「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあったものは個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかったものは予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」
授業の最後に相澤先生がそんな感じで説明して、話を締めた。
だけど、隣のミッドナイト先生が意味もなく胸を張るように伸びをしたり、謎のセクシーポーズをしたりしていてすごく気が散る。
ブドウ頭の垂れ流しになっている思考と感情が大分気持ち悪いことになっているから、勘弁して欲しい。
「俺ぁ都市部での対・凶悪犯罪!」
「私は水難に関わるところが良いわ……あるかしら」
切島くんと梅雨ちゃんが自分の希望の傾向を探している。
やっぱり皆どういう分野で活躍したいかとかは考えているんだろう。
私もお姉ちゃんのサイドキックになるという目的を考えて事務所を選ぶべきだ。
人命救助中心の13号先生のようなヒーローの事務所に行って長所の感知を伸ばすのもいいし、武闘派ヒーローのところに行って欠点の戦闘能力のなさをどうにかするのもいいかもしれない。
切島くんのような対・凶悪犯罪のところに行ってヒーローが戦いやすいようにサポートをする方法を学ぶのもいいかもしれない。
悩ましい所だ。
「波動」
「はい……」
そんなことを考えていたら相澤先生に呼ばれた。
「お前の指名リストだ」
そう言って紙の束を渡してくれる。
私でもそこそこの厚さになってるけど、爆豪くんと轟くんは大変なことになっているんじゃないだろうか。
そう思って爆豪くんの方を意識を向けると、束なんて表現では済まない紙の山があった。
これ、目を通すだけで1日かかるんじゃないだろうか。
「今週末までに提出しろよ」
そう言って先生は授業を締めくくった。
今日は木曜日だから、あと2日で提出しろということらしい。
相変わらず時間に厳しい先生だ。
授業も終わったから席を立って、透ちゃんの席に移動する。
透ちゃんは既に配られた紙から目を離していた。
丸を付けているところがあるし、どこにするかもう決めたらしい。
「透ちゃん……もう決めたの……?」
「うん!隠密活動中心のヒーローがリストにいたんだよ!ここ!」
そう言って透ちゃんは丸を付けている事務所を指さした。
聞いたことがない事務所だけど、隠密活動を中心としているなら当然か。
むしろ有名になったら活動の邪魔になるから、本格的に隠密活動をしている証拠なのかもしれない。
「そっか……隠密活動なら……透ちゃんの独壇場だね……」
「そうなんだよ!だから見てすぐに決めちゃった!瑠璃ちゃんは?いい所から指名入ってた?」
そう聞かれて透ちゃんに私のリストを手渡す。
「ね、ウチも見ていい?」
「ん……いいよ……」
近くで百ちゃんと話していた響香ちゃんも気になったのか覗き込んできた。
百ちゃんは自分のリストに集中しているみたいで、私のリストを見ようとはしなかった。
「わ、やっぱり人命救助系の事務所が多いねー!」
「プッシーキャッツにバックドラフトに……13号先生まで!?」
私のリストはやはりというべきか、人命救助系の事務所が多かった。
ちなみにお姉ちゃんがお世話になっているリューキュウからの指名はない。
「ん……ただ……人命救助もいいけど……迷ってる……」
「そうなの?」
「うん……得意な部分を伸ばすのもいいけど……苦手な所もどうにかした方がいいのかなって……」
「そっかー「うわマジ!?ミルコからも指名来てるじゃん!?」
透ちゃんの声を遮るように、響香ちゃんが声を上げた。
そしてその声に大げさに反応する人が、1人だけいた。
「ミルコ!!?」
緑谷くんだ。
さっきまでお茶子ちゃんと話していたのに、興奮した表情をしながら凄い速さで近寄ってきた。
「ほ、本当にミルコから指名が入ってたの!?」
「ん……うん……来てた……」
にじり寄ってくる緑谷くんにリストを見せてあげる。
「ほ、本当だ!凄いね波動さん!ミルコは管轄を持たずに日本中を飛び回る新しい形のヒーローなんだよ!一人でいることを好んでサイドキックもいない彼女がまさか指名を出すなんて……!これは凄いことだよ波動さん!!」
「そ、そっか……でも……どこに行くかはまだ迷ってる……」
緑谷くんが相変わらずの早口で説明してくる。
ちょっと怖い。
私が迷っていると返答したら、それはそれでさらに早口で聞き取れないくらいのブツブツをし始めた。
うーん、どうしようかなこの緑谷くん……お茶子ちゃんに引き取ってもらおうかな……?
そんなことを話していると、話を中断されてしまったお茶子ちゃんも近づいてきた。
「瑠璃ちゃん、迷ってるの?」
「ん……私……全然戦えないから……そういうのが学べるところもいいのかなって……」
「そっか!じゃあ私と同じだね!私もこの間の爆豪くん戦で思ったんだ!強くなればそんだけ可能性が広がるって!だから私、指名があったバトルヒーローガンヘッドのところに行くことにしたんよ!」
「あー、そっか。2人は体育祭で圧倒的格上相手にボコボコにされちゃったもんね……」
透ちゃんが悩んでいる理由に納得してくれる。
そして私の言葉を聞いた緑谷くんが、また目を輝かせ始めた。
「そういうことなら!ミルコのところは波動さんにぴったりだよ!なんといってもミルコは肉弾戦を主体にした武闘派ヒーローのトップ!ビルボードチャートトップ10の中でも数少ない女性ヒーローだし!波動さんが戦い方を学ぶっていうならこれ以上うってつけのヒーローはいないよ!一人で活動しているミルコなら波動さんの感知は絶対に役に立つし!それに轟くん戦の最後の跳躍を使いこなせるようになればミルコみたいに戦うのも不可能じゃないかもしれないから!」
「そ、そっか……ありがと……参考にするね……」
解説はありがたいんだけど、皆が生暖かい目で緑谷くんを見ていることに気が付いていないんだろうか。
気付いてないんだろうな……
そんな風に話している教室の端で、憎悪の感情を飯田くんが発しているのが気になってしまう。
保須市のヒーロー事務所のことを考えているみたいだけど……
……思考からして、やろうとしてることに想像はつくけど、あまりいい予感はしない。
気を配りはするけど、職場体験先で何かすることを考えているなら出来ることはないに等しい。
出来るとしたら、行く前に声をかけて早まらないように言っておくくらいか。
放課後―――
「オイラはMt.レディ!!」
欲望駄々洩れのブドウ頭が、自分の職場体験の希望先を暴露していた。
「峰田ちゃん、やらしいこと考えてるわね」
「違うし!」
どこが違うと言うのか。
ラッキースケベを期待して、そのことを強く考えていたじゃないか。
「芦戸もいいとこまで行ったのに指名ないの変だよな」
「それぇ」
尾白くんと三奈ちゃんが指名がないことへの疑問を発する。
確かに三奈ちゃんに指名がないのは不思議だなと思っていると、透ちゃんに声を掛けられた。
「瑠璃ちゃんはどこに行くか決めた?」
「ん……ミルコのところに……行こうかなって……」
「そっかー!じゃあ職場体験が