波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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波動氾濫

身体から今までなんて比じゃないくらいの量の波動が溢れ出していく。

それなのに、不思議なくらい頭が冷えていた。

冷えていたっていうと、誤解があるかもしれない。

お姉ちゃんをこんな目に合わせた荼毘への怒り、憎悪……お姉ちゃんが、こんな状態になってしまったことへの悲しみ、嘆き……

とにかく色んな感情がごちゃごちゃになっていて、自分でも訳が分からなかった。

自分の感情が、憎悪が、コントロールできない。

私の頭に強く浮かんでいたのは、激しい負の感情だけだった。

 

「波動くん……!?君は……その波動は……!?」

 

私が立ち上がると同時に、飯田くんが困惑しながら問いかけてくる。

高濃度になって溢れ出す波動は、可視化された状態で周囲にまき散らされていた。

これを見て聞いてきたんだろうけど、そんなことは私にも理解できてない。

それに、今はそんなことを気にしている余裕なんてない。

荼毘に、あいつに、思い知らせないといけない。

自分が、どれだけ愚かしいことをしたのかということを。

 

「波動くん、行くつもりなのか……?」

 

「飯田くん……お姉ちゃんのこと……見ておいて欲しい……」

 

「っ……!!……僕に、君を止める権利はないっ……君との約束を踏みにじって、兄さんの復讐のために動いてしまった僕にはっ……!!」

 

お姉ちゃんの安全を確保するために飯田くんにお姉ちゃんのことを頼むと、飯田くんは表情を大きくゆがめて、絞り出すように叫んできた。

 

「今の君はっ!!あの時の僕と同じなんだろうっ!?止めることができないことなんて、僕が一番よく分かってるさ!!だから、たとえ君が憎悪に突き動かされていたとしてもっ……!!波動くんっ!!死ぬなよっ……!!友からの願いとして、それだけは守ってくれっ!!」

 

飯田くんの叫びに私は何も答えずに、飯田くんに背を向ける。

そのまま、溢れ出す波動を足に思いっきり圧縮して、噴出した。

 

 

 

「燈……矢……!」

 

「ようやくおまえを殺せるよ」

 

噴出した次の瞬間には、蒼炎の中で轟くんを見て笑っている荼毘の顔が、目の前に迫っていた。

 

「荼ぁあああ毘ぃいいぃいいっ!!!」

 

「なにっ!!?」

 

「波動っ……!?」

 

荼毘の身体に、溢れる波動を無理矢理凝縮して発勁を繰り出す。

直撃したらまずいと感じたのか、荼毘は咄嗟に炎を噴出して後方に飛んだ。

だけど、逃がすわけがない。

波動がここまで溢れ出し続けるなら、お姉ちゃんのように足から放出し続けて浮くくらいならできる。

その場に滞空したまま、即座に私の上半身くらいの大きさはある波動弾を形成して、荼毘に投げつける。

 

「読心と感知くらいしか能のねぇ雑魚だったはずじゃなかったのかよっ!!」

 

荼毘は相殺するために凄まじい量の蒼炎を前方に放射してくる。

荼毘が噴出して、纏っている蒼炎が鬱陶しいけど、そんなの気にしている余裕なんてない。

溢れ出す波動を、荼毘と接触しかねない部分を特に高濃度にしておく。

そのまま、波動の噴出で荼毘の蒼炎の脇から一気に距離を詰める。

高濃度の波動を無理矢理圧縮して、一際多くの波動を纏っている右腕を、荼毘に叩き込んだ。

 

「てめぇっ……!?」

 

爆発音のような音が鳴って、波動の噴出によって生じた凄まじい衝撃波で、荼毘の身体は地面に向かって吹き飛んでいった。

でも、全然足りない。

荼毘は全身から高濃度の炎を噴き出して、落下の速度を減衰させたのは分かった。

地面に叩きつけられたくせに、意識を保ててるのがその証拠だ。

足りない。

お姉ちゃんをあんな目に合わせたヤツは、殺してでも思い知らせないとダメだ。

そう思って、私は起き上がった荼毘に、さらに追撃をかけにいった。

波動の噴出で加速をかけて高速で落下していく最中に、荼毘の思考が、『赫灼熱拳……!』というものに変わった。

波動の揺らぎ、思考の感じからして、ジェットバーンか。

エンデヴァーの技を散々見たから、間違いない。

直線的な攻撃なら、そこまで意識する必要がない。

波動弾を練り上げて、投げずにそのまま保持してしまう。

普段だったら何の意味もない行為だけど、身体から放出される波動が見えるようになっているくらい、波動が溢れてる今は違う。

身体をすっぽり覆えるくらいの大きさの波動弾持ったまま迫る炎にかざして、炎を弾いていく。

 

