脳無たちと戦いながら考える。
なんで、私の波動はここまで膨れ上がっているのか。
今回は、お姉ちゃんをやられたのに激しい怒りを覚えた瞬間だった。
他に波動が膨れ上がった心当たりがあるのは……
体育祭で轟くんにボロボロにされた時と、林間合宿で透ちゃんを攫われた時、ナインに真幌ちゃんと活真くんが襲われていた時だ。
……危機的状況か、激しい感情か。
どっちかは分からないけど、明らかにそういう状況じゃないと変な増え方はしてない。
つまり、これのトリガーは、私に危険が迫った時か、私が何かしらの激情を抱いた時か。
そんなことを考えながら、高速で跳びまわって脳無をかく乱していく。
かく乱しながら波動弾や真空波で牽制したり、脳無の動向で隙が見えたら発勁か波動蹴を脳に叩き込むという動作を続ける。
もちろん脳無だって弱点は守ろうとしてくるから、簡単には脳を攻撃はできない。
だけど、増えている波動の量頼りの機動や高速移動、攻撃で、戦い続けることはできる。
波動の量が少しずつ減ってきているとはいっても、まだいつもの数倍は維持している。
だから、この脳無と戦うこと自体は全然問題なかった。
お姉ちゃんが起きて救けに来てくれたから若干マシにはなったけど、私はまだ怒っていた。
荼毘に対する怒りも、恨みも、なくなったわけじゃない。
お姉ちゃんの傷を感知し続けるせいで、怒りは収まりそうにもなかった。
脳無と戦っている中で、波動を感知し続ける。
超常解放戦線幹部……ヴィラン連合は、ベストジーニストがワイヤーで気絶させようとしている。
だけど、そんな中でMr.コンプレスが、自分の身体を個性で削って、拘束から抜け出した。
コンプレスはそのまま走り出すと、スピナー、死柄木、荼毘、ロン毛の男と、順番に個性で拘束から解放して、ギガントマキアの背中を駆け上がっていく。
まさか、逃げるつもりか。
コンプレスの思考的に、スピナーに時間の猶予を与えて、死柄木を目覚めさせようとしている。
それで、どうにかするつもりなのか。
お姉ちゃんにあんな傷を負わせたのに、逃げるなんて、許すと思ってるのか。
そう思った瞬間に、また波動が膨れ上がった。
波動を大量に噴出して、一気に跳びあがる。
コンプレスの動きにすぐに気づいていた通形さんも、すぐに地面にめり込んで、一気に上空に弾き出された。
「俺ぁ張間の孫の孫!!盗賊王の血を継ぐ男!!カゲが薄いと思ってた!?そりゃこちらの術中よ!ここぞという時その為に―――タネはとっとくもんなのよ」
ヴィランたちを回収し終えたコンプレスが、上り切ったギガントマキアの上で叫んでいた。
だけど、やつの目的は私たちの意識をスピナーから逸らすこと。
それが分かってるんだから、あいつは通形さんに任せて、私は突っ込むべきだ。
「Mr.コンプレス一世一代ーーー!!脱出ショウの開演だ!!」
やつはそう叫ぶと同時に、スピナーと死柄木、それに、荼毘を、ビー玉のようなものからはじき出した。
通形さんが即座にコンプレスの顔にパンチを入れる。
私は回り込んで即座にスピナーを処理しようと思ったけど、飛び込もうとした瞬間、炎が迫ってきた。
「てめぇ……俺の邪魔しといて自分だけ好き放題なんて、させると思ってんのか」
「邪魔をっ!するなぁっ!!」
こいつ、あろうことか私を邪魔してきた。
……邪魔されたら、どのみち荼毘をどうにかせざるを得ない。
こいつがその気なら、いっそここでっ……!!
荼毘に対する怒りが燃え上がるのに合わせて、波動が一気に膨れ上がった。
膨れ上がった波動を強引に練り上げて、私の身体よりも大きな波動弾を形成した。
荼毘も、私の方に飛びかかろうとしていた。
「赫灼熱拳、プロミネンス―――バーン!!!」
「波動弾っ!!!」
正面から迫ってくる青白く発光する炎に、巨大な波動弾を射出する。
炎もすごい勢いで迫ってきてるけど、波動弾もそれをかき分けて進んでいる。
律儀にこのまま射線にいてあげる必要がないし、そのまま再上昇をかける。
次の瞬間、凄まじい衝撃波が、辺り一帯を襲った。
荼毘、スピナーは顔をしかめる程度なのに、それ以外の人間は、軒並み吹き飛ばされていた。
私自身も、空中でその衝撃波を受け流すことなんてできなくて、吹き飛ばされてしまった。
「本当に……いい仲間を持った……心とは、力だ。彼の心の原点を、強く抱けば抱くほど、共生する僕の意識も強くなる。憎しみを絶やすな、弔」
死柄木……じゃないな、この思考は。
思考も、悪意も全然違う。
誰だ、こいつ。
地面に着地して、最大限の注意を払いつつ死柄木のような何かを見据える。
そして、死柄木のような何かが、『信号を送る』なんていう思考になった瞬間、周辺にいる生き残りの脳無が、一斉に動き出した。
脳無たちの目標は、死柄木のような何かだ。
こいつ、脳無たちを、スピナーと荼毘を連れて、逃げるつもりか。
それを認識した瞬間、私は地面から高速で跳ね上がった。
「弔は負けた。OFAとエンデヴァーに。その代償は潔く差し出そう。全ては僕の為に」
「逃がすと思ってるの?」
巨大な波動弾を両手に形成しながら、死柄木のような何かに向かって急接近する。
接近しながら、邪魔をされないように波動弾を1つ先に投げておく。
