「瑠璃ちゃん聞いた?」
「……何を……?」
「昨日先生が、私たち女子だけでキャンプしてもいいよ~って言ってくれたんだよ!」
「キャンプ……?」
インターンで帰宅が遅くなった翌日の朝、透ちゃんと朝食を食べていたらいきなりそんなことを言われた。
一応、つい先日春休みになったし、キャンプとかにも行けなくはないけど。
「そう!キャンプ!なんかね!本格的な雪山訓練の施設があるらしくて!雪山に、森に、魚がいる湖、なんて感じで色々あるらしいの!明日と明後日は女子全員休みだし、全員で使ってもいいよって!」
「……?そんな施設……思考からも読んだことないけど……」
相澤先生の思考を読んで確認しようかと思ったけど、なんと今日に限って不在だ。
なんだこれ。
私がいない間に説明したり、わざわざ私がいるタイミングで外出してたり、まさか意図的に読ませないようにしてる?
もしかして授業の一環とかそんな感じなんだろうか。
まあ、本当にただの偶然で、善意で提案してくれている可能性がないわけでもないけど……
「もう皆も参加するって返事してくれてるし、あとは瑠璃ちゃんだけなんだ!」
「私はいいけど……梅雨ちゃん……大丈夫なの……?雪山とか……絶対辛いと思うんだけど……」
「厚着して頑張るって言ってたよ。あと、寒い思いしないようにテントとか、テント内の暖房とかはヤオモモちゃんが頑張ってくれるって!」
「なるほど……分かった……明日なら……早々に準備しないとだね……」
「うん!一緒に準備しよー!」
多少気になるところはあったけど、皆も楽しみにしているみたいだし素直に参加することにした。
まあ授業の一環だった場合拒否しても何らかの方法で参加するように強制されるだろうし、授業じゃなければただの楽しいキャンプだ。
拒否する理由がなかったのもある。
とりあえず、雪山での過ごし方を調べておかないと。
冬場の遭難とかの死亡事故が多い原因とか、明らかに寒さとか雪のせいだろうし。
雪山キャンプなんてしくじると同じ状況になりかねないと思う。
爆豪くんが登山が趣味だったはずだし、いれば聞きに行ったんだけどあいにく泊りがけでインターンに行っている。
ネットで調べるしかないか。
そんな感じで透ちゃんと明日の準備をしながら、1日を過ごした。
翌日。
私たちの目の前には、見渡す限り一面の銀世界が広がっていた。
雲一つない晴天から降り注ぐ太陽の光を浴びて、雪原がキラキラと輝いている。
その奥には、大きな雪山がそびえたっていた。
多分雪原の中央辺りに行くだけで、普通に学校が範囲外に出ちゃうくらい広い。
これが学校の施設とか、割と意味が分からない規模してるな。
「すっごーい!!」
「絶好のキャンプ日和だねぇ!」
「寒いけど……すごく綺麗……」
私たちはテント以外にもツェルトとかさらに厚着ができるように持ってきたダウンジャケットとかの防寒具とか、万が一に備えた非常食とか、とにかく緊急事態には備えまくった装備をしている。
百ちゃんがいるから大丈夫だろうなんて最初は楽観視していたけど、調べれば調べるほど雪山の危険度を思い知ってしまったのだ。
頼りきりになってしまうと、万が一百ちゃんが滑落とかして大怪我をした場合、大惨事になる。
遭難は、まあ私がいればあり得ないんだけど、私が怪我をして意識を失ったりする可能性もある。
それに、遭難が無くても誰かが大怪我をする可能性は常に付きまとう。
それに対応できるようにするために、重装備になってしまった側面はあった。
まあ重装備とはいっても、お茶子ちゃんが荷物を無重力にしてくれているから、運搬はつらくないから備えられるだけ備えた感じだった。
「キャンプ地はこの辺りでいいかな?」
「とりあえずはここでよろしいかと。では、事前の打ち合わせ通り分かれて行動を開始しましょう」
「ん……頑張ろう……」
「おー!薪探しは任せてよ!」
「魚とか取れるかな」
皆打ち合わせ通り行動を開始する。
キャンプ地でのテント設営を私、百ちゃん、お茶子ちゃん。
食料と、あれば薪探しに響香ちゃん、三奈ちゃん、梅雨ちゃんと透ちゃんが行く感じだ。
まあ割り振りの理由なんて簡単で、設営の方に必要な百ちゃんとお茶子ちゃんをまず設営に割り振って、後は中央にいて連絡役になれるようにしておいた方がいい私を設営に割り振っただけだ。
残りは皆食料探しである。
薪は本当にあったらという程度の感覚でしかない。
雪山だから、そもそも使える薪があるのかも謎だし、見つからなかったら最悪の場合は百ちゃんに出してもらうこともできなくはない。
百ちゃんが大変だけど、昨日の夜にすごい量の食事を食べて備えてくれていた。
「それでは、作り始めますか、波動さん、麗日さん」
「ん……雪山でテント張るの……大変だって書いてあったし……頑張ろ……」
