雪山キャンプの2日後。
あの後、青山くんにはすぐにテレパスをして腕輪のことの口裏合わせはしておいた。
パワーローダー先生にも伝えたから、一応は大丈夫だと思いたい。
透ちゃんたちも聞く相手が男子だし、人が多いところで聞き出そうとするつもりはなさそう。
この感じだと、次インターンに行った時だろうか。
とりあえずあとは青山くんに頑張ってもらうしかない。
そんなこんなで数日を過ごして、今、私と透ちゃんはオールマイトから極秘の依頼を受けて、教師寮に対するスニーキングミッションに勤しんでいた。
「じゃあ行ってくるね!指示よろしく!」
「ん……任せて……!」
サムズアップしてくる透ちゃんに、私もグッと親指を立ててサムズアップを返す。
それを確認した上で、明日のインターンの為に寮に持ち込んでいたコスチュームで肉眼では見えない状態になっていた透ちゃんは、スタスタと歩いて教師寮に向かっていった。
まあ極秘とはいってもオールマイトが校長先生には話を通してくれてるし、許可自体は取れている。
というよりも、トガ対策のセキュリティ破りをしようとしてるのに、許可を取らないのはまずい。
私と透ちゃんが連携しちゃうとサーモグラフィーを用いたセンサーでもない限り見破ることなんて出来ないだろうし。
自分で提案したのはあったんだろうけど、何やらオールマイトも相澤先生や私たちと仲良くなるために一緒にサプライズをしたいってことで気合を入れていたし、協力を惜しむ様子はなかった。
『透ちゃん……入ったら3階に上がって……共有スペースにエリちゃんと13号先生がいるから注意……』
『了解!エレベーター乗る時は仕方ないけど、それ以外は気配消して頑張るよ!』
透ちゃんが、サササッと忍び足で移動していく。
エリちゃんはおろか、13号先生も気付いた様子はない。
エレベーターのドアが開いた瞬間だけちょっと不思議そうにしてたけど、特にそれ以上の反応はなかった。
まあエレベーターが誰もいない状況で開くのって、ボタンの押し間違いとかでもあり得るからそんなに不思議なことじゃない。
透ちゃんはそのまま廊下を進んでいって、透ちゃんは相澤先生の部屋のすぐ近くで待機する。
そのまましばらく待っていると、さっきまで校舎の方に来ていた先生だったけど、エリちゃんの様子を見に戻ってきていたみたいだった。
『動き出した……10秒くらいで出てくるよ……準備して……』
『よ~し、気合入れちゃうよ~!』
『……入れすぎて……失敗しないようにね……』
『その辺は私の腕の見せ所だよ瑠璃ちゃん!!』
透ちゃんは声には出してないけど、うおおおおおおお!!って感じのいつもの気合の入れ方を頭の中でしている。
少しして、先生が自室のドアから出てきた。
そして、扉が閉まり切る前に先生の脇を通り過ぎた透ちゃんは、無事に先生の部屋に潜り込んだ。
先生は気付かなかったみたいで、そのまま扉の鍵を閉めるとエリちゃんのところに向かっていった。
『寝袋は……普通に机の近くにかけてある……構造はもう見てあるから……細かいサイズだけ確認して……』
『うん!ちゃんとメジャー持ってきてるから!ササッと測っちゃうよ!』
透ちゃんは意気揚々と寝袋のサイズを測定していく。
相澤先生は13号先生とエリちゃんのところに合流してお話している。
このままいけば大丈夫かな。
出た後の戸締りに関しては、校長先生にテレパスをすれば監視ロボットを操作して閉めてくれるっていってたし、もう任せてしまおう。
その後、しっかり隅々までサイズを測って、透ちゃんは先生の部屋を出た。
エレベーターで1階に下りたタイミングで、13号先生が流石に2回目はおかしいのでは?ってことで色々確認してたけど、透ちゃんはササッと離脱してるし特にバレることはなくミッションも完了した。
透ちゃんと一緒にミッション完了を皆に伝えに行ったら、何やらワチャワチャと騒いでいた。
……何してるんだろう。
いや、思考を読んで分かったけど、皆はなんで他人のタイムカプセルを暴こうとしてるんだ。
「あれ?皆何してるのー?」
「あ、おかえり葉隠!波動!」
声を掛けたら三奈ちゃんがいい笑顔で出迎えてくれた。
だけどこの状況はなんだ。謎過ぎる。
「なんで……他人のタイムカプセル……暴こうとしてるの……?」
「いや、掃除してたらマイク先生がタイムカプセルがあるぞって言ってきたんだよ」
