6人全員が前線に出ることを了承してから少し時が経って、ついに明日が決行日になった。
私と常闇くん、上鳴くんは寮に戻ったら当然のように皆から質問攻めにあった。
その場は口外できないってことでなんとか誤魔化していたんだけど、翌日には皆にも最低限の情報共有が来た。
全国規模の掃討作戦が行われることと、学生は後方支援として招集していることとかだ。
もうここまで皆も知っちゃってるし、相澤先生に確認した上で、皆にも私たち3人は後方支援ではなく前線に出ることになったことを伝えた。
百ちゃんと爆豪くんは大体察しがついていたみたいだけど、他の皆はそこまでのことだとは思っていなかったみたいで、すごく心配されてしまった。
爆豪くんだけは予想が確信に変わって「なんで俺を呼ばねぇんだ」ってキレてたけど。
そんな感じの一幕があって、皆も私たちが前線に出ることはもう知っていた。
理由を詳しくは話してないけど、選出からして明らかに何らかの目的があることは予想がついていたみたいだった。
響香ちゃんが上鳴くんを特に心配してる感じになってて、これは意識してないだけで相思相愛なのでは?なんて思ったりもしたけど、口には出してない。
こういうのは自分で気付くべきだ。
皆がお茶子ちゃんを弄ってるのはお茶子ちゃん自身が自覚している恋心だからだし。
とりあえずそんなことで皆も私たちのことは知っていた。
今日は各々、明日のために英気を養ったりしていつも通り過ごしたり、思い思いに過ごしていた。
そんな折に、お姉ちゃんたちビッグスリーと、相澤先生とエリちゃんが寮に来ていた。
「はい……砂藤くんに教えてもらいながら……焼いたクッキー……美味しくできたと思うから……食べてみて……リンゴ風味だよ……」
「うん!ありがとう!」
また角が大きくなってきているエリちゃんに、袋に小分けしたクッキーを渡す。
お姉ちゃんにも当然既に渡している。
お姉ちゃんの好みに完璧に合致するように調整に調整を重ねた至高の一品だ。
クッキーに落とし込むために砂藤くんにがっつりと助言をもらってなんとか仕上げたのだ。
満足のいく出来に私もにっこりだ。
エリちゃんにあげたクッキーはエリちゃん用に調整していて、リンゴ風味で甘めのクッキーに仕上げてある。
エリちゃんもニコニコ笑顔で受け取ってくれて嬉しい。
珍しくお茶を緑谷くんが淹れてくれていたり、お茶子ちゃんがエリちゃんの髪をポニーテールにしてあげたりしていた。
お姉ちゃんも、ソファの後ろから背もたれに乗り出すようにしながらその様子を微笑ましそうに眺めている。
うん、お姉ちゃんもエリちゃんも可愛い。
髪も結い終わってクッキーを食べた始めたエリちゃんが、先生にもあげていいか確認するように見上げてきたら笑顔で頷いてあげる。
そしてちょうど先生がクッキーを取ろうとしたところで、今まで悩み続けていた通形さんが切り出した。
「バブルガールから特別に教えてもらいました。明日、全国規模の掃討作戦が行われるって……俺も、役に立ちたい」
……バブルガール……思いっきり情報漏洩してる……
いくら通形さんに対してだとしても、今の彼はインターンに行ってすらいない休学中の身。
普通にあり得ない。
しかも、プロヒーローに裏切り者がいるからって連絡手段を絞っているのにそれはちょっと……
思うところは色々あるけど、先生も何も言っていないし、余計なことは言わないことにしておくけど……
私がそんな感じのことを考えている間にも、通形さんは話し続ける。
「エリちゃんはここ2か月、虫やトカゲを対象にして、エネルギーを小出しして訓練してきた。成果はずっと横で見てきた……エリちゃん……!利用するような形ですまない……!俺に試してみてくれないか!?"巻き戻し"を……!」
通形さんはそう言って頭を下げた。
それを受けてエリちゃんは、先生の方を振り返ってやっていいかの確認をする。
先生も、特に否定することはなかった。
エリちゃんは通形さんの方に近寄ると、通形さんの顔を両手で包み込んだ。
「あやまらないで。そのために訓練したんだもん」
エリちゃんの思考に、恐怖は感じなかった。
多分、この前の猫の巻き戻しで少し自信が持てたんだと思う。
そして相澤先生が見守る中、エリちゃんは個性を使いだした。
戻す分がそんなに長くないのもあって、巻き戻し自体はすぐに終わった。
通形さんも戻りすぎたりしている様子はない。
「どう、かな……?」
エリちゃんが確かめるように通形さんに問いかける。
すると、通形さんは服だけを残して地面に沈んでいった。
「成功だ!」
「わぁあ!やったぁ!」
「よかった……」
緑谷くんがそういうのを皮切りに、お茶子ちゃんも嬉しそうに声を上げた。
エリちゃんは個性が使えているのを見て、胸を撫でおろしていた。
まあそれはいい。
だけど問題はこの後だ。
そう思った私は、エリちゃんを抱き上げて目を塞いだ。
「……?ルリさん……?」
「ちょっとだけ……待ってね……」
「瑠璃ちゃんなにして「PO-WER!!大復活だよねっ!!!」
「きゃあああああああ!!?」
当然のように、全裸の通形さんが地面からはじき出されてきた。
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんが真っ赤になった顔を手で隠してしまっている。
そんな様子は気にしないで、通形さんが私が抱きかかえているエリちゃんの方に駆け寄ってきた。
全裸で。
嬉しいのは分かるけど、せめて服を……
「ありがとうエリちゃん!!個性、また使えるようになったよ!!」
「その前に……服を……」
「あははははははっ!!通形服、服着ないと!」
お姉ちゃんが大爆笑している。
お姉ちゃんのその姿はかわいいしいいんだけど、とりあえず早く服を着て欲しかった。
私は波動で見慣れてるからそんなに困ってないけど、目の前でぶらぶらされるとか普通の女子だったら結構致命的な精神的ダメージを負うところだ。
「どうした!!?なんか悲鳴がきこえ……て…………」
お茶子ちゃんの悲鳴を聞きつけて降りてきた皆が、全裸の通形さんを見て固まってしまっていた。
響香ちゃんとか手合わせの時に直視したのを思い出して耳まで真っ赤になってしまっている。
しばらく混乱は収まらなかった。
通形さんが服を着てから少したって、騒動はようやく鎮火した。
今は通形さんがエリちゃんを拝む勢いでお礼を言っていて、エリちゃんが照れ臭そうにはにかんでいた。
「無敵の男復活だね、ミリオ」
「ああ!今まで心配かけてすまなかった!もう大丈夫!!」
「通形すっかり元気になったね!よかったー」
お姉ちゃんの思考を見る限り、通形さんはエリちゃんに頼むのをギリギリまで悩み続けていたようだった。
まあ元気になったならよかった。
通形さんの思考も歓喜に満ちてるし、それを見ているエリちゃんの思考も喜びと達成感で埋め尽くされている。
お姉ちゃんもすごく嬉しそうだし、一件落着……なのかな?
