波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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殻木球大

狭い通路を走って、波動の噴出で加速をかけながら跳んでいく。

後ろの方で私の方に気が付いた脳無がいたけど、ミルコさんやエンデヴァー、相澤先生、ロックロックといったヒーローたちが、即座に妨害してくれていた。

マイク先生たちもこっちに向かおうとしているけど、脳無が邪魔をしてなかなか進めてない。

私が先行して、どうにかしないとダメだ。

今の殻木の思考は、殻木自身と死柄木の逃走。

足元にいるモカちゃんとかいう小さな脳無の個性で逃げるつもりらしい。

思考が逃げる方法に触れないせいで、どうやってかは分からない。

だけど、やらなきゃいけないことは分かった。

死柄木の蘇生装置を兼ねているあのシリンダーの破壊と、小さな脳無の撃破。

殻木の思考からして、まだ死柄木の脳無としての完成度は70%そこそこ。

すぐに起動しようとしている感じはないから、脳無と殻木をどうにかしてからシリンダーを破壊するのでも大丈夫なはずだ。

一番まずいのは、脳無の個性で死柄木が装置ごと、殻木と一緒に消えること。

それだけは許しちゃいけない。

まずは入口から一撃を入れられるシリンダーに一撃を入れて、その後すぐに脳無の方に攻撃するか。

そう思って、跳躍を低空で繰り返して吹き飛んで、身体を一回転させながら、踵を振り下ろした。

 

「やめろぉおおお!!!」

 

全力で放った波動蹴は、噴出した波動が当たると同時に、シリンダーにヒビを入れた。

勢いのままに足を振り下ろして、装置の下の方の機械に足をめり込ませて破壊してしまう。

機械を破壊した影響か、周囲の装置がけたたましい警報を鳴らしている。

だけど、そんなものは気にしないで、もう一度跳ね上がりながら脳無に視線を向けた。

 

「モカちゃん!!」

 

殻木のその呼びかけと同時に、脳無からヘドロのようなものが噴き出し始めた。

 

「二倍持ち……!!」

 

どういうことかようやく理解できて、脳無の危険度の認識を上方修正する。

だからこの脳無と一緒に逃げるなんていう思考になるのか。

二倍を持っているなら、最悪黒霧でも作ってしまえば逃げることが出来てしまう。

この増殖だけは許容できないから、即座に近寄ってヘドロに発勁を叩き込んで形を形成する前に潰してしまう。

 

「発勁っ!!」

 

だけど、私がその複製に攻撃している内に、脳無はさらに自分を複製し始めている。

埒が明かない。

この脳無、多分そんなに知能が高くない。

あのハイエンドとか超常解放戦線の幹部の複製を出されたら普通に負けかねないのに、それをしてない。

無限増殖のつもりなのか、少しずつ真横にいる殻木と自分を増やしている。

 

「モカちゃん!!練習したじゃろ!!もっと別のを出すんじゃ!!死柄木でもいい!!早くっ!!」

 

殻木が狂ったように叫んでいるけど、脳無が出すものは変わってない。

この脳無、まだ個性が使いこなせてないのか、知能が足りなくてトゥワイスが言っていた細かいデータを覚えられていないのか……どちらにしても、これは好都合だった。

さっきの殻木の思考からして、ワープ系の個性の存在を複製できるはずなのに、なんで複製しないのかは分からない。

脳無が焦っているのは分かるから、咄嗟に出せる複製が限られている?

だけど、どんな理由にしても、攻撃にも防御にも個性を使えないっぽい思考をしている殻木と、そんな殻木と自分しか増やせない二倍の脳無だけなら、他を無視して本体を潰すだけだ。

そう思って、中央でちまちま泥を出して増え続けている脳無に向かって跳び上がった。

確実に脳無を潰すために、跳び上がって波動蹴の準備をしながら、波動を手からも放出していく。

 

「遅い……!!波動蹴っ……!!!」

 

脳無に向けて足を振り下ろす。

周囲の脳無がわらわらと本体を庇うために集まってくるのが煩わしい。

今脳無の口から吐き出された泥が、殻木でも脳無でもないものの形に変わろうとしていたけど、ここまで近づけた後なら意味がない。

そのまま足をめり込ませて周囲の複製たちごと一掃する。

案の定庇われた本体が逃げて、残ってる複製に紛れようとしているけど、私に対してはほぼ意味のない行為だ。

 