「まずは雪を固めるんだっけ?」
「そうしないと身体が沈み込んで眠りづらいそうですし、それであっているはずですわね」
そのまましばらく3人で雪原を踏み固めていく。
硬くなったのを確認したところで、百ちゃん作のワンポール型の10人くらいは入れそうなテントを苦戦しながら張っていく。
初めてでこれは大変ではあるけど、お茶子ちゃんが無重力にしてくれたり、百ちゃんが使いやすい道具を作ってくれていたりして、3人で布を引っ張ったりと協力し合ってなんとか設営は完了した。
この後はいかに快適に過ごせるようにするかだ。
百ちゃん作のストーブの設置や、焚火をして皆で囲むスペースの増設をしたりと色々できる限りの手を尽くしていった。
テント周りの設備に凝り始めて数時間経っただろうか。
設備は最終的に百ちゃんと協力して作った警報装置まで増設する事態に陥っていた。
やっぱり百ちゃんも私と同じく、このキャンプがただの遊びとして提案されたものではないんじゃないかと考えていたらしい。
それならと、眠っている間とかに何かがあってもいいように、登録された人以外がセンサーに反応するとけたたましい音を響かせる装置をいくつか作って、全周囲をカバーできる位置に設置していったのだ。
そんな作業が終わった頃に、食料調達組が帰ってきた。
魚をたくさん持っているし、大成功だったらしい。
「おいしいー!」
「自分たちで獲った魚っていうのがさらに美味しく感じるよね」
「そういえば……魚……どうやって取ったの……?釣り竿とかもってなかったよね……?あつっ」
「そこは私が酸で湖の氷に穴開けて、耳郎が爆音で魚気絶させて、浮いてきたのを梅雨ちゃんと葉隠が回収って感じだねー。いい感じに分担できたよ」
「これ、2匹くらい余裕で食べられそうやんな」
「じゃあおかわり焼き始めちゃおうかしら。他に焼いておきたい人はいるかしら」
「これは、かぶりついて食べる物なのですね……なるほど」
皆でワイワイと話しながら魚にかぶりつく。
百ちゃんだけちょっと困惑していたけど、恐る恐る小さく口を開けて竹串を刺して焼いた魚にかぶりついていた。
焼きあがったばっかりの熱々ホクホクでふわふわの身と、パリパリの香ばしい皮、それに振りかけた塩の味がいい感じにマッチしていた。
さっきまで散々肉体労働していたのもあって、すごく美味しく感じてしまう。
「いや~、それにしても、瑠璃ちゃんと色々調べて警戒してたけど、ここまで快適なテントができると思ってなかったよ。流石ヤオモモちゃんだねぇ」
「ふふ、私だけでなく、皆さんと協力したからこそですわ」
「梅雨ちゃん……今のところ大丈夫そう……?一応テントの中から……暖房垂れ流しにしてるけど……」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、瑠璃ちゃん」
「そこが懸念点だったもんね。これで大丈夫ならよかったよ」
皆で焚火を囲んで話しながら魚を食べるっていうのは、それだけで普段のご飯よりもおいしく感じてしまう不思議な魅力があった。
そんな中での懸念点は梅雨ちゃんのことだったけど、今のところ大丈夫みたいだし、ここまで来たら安心かもしれない。
辺りもすっかり暗くなってきていて、周囲を照らす明かりはテントから漏れる光と焚火の火、後は空のプラネタリウムに映る夜空風の淡い星の輝きくらいだった。
そう、なんとここ、屋内施設なのだ。
日中の青い綺麗な空も、今の星がキラキラ輝く夜空も、全部作り物である。
そんな夜空を眺めながら、焚火を利用して淹れた紅茶で食後のティータイムと洒落こんでいた。
「キレイだねー」
「ね。ここが人工施設とか忘れちゃいそうになっちゃう」
「まあでも、あれだけ綺麗な星が出てたら勘違いもしちゃうよねぇ」
皆も星空をぼんやり眺めて過ごしている。
一応、今のところ感知範囲内で変なことは一切ない。
それを確認した私は、テントに戻って自分のカバンをガサゴソ漁ってから皆の所に戻った。
「皆……私マシュマロとか……ビスケットとか持ってきてる……焚火で焼きマシュマロ……しよ……」
「お、いいねぇ波動!」
「私も食べるー!」
そのまま袋を開けて、マシュマロを竹串にさしてから皆に配って焚火に当てて、焦げ目がついた辺りで冷ましながら口に入れていく。
やっぱり焼きマシュマロは美味しい。
持ってきたクラッカーとかビスケットで挟んでスモアにして食べても美味しいし、百ちゃんの紅茶とも合っていい感じだった。
そんな感じで夕食と食後のティータイムも終わって、皆でテントの中に入ってしまう。
10人くらいは入れるテントとはいっても、そこに皆で寝ようとすると結構狭い。
暖房も、垂れ流し状態はもうやめて最低限の温かさを保つ程度にしている。
