波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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要請

3月も下旬に差し掛かってきて、そろそろお姉ちゃんたちの卒業式だと思っていた頃。

その連絡は、ついに来てしまった。

インターンの、遠征の連絡。

私だけならなんてことはない、いつも通りのミルコさんの指示でしかない。

だけど、その遠征の連絡が、全員に来ていたのだ。

 

「今度のインターン遠征だって」

 

「あら本当ね」

 

「梅雨ちゃんたちも?まじで?俺らも俺らも!」

 

「僕たちもその日遠征だよ!?」

 

「私たちもだよ!?え~~~!?なんだろうね!?」

 

「待ってウチも」

 

「俺もだ」

 

皆もこの異常な状態に気が付いたようで、口々にその疑問を口にしていた。

 

「瑠璃ちゃんも同じ日に遠征入ってる?」

 

「……ん……私も遠征……」

 

透ちゃんに確認されたから、一応私も同意しておく。

でも、皆不思議そうに話し合っているけど、そんな面白いような話じゃない。

むしろ……

そう思っていたところで、寮の扉が開いて相澤先生が入ってきた。

 

「常闇、上鳴、波動。話がある。ついてこい」

 

「へ?今から?」

 

「……分かりました……ごめん、上鳴くん……大事な話……黙ってついてきて……」

 

「え、いや、別に嫌なわけじゃねーからいいんだけどさ……」

 

「行くぞ。上鳴」

 

上鳴くんがもう夕方なのに今からの呼び出しに疑問符を浮かべている。

でも、この後の説明に時間をかけるべきだし時間が惜しい。

常闇くんは私と先生の様子から色々察したっぽい。

特に拒否している様子もなく、上鳴くんに歩き出すように促してくれていた。

残された皆の心配そうな視線を受けながら、先生に続いて寮を出た。

 

 

 

例の窓がない職員会議をよくしている部屋まで通された。

部屋の中には、先生たちはもちろん、骨抜くんに小森さん、あとは天喰さんも来ていた。

集まっている先生たちは全員深刻な表情をしている。

先生たちは何かあった時の保険としてでも学徒動員されることに憤っていたのに、これから生徒にヴィランとの決戦で最前線に出てほしいなんてお願いしないといけないから、当然のことではあるんだけど……

 

「揃ったね。じゃあ話を始めようか。相澤くん、お願いするよ」

 

校長先生が小さな手を挙げながら、相澤先生に話を振った。

相澤先生も、席の方まで移動してから話を始めた。

 

「6人とも、既に次回インターンの遠征の知らせは受けたな」

 

「ぜ、全員同じ日に遠征になってたやつのことですよね……?」

 

上鳴くんが恐る恐る先生に尋ねる。

この不穏な状況から、只事ではないことは察したみたいだった。

先生は静かにその問いに頷いた。

 

「そうだ。その日のことで、おまえたちを呼んだ。波動はもう察しているようだが、他の者にも理解した上で返事をもらいたい。一から説明していく」

 

「はい……私は気にしないでください……ちゃんと理解してからじゃないと……出来ない話なので……」

 

私が答えると、先生は小さく頷いてから話し出した。

 

「ここで聞いた内容は他言無用だ。情報が漏れれば作戦の成否に関わる。いいな?」

 

先生の言葉に、私を含めた6人は小さく頷いた。

 

「単刀直入に言う。今回の遠征は、ヴィラン連合との決戦になる」

 

「ヴィ、ヴィラン連合!?」

 

私以外は、天喰さんも含めて驚愕したような表情になった。

 

「ああ。12月にあった泥花市の件は覚えているな?もともと泥花市には、異能解放軍……10万以上の信者を擁する組織で、プロヒーローすらも協力しているものがいたほどの組織が存在した。それが、ヴィラン連合との抗争の末、10万以上の兵力をそのままに、ヴィラン連合に吸収された。やつらは超常解放戦線を名乗る、一大組織に成長したんだ。そのヴィラン組織の決起が、4月に予定されていることが分かった」

 

「決起って……」

 

「超常解放戦線による、一斉蜂起だ。ヴィラン連合のヴィランたちや、複数個性を持つ脳無、それに、元異能解放軍の10万の人員が、全国で一斉に蜂起するそうだ」

 

「そ、そんなことになったら……」

 

「それは、信頼性の高い情報なんですか?そんな情報が、どこから……」

 

天喰さんが、震える声で冷や汗を流しながら先生に尋ねた。

……先生たちは、情報源を知らない。

私は知っているけど、言うべきじゃない。

たとえ常闇くんが、ホークスが何をしているのか知りたがっていたとしても、言っていいことじゃない。

 

