波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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少女の特訓の日々と着物

今日も今日とて教師寮でエリちゃんのトレーニングに付き合っていた。

エリちゃん以外にいるのは私と通形さん、相澤先生の3人だ。

緑谷くんは前回はいたけど、今回は爆豪くん、オールマイトと一緒にトレーニングをしている。

私はどっちに参加するか若干迷った結果、緑谷くんとも話してエリちゃんの方に参加することにした。

もう何回もこうしてトレーニングをしてきたからか、エリちゃんも少しずつではあるけど慣れてきている感じはする。

今もエリちゃんの額の角が光っていて、萎れていた花が生き生きと咲き誇っている状態まで戻っていった。

 

「……はふっ」

 

エリちゃんはパッと手を離すと、緊張から解放されたように息を吐いた。

そんなエリちゃんに対して、満面の笑みを浮かべた通形さんが声をかけた。

 

「すごいすごい!植物はもうすっかりお手の物だね!」

 

「ん……狙った段階に……ちゃんと戻せてる……ばっちりだね……」

 

私と通形さんがエリちゃんを褒めると、エリちゃんは嬉しそうに笑った。

 

「それじゃ……次は昆虫行ってみよう」

 

そう言って相澤先生は、足の取れてしまった昆虫を持ってきた。

訓練は大体植物、昆虫とかの小さな生き物、トカゲとかの虫以外の生き物と進んでいく。

エリちゃんはもう虫とかまでは結構ちゃんと戻せるようになっているのだ。

実際今も通形さんに励まされながら、自分に言い聞かせるようにして頭の中で『だいじょうぶ……だいじょうぶ……足を治してあげるだけ……』なんて考えながら個性を使っている。

その制御もばっちりで、取れた足が生えたところでちゃんと止まった。

 

「やったね!ほら、虫も元気になったよ!」

 

「よかったぁ……」

 

「じゃあ……虫さんも元気になったし……逃がしてあげちゃうね……」

 

「うん!」

 

「昆虫の巻き戻しも慣れてきたね」

 

虫かごを持って、窓から寮の裏にある木とかがあるエリアに放してあげてしまう。

エリちゃんも、自分が治療してあげた虫が元気に飛んでいく姿を嬉しそうに見ていた。

ここまではエリちゃんも順調にいくのだ。

最近の虫の巻き戻しの成功率は、ほぼ100%と言っていい。

問題はトカゲとかの、昆虫以外の生き物の方。

こっちの成功率はまだ半々程度なのだ。

今も先生が「それじゃ次はトカゲ……」と言いかけると、エリちゃんは明らかに緊張した様子で身体を固くした。

通形さんが最近自分を巻き戻してもらうことを考えているけど、その賭けに出るにしても、エリちゃんの技量面も心情面ももう少し待った方がよさそうだった。

 

「……少し休憩しようか?」

 

「……がんばる」

 

先生が尋ねると、エリちゃんは戸惑うような様子を見せたけど、首をぶんぶんと振って気合を入れなおした。

目の前に出されたトカゲは、尻尾が切れた状態ではあるけど、ケースの中を元気に走り回っていた。

エリちゃんはトカゲに手を触れて集中しようとしているけど、なかなか個性が発動しない。

明らかにトラウマのせいで硬くなっていた。

今も一息入れて深呼吸して集中しなおそうとしている。

そこまでは良かったんだけど、エリちゃんがもう一度トカゲに手を触れようとすると、トカゲはエリちゃんの手の上に乗って、そのまま腕を走り出してしまった。

 

「わっ……!?」

 

驚いたエリちゃんは咄嗟にトカゲを掴んで強く握りしめてしまっている。

これが良くなかったんだろう。

一気に個性が発動してしまった。

尻尾が生えるだけじゃない。

そのままどんどんトカゲが小さくなっていく。

 

『―――お父さんっ』

 

エリちゃんの思考には、消してしまった父親のことが、ありありと浮かべられていた。

先生がすぐに抹消で止めてあげているけど、トカゲは指先に乗る程度の赤ちゃんくらいの大きさになってしまっていた。

 