手から放出して練り上げ続けていた波動に圧縮をかけて、一気に波動弾を形成する。

出来た波動弾を即座に脳無に向けて射出して、私自身もそのまま脳無に向かっていく。

波動弾から庇うためにさらに周囲に複製が飛び込んできたけど、それで脳無の周囲に複製はほぼいなくなった。

あと残っている複製は、私の後ろでコツコツ増え続けているのと、ばらけた位置に少しずついるだけだ。

もう私の攻撃から脳無を庇う存在はいなかった。

私が突き出した掌底突きは脳無に突き刺さって、波動を噴出した瞬間、ブチャッなんて音を立てながら肉塊をまき散らした。

脳無の複製は、本体が死亡したことで形を保てなくなって崩れ去っていった。

 

「あ、あぁあぁあ、モカちゃんっ……!!」

 

殻木は頭を抱えて嘆いているけど、こんな悪党の悲嘆なんか気にしてやる必要が一切ない。

私はそのまま、身を守ろうとすらしていない殻木の無防備なお腹に、殺さない程度に加減した真空波を叩き込んだ。

 

「ぐふっ……!?」

 

身体は普通の老人でしかない殻木は、真空波を食らうと同時に吹き飛んで、お腹を抑えながら悶えていた。

 

悶えている無力な老人でしかない殻木なんて無視して、私は死柄木の方に身体を向ける。

とりあえずさっきまで殻木が弄っていた周囲の機械を順番に破壊していく。

死柄木は既に仮死状態だ。

この装置を弄ることが出来なければ、蘇生することも難しい。

操作端末を破壊し終わったら、即座にシリンダー本体に向かって跳び上がった。

 

「やだぁあああぁあああ!!やめろ!!やめてくれ!!機械は直せても身体の方はっ……!!これ以上溶液を抜かれたら、ワシとAFOの夢の結晶がぁっ!!!」

 

喚いている殻木の思考が、声が、すごく煩わしい。

今まで他人を踏みにじってきて、野望を阻止されそうになるとみっともなく喚くその人間性に、ただただ嫌悪感と吐き気を感じてしまう。

こんなクズの懇願なんて、一切聞いてやる必要がない。

こいつは、先生の親友を弄んだ、悪魔なんだから。

 

「人の死を弄んでおいてっ!!!ふざけたこと言わないでっ!!!」

 

怒りに任せて足を振り下ろす。

シリンダーのヒビはどんどん広がっていく。

溶液もヒビから噴き出しているけど、まだ足りない。

こいつを完膚なきまでに破壊して、蘇生の可能性を潰さないとダメだ。

そう思った私は大きなヒビに向かって腕を突き出した。

 

「これでっ!!!」

 

発勁の衝撃波が当たったヒビが、さらに大きく広がってシリンダー全体に波及していく。

あとは、任せるべきだ。

そう思って、私は耳を塞いだ。

だって、もう私の後ろには、私以上に激怒しているマイク先生が、来てるんだから。

先生は私が執拗なまでにこれを攻撃している様子を遠目に見て、全てを察してくれていた。

 

次の瞬間、私の背後から、凄まじい轟音と衝撃波が襲ってきた。

既にヒビだらけでボロボロになっているシリンダーを構成していたガラスが、轟音を受けて一気に砕け散った。

砕けたガラスとその中の溶液も、死柄木も、衝撃波を受けて一気に奥まで吹き飛んでいく。

マイク先生はそんな様子を見向きもしないで、耳から血を流している殻木に向かって、拳を振り上げた。

 

「真贋確認!D・Jパンチ!!……それと、友達泣かせたぶん!」

 

先生の怒りに任せた拳が、殻木の顔に突き刺さった。

先生だって、こいつが複製じゃないことくらい分かってる。

だけど、それでも、怒りが抑えきれなかったんだと思う。

マイク先生の思考では、相澤先生の声が、『ガキの頃の青い夢……こんな悪夢みたいな形でも、3人で―――』なんていう声が、響いていたから……

殻木は吹き飛んで、そのまま大泣きしながら動こうとしなくなった。

 