「それは俺たちにも分からない。俺たちプロヒーローにも、この情報とともに、当日の指示の連絡が来たばかりだ。ついさっきまで緊急の職員会議をしていたくらいでな……まあそんなことはいい。ここから先が問題だ。ヴィラン連合の質と、異能解放軍の数があわさってしまったこの状況は、最悪と言っていい。そんな集団が決起するのを許してしまったら、それこそ対処のしようがない。そこで公安委員会は、超常解放戦線への一斉襲撃の作戦を立案した。それがこの遠征だ」

 

「一斉、襲撃?」

 

「……そのような作戦が立案されるということは、敵の拠点がつかめているということですか?」

 

「全国各地に中、小規模の拠点が点在している。具体的な言及はここでは避けるが、特に大きい拠点は、襲撃当日に集会が予定されているらしい場所と、脳無の生産工場であると疑われている場所。この2か所になる。当日は、全国ほぼすべてのヒーローがこの襲撃に参加することになる。それだけ敵の数が多いからな。そして……」

 

先生が言葉に詰まった。

流石に、先生の口から学徒動員なんて言いづらいか。

そう思って、私が言葉を引き継いだ。

 

「ヒーローを全員動員する関係上……どうしても何かあった時の保険が必要になる……その保険に……ヒーロー科の学生が充てられる……インターンを全員に強制したのは……この学徒動員の準備……」

 

「なっ!?」

 

「学徒動員って……」

 

「……それは学生全体の話だろう。それでは、俺たちだけをここに呼ぶ理由がない」

 

さっきの私と先生の様子から薄々察しているらしい常闇くんが、端的に指摘する。

実際その通りで、ここまでの説明だけだと私たち6人だけを呼ぶ理由がない。

 

「……そうだ。お前たち6人には、公安から別の要請が来ている。正直、これに関してはここにいる教師全員が、反対の立場を取りたいくらいの苦渋の決断だが……伝えざるを得ないと判断した。この話を聞いてどうするかは、お前たちに任せる……お前たち6人には、プロとともに最前線に出て欲しいという要請があった」

 

「え……」

 

「さい、ぜんせん……?」

 

骨抜くん、小森さん、上鳴くんが、完全に固まってしまった。

その様子を見て、ミッドナイト先生が心配そうな表情で声をかけた。

 

「もちろん、ずっと戦って欲しいというわけではないわ。初動で少し、力を借りたいだけだから」

 

「初動?」

 

そんな疑問の声に、オールマイトが凄く表情を歪めながら、絞り出すように声を発した。

 

「ああ。超常解放戦線の圧倒的な人数、幹部の凶悪な個性、実力……さらには脳無だ。同等以上の数と質を持つ集団を相手に、制約の多いヒーローが馬鹿正直に突っ込むだけでは、奇襲をしたとしても分が悪くてね……ヒーロー飽和社会なんて言われる状況でありながら、情けないことにヒーローの数が足りていないんだ。だから、君たちを頼るしかないと、公安は判断した。私たちも、この要請は人道からは外れているけど、納得せざるを得ない部分があると判断した。だからこそ、君たちを呼んで伝えさせてもらったんだ」

 

「な、なんで俺なんスか!?俺よりも、轟とか、爆豪とかの方が、よっぽど……」

 

上鳴くんが、取り乱しながら先生たちに問いかける。

そんな上鳴くんに対して、相澤先生が説明を引き継いだ。

 

「轟や爆豪は確かに優秀だ。だが、優秀なだけで前線に押し出そうとしているなら、俺たちは伝えることすらしないで拒否していた。そんな理由なら、プロが身体を張ればいいだけの話だ。だが、お前たちに対する要請は違う。数の差を埋めるために、広域制圧に長けた骨抜、小森、天喰。会議が行われると予測される地下、暗闇で無類の力、制圧力を発揮できる常闇。こちらの大多数を戦闘不能にされかねない敵幹部の電気系統の個性を無力化できる上鳴。波動以外は、ピンポイントでヴィランへの対応をするために要請が来ている」

 

上鳴くんも、自分に要請が来た意味を理解できたらしい。

何も言えずに震えだしてしまっていた。

そんな中、常闇くんが相澤先生に問いかけようと口を開いた。

 

「……波動以外というのは、どういうことですか?」

 

「……波動以外の5人は超常解放戦線への対応の要請だが、波動は脳無の生産工場の突入班に加わるように要請が来ている。上鳴、常闇。ナインは覚えているな」

 

「あ、あんな奴、忘れられるわけ……」

 