「この程度の小細工っ……!!」

 

荼毘がジェットバーンを放ちながら、私の真下から動いていくのが感じ取れる。

そんなことをするなら、波動弾を投げるだけだ。

荼毘の移動先に波動弾を射出して、私自身は地面に難なく着地した。

 

「どこに行くつもり……?まさか、あんなことしておいて……逃げるの……?逃げられると思ってる……?」

 

「邪魔すんなよっ……せっかくエンデヴァーが壊れるところを楽しく眺めてたってのによぉっ……!!」

 

なんとかギリギリで波動弾を避けたらしい荼毘が、さっきの落下の痛みに悶えつつ、私の方を憎々し気に睨みながら文句を垂れてきた。

エンデヴァーが壊れるところとか、邪魔とか、そんなのは、私には一切関係ない。

こいつの復讐心とか、怒りとか、寂しさとか、そんなのは知らない。

こいつだけは、許しちゃいけない。許すことはできない。

 

「エンデヴァーとか……過去とか……そんなの知らない……お前がっ!!お前がお姉ちゃんをあんな目に合わせたっ!!お前はっ!!!」

 

「お姉ちゃんって、お前さっき燃やした奴の妹かよ!ヒーローのくせに復讐でもしに来たってか!?」

 

話しても無駄だ。

こいつは、エンデヴァーへの強い感情だけが頭を支配している。

それに、今の私に、冷静に話すことなんてできそうにない。

こいつを殺したいくらいの憎悪が、嫌悪感が、怒りが、ひっきりなしに湧き出してくるのが自分でも分かる。

 

「エンデヴァーへの憎悪と歪んだ好意と承認欲求に満たされてる奴にっ!!言われる筋合いなんてないっ!!」

 

「はっ!!だったらなんだってんだよっ!!!俺を捨てたエンデヴァーをぶっ壊そうとして何が悪いっ!!自業自得じゃねぇか!!邪魔するってんなら……お前も姉と同じようにしてやるよぉっ!!!赫灼熱拳―――」

 

荼毘から凄まじい熱量の炎が膨れ上がっていく。

青白い輝きが、どんどん大きくなってくる。

フェイントなんかじゃない。間違いなく、プロミネンスバーンを放ってくる。

やばい技を準備しているはずなのに、そんなの一切気にできなくなるくらい許せない言葉が、荼毘の口から垂れ流されていた。

 

「お姉ちゃんと……同じように……?」

 

……思い知らせてやる。

このふざけたクズに。

お姉ちゃんの痛みを、苦しみを、このクズ野郎にっ……!

波動が全身から溢れ出してどんどん膨れ上がっていく。

荼毘の蒼く輝いて膨れ上がる蒼炎と対になるように、青白い光を放つ波動が膨れ上がっていく。

その膨大な波動を無理矢理圧縮して、巨大な波動弾を形成して、頭上に掲げる。

凄まじいエネルギーを伴って循環していく波動の塊は、周囲に暴風を巻き起こしていた。

 

「プロミネンスバーンっ!!!」

 

荼毘の極大の炎が、蒼い太陽のような光を伴って迫ってくる。

普段の私だったらこんなのが目の前に迫ったら焦って避けようとしていたんだろうけど、今はそんなこと一切考えていなかった。

どうやったらこのクズを出し抜いて痛めつけることが出来る。

どうすればこいつに思い知らせることが出来る。

この巨大な波動弾を投げても、明らかにエンデヴァー以上の火力があるこのプロミネンスバーンをぶち抜くほどの威力はない。

それなら、この波動弾を、囮にする。

 

「その程度の火力でっ!!!打ち消せると思うなっ!!!波動弾っ!!!」

 

荼毘が放ち続けるプロミネンスバーンに、波動弾を当てる。

ほぼ拮抗……いや、私が押していない分、若干こっちが負けている。

荼毘は、自分を焼きながら正面に蒼炎を放ち続けている。

そんな荼毘の様子と波動弾を横目に見ながら、超圧縮した波動を噴出して、三角跳びの要領で蒼炎を避けながら、一気に荼毘との距離を詰める。

荼毘も、私が目の前まで迫って、ようやく波動弾が囮だと気が付いたらしい。

 

「っ!!?てめぇっ!!」

 

「お姉ちゃんの痛みっ!!思い知れっ!!!」

 

