左右の部屋から続々と出てくる脳無たちを見た瞬間、ミルコさんの目がギラリと輝いた。
ミルコさんはそのまましゃがみこむと、一気に前方に跳ね上がって吹き飛んでいった。
「おんもしれぇ!!!」
ミルコさんの蹴りは、複数体の脳無たちの頭を的確に蹴り砕きながら通路の先まで一気に進んでいっていた。
とりあえず進行方向は、このまま真っすぐ、脇道に逸れずに行けば殻木の所まで着く。
それだけ伝えて急いで追いかけるべきだ。
『ミルコさん!!道はそのまままっすぐ行けば殻木の所までたどり着きます!!脇道には逸れないでください!!』
『おう!!おめぇも早く追いかけて来い!!』
ミルコさんを追いかけながら、エンデヴァーたちにも道順を教えておく。
そんなことをしている間にも、ミルコさんはどんどん進んでいくし、通路にはさらに脳無が這い出して来る。
このままだとミルコさんから離される一方だ。
「リオル!!俺の後ろに下がれ!!一気に通路を制圧してミルコを追う!!」
「はい……!!」
エンデヴァーの指示に従って、エンデヴァーの背後まで下がる。
エンデヴァーは私が背後まで下がったのを確認すると同時に、腕に炎を練り上げ出した。
「赫灼熱拳……ジェットバーンっ!!!」
エンデヴァーの拳から放たれた炎が通路を満たして、一気に脳無たちを焼き払っていく。
まだ両脇の部屋には脳無がいるけど、それでも通路は一時的にまっさらになっていた。
それを認識してすぐに、私は通路を高速で跳びはねながらエンデヴァーや相澤先生、クラストといったヒーローたちを先導していった。
私たちがミルコさんに追いつくのと、ミルコさんが奥の扉を蹴破るのと、部屋の中のシリンダーを割って、思考が妙にハッキリした脳無たちが大量に動き出すのは、同時だった。
ミルコさんが蹴破った扉が潰した脳無のことを、殻木が凄い嘆いている思考をしている。
だけど、今はそんなことはどうでもいい。
あの動き出した5体の脳無たちに対する寒気と嫌悪感が凄まじい。
身体が無意識に震えてしまっていた。
「忌々しいヒーローどもを蹂躙せよ!!愛しきハイエンドたち!!」
「ミルコさん……エンデヴァー……あれ……全部喋る脳無です……」
「だろうな。私の本能もガンガン訴えてきやがる」
騒いでいる殻木を無視して、ミルコさんたちに最低限分かったことを伝える。
ミルコさんもやっぱりすぐに気づいていたようだった。
さっきの殻木の思考……『フードちゃんは起動から安定するまで10時間かかった』とか、『スクランブルでは十分な力が』とかいう思考からして、まだ万全ではなさそうではある。
それでも、目の前に立ち並ぶ脳無が全て九州の脳無クラスの力があるとしたら、洒落にならない脅威だった。
「ひっ、お、えこっ……ひ……ろ……」
「うん……久……ぶり……」
「ヒ……ロ……暴れらレル……ヒーロー……!」
少しずつ、明らかに喋り方がマシになってくる脳無たちを尻目に、殻木が奥に向かって走り出していた。
それを守るように、脳無たちがこっちに走ってきた。
それを見たミルコさんはすぐさま跳び上がって、相澤先生は髪を逆立たせて抹消を使い始めている。
そんな様子を見ながら、エンデヴァーがすぐに動き出した。
乱戦になればエンデヴァーは大技を使えない。
なら、最初に使ってしまおうという腹積もりだろうか。
「これが全てあの脳無と同じ程度のものとなると、骨が折れるな……だが、ここを通してもらわなければならんのだ!!灼けて静まれ!!プロミネンスバーンっ!!!」
エンデヴァーから前方に向かって凄まじい熱量が放出された。
九州の最後に放ったような威力の物ではないけど、それでも凄まじい熱量なのは変わりなかった。
少し後方の離れた位置にいても普通に熱い。
でも、そんなことも言ってられない。
殻木を追わないとダメだ。
最奥にある一際大きいシリンダー。
その中にいる死柄木に対して何かしようとしている。
死柄木の波動は、死人の波動としか感じないのに、何故か嫌な予感が止まらなかった。
あれをどうにかしないと取り返しのつかないことになりかねない。
そう思った私は、エンデヴァーの炎で脳無の視界が不明瞭な内に、脳無たちの視界から逸れるように横の方に大きく跳び上がって、移動を始めた。
ミルコさんも私が跳び上がったのを認識してくれている。
ミルコさんはさっきまで殻木を追う気満々だったのに、今は完全に脳無に意識を向けていた。
私から意識を逸らしてくれるつもりか。
実際、ミルコさんは炎が薄くなった瞬間に、脳無に向かって蹴りかかっていた。
「
「蹂躙せよ、蹂躙っ」
頭が伸びた脳無が、ミルコさんの踵落としを迎撃する。
周囲の脳無たちはど真ん中に飛び込んできたミルコさんに視線が集中している。
エンデヴァーもクラストも、先生たちだって脳無に向かっている。
エンデヴァーはバニシングフィストで脳無に殴りかかってくれているし、このまま行ってもミルコさんたちなら大丈夫。
そう思って、静かに着地して、そのまま殻木が向かった方に駆け出そうとしたけど、仮面をつけた脳無から、嫌な波動が、嫌な思考が読み取れてしまった。
ねじ、曲げる……?
