波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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地獄

あれから、夜に休憩を挟んだり、病院で最低限の傷の手当だけしてもらったりはしたけど、1日以上駆け回り続けて、ようやく救助活動は一段落ついた。

いや、一段落ついたって言うと、誤解があるかもしれない。

生存者はいなくなったって言う方が、正しいと思う。

 

市民は混乱して、ヴィランに対してだけじゃなくて、エンデヴァーを筆頭としたヒーローたちに対する怒りや憎悪を垂れ流していた。

荼毘のあの告白が、テレビで流されてしまっていたらしい。

だから、エンデヴァーに怒りの矛先が向くのは、百歩譲って理解できる。

だけど、なんでその辺の、ただのヒーローにまで怒りをぶつけるんだ。

このヒーロー飽和社会、誰しもが高尚な志を持ってヒーローになってるわけじゃない。

ちやほやされたいから、皆が目指していたから、そんな理由でヒーローになってる人だって、たくさんいる。

だから、こんな状況になった時に、怒りの矛先をそのヒーローに向けたら、ヒーローなんて辞めてしまうに決まってるじゃないか。

冷静に考えればそんなことは分かるはずなのに、未曽有の大災害で混乱の極致に至った市民は、そんなことを気にすることすらできなかった。

中途半端な志でヒーローになった者たちがどんどん救助活動から抜けていく状況で、警察とヒーローと救急隊だけで、こんな被災地の救助に当たるのは、致命的に人が足りなかった。

 

だから、切り捨てる必要があった。

トリアージ黒の人は、たとえ生きていても問答無用で切り捨てた。

トリアージが赤だったとしても、出血の状況とかを見て助かる可能性が低いと判断すれば、見捨てた。

救助に当たる人数に対して、被災者の人数が、致命的なほどに多すぎた。

緑の人は近くのヒーローに避難誘導だけさせて、黒は見捨てる。

赤と黄色は、救助したとして病院まで持つのかを判断して、助かる見込みが薄ければ、その時は普通に意識があったとしても見捨てた。

さらに、重症度を見て助けるのに必要な人数と労力を考えて、それを割り振った結果助けられる人数が多い方を選択し続けた。

つまり、赤の人を十分に助けることが出来るだけの人手すらなかったのだ。

より確実に、多くの人間を救助できるように、限られた人材を割り振り続けた。

隣に縋っている家族がいても、その人すらも助けることが出来なくなるかもしれないから、その人だけ救助するように指示したこともあった。

 

だけど、そんな指示を聞いた人たちが、納得できるのかという話だ。

だって、トリアージが黒になる程の重症でも、説得しても家族が納得しないことが多いのに。

それなのに、多くを救うためにあなたの家族は見捨てますなんて言って、トリアージが赤に該当する人の救助を懇願する家族が、納得なんて、出来るはずがなかった。

 

近くにいた人が、指示を出している私と、私の護衛兼運搬係で近くにいてくれたミルコさんに直接救助を懇願してきたことだってあった。

だけど、私の感知範囲内ですぐ近くにいる人なんて、もう指示を出し終わった後に決まってる。

その懇願してきた人の家族は、意識はあったし、呼吸も安定していた。

だけど、腹腔内に、大量に出血していたのだ。

あれは、外からは見えないから、家族には分からない。

本人は具合は悪そうだけど、意識はしっかり保っているんだから、家族が助けてもらいたいって考えになるのも理解できる。

だけど、リカバリーガールから医学について教えてもらって、最低限の知識があったからこそ分かる。

たとえ救助したとしても、あれは、病院まで持たない可能性が非常に高い。

既に心臓と血管の動きが、少しずつ弱くなってきていた。血圧が低下し始めていた。

既に、ショック状態になりかけていたのだ。

腹腔内出血は、普段であれば重症であっても迅速に救助して、救急車とかに乗せて病院に連れて行って、即緊急手術とかをすれば、助かる可能性はあっただろう。

だけど、その時の現場には、そんな余裕はなかった。

そんな人手を、この人の助かるかどうかも分からない賭けに使うことは、無駄でしかない。

この人の救助をするとしたら、警察やヒーロー、救急隊……とにかくたくさんの人の手が必要になる。

そんなことをしている間にも、他のトリアージが黄色の人たちの状態が、どんどん悪くなっていって、赤に該当する人が増えていく。

だから、見捨てるしかないと、私は判断した。

家族に迫られた時に、当然このことは説明した。

だけど、納得なんてしてくれなかった。

その家族は、私に対して憎悪と怒りの感情を向けて、『悪魔』、『人でなし』、『てめぇなんかヒーローじゃねぇ!!』って、思考も、言動も、何度も何度も罵ってきていた。

私はそれ以上何も言うことが出来なくて、ミルコさんがその家族を私から引きはがすのを眺めながら、謝罪することしかできなかった。

 