こんな奴、死んだっていい。

そう思って、高濃度の波動を纏って蒼炎によるダメージを軽減しながら、ガラ空きになっていた荼毘のお腹に、今できる全力で発勁を叩き込んだ。

その瞬間、荼毘はギガントマキアの方に、凄まじい勢いで吹き飛んでいった。

 

 

 

荼毘は、まだ生きている。

動けなくなってるけど、意識はある。

まだだ、まだ足りない。

お姉ちゃんの痛みは、苦しみは……私の恨みは、この程度じゃない……

荼毘は動けないけど、ミルコさんはギガントマキアの背の死柄木の方に行っていて、ベストジーニストはギガントマキアにかかりきり。

緑谷くんも戦闘不能。エンデヴァーは呆然自失。

さっきまでエンデヴァーに語り掛けていたクラストは、私が荼毘を吹き飛ばしたのを見て、私に何か声をかけながらベストジーニストの方に向かっていった。

荼毘はまだ意識があるけど、痛みに悶えている。

だけど、それでも、お姉ちゃんの肌を、お姉ちゃんの髪を、お姉ちゃんを、あんな、あんな状態にしてくれた荼毘は、とてもじゃないけど許せない。

 

「……―――おいっ!!波動!!」

 

「何……轟くん……邪魔しないで……」

 

轟くんが、私の肩を掴みながら声をかけてきた。

 

「邪魔って……」

 

「轟くんも……お姉さんがいたよね……轟くんは、お姉さんを殺されかけて、冷静でいられるの……?私は無理……自分の感情が制御できないの……あいつを……荼毘を同等以上の目に合わせなきゃ……気が収まらない……」

 

「っ……おまえ……」

 

轟くんが私の顔を見てから固まったのが分かるけど、今は気にしている余裕はなかった。

私は、追撃をかけるために荼毘の方に吹き飛ぶ。

いつもならこの跳躍だって、素早く跳べる程度でしかない。

なのに、今の跳躍はミルコさんと同等以上の速度を出せていた。

 

そのまま弾丸のように荼毘の方に迫っていくと、巨人、ギガントマキアが、雄たけびを上げ始めた。

 

「はああああああああああああああああああっ!!」

 

多分、死柄木が何かをした。

死柄木の思考が、『壊せ』って感じになっていたから、その指示に従おうとしているんだろう。

そして、脳無までベストジーニストの方に向かい始めていた。

ミルコさんとクラスト、通形さん、あとは重傷のはずの爆豪くんが、すぐに脳無の対応に向かっている。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

私が荼毘の所に向かっている間にも、ギガントマキアは身体を大きくしていきながら、雄たけびを上げ続けていた。

身体が大きくなるにつれて、拮抗していたギガントマキアの力とベストジーニストの拘束のバランスが、少しずつギガントマキアに傾いていく。

そして、耐えきれなくなったワイヤーが、ブチブチと千切れ始めた。

千切れるにつれて、ベストジーニストが凄まじい量の吐血を繰り返していく。

コンプレスやスピナー、死柄木に対するワイヤーは、なんとか維持してる。

だけど、ギガントマキアへの拘束が全然足りてない。

 

そして拘束が少なくなってギガントマキアが動けるようになってしまった。

ギガントマキアは、起き上がった勢いのままに、ミルコさん、爆豪くん、通形さん、クラスト、ベストジーニストがいる方向に向けて、大きく腕を振り上げた。

それは、荼毘への憎悪に駆られている私でも、無視することはできなかった。

緑谷くんが『誰も救えてない!!!一人も救えずに木偶の坊になるな出久!!!』なんて考えている。

だけど、腕も足もぐちゃぐちゃの緑谷くんが、これを黒鞭と浮遊でどうにかできるわけがない。

ダメだ、このままじゃ、ミルコさんが、爆豪くんが、通形さんが……!!

お姉ちゃんを傷付けられて、重傷を負わされたのに、それなのに、それに加えて、大好きな師匠のミルコさんや、大切な友達の爆豪くん、お姉ちゃんの恩人の通形さんが、殺される?

それだけはダメだっ!!!

そんなことになったら、私は、私はっ……!!

 

 

 

次の瞬間、さっきまででもあり得ないくらい膨れ上がって、可視化するくらいの密度になった状態で漏れ出していた波動が、さらに莫大な量にまで膨れ上がった。

膨れ上がった波動は、青白い光を放ちながら、私の身体から立ち昇っていた。

それを認識した瞬間、私はギガントマキアの攻撃をどうにかするために、飛び上がってやつの腕を視界に入れる。

そして―――

 

「これ以上私の大切な人をっ……傷付けるなぁあああああああああああっ!!!」

 

ギガントマキアの腕に向けて、湧き出し続けている波動を、押し出した。

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