今の状態でも、熱すぎると下の雪が解けてべちゃべちゃになっちゃうだろうし、雪的にはあんまり良くないとは思うけど、必要だから仕方ない。
梅雨ちゃんのためだ。
そんな暖房を利かせたテントの中で皆で横になって、テントの中の明かりも小さなものに変えてしまう。
そんな状態になったら、案の定透ちゃんと三奈ちゃんがいつものパターンの会話を始めていた。
「恋バナしようよ!恋バナ!」
「しようしよう!キュンキュンしたいよ!」
「恋バナって言っても、流石に誰も進展なくない?麗日は宣言通りしまってるっぽいし、波動も音沙汰ないし」
「ええ。流石に、他に誰かしらの話が無ければ会話が続かないのではないでしょうか」
透ちゃんたち以外は話題はないと思っているし、私もあるとは思っていない。
案の定透ちゃんが好きな人が出来た人!とか確認してるけど誰も挙手しないし。
一応、三奈ちゃんの切島くんネタが透ちゃん的にはあるはずだけど、そこは約束通り言わないでおいている。
結局、恋バナは特に進展もなく終わった。
まあ話題の提供者がほぼいないのに、ことあるごとにしていればこうもなってしまうだろう。
皆疲れていたのもあって、雑談しながら少しずつうとうとし始めていたら、隣の透ちゃんが私に話しかけてきた。
「そういえば、瑠璃ちゃん今日はいつものやつはどうしたの?」
「いつものやつって……?」
「ネックレスだよ、ネックレス。指輪通していつも大事そうに首にかけてたから、よっぽど大事なのかと思ってたんだけど、今日は珍しくつけてないし」
「ん……今日は必要ないから……置いてきた……」
今回は青山くんも近くにいられないし、無くしても困るからあの指輪は置いてきていた。
そんなことにまで目ざとく気が付いていたらしい。
そこまでならよかったんだけど、三奈ちゃんが急にキランと目を輝かせた気がした。あ、まずい。
「……思ったんだけどさぁ、波動がつけてるあの指輪、あれに似てない?葉隠」
「あれっていうと…………はっ!?え、なに!?必要ないってそういうこと!?」
「なんのこと……?」
「とぼけなくてもいいよ波動。波動の指輪、青山の腕輪とデザインが全く一緒だったじゃん。私と葉隠、青山と一緒にインターンに行ってて散々見てるからよく覚えてるんだよね!お揃いってことでしょ!?」
「必要ないってそういうことだよね!?青山くんがいない場所だから見せなくてもいいとかそういう!」
盛大に勘違いされている。
まずい、餌を与えられた透ちゃんと三奈ちゃんが凄い勢いで迫ってきてる。
さっきまでうとうとしてた皆もなんだかんだで聞き耳を立ててるし。
一応、この前の女子会の後に理由を考えてはいたけど、これが通じるかはなんとも言えない。
でもこれで貫き通して知らぬ存ぜぬで通すしかない気もする。
「私のあれ……サポートアイテム……パワーローダー先生に作ってもらったやつ……波動を溜め込みやすい物質っていうの……指輪に出来ないか試してもらった……雪山で無くしても困るから外してきただけ……青山くんとか関係ない……」
「え、でも青山と全く同じデザインだよね?」
「それは知らない……青山くんもパワーローダー先生に……サポートアイテム作ってもらったんじゃないかな……」
「……いくら製作者が同じでも、デザインまで全く同じにするものでしょうか……?」
百ちゃんまで疑問を呟くようにして参戦してきた。
でもすっとぼけ続けるしかないと思う。
下手な情報は拡散するべきじゃない。
というか、私と青山くんを関連付ける情報があるのがよろしくない。AFOの信奉者に聞かれて密告でもされようものなら、青山くんの裏切りがバレてしまう可能性がある。
「知らない……私は自分の方にしか関与してないし……」
「えぇー、何か隠してない?」
「隠してないけど……」
「皆、無理に聞き出そうとするのは良くないと思うわ」
「えぇー!?やだ!!もっと聞きたいー!!だって恋の匂いがするんだもん!!これが偶然なわけないでしょー!?」
梅雨ちゃんが助け舟を出してくれたけど、すぐにそれを打ち消してきた。
その後もしばらく三奈ちゃんと透ちゃんに詰め寄られたけど、私はすっとぼけ続けることしかできなかった。
透ちゃんたちの中では疑惑は残っていた、というか深まっていたけど、もう遅くなってきたということで尋問は終わった。
なんとか乗り切れた、のかな?
とりあえず一安心と見ていいだろうか。
次に恋バナをするときはもっと深堀りされる可能性があるから警戒しておかないといけないかもしれない。
青山くんと口裏合わせておいた方がいいか。
寮に帰ったらテレパスを飛ばして密談しよう。
直接会うのだけはNGだ。疑惑が深まるだけだし。
とりあえず行動一つ一つ注意しないと危ないかもしれないと思いつつ、私は眠りに落ちた。