憎悪、怒り、悲嘆、絶望、死に際の思考……そんなものを大量に感知し続けて、頭がおかしくなりそうだった。

吐いたのだって、1回や2回じゃない。

それでも、救助に当たっていたお茶子ちゃんや梅雨ちゃん、私の護衛をしてくれていたミルコさんの思考に縋るようにして、なんとか被災地域全域のトリアージを、順番に回ってやり切った。

 

その結果出来上がったのが、私が見捨てた死体の山だった。

一応、死体の位置は、後から回収しやすいように記録だけはしておいた。

助けられる可能性が0じゃないのに見捨てなきゃいけない、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。

それを警察に渡して、私がもう生存者はいないと判断してから、回収に当たってもらった。

警察が近場から回収を始めて、広場にどんどん死体が集められていった。

無数に並べられていく死体に、私は、もう何も感じられなくなってしまっていた。

 

 

 

そして、あの日から2日経って、ようやく私は、お姉ちゃんのお見舞いに行くことが出来るようになった。

波動の量もすっかり元に戻っていて、いつも通りな状態になっている。

一応量は増えてるけど、それでもあの時ほどの波動はなかった。

 

お姉ちゃんが入院している病院は、セントラル病院。

最先端最高峰の治療が受けられると言われている病院だった。

病院は、エンデヴァーとかが入院しているのもあって、来院を厳重に管理していたらしい。

正門以外からは入れてもらえず、その正門には、凄まじい量のマスコミがたむろしていた。

1人だったらどうやって入るか頭を悩ませていたところだったけど、ここまで付き添ってきてくれていたミルコさんが、私を先導してくれていた。

こうなるのが予想できていたから、付き添ってくれたのかもしれない。

普段だったら、絶対にこういうのにはついてこないと思う。

そして、私たちが近づいた瞬間、マスコミたちが群がってきた。

 

「ミルコと、関係者の方ですか!?エンデヴァーの容態はどうなっているかご存知でしょうか!?」

 

「今の日本の惨状をエンデヴァーは把握しているかどうか!!」

 

「荼毘との関係について皆知りたがっています!!」

 

「会見の日取りは!?我々は不安なんですよ!!知りたいんです!!」

 

「死柄木との応戦時、エンデヴァーが呟いたという"ワン・フォー・オール"とは何か、ご存知でしょうか!?」

 

「神野のヴィラン、"オール・フォー・ワン"と何か関係が!?」

 

「ミルコ!!蛇腔で何が「どけ」

 

うるさいくらい喚くマスコミに囲まれて動けなくなったところで、ミルコさんが今まで聞いたことがないくらいドスの利いた低い声を発した。

さっきまで騒いでいたマスコミも、その声を聞いて怯んだのか一瞬で静かになった。

 

「で、ですが!!我々は「邪魔だ」

 

「いくらなんでも、その言いぐさは……」

 

「……この2日、被災地の生存者助けるために、血反吐吐きながら駆けずり回ってたやつが、救助が終わってようやく重傷負った家族の見舞いに来れたってのに、それを邪魔すんのか?いいからどけ」

 

ミルコさんのその言葉に、マスコミは何も言い返せなくなったようで、何も言わずに道を開けた。

内心で文句を言い続けている不愉快なやつも多いけど、今はこんな奴らを気にしている余裕なんてなかった。

 

マスコミの間をすり抜けて、正門から病院の中に入る。

マスコミからある程度離れて、声が聞こえなくなった辺りで、身分証明書と誰の家族かを入念に確認されてからようやく許可が出た。

私は仮免と学生証を見せて、お姉ちゃんの名前を言って、確認作業を待っていただけではあったけど。

ミルコさんはヒーロー免許を見せて、私の護衛兼付き添いって言って強行突破していた。

まあ、あのマスコミがいる状況だと付き添いがいても何らおかしくないのと、No.5のプロヒーローっていう知名度があったから出来たことだとは思う。

 

 

 

ミルコさんとは、病院に入ってから別れた。

ミルコさんはエンデヴァーの方を覗きに行くらしい。

思考がOFAに関して触れつつ、聞きたいことがあるって感じだったのが気になったけど、今はあんまり気にしないことにした。

その思考だったら、今病院に入ってきたホークスとベストジーニストもそんな感じだし、死柄木との戦闘の情報をある程度持っている人には、もう隠しきれないと思う。

 

とりあえずそれは置いておいて、私はお姉ちゃんの病室に向かった。

波動からして、お姉ちゃんはもう目が覚めてるし、火傷とかも治療済みっぽいけど、肉眼で確認したい。

 

「はーい、どうぞー」

 