でも、このレベルの巻き戻しができるとなると、エリちゃんの重要さが凄い勢いで増してしまっている気がする。
連発できないのは難点だけど、それでも生きてさえいれば、どんな傷でも無傷に戻すことが出来る。
オールマイトみたいな特殊な事例はどうなるかが分からないけど、ナイトアイの傷なら治すことが出来る可能性があるのではないだろうか。
それに加えて、エリちゃんがミスさえしなければデメリットすらない。
治療だけじゃなくて、若返りまでできてしまう。
こんなのがヴィランにバレたら狙われるのは確実だ。
エリちゃんの護衛が必要になるかな、これは。
その後は、皆でお茶しながらのんびり休憩って感じになった。
私とお姉ちゃん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃんの女子4人でエリちゃんの髪の毛をさらに弄って、今は小さくなったけど角が伸びてる時に似合う髪型の研究をしてみたりもした。
そんなこんなで時間も過ぎて行って、もう夕方になったということもあって、各々明日に備えるってことで解散することになった。
それなのに、お姉ちゃんだけは帰ろうとしないで、私に近づいてきていた。
「瑠璃ちゃん、ちょっといいかな」
「お姉ちゃん……?大丈夫だけど……」
「じゃあこっちきて」
お姉ちゃんに連れられるままに、他の人には聞こえない位置まで移動させられる。
お姉ちゃんの思考からもう話したい内容は分かったけど、A組以外には誰も話してないはずなのにどこからその情報を知ったのだろうか。
「瑠璃ちゃん、明日、前線に出るんでしょ」
「……ん……そう、だけど……誰から聞いたの……?」
お姉ちゃんには心配を掛けたくなくて、私からは言ってない。
他の誰かがお姉ちゃんと接触して伝えたりもしてなかった。
しいて言うなら天喰さんだけど、天喰さんは性格が災いして前線に出るように言われたことを誰にも言っていなかったはずだ。
「天喰くんの様子見てれば分かるよ。天喰くん、いつも以上に口数少なかったし、呼ばれたタイミングからしてそういうことでしょ?しかも、他に誰がいたの~って聞いたら意味深に私を見てたし」
「……なるほど……」
確かにそれなら、口には出してなくてもバレるか……
「……ミルコさんたちの突入を……手伝うように言われてる……最前線に出て……死柄木を探して欲しいって……」
「やっぱり……」
お姉ちゃんの表情がちょっと曇る。
私の心配をしているのは明らかだった。
それでも、最悪な状況になっているとしか思えないんだから仕方ない。
ここで前線に出るのをやめることはできないし、やめるつもりもない。
「大丈夫だよ。やめろなんて言うつもりないから」
「……ん……そういうこと……」
溜息を吐きながら、お姉ちゃんが私が考えていることを先手を打つように否定してきた。
だけど、言いたいことはもう大体わかった。
「今までの感じからして、無理をするなって言うのが無理なのはもう分かったよ」
「……そんなこと……」
「そんなことあるの。大切な人がピンチになったりしたら、瑠璃ちゃん助けに行こうとしちゃうでしょ?」
「……それは……否定できないけど……」
透ちゃんとか、私を受け入れてくれた皆とかが死にそうにでもなっていたら、確実に私は無理をすると思う。
だけど、それはお姉ちゃんだって同じだと思う。
大切な人が死にそうになっているのに動かないなんてことは、お姉ちゃんにだってできるとは思えない。
「だから、1つだけ約束して。自分から命を捨てに行くようなことだけはしないで。あんな、自分から限界ギリギリまで放出するようなことだけは、もうしないで」
「……ん……分かった……約束する……」
私が返事をすると、お姉ちゃんは微笑みながら抱きしめてきた。
お姉ちゃんに抱きしめられるのは相変わらずあったかくて安心できる。
「頑張ってね。できれば、無理もしないでくれると嬉しいけど」
「それは約束できないけど……頑張る……」
返事に合わせて、お姉ちゃんが頭も撫でてくれる。
私も安心してお姉ちゃんを抱きしめ返していた。
しばらくそんな感じで話してから、お姉ちゃんは寮に帰っていった。
明日は作戦当日。
そう思って、改めて気を引き締めた。