一応、今日は来年度に向けて、皆で分担して大掃除している日でもある。
私と透ちゃんはその隙を突いて抜け出した感じだった。
まあ、オールマイトと校長先生、A組の皆も知ってることだから問題ない。
「タイムカプセル?」
「そうそう!先生たちが学生のころに埋めたやつなんだって!なんかもう爆弾級でドッカーン!!って感じらしくてね!?」
三奈ちゃんが興奮気味で話しかけてくる。
これは、マイク先生と相澤先生に吹っ掛けられてるな。
とりあえず、森の方に埋まってるやつがそれっぽいとは思う。
ただ、中身は普通の本とかCD、捕縛布に誰かのコスチュームっぽい何か、それに、白雲さんと相澤先生、マイク先生が3人で写っている写真とかが入っていた。
……特にびっくりするようなものはないし、私たちが暴くべきじゃないな。
先生たちに場所を教えて、私たちは手を引くべきだ。
大事な写真が入ってるし、他人が触れていい物じゃない。
「タイムカプセル……見つけたけど……中身……普通だよ……?捕縛布とか……本とか……CDとか……写真とか……面白味は……あんまりないと思う……」
「え?でも爆弾級だって……」
「……特に目を見張るもの……ない……とりあえず……場所は先生に伝えとくね……」
「え~、なんだぁ」
私が中身をばらすと、皆あからさまにがっかりしだしてしまった。
そんなに楽しみだったのか、タイムカプセル。
まぁいいかと思いながら、マイク先生にタイムカプセルの位置だけテレパスで伝えてしまう。
そんなことをしている間に、透ちゃんが明るい笑顔でスニーキングミッションの成功を報告していた。
「あ、でもね!そっちは残念だったけど、ミッションはこなしてきたよ!サイズもばっちり測ってきた!」
「ほんと!?よかったぁ。これで設計に入れるよ」
緑谷くんがガバっと反応して、構想を練り始めている。
次の段階は緑谷くんと百ちゃん任せなところがあるし、それを待ってから女子と男子に分かれて作業だ。
とりあえず指示された位置の大掃除を終わらせてから、まとめた情報を緑谷くんに渡して設計してもらおう。
緑谷くんがマイ活なるものをしながらではあったけど、そんなに遅くなることもなく設計図を上げてくれた。
百ちゃんもいい感じの材料を出してくれたから、次は女子の出番だ。
「どう?きれいに縫えてる?」
「とても上手よ」
「みんなで裁縫するのって楽しいね!」
「ね……梅雨ちゃん……ここの縫い方って……」
「ケロ、そこはね―――……」
家族の服のほつれとかを直してあげていたらしい梅雨ちゃんの指導を受けながら、皆で縫製を進めていく。
……それにしても、響香ちゃんのイヤホンジャック、器用な動きするなぁと思ってたけど、ここまで器用だとは思ってなかった。
針にイヤホンジャックを巻き付けて、手を使わないで縫っていってるし。
そんな様子を見ながら梅雨ちゃんに教わっていたら、百ちゃんがティーポットとかを持ってキッチンから出てきた。
「皆さん、お茶が入ったので一休みしませんか?」
「やったー!」
「ありがとヤオモモ」
「……匂いからして……ルイボスティー……?」
「ええ!ノンカフェインで夜にぴったりですわ!」
百ちゃんが気を利かせてノンカフェインのあったかい飲み物を入れてくれていた。
ちょっと休憩と思って針とかを置いてのんびりとルイボスティーを飲み始める。
「進み具合はどうですの?」
「それぞれのペースで進んでるよ!」
「ん……順調……この調子でいけば……数日もすればできる……」
百ちゃんの質問に答えながら作業を続けている透ちゃんの方を見ると、梅雨ちゃんに質問しているところだった。
「ねえ、布地が固くて針が通らないよー」
「そういうときは指抜きを使うのよ」
「おー、なるほど。さっすが梅雨お姉ちゃん!」
透ちゃんが嬉しそうな顔で梅雨ちゃんにお礼を言っている。
その横で、響香ちゃんがぼやくように呟いていた。
「普段から縫い物してないと難しいかも……」
「ボタンつけくらいはできるんやけどね」
響香ちゃんの声にお茶子ちゃんが反応したところで、三奈ちゃんの目がキラリと輝く。
「へえー今度コスチュームのほつれとか直してあげなよ……緑谷の!」
「ぶっ!?」
「喜んでくれると思うよー」
「なんでデクくん限定!?」
三奈ちゃんは相変わらずだなぁなんて思って眺めていた次の瞬間、ようやく気が付いた。