病室をノックすると、お姉ちゃんの元気そうな声が聞こえてきた。

そのことにちょっと安心しながら、ドアをゆっくり開けて顔を覗かせる。

病室の中では、包帯とかを巻いたお姉ちゃんがベッドに腰かけていた。

髪は焦げた部分を切ってしまっているから、だいぶ不揃いな感じではあったけど、それでも、笑顔を浮かべられる程度には元気なようだった。

 

「お姉ちゃん……」

 

「あ、瑠璃ちゃん!入って入って!」

 

「ん……」

 

病室のドアを閉めて、お姉ちゃんが座るベッドの脇にある椅子まで移動して座ってしまう。

 

「お姉ちゃん……元気そうでよかった……痕とか……残らない……?大丈夫……?」

 

「うん、もうすっかり元気だよ。傷も、包帯が取れるころには痕が残らないくらい綺麗に治ってるだろうって」

 

「そっか……それなら……良かった……」

 

お姉ちゃんの返答に、胸を撫でおろす。

そうしていると、お姉ちゃんが心配そうな表情をし始めていた。

 

「……聞いたよ、瑠璃ちゃん、頑張ったんだよね」

 

「……誰から…………分かったから……いいや……お茶子ちゃんたち……口が軽い……」

 

お姉ちゃんの思考からお茶子ちゃんと梅雨ちゃん、あとはリカバリーガールから伝えられたのが分かってしまった。

皆口が軽くて困る。

お姉ちゃんに心配かけたくなかったのに。

 

「……よし!ちょっと一緒に寝よっか!」

 

「……今から……?」

 

「今から!」

 

「制服なのに……?」

 

「制服でも!瑠璃ちゃん、気付いてないのかもしれないけど、顔色すごいことになってるよ。青色通り越して土みたいな色になってる。もう何も考えないでいいから、休も。ね?」

 

お姉ちゃんがごり押してくるけど、あとはここがお姉ちゃんの病室であることくらいしか、反論の材料がなかった。

顔色が悪いのは自覚してたし、正直周囲の不愉快で嫌悪感と吐き気を覚える思考のせいで、全然良くなるとも思えなかった。

だけど、お姉ちゃんが添い寝してくれるって言うなら、少し休もうかな。

 

「……ん……じゃあ……」

 

私が返事をすると、お姉ちゃんはにっこり笑顔を浮かべながら、布団をちょっとめくって私が横になるスペースを開けてくれた。

靴を脱いでベッドに入ると、お姉ちゃんが抱きしめてくれた。

お姉ちゃんのぬくもりに包まれて、頭や背中を撫でられて、私は、眠りに落ちてしまった。




トリアージに関して
助ける順番は赤>黄>緑>黒じゃないの?と思うかもしれませんが、今回は状況が特殊過ぎます
どういうことかというと、今回の場面は、医療行為がほぼ出来ない(圧迫止血やバックバルブマスクがあればそれによる換気くらいしか出来ない)という状況の中、搬送の優先順位を決めている状況になります
ここでも現実なら基本的には一次トリアージが取られるので、優先順位は変わりません。これを元に、受け入れ可能な病院に割り振っていきます
ですが、今回のような街が崩壊して万を超える被災者がいる中、救助の手も全く足りていない状況で、瑠璃のような人間がいると話が変わってきます
基本的に平時の救急医療では、防ぎえた外傷死を防ぐために、受傷から1時間以内に、手術などの治療を開始することが重要とされています。こんなことが言われているくらい、時間との勝負なのです
ではこの状況ではどうなのかというと、当然、全てを助けることはできません
ですが、瑠璃には身体の内部も、脈拍などの情報も、すべて見えています
そのため、救助前にも関わらず、二次トリアージ……本来なら病院に到着し、医療スタッフがトリアージを行った後に医師が行う、診察行為を伴ったトリアージも交えて行っているのです
その情報をもとに、搬送しても病院に着く前に黒になる可能性が高いと判断した場合などに、切り捨てる決断をしています
その人を搬送する人手と時間があれば、もっと多くの人を救える可能性があるからです
これが病院でやってることなら話は変わるんですけど、瓦礫に埋もれたり、被災地で動けなくなった人の救助をしている状況で、生存率まで考えられちゃうので優先順位が狂ってる感じです

腹腔内出血
これは外観上の外傷はありませんが、体内で臓器が損傷し、出血している状態です
肝臓などの血液量が多い臓器が損傷すると多量の出血を伴い、体内を循環する血液量が減って、所謂ショック状態になります
出血した臓器によっては短時間で死に至る可能性のある危険な状況です

つまりどういうことかというと……ヒーローと救急隊は足りてない、交通網もやられてる、病院はどこもパンク状態で助けられる可能性はくっそ低い、他にも被災者は大量にいるって状況なので見捨てて、他を優先したってことです
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