「ごめん……なさい……」

 

「こういうときもあるさ!そのための特訓だ!」

 

「少し休憩しよう」

 

「……ううんっ、やり……ます……」

 

「でも」

 

「だ……だいじょうぶ……」

 

通形さんが励ましたり、先生が休憩を提案しているけど、エリちゃんの思考は恐慌状態に陥っていた。

それなのに、焦りとか、申し訳なさとか、そういう感情もあって、必死で自分に大丈夫と言い聞かせながら特訓を続けようとしている。

こんな状態で練習しちゃダメだ。

上手くできるわけがないし、失敗が積み重なってさらにひどくなるだけでしかない。

そう思って私は、仕方なく別の虫を持ってこようとしていた先生を手で制して、エリちゃんを抱き上げた。

 

「ダメ……休憩しよ……」

 

「だ、だいじょうぶ……できるから……」

 

「ダメだよ……頭の中がお父さんのことでいっぱいになってる……焦り、恐怖、私たちに対する申し訳なさ……こんな状態で自分に大丈夫って言い聞かせても……悪影響しかない……気分転換しよ……」

 

「……ごめん……なさい……」

 

「謝らないで……エリちゃんがつらいのを隠して無理しても……私たちは悲しいだけだから……エリちゃん、十分頑張ってるから……」

 

私がそのままエリちゃんを抱きしめながら頭を撫でると、エリちゃんも私に縋りつくように抱き着いてきた。

 

 

 

そのまましばらくエリちゃんの頭を撫でていると、寮の入り口からミッドナイト先生が意気揚々と入ってきた。

手に持っているのは着物だ。

少し前に、ミッドナイト先生と13号先生とかが、エリちゃんの七五三をしようと話していた気がするから、その着物かな。

女性の先生2人が凄いテンションの思考になっていたのと、最近は満年齢でやるのが主流だと思うのに、数え年で計算してエリちゃんなら満1歳と満5歳で七五三をしてないとおかしい!って思考が結構うるさかったからよく覚えてる。

とにもかくにも、七五三は女の子なら、満年齢でやっていたとしても、3歳と7歳でやるはずだ。

エリちゃんの年だともう七五三はしてないとおかしいはずだけど、少なくともエリちゃんの記憶には残っていないらしい。

今までの状況も考えて、じゃあやってないんだろうということになって、11月15日はとっくに過ぎてるけどやろうということになったらしい。

そんな着物が届いたみたいだ。

これならちょうどいい気分転換になるかな。

 

「今、大丈夫?」

 

「ちょうど休憩してるところです」

 

「よかった……エリちゃん、着物が届いたわよ。ほら、これ」

 

先生が広げた着物は、色とりどりの花が咲き誇っている華やかな着物だった。

先生の思考的に、先生が昔着た着物を実家から取り寄せたみたいだ。

 

「一番にエリちゃんに見せたくて。絶対似合うわよ」

 

「わぁ……」

 

エリちゃんの目が凄く輝いている。

そんなエリちゃんの表情を見たミッドナイト先生も、すごく嬉しそうな表情をしていた。

 

「あと帯どめと髪飾りも綺麗なのよ」

 

「すごいな~!ミッドナイトが七五三で着たものですか?」

 

「そうなの。物持ちいいでしょ」

 

「すごいです……私は……どこにしまってあるかすら……分からないですし……」

 

「波動さんも、きっとご両親が大事に取っておいてくれてるんじゃないかしら?こういうのって大切な思い出でもあるし」

 

私が思わずつぶやくと、ミッドナイト先生が微笑みながらそう言ってくれた。

大切な思い出……なんだろうか。

私もその頃はまだスレてなかったはずだし、お姉ちゃんと一緒に走り回ってる感じの写真がいっぱいあったから、多分そうなんだろうか。

怖がられた時に捨てられたりしてなければ、あるのかもしれない。

お父さんもお母さんも、思い出の物を勝手に売ったり譲ったりする人じゃないし。

私がそんなことを考えていると、ミッドナイト先生の返答を聞いていたエリちゃんの思考が、さっきまでの物とは変わっていた。

喜色満面といった感じの思考から、『……わたしがきてもいいのかな……?』なんてものになってしまっている。

人の大事なものに触れるのが怖い感じかな。

生き物しか巻き戻せないとはいっても、それだけトラウマになっているってことなんだろう。

 

