波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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雪山キャンプ(後)

けたたましい警報がテントの近くで響き渡って、目を覚ました。

皆も一斉に飛び起きていて困惑している。

状況を把握しているのは設置した張本人の私と百ちゃん、あとはそれを見ていたお茶子ちゃんだけだ。

 

「やはり来ましたか」

 

「ただ施設を……貸してくれるだけなわけないとは思ってたけど……案の定……」

 

「え?え?何?どういうこと?」

 

透ちゃんが寝ぼけ眼を擦りながら聞いてくる。

でも、説明は周囲の状況を把握してからだ。

この警報が鳴ったということは、少なくともテントを視認できる位置まで何かが近づいてきたということ。

私がいて奇襲を受けたなんてことになったら、それは私の落ち度でしかない。

皆を危険に晒すようなことはできなかった。

 

「どうですか?波動さん」

 

「……一応……近くにはもう何もいない……多分警報で逃げたんだと思う……ちょっと離れた位置を……人型の大きな機械が……1体だけ歩いてるのは分かる……」

 

「それなら、ひとまずは大丈夫ですか」

 

百ちゃんが安心したようにため息を吐いた。

私も一安心だ。

これなら監視し続けるだけでどうとでもなる。

私と百ちゃんが2人で安心していると、三奈ちゃんが口を開いた。

 

「で、結局どういうことなの?」

 

「ん……ごめん……今から説明する……相澤先生が……素直に施設だけ貸してくれるわけないと思って……百ちゃんと話し合って……対策だけしてたの……」

 

「一応、私たち7人以外の何かが近づいた時に反応して、警報を鳴らす装置を設置しておきましたの。波動さんに事前に大型の野生動物はいないという確認は取ってもらっていましたので……センサーなどの高さや位置を調節して、誤作動を起こさないように工夫もしています。その状況でこれが鳴ったということは、波動さんの感知でも感じ取れていなかった者がテントに近づいたということになります」

 

「お茶子ちゃんも知ってたの?」

 

「うん、2人が話してるの聞いてありえるなぁとは思ってたよ。ただ、センサーの位置とかの話し合いについていけなくて完全に任せちゃったけど」

 

「なるほど?つまり……」

 

三奈ちゃんが透ちゃんが頭を抱えて考えだしてしまった。

まあ百ちゃんが言ってくれたのは本当に私たちが何をしていたのかの整理でしかないし、本質はここから先だから分かりづらいのも仕方ないか。

 

「つまり……私たちが寝てる時を狙って……起きてる間に感知範囲内にいなかったはずの……機械の何かを使って……仕掛けてきたってこと……機械だと私も読心できないし……目的が読み切れないけど……」

 

「うわ……つまり、わざわざ油断した時を狙ってきてるってことじゃん。これ、もしかしてそういうのを叩き込むための訓練?相澤先生、キャンプを楽しめるセールスポイントみたいなの言って印象付けたりしてたし」

 

「……だから相澤先生、わざわざ瑠璃ちゃんがいない日を狙ってキャンプのことを伝えてきたのね。瑠璃ちゃんがいるタイミングで伝えたりしたら筒抜けになってしまって、油断なんか絶対にしないでしょうし」

 

梅雨ちゃんと響香ちゃんの補足を聞いて、透ちゃんと三奈ちゃんも合点がいったと言わんばかりの表情を浮かべた。

まあそれはいいんだけど、ここからどう行動するかが問題なのだ。

皆の思考的に、本当に誰も説明を受けていないから、どうすれば訓練がクリアになるのかが分からない。

先生すらも範囲内にいないから、多分カメラか何かで遠隔で見てるだけなんだろう。

しかも何かを仕掛けようとしてきたのは人型、というよりも毛深いゴリラみたいな大きな機械。

読心できないから本当に何も分からないのだ。

 

「これ……どうすればクリアになるのか分からないんだけど……皆先生から何か言われてる……?」

 

私が問いかけると、皆は先生に伝えられた時の言葉を順番に思い出し始めた。

 

『雪山キャンプなんてどうだ?』

 

『雪山訓練の施設があるんだが、結構本格的だぞ。雪山に、森も、魚がいる湖もある。そこなら1泊くらいはできる。ちょうど女子全員休み被ってる日があるから、全員で使ってもいいぞ』

 

『なんだ?行きたくないのならムリにとは言わないが』

 

『こないだの職員会議で、春休みだから、気分転換に施設を開放しようかって話になったんだよ。リフレッシュした方が作業効率も良くなるしな……で、どうする?』

 

『ただし、一度入ったら24時間経たないと出入口が開かない作りになっている。どんなことがあってもだ。そして、携帯も通じないぞ。それでもいいな?』

 

……皆が思い浮かべてくれていたことを整理すると、言われていたのは主にこのくらいだろうか。

これ、もしかしなくても24時間経たないと出入口から出られないし外部ともコンタクトが取れないことしか情報がない感じか。

 

「……油断したところを奇襲してくる……24時間耐久訓練ってこと……?でも警報で逃げたし……あわよくば誰かを攫おうとしてたとか……?」

 

「あり得ますわね……誰かを攫われてしまえば、この雪山で救出に赴くことになっていたでしょうし……慣れない雪山での集団行動となると、連携にも影響が出ていたでしょうし……」

 

「……じゃあ……とりあえずここを拠点にして……私と響香ちゃんで警戒して……耐久する……?もう油断もないし……訓練の体を保つためにも……どこかで仕掛けてくるしかないと思うけど……」

 

「それが最善ですか……皆さんも、それでよろしいですか?」

 

百ちゃんが周囲を見渡しながら皆に問いかける。

当然、誰も拒否するような人はいなかった。

じゃあここからは警戒に集中だと思ったところで、外の風の音が急に強くなった。

ビュービューとテントに吹き付ける強風が、凄まじい音を伴ってテントを揺らしてきていた。

 

「きゅ、急に風が強くなったね」

 

「もしかして、吹雪いてたりするのかな?」

 

「……ん……降ってきてる雪の量が異常だし……吹雪いてるのであってる……梅雨ちゃんはテント……出ない方がいいと思う……なんだったら……仕掛けてくるまで……テントも開けない方がいいかも……流石にこの吹雪で開けちゃうと……テントの中が一気に冷えると思うし……」

 

「この状況で梅雨ちゃんが寝ちゃうと、奇襲を仕掛けられた時が大変だもんね。その方がいいかも」

 

「ごめんなさいね、迷惑かけて」

 

「大丈夫だよ!皆このくらい気にしてないから!」

 

ここは屋内施設だし、吹雪はこのタイミングを狙って人為的に起こしている物でしかない。

もしかして梅雨ちゃんの明確な弱点に対する対応とかも見られていたりするんだろうか。

梅雨ちゃんは寒さで眠ってしまうという弱点に対して、いつもならヒーローコスチュームで対策することでどうにかしている。

だけど今回はキャンプということもあって誰もコスチュームは持ってきていないし、普通の登山用防寒具を持ってきているだけだ。

これでこの吹雪の中、梅雨ちゃんが眠らないでいられるとは思えない。

梅雨ちゃんに弱点を意識させると同時に、今後油断した状況、準備ができていない状況で自分の弱点と向き合わないといけない可能性とかも意識させられている?

考えすぎかもしれないけど、梅雨ちゃんにとって得る物も多い訓練だったりするのかもしれない。

 

「……じゃあ……響香ちゃん……とりあえず……2人で警戒……し続けとこう……」

 

「うん、任せて。機械が相手ってことだし、波動の感知範囲でも見落としがあるかもしれないもんね。ウチも頑張るよ」

 

「ん……頼りにしてる……百ちゃん……私たちが警戒してる間に……梅雨ちゃんの寒さ対策……皆で考えておいて欲しい……」

 

「ええ、もちろんですわ。万事おまかせください」

 

百ちゃんが了承してくれたのを確認して、私は目を閉じて周囲の波動に集中し始める。

相変わらず非生物の感知はしづらい、というか声が読めない分動いているものとしか感じられなくて見落としが怖い。

私は1つだと感じたけど、動いていなくて気付けなかっただけで複数機いたという可能性もある。

とにかく動いているものに集中して感知していかないといけなかった。

その感知も、すごい勢いで飛んできている吹雪が邪魔になってさらに分かりにくくされている。

まさかここまで対策を取ってくるとは思ってなかった。流石に予想外だ。

響香ちゃんの感知も、本当にすごく大事になってくる。

そう思いながら、感知を続けた。

 

 

 

それから何時間が経っただろうか。

外は真っ暗なままだけど、あの機械が再びテントに近づいてきていた。

 

「……来たよ……ゆっくりと……1体だけ近づいてきてる……距離はあと100mくらい……」

 

「うん、間違いないと思う。少なくとも、それ以外の音が近づいてきてる感じもしないよ」

 

「ありがとうございます……ここで機械をどうにかしてしまうのがよさそうですね」

 

私たちの報告に、百ちゃんが頷いて方針を口にした。

皆も小さく頷いている。

梅雨ちゃんの防寒対策も抜本的に見直して、既にホッカイロとか発熱繊維のインナーとか、厚手の手袋やマフラーとかでゴテゴテの重武装にされていた。

梅雨ちゃんももともと1枚はちゃんと発熱繊維のインナーを着ていたと思うけど、百ちゃんが作ってさらに増量したらしい。

これで大丈夫だといいけど……

そう思った瞬間、少しずつ近づいてきていた毛むくじゃらのゴリラのような機械が、大きく跳躍した。

 

「っ!?跳んだっ!!」

 

「今すぐテントでてっ!!ここに降ってくるっ!!」

 

私と響香ちゃんの同時の警告に、皆個性を使ってテントを破壊したりしながら四方八方に飛び退いた。

一気に吹雪の中に身体を晒すことになって、刺すような冷たい風が身体に突き刺さる。

それと同時に、テント中央にあった暖房の真上あたりに、白い毛むくじゃらのゴリラが降ってきた。

 

「ちょっ!?なにあれっ!!?」

 

「イエティ!?イエティじゃないのっ!?」

 

『これがさっきから言ってた機械っ!!思った以上の運動性能してる!!注意して!!』

 

叫んでいると思われる驚愕の声が小さく聞こえてしまうくらいの吹雪の音を考慮して、伝えるべき情報は、複数人を対象にしたテレパスで伝える。

オセオンで咄嗟にとはいっても意図をちゃんと伝えられる程度の精度で複数人にテレパスが出来てから、頑張って練習したのだ。

多少ノイズは混ざるけど、それでも確かに複数人にテレパスできるようになっていた。

皆も私のテレパスに反応してる思考をしてるから、間違いなく伝わっている。

梅雨ちゃんも、若干朦朧とはしてるみたいだけど眠ってはいなかった。

 

『波動さん!私の指示を皆さんに伝えてください!波動さんと耳郎さんはイエティの感知に集中を!見失いかねない状況です!状況を見て位置を波動さんのテレパスで伝えてください!このイエティ、尋常ではない力と速さのようですが、麗日さんが触れることが出来ればそれも無力化できます!私と芦戸さん、蛙吹さん、葉隠さんで同時に襲撃をかけ、その隙に麗日さんに触れてもらいます!襲撃の合図は、波動さんにおまかせします!』

 

『分かった……任せて……!』

 

私はすぐに皆に百ちゃんから読心した内容を皆にテレパスした。

百ちゃんにも伝えている。この方が伝わったことが分かりやすいと思うし。

百ちゃん、多分梅雨ちゃんが普段通りのコンディションだったらお茶子ちゃんとの連携を指示してたかな。

今の状態だと厳しいと判断したのか、負担の少ない一斉襲撃の方に割り振ったみたいだけど。

 

私と響香ちゃんはそのまま感知を続ける。

今はまだ皆見える位置にいるから、イエティを見失ったりはしてない。

イエティを囲むように7人で周囲に散らばって、イエティとにらみ合っていた。

 

『今っ……!!』

 

私がテレパスで合図を出すと同時に、百ちゃん、三奈ちゃん、梅雨ちゃん、透ちゃんが一斉に襲い掛かった。

百ちゃんは振り回しやすそうなサイズの棒、三奈ちゃんはアシッドマン、梅雨ちゃんは舌、透ちゃんは輝く拳で襲い掛かっている。

透ちゃんのそれはおそらく少しでもイエティの意識を逸らす意味合いだろうか。

 

イエティはそんなの気にした様子もなく、拳を周囲に振り回し4人をあしらった。

だけど、その隙にお茶子ちゃんがイエティが伸ばした手に近づいていた。

ポンとお茶子ちゃんが手で触れると、イエティは浮かび上がっていった。

……遠距離攻撃を持ってなければ、これで終わりかな。

そう思った瞬間、急に吹雪がやんでアナウンスが響き渡った。

 

『訓練終了だ。おつかれさん』

 

「お、終わったー」

 

「2体とかいなくて良かった……」

 

先生のいつも通りな声に、皆安堵の息を漏らす。

先生はそんな様子を気にすることなく話を続けた。

 

『お前らも予想していた通り、春休みの特別授業だ。今回は八百万と波動の察しの良さもあってそこまで悪条件での遭遇とはならなかったが、各自反省点はあったはずだ。各々反省点、改善点をレポートにまとめて後日提出するように。それから、他の生徒にはこの授業のことは絶対に漏らすな。残りの生徒も順次同じ授業をするからな。あと、24時間経つまで扉が開かないのは変わらない。新しいテントをその近辺に用意するから、今夜はそのまま泊まれ。以上』

 

そこまで言って先生からの通信は切れた。

通信の終了と合わせるように、どんな仕掛けなのか分からないけど新しいテントが地面からせり出してきている。

今夜はそこで寝ろってことか。

そう思って、各自の荷物を整理してから、私が皆を誘導した。

皆ちょっと疲れていたけど、笑顔で話しながらの移動だったしそこまで苦でもなかった。

梅雨ちゃんは色々思うところがあったみたいだけど、それは多分今後に活かしてくれるだろう。

流石にあんまり眠れてなくて眠いし、もうひと眠りさせてもらおう。

朝食のことはまた後で考えればいいや。

そう思いながら、皆でまたテントに入って、軽くおしゃべりしながら眠りについた。

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