波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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蛇腔総合病院

蛇腔総合病院。

殻木球大が創設し、理事長を務める病院である。

"個性に根差した地域医療"というスローガンを掲げ、設立後すぐに慈善事業に精を出している病院でもある。

全国各地に児童養護施設や介護施設の開設、個人病院と提携といったような、人道的に見ても素晴らしい行いをしている。

そんな説明がされた後、モニターには殻木球大のプロフィールが表示されていた。

それを見ながら、ロックロックが口を開いた。

 

「なぜこの男だと?」

 

「……公安からの情報と、警察が協力者から得た情報から、候補を絞った。いくつか残った選択肢の内、この病院だけには、関係者も用途を知らない立ち入り禁止の空間があった。霊安室からのみ通行可能な空間。出入りするのは殻木のみと言われている空間があるんだ」

 

「その情報だけで、本当に合っていると言えるのか?」

 

塚内警部の説明に、エンデヴァーが問いかけた。

 

「得られた情報は、京都の山、病院、年老いた背の低い男。さらに、脳無の製造に病院施設を好きに使える地位に、この年老いた背の低い男がいるであろうということを加味して絞り込んだ結果が、3つの病院だった。そこに、超小型ドローンを潜入させて、院内の構造を把握していった。その結果、蛇腔総合病院だけが、不可侵のエリアがあった。だから、ここだと考えている」

 

塚内警部は蛇腔総合病院が脳無の巣窟であると考えている理由を、つらつらと説明していった。

確かに、それならここである可能性が一番高い。

私を先立って近づけて確認させない理由が分からないけど。

 

「確認方法がドローンになった理由は。聞き込みや潜入などを行わなかった理由はなんだ」

 

「というか、死穢八斎會の地下施設をマッピングした学生がここに来てるじゃねーか。なんで確認させてないんだ?」

 

「させられるわけねぇだろうが」

 

ロックロックが塚内警部に問いかける。

そんなロックロックに対して、ミルコさんが吐き捨てるように言い放った。

ミルコさんは私に感知させない理由に思い至っているらしい。

 

「ああ。申し訳ないが、彼女はおろか、調査員すらも潜り込ませるわけにはいかなかった。ロックロック、個性の複製に関しての情報は聞いているかい?」

 

「お、おう。あれだろ、タルタロスにいるAFOが持ってるはずだった個性を使ったヴィランがいたっていう……」

 

ロックロックがそういった途端、ピクシーボブさんやマンダレイさん、虎さんが苦々しい表情をした。

どうやら、サーチの完全複製と思われる事例が発生したことを、既に知っていたらしい。

 

「そうだ。そして、その個性の複製の条件が分からないのが問題なんだ。広範囲を感知、読心できる個性の持ち主の血を、超常解放戦線側に少量取られているという、公安からの情報提供があった。この情報がある以上、少量の血から個性を複製できている可能性を考え、警戒しておく必要があったんだ。万が一思考を読まれて察知されてしまえば、作戦のすべてが瓦解してしまうからね」

 

塚内警部の説明に、ロックロックやエンデヴァーも納得しているようだった。

それにしても、公安から警察側に伝えられていたのか。

塚内警部に極秘裏に伝えたとかだろうか。

塚内警部ならオールマイトと親交が深くて、しかも黒霧を捕まえていて、私の読心もパスしてるからヴィラン連合側なのはあり得ないし。

 

「殻木球大の逮捕自体は難しくない!しかし、先走れば"戦線"の人間たちに感付かれる。我々には保須や神野のトラウマがある。都市に壊滅的な被害を受け、多くの市民やヒーローに犠牲を出してしまった。AFOの逮捕拘束が出来たものの、オールマイトは実質的な引退に追い込まれた。故に、最大戦力をもってこの事案に臨むこととする」

 

塚内警部のその言葉とともに、彼の背後のモニターに作戦の概要が表示された。

 

「まずは、ヒーローたちを2つの班に分ける。エンデヴァー班は、蛇腔総合病院にいる殻木球大の身柄の確保。エッジショット班は、超常解放戦線の隠れ家と目される、群訝山荘への突入。これらの2つの事案を同時に行う。また、それぞれの班の後方には、ヒーロー科の学生たちを配置。事態の拡大時における住民の避難や、救助活動を担ってもらう。一度状況が開始されれば、当然戦線のメンバーや脳無による抵抗が予想される。殻木、脳無、死柄木……そして連合……いや、"超常解放戦線"の一斉掃討が、我々の命題だ」

 

塚内警部は説明を終えると、最後に強く言い放った。

ヒーローたちも特に質問はなく、そのまま気合を入れて準備をし始めていた。

全員が納得したことを確認すると、塚内警部はそのまま私の方に歩いてきた。

 

「波動さん、君は死柄木と殻木の捜索に集中してくれ。患者の避難はマンダレイを筆頭にヒーローで対応する。すまないが、頼むよ」

 

「……はい……分かりました……」

 

私にそれだけ伝えると、塚内警部はそのまま出口に向かっていった。

ただ、エンデヴァーだけは、ホークスのことを気にしているようで、出口に向かいながら塚内警部に話しかけていた。

 