「エリちゃん……遠慮する必要……ないんだよ……?先生も……そのつもりで持ってきてくれてるし……」

 

「ぁ、ぅ……あの、わたし……ひとりでおさんぽしてくる……」

 

エリちゃんはそのまま私の腕から抜け出すと、寮の外に駆けて行ってしまった。

 

「……エリちゃん、もしかして迷惑だったかしら」

 

ミッドナイト先生が、少し気落ちした感じで寂しそうな笑顔を浮かべていた。

そんなことはないんだけどな。

エリちゃん、間違いなく着物を見て喜んでたし。

 

「俺、ちょっと様子見てくるよ!」

 

「あ、通形さん……エリちゃん、校舎の陰から……猫を追って森林地区に向かってます……!心操くんも近くにいるので……一応、大丈夫だとは思いますけど……」

 

「心操くん?」

 

「捕縛布を首に巻いてるので分かると思います……普通科ですけど……相澤先生から直接指導してもらってる人なので……悪い人ではないです……」

 

「そっか!じゃあちょっと行ってくるよ!」

 

通形さんはそのままササッと走り出していった。

私はミッドナイト先生のメンタルケアをしておくかな。

今のエリちゃんの、『出来なかったらどうしよう』とか、『ミリオさんの"個性"を戻したい』とか、『出来なかったらまた別の場所に行かなきゃいけないのかな』とか考えている状態だと、大人数で囲むのは悪手だと思う。

それなら、今エリちゃんが一番役に立ちたがっている通形さんが行くのが一番だと思うし。

 

「先生……エリちゃん……別に嫌がってたわけじゃないですよ……」

 

「……そうなの?」

 

「はい……人の大事なものを使わせてもらうことを……躊躇しただけです……着物自体には……すごく嬉しそうな思考してましたし……」

 

「……そっか。それなら、エリちゃんが戻って来たら、エリちゃんと相談してどうするか決めましょっか」

 

「それがいいと思います……」

 

先生も納得してくれたみたいだし、これで安心かな。

 

「ふふ、それと、波動さんにもいろいろ協力してもらおうかしら。エリちゃん、波動さんたち姉妹にだいぶ懐いてるみたいだし」

 

「はい……喜んで協力します……料理でも……なんでも言ってください……着付けはできませんけど……」

 

「そのあたりは私がするから安心していいわよ」

 

私と、あとはお姉ちゃんやお茶子ちゃんたちも呼びたい感じかな。

エリちゃんと接点のある女子生徒を呼びたそうにしている。

着物を着たエリちゃんと、そういう会を楽しむのもいいかもしれない。私も楽しみだ。

 

 

 

しばらくしてから、通形さんとエリちゃんは戻ってきた。

エリちゃんの手には怪我をした子猫が抱えられている。

 

「あ、あの、ねこちゃん、ケガしちゃってて」

 

「酷い傷ね……でも確か、リカバリーガールは今日帰ってくるの、遅くなるんじゃなかったかしら」

 

「先生、エリちゃんがわざわざここに連れてきたの、そういう意味じゃないんです」

 

リカバリーガールの不在を思い出しながらどうするか対応を考えるミッドナイト先生を、通形さんが制した。

そんな通形さんの足元で、エリちゃんが気合を入れた表情で口を開いた。

 

「わ、わたし、救けたいっ……です……!わたしの個性で……!」

 

エリちゃんの決意の声を受けて、ミッドナイト先生と相澤先生が顔を見合わせていた。

少しして、相澤先生がエリちゃんに対してしっかりと頷いて許可を出した。

 

「ねこちゃん……だいじょうぶだよ……」

 