マイク先生に続く形で、エクスレスと呼ばれていたヒーローが入ってくる。

エクスレスは死柄木の方に駆け寄ると、確認するように死柄木の胸に手を当てた。

 

「……?―――息が無い」

 

「……死柄木は……仮死状態です……さっき壊したシリンダーが……蘇生装置を兼ねた培養器です……」

 

私が伝えると、エクスレスはすぐに納得したようだった。

私の説明を聞いていたのかは知らないけど、殻木がそれに合わせてまた喚き出した。

 

「な、なんてことを、してくれたんじゃ……ワシの、AFOの夢が……この為に生きてきたのに……終わる!終わってしまう!!!魔王の夢が!!!」

 

だけど、マイク先生は喚く殻木に構うことなく持ち上げて、引きずるように運び始めた。

 

「脳無はてめぇの指示で動いてんだろぉ!?向こうで暴れてるやつら止めろ!ホレ、走るんだよ!!エクスレス!死柄木頼む!」

 

「ああ!」

 

マイク先生は走って喋る脳無、ハイエンドが暴れる部屋に戻っていく。

死柄木はエクスレスが見てくれるってことだし、私もあっちに戻ろう。

何かできることがあるかもしれないし、ミルコさんや相澤先生を手伝いたい。

そう思って、マイク先生を追いかけた。

 

 

 

「70年前、世間はワシの論文を嘲笑した。超常特異点は、根拠薄弱だとのぉ―――奴らは目を背けたんじゃ。荒み切った平和に戻さんと足掻く時代に、"瓦解する未来"を指し示すことなどあってはならないと……」

 

私が先生に追いつくころには、殻木が嘲笑うかのように語り出していた。

何の目的もない、ただの諦めの混ざった嘆きと、先生を煽るための語り。

 

「その学者は発表後に失踪……数年後に亡くなった……生きてりゃ120台の大台だ……」

 

「追放され住む場所も失った……そんなワシに、唯一彼だけが手を差し伸べてくれた。圧倒的存在感、仏の如き微笑み、現人神とは彼のことじゃった。ワシの"個性"、運動能力と引き換えに人の2倍の生命力を持つ"摂生"。ワシはこの"個性"を、彼に捧げた。ワシの中に今ある"個性"はなぁ、己自身の複製でのう…………君……黒霧の友人じゃろぉ。あの時なぁ……本当は"抹消"が欲しかったんじゃがのう……」

 

「先生……こいつの話……聞かない方がいいです……底抜けの悪意があるだけなので……」

 

殻木の言葉に、思わず口を挟んでしまう。

私には、先生がこいつに触りたくない程激しい嫌悪感を感じているのが、手に取るように分かってしまった。

 

「あぁ……君の個性もだ……"波動"の個性……ワシも、AFOも、必要性を感じておらんかった……甘く見ておったわい……AFOに、メインターゲットに変えるように、進言しておけばよかったかのぉ……」

 

「……それはお生憎様……精々死ぬまで悔いていればいい……」

 

こいつの言動からして、合宿で私をサブターゲットにしたのは、AFOだったってことだろうか。

まぁ、今はそんなことどうでもいい。

もうハイエンドたちが暴れていた部屋に着いたけど、戦いは終わっている。

病院側で脳無の対応をしていた、リューキュウや13号先生とか、数多のヒーローが雪崩込んできていて、一気に制圧し終わっていた。

数の暴力に、エンデヴァーとかのハイエンドを殺しきることが出来るヒーローが組み合わさって、残っていた4体のハイエンドも対処し終わっていた。

 

 

 

その様子に安堵して、ミルコさんや先生の方に歩いていこうとする。

そんな時に、エクスレスの思考が、『なんだ、あの機械……チューブで緩衝されて無事だったのか……壊しとこう!』とかいうものになって、目からレーザーを発射して、奥の方にあった機械を破壊した。

次の瞬間、死柄木の身体が、跳ね上がった。

それと同時に、凄まじい悪意を感じ取って、嫌悪感と吐き気に思わず口を押さえてしまった。

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