上鳴くんはナインへの恐怖を思い出したのか、震える声で先生に返事を返した。

 

「ナインは、AFOの個性を、不完全とはいえ移植されていた。ヴィラン連合が個性の複製をしていることも分かっている。この状況下で、死柄木がここ数か月、京都の山で強化中という情報が入ったらしい。つまり……」

 

「死柄木も、ナインと同じようにAFOの個性を奪う個性が、移植されている可能性があると……?」

 

「そうだ。死柄木の捜索は一刻を争う。もしもナインのような個性を手に入れられたら、手に負えなくなる可能性が高い。だから、波動に突入班に加わって感知で案内をするように要請が来ている」

 

その可能性の提示に、常闇くんも何も言い返すことが出来なくなってしまっていた。

私以外の学生側は、最悪の想定に絶句することしかできなくなってしまっていた。

 

「もしもこの要請を拒否するとしても、俺たちは誰一人として責めるつもりはない。その場合にも、お前たちに不利益が生じることが無いように、全力をかける。お前たち自身の意思で、どうするか決めてくれ」

 

相澤先生はそういって、私たちに判断を促した。

この場で答えを求められている。

拒否なんてされたら別の対策を考えないといけないし、時間もないから当然ではあるんだけど。

でも、私の答えはもう決まっている。

 

「……大丈夫です……私は……あらかじめ心の準備ができていたので……その要請、受けさせてもらいます……」

 

「は、波動、お前、怖くねぇのかよ?脳無の工場に突入するんだぞ!?やべぇ奴と戦わないといけないんだぞ!?俺は怖ぇよ!!ヴィランの、それも幹部と正面から向き合えなんて言われても……!」

 

恐怖心に満たされた上鳴くんが、早々に了承した私に、必死の形相で問いかけてきた。

私だって、脳無たちが蔓延っている場所に突入するのは怖い。

もしかしたら死ぬかもしれないし、死ななくても、一生障害が残るような状態になるかもしれない。

だけど、それ以上に、私はお姉ちゃんが楽しく、幸せに過ごす世界が崩壊する方が怖かった。

 

「……怖いよ……オールマイトに対抗出来たのとか……エンデヴァーをボロボロにしたのとか……あんなのを人工的に作り出してる巣窟に突入するなんて……怖いに決まってる……だけど……私がここでなにもしないで……最悪の結果になる方が……お姉ちゃんが……危険に晒される方が……怖いから……ヒーローみたいに……見知らぬ誰かの為に、なんて言えないけど……私は、お姉ちゃんの為に戦いたいから……」

 

「……"どこかの誰か"のためにっていうのが難しいから、今一番大事なものを守るために戦う。何も間違ってない。それも立派なヒーローよ」

 

「……ありがとう……ございます……」

 

ミッドナイト先生が微笑みながら言ってくれるその言葉に、ちょっとだけ気恥ずかしさを感じてしまう。

私がそんなことを考えていると、静かに聞いていた常闇くんが一歩踏み出した。

 

「俺は受けさせてもらう」

 

「俺も」

 

「……初動だけで、いいのよね。私も、受けるノコ」

 

「お、俺も、受けさせてもらいます」

 

常闇くんに続いて、骨抜くん、小森さん、天喰さんが次々と承諾していく。

一方で、上鳴くんはまだ恐怖に支配されていたけど、"大事なもの"……響香ちゃんのことを、思い浮かべ始めていた。

そして、響香ちゃんのことが浮かんだ瞬間、上鳴くんの心持ちが明らかに変わった。

 

「お、俺も……受けます。その要請」

 

頭は恐怖でいっぱいだし足は震えているけど、それでも、気になる女の子を守るために一歩踏み出してヴィランと戦うことを決意した上鳴くんは、すごくかっこよく見えた。

常闇くんも、そんな上鳴くんに対して『やはりお前は、心の底から友を想う男だ』なんて考えながら、嬉しそうに見ていた。

 

 

 

全員が要請を承諾したことで、私たちは先生から色々と注意や助言を受けた。

あとは、5人に対しては初動での対応が終わったらすぐに後方に回ってもらうとか、私に対して、相澤先生やマイク先生も一緒に来てくれるとか、少しでも不安が軽減するように色々伝えてくれて、すごく気にしてくれているのは伝わってきた。

最後に守秘義務を念押しされて話し合いは終わって、寮に戻った。

寮では皆に根掘り葉掘り聞かれそうになったけど、私たちが守秘義務で言えないって言ったらすぐに納得してくれた。

 

超常解放戦線との決戦が、もうすぐそこまで迫っていた。

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