エリちゃんが、腕の中の子猫を安心させるように話しかけている。

エリちゃんは、傷付いて泣いている子猫の痛みを取ってあげたいと、心から願っていた。

自分の『だいじょうぶ……だいじょうぶ……』と言い聞かせる思考の中に、緑谷くんの声で『大丈夫!!』なんていう声まで聞こえてきた。

さっき緑谷くんの特訓を覗いてたみたいだから、その時に言っていた言葉だろうか。

会話までちゃんと見ようとしてなかったから分からない。

それでも、エリちゃんはその言葉にとても勇気付けられていた。

 

「―――だいじょうぶ」

 

エリちゃんが自分に言い聞かせるように呟くと、エリちゃんの角が輝き出した。

そのままゆっくりと子猫の傷が塞がっていく。

あっという間に傷は消えて、血の跡すらもなくなった。

それを見届けたエリちゃんは、優しく子猫をソファに下ろしてあげた。

 

「……はふぅ~」

 

「……やったエリちゃん!!子猫の傷が治ったよ!!」

 

通形さんがエリちゃんに喜びながら声をかけると、エリちゃんもホッとしたような笑顔を浮かべた。

子猫は最初はきょとんとしていたけど、エリちゃんの元を離れずに小さく「みゃあ」と鳴いて、エリちゃんの手をぺろぺろ舐めだしていた。

思考は、お礼を言っている感じだ。エリちゃんが傷を治してくれたと理解しているらしい。

 

「エリちゃん……その子、エリちゃんにお礼を言ってるよ……ありがとうって……痛くなくなったって……」

 

「痛いのなおった?よかったねぇ」

 

エリちゃんはふふふと笑いながら、嬉しそうにしていた。

そんな様子を、先生2人と私と通形さんも、微笑ましく眺めていた。

 

 

 

その後は子猫を放してあげたりして落ち着いてから、ミッドナイト先生がエリちゃんに七五三の話を切り出した。

エリちゃんもやりたいとはっきり言っていた。

先生が千歳飴を準備しなきゃなんて言っていて、説明されたエリちゃんが中々なくならない長い飴の魅力に涎を垂らしてしまっていたのがかわいかった。

多分準備が多少あるのと、先生たちの都合、先生が呼びたがっていたインターンをしている学生の都合があるから、すぐにはできないと思う。

だけど、当日はお赤飯とかエリちゃんでも食べられそうな鯛を使った料理でも作ろうかななんて考えながら、期待に胸を膨らませていた。




この話でOVA、映画、アニオリ、雄英白書、チームアップミッション、スマッシュ(原作単行本に載っていた葉隠回のみですが)を整合性取りつつ入れられるものは全て入れきりました
あとは原作を突っ走るのみになります

以下入れなかった話と理由
OVA
Training of the Dead
瑠璃が発狂しかねない、脳無で錯乱した説得力が低下する
HLB
唐突すぎる、情勢的にやらなそう
笑え!地獄のように
インターンがエンデヴァー事務所じゃないため絡ませづらい、出してもテレビ等を見て爆笑するだけ

映画
来場者特典二人の英雄、ヒーローズ・ライジング
年代が違う、瑠璃視点で入れられない

アニオリ
5期水着回など
瑠璃視点のため苦渋の決断でカット
その他も概ね瑠璃視点のため

雄英白書
教師視点の飲み会全て、B組の文化祭の出し物
瑠璃視点のため
UAクエスト
別次元過ぎる

チームアップミッション
ミッション系は整合性取れないため全切り
その他1〜4巻でギャグに振り過ぎてる、時期や情勢的にやらないでしょって話はカット
5巻の餅つきは単行本派のため間に合わない+この時期に詰め込みすぎると冗長になる、体験入学はすでに入れられる時期を過ぎてました

スマッシュ
ギャグに振り過ぎててほぼ入れられない

ヴィジランテ
年代が違う
キャラとか関係性の匂わせのみになりました

キャラブックの麗日爆豪の話
瑠璃の席が挟まったことにより消滅

BD特典のドラマCD関連
悩んだ結果、知らない人多そうだし今以上に冗長になるので全切りしました
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