「ああ、君か。君に関しては大きな誤算だったよ。まさか、マキアをこうもやってくれるとはね。"波動"の個性、甘く見ていたよ」
死柄木のような何かは、小さく笑いながら手をかざした。
それだけなのに、波動弾は一瞬で霧散させられてしまった。
それを見た瞬間、正面から近づいてもダメだと判断して、急上昇をかけて上空から急襲をかけようと試みた。
「その憎悪!怒りで増幅する力!まさに魔王にうってつけじゃないか!まさか、僕の器候補にしてもいいと思えるほどのポテンシャルだったとはね。これなら、サブターゲットなんてぬるいことは言わずに、メインにしておくべきだったよ」
「……っ!?あなた、まさか……AFOっ!?」
今まで、ヴィラン連合以外でサブだのメインだの言ってきたのは、殻木だけだ。
殻木の言っていたことも合わせれば、私をサブターゲットにしたのはAFOのはず。
だとするなら、こいつは、死柄木の身体の癖に、AFOの可能性が高いってことか。
それなら、こいつが死柄木と違う思考と悪意なのが頷ける。
私は冷や汗を流しながらも、波動弾をAFOに投げつけて、その陰に隠れながら波動の噴出で急加速をかけた。
「だけど、器は間に合ってるんだ。君にはもう、興味もないよ。さよならだ」
AFOは、手から凄まじい衝撃波を放ってきて、落下の速度に、高速で移動できるくらいの噴出を合わせたはずの急襲をかけていた私を、難なく吹き飛ばした。
衝撃波は強力で、すごい勢いで吹き飛ばされてしまっている。
波動の噴出でなんとかその勢いを殺して、体勢を立て直す。
そのタイミングで、手足が動かせないはずの緑谷くんが、口から黒鞭を伸ばして、AFOに迫っていた。
「この身体が仕上がったらまた会おう。出来損ないの緑谷出久」
「おまえは黙ってろ……!!オール・フォー・ワン!!」
「また、会おう」
緑谷くんは必死で追いすがろうとしていたけど、AFOはまた手から衝撃波を出して、緑谷くんを吹き飛ばした。
「死……柄木……!!待て……!!おまえを……必ず……!!」
緑谷くんが、受け身も取れそうにもない速度で落下していく。
彼の内心が、『あの時……AFOに飲まれたおまえが、あの時のおまえが、おまえの顔が、救けを求めたように見えた』なんていう、意味の分からないものになっている。
そのすぐには理解できない思考に困惑しながら、緑谷くんを回収するために空中で波動の噴出を使って、一気に緑谷くんに接近する。
そのまま緑谷くんを抱きとめて、なるべく衝撃がないように、勢いを殺しながら着地した。
「緑谷くん……救けって……どういう……」
聞こうと思って緑谷くんを顔を覗くと、彼は既に気絶していた。
疑問は解消できなかったけど、仕方ない。
私は小さく首を横に振って、担架を持って駆け寄ってきているヒーローたちの所に、緑谷くんを連れて行った。
お姉ちゃんも、すぐに病院に運ばれていった。
お姉ちゃんは死柄木たちがいなくなって気が抜けたのか、倒れ込んでしまっていた。
生きているのはわかるけど、重症なのは変わらない。
だからせめて活力だけでもと思って、ギリギリまで癒しの波動を続けていた。
私はお姉ちゃんが運ばれるのを見守ってから、動き出すことにした。
さっきまで無我夢中だったせいで全く気にしてなかったけど、周囲の思考からは凄まじい嫌悪感と、吐き気を感じる。
正直感知したくもないし、気がおかしくなりそうだ。
波動の枯渇まではいってないとはいっても、身体の脱力感もすごいしこのまま眠ってしまいたいくらいだった。
だけど私には、やらないといけないことがある。
そう思って動き出したら、ミルコさんが声をかけてきた。
「おい、リオル。どうするつもりだ」
「……感知で……救助に参加します……」
「……お前、もう限界が近いだろ。やれんのか」
ミルコさんが珍しく少し心配そうな表情までして聞いてくる。
多分、それだけ顔色が悪いってことなんだろうけど……
「……大丈夫とは……言い難いです……でも……やりたいんです……私の本領は……"こっち"、ですもんね……」
「……好きにしろ。私は止めねぇよ……だが、やるからにはお前の思うようにやれ。誰かに強制されてやるんじゃなくな」
ミルコさんは、否定も肯定もしない感じの答えを返してきた。
だけど、言いたいことは大体わかった。
大丈夫。
今回の救助は、公安や学校に言われたわけでもなければ、ミルコさんに命令されたわけでもない。
私自身の意思で、やらないといけないと思った。
それが、怒りに任せて救助を投げ出した、私の罪滅ぼしだと思ったから。
「……はぁ。ほら、乗れ。運搬ぐらいはしてやる」
「……ありがとう……ございます……」
ミルコさんが少ししゃがんで、背中に乗せてくれた。
そのままミルコさんにお願いして、倒壊して凄まじい被害を被った街の中心部に連れて行ってもらった。
正直、油断するとすぐに吐いてしまいそうなくらいの負の感情が渦巻いている。
悲嘆、怒り、憎悪、嫌悪、恐怖。
とにかく色んな負の感情が、どんどん押し込まれてくる。
そんな状態でも、ゆっくりとテレパスを始めた。
『救助活動に当たっているヒーローはっ……!ヒーロー名を思い浮かべてくださいっ……!近くに被災者がいるヒーローにっ……!指示を出しますっ……!』