「行くぞ、リオル。何かあったらすぐに教えろ」

 

「はい……」

 

「あとは、あの九州に出たような喋る脳無はお前の手に負えねぇ。万が一遭遇しても、お前はそいつらと戦闘しようなんて思うなよ。逃げることも視野に入れとけ」

 

「……はい……ありがとうございます……」

 

そこまで言うと、ミルコさんも出口に向かっていった。

 

「波動」

 

私も追いかけようとしていると、今度は相澤先生が私の方に近づいてきた。

 

「なんですか……?」

 

「お前が拒否できる状況じゃなかったのは理解しているつもりだ。無理するなといっても何かあれば無理をするのも散々見てきた。昨日姉からも何か言われていたようだが、俺から言えることは一つだけだ。お前はまだ学生であるということを忘れるな。プロを……俺たちを頼れ」

 

「はい……」

 

先生はわざわざ私に視線を合わせながら、そう言ってきた。

先生も、やっぱり私が無理をしやすいと思って心配をしているらしい。

緑谷くんほどじゃないと言いたいところだけど、ここまで心底心配してくれている先生にそれをいうのは野暮だ。

お姉ちゃんや先生、ミルコさんが言ってくれたように、気を付けるようにはする。

それに、私は、先生の親友を弄んだ仇のような相手、殻木に対しても思うところがあるんだ。

お姉ちゃんのために、平和な世界を保ちたいっていうのもあるけど、先生たちの助けになりたかった。

 

「あとは……お前白雲のこと気にしてるだろ」

 

「……なんで……分かったんですか……?」

 

「お前がそういう情に絆されやすいのは、もう理解したつもりだ。少なくとも、信頼している相手に対してのものはな。だが、今回に限ってはその情が邪魔だ」

 

「邪魔……ですか……?」

 

確かに、私のことを大事な生徒として可愛がってくれている先生のことは信頼している。

先生やミルコさんの役に立ちたいとも思っている。

だけど、それが邪魔だっていうのは、先生の思考を読んでいても納得しきれなかった。

 

「そういう考えは、逃げる判断の妨げになる。余計なことは考えるな。命を捨てるような真似だけは……白雲のようなことだけはしてくれるな。お前はまだ学生なんだ。万が一の時には、お前は自分が無事でいられるように全力を尽くせ。いいな」

 

「……分かりました……」

 

先生の白雲さんへの声掛けも含めた本心を知ってしまっていた私にとって、この言葉はすごく重いものなんだっていうのは、すぐに分かった。

私も納得するしかなかった。

これで万が一私が先生たちやミルコさんのために動いて、死んだりでもしたら、先生は一生後悔してしまいそうな感じだったのが、分かってしまったから。

先生も私の返事を聞いて理解したことを察したようで、頷いてから自分の準備に戻っていった。

私も改めて気合を入れなおして、ミルコさんの後を追いかけた。

 

 

 

そして、作戦は始まった。

私の個性が複製されている可能性を考えて、全員が走りながら病院に突入していく。

そして、突入した時点で私にはもう色々と状況が分かってしまった。

多少ノイズがかかるのを承知でヒーロー全員に一斉にテレパスをかける。

 

『地下に広大な施設と、脳無が入れられているカプセルが多数あり!!当たりです!!病院内をうろついている殻木は複製です!!私が先導します!!突入班は続いてください!!』

 

『皆さん外へ!ここが戦場になる恐れがあります!』

 

マンダレイさんもテレパスで避難指示を出している。

私はテレパスをし終わったところで、波動の圧縮で吹き飛んで霊安室の入口へ向かっていく。

エンデヴァーとかに地中まで一気に大穴を開けてもらうのも考えたけど、周囲に患者がいるのと、大穴が避難の邪魔になるしって感じで、よくない要素が多すぎるからやめておいた。

 

ちょうど地下への入り口に向かって、『経過は順調。死柄木弔完成まであと1か月強。楽しみじゃ』なんて考えている殻木の複製が視界に入る。

その油断しきった背中に向けて、屋根に頭をぶつけない程度に低空を、高速で跳び上がった。

並走してくれていたミルコさんも、私から一拍遅れて跳び上がってくれている。

 

「波動蹴!!」

 

月堕蹴(ルナフォール)!!」

 

蹴りが同時に殻木の背中に突き刺さって、殻木は吹き飛んだ。

 

「きゃああああ!?」

 

看護師が悲鳴をあげているけど、気にしている余裕なんてない。

複製は既に泥に戻って消えようとしている。

それを横目で見ながら、走り続けた。

相澤先生もエンデヴァーも、ヒーローはちゃんと付いてきてくれている。

 

そして、殻木もこれで気がついた。

 

「脳無が起動しました!!警戒しつつ全速力で進んでください!!地上に向かおうとしている脳無もいます!!一部のヒーローは残ってください!!」

 

起きてくる大量の脳無たちの波動に対する嫌悪感が凄まじいけど、そんなことを言ってられる状況じゃない。

吐き気とざわつくような嫌悪感を耐えながら、全力で走り続ける。

霊安室の入り口をミルコさんが蹴破ったタイミングで、その先の通路から脳無が姿を現した。

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