しかも、ミルコさんの左手に意識が向いている?
これは……!?
「先生!!仮面の脳無に抹消を使って下さい!!」
気が付いたら、叫んでしまっていた。
私の声に気が付いた先生は、すぐに違う脳無たちに向けていた視線を、仮面の脳無に向けた。
自分の行動がまずかったのは、すぐに気が付いた。
せっかくミルコさんが、私から脳無の気を逸らしてくれていたのに、私は自分で気付かれるような真似をしてしまった。
多少足を止めてでもテレパスにするべきだった。
だけど、それでも、ミルコさんが重傷を負いかねない状況だった。そのせいで、無我夢中で声を出してしまっていた。
そして、私が声を出した途端、太った巨体の脳無が、ゆっくりとこちらを向いた。
「君が、何かを感じ取っているなぁ!!」
その巨体の脳無は、大きく口を開けながら私の方に向かってきていた。
思った以上に素早くて、回避が間に合わない……!?
今から跳んでも射線から外れることが出来ない!!
出来るだけ傷を浅くするために、少しでも射線の外に行かないと……
そう思って目の前に迫る脳無の射線から必死で身体を逃がそうとする。
噛みつかれる。
そう思った瞬間、マントをはためかせながら、巨体の男が私と脳無の間に身体を滑り込ませてきた。
「己を危険に晒しながらも師を想う心!!誠素晴らしきものを見せてもらった!!」
「クラスト……さん……?」
巨大なシールドを両手から生成したクラストが、脳無の攻撃から庇ってくれていた。
脳無の鋭い歯による噛みつきを受け止め続けている盾が、火花を放っている。
クラストはそのまま全身の力を込めて脳無を一度押し返すと、盾を構えなおした。
「行け!!何か行かねばならん事情を感じ取ったのだろう!?為すべきことを為すのだ!!」
「君は、ナンバー……知らないケド、クラスト!!」
「正解!賢いな!!」
『ありがとうございます……!!ここはお任せします……!!』
脳無の意識が、完全にクラストに移っていた。
私はクラストにテレパスでお礼を言いながら、走り出した。
クラストは私のお礼にチラリとこちらに笑顔を向けて見送ってくれた。
走りながら、ミルコさんの方に視線を向ける。
ミルコさんも、さっきの脳無が何をしようとしていたのかは本能で察していたのか、近くの脳無を踏み台にして抹消で個性が使えなくなっている仮面の脳無の方に回転しながら飛び込んでいっていた。
「臆サず飛び込ンデクルとは―――「てめぇ今、遠距離攻撃出そうとしたな……咄嗟に遠距離使う奴は、近距離弱ぇと決まってる」
ミルコさんは太ももで仮面の脳無の頭を凄まじい力で挟み込んで、凄まじい眼光で遠距離を使う奴は近距離が弱いなんていう謎の理論を展開している。
複数個性の脳無に通用するのか分からない謎の理論ではあるけど、ミルコさんが言うと説得力があった。
ミルコさんは、そのまま首をねじ切るように脳無にバックドロップのような技を仕掛け始めた。
「
ミルコさんが脳無の背後に着地する頃には、凄まじい力でねじられた脳無の首は完全に千切れていた。
弱点の頭を潰されて、お得意の超再生も相澤先生に消されて、脳無に出来ることなんてあるはずもなかった。
脳無の巨体は、轟音を立てて崩れ落ちた。
「ドタマ潰しゃあ止まんなら、むしろそこらのヴィランよかよっぽど楽だ。来いよゾンビども。ゾンビにヒーローミルコは殺れねぇぞ」
ミルコさんがギラギラした目つきで脳無たちを睨みつけるのを感じ取りながら、私は通路の方に駆け抜けた。
背後で相澤先生がマイク先生に『マイク!!エクスレス!!おまえらもリオルと行け!!』なんて言ってるのが感じ取れる。
エクスレスというのは知らないヒーローだけど、マイク先生も来てくれるなら百人力だ。
一応、向かう先にさっきの喋る脳無みたいなやつの波動は感じないけど、それでも、小さな脳無を伴った殻木がいる。
問題はあの小さな脳無の個性が分からないこと。
『モカちゃん』とかいう名前では、個性がなんなのか想像もつかない。
こいつに警戒しつつ、対処する必要がある。
殻木の思考を見る限り、あのシリンダーのようなカプセルは起動装置を兼ねている。
死柄木の心臓は止まっている。
でも死んでるわけじゃない。限りなく死人に近い波動をしているけど、これは死んでない。
あれは、仮死状態だ。
思考的に、あの装置は、AFOと脳無としての力の定着促進、維持を担いつつ、完成したら蘇生させるための装置なんだろう。
つまり、あの装置を壊してしまえば、死柄木は蘇生できない。
あの機械を壊すくらいなら、あの機械を操作する殻木を拘束することくらいなら、喋る脳無たちさえ見ていてもらえるなら、私にだって出来るはずだ。
そう思って、パイプに覆われた狭い通路を、全力で駆け抜けた。