの思考から読めたんだけど……オセオンで……どんな犯罪したの……?茶化す感じだったけど……気になる……」
「うえ!?犯罪なんてしてないよ!?」
「え……?だって……少なくとも無賃乗車は読めたけど……」
「む、無賃乗車はしてないよ!?」
「"は"ってことは、何か他にはしたんだよね」
私が緑谷くんにどんどん聞いていくと、響香ちゃんたちも話に加わってきた。
そんな感じでワイワイ楽しく話しながら、時間は過ぎていった。