やばい、気が抜けてた。
相澤先生が近づいてきてる。
「み、皆……!先生が近づいてきてる……!隠して「おい、そろそろ寝ろ。もう遅いぞ」
「わぁーーーーーっ!?」
私が声をかけると同時に、皆大急ぎで先生が来るであろう入口からは見えない位置に布地とかを隠した。
私の声を遮るように登場した相澤先生に、お茶子ちゃんが思わず大声をあげてしまっている。
「せ……先生、今日はお休みでは!?」
「見回りだ。カメラの映像見たら教師寮で明らかに不審な動きしてるところがあったからな」
相澤先生が、思いっきり透ちゃんを見ながらそう言った。
エレベーターのくだりで疑いをもたれたっぽい。
カメラの映像を見られたとなると、もしかして先生の部屋の扉が誰も映ってないのに開いたのも見られたか。
先生もまだ確信を持てなくて、念の為ってことで見回りを強化してるだけっぽいけど……誤魔化すべきだな。うん。
「……そうなんですか……?今日……不審な「そ、そうなんですねー!私たちも気を付けます!」
私が誤魔化そうとしたところで、透ちゃんに口を塞がれた。
余計なことは言うべきじゃないと思ったらしい。
誤魔化すべきか黙殺するべきか、なんとも言えない所だ。
とりあえずその場は誤魔化しながら部屋に戻るお茶子ちゃんたちと一緒に、ストトトっと部屋に戻った。
それから部屋で集まって裁縫を続けたり、次の日もインターンが無い人で協力して進めたりして、緑谷くんの設計図通りに完成した。
中々の出来だ。
ほとんど素人のメンバーが協力して作ったとは思えない出来をしている。
これは梅雨ちゃんの頑張りのおかげだなと思えた。
そして私たちが完成させたその日、男子たちが帰ってきた。
男子たち、というよりも爆豪くん、上鳴くん、轟くん、飯田くん、切島くん、緑谷くんの6人が、雪山キャンプから帰ってきた。
彼らは今日、私たちがキャンプしたのと同じ場所で特別授業をしてきたのだ。
爆豪くんと緑谷くんが熱を出したりして大変だったみたいだけど、なんとかやり遂げたらしい。
まあそれはいいとして、彼ら6人には、百ちゃんに設計図と同じ形の寝袋をいくつか出してもらって、雪山で使い心地を試してもらう手はずになっていたのだ。
そこで使って大丈夫なら保温性とかも問題ないだろうっていう考えだった。
とりあえず、寝袋は問題なさそうな感じだったらしい。
それなら、この手作りの寝袋で大丈夫だと思うから、これを―――
その日の夜、泊りがけでインターンに行っている人もいないから、作戦を決行することになった。
決行のことはオールマイトにも伝えてあって、オールマイトも寮に来てくれていた。
先生が見回りに来るタイミングを狙って、私が皆に待機するように促しておく。
早過ぎる時間に電気も消しておいて、先生が確認に入ってくるようにして、準備はばっちりだ。
そして、寮の扉が開いた。
「……今日はえらく消灯が早いな」
先生がそう呟くと同時に、皆で隠れていたところから飛び出して、クラッカーを鳴らした。
「相澤先生!!いつもありがとう!!」
先生は呆然としたような感じで固まってしまって、反応する様子もない。
その様子を見ながら、完成品の手作り寝袋を先生の後ろからすっぽりと被せた。
被せると同時に、三奈ちゃんが正面のチャックを一気に上げる。
「我々からのぬくいプレゼントです!」
「……寝袋?」
そこで、ようやく先生は再起動した。
それを確認してから、皆が矢継ぎ早に説明し始めた。
「透ちゃんと瑠璃ちゃんが先生の睡眠環境を調査!」
「緑谷が設計して」
「ヤオモモが素材作ってー」
「私たちがチクチクしてー」
「爆豪たちが耐久テストしたんだぜ!雪山キャンプのついでだ!」
「言い出しっぺはオールマイトです!」
「何かこそこそしてると思ったら、そういうことか。学生時代の時間は貴重。余暇は自己研鑽に使うべきだ」
先生は、説明を聞いて素っ気なさそうな感じでそう返してきた。
「相澤くんは手厳しいな」
「それも分かるけど!」
「もっと喜んでいいのよ!?」
皆はその言葉をそのまま受け取ってるみたいだけど、そうでもない。
先生の感情は、喜びに満ちていた。
先生の「だが―――温かいな」っていう呟きが皆に聞こえたかは分からないけど、先生がこんなに喜んでくれたなら、頑張った甲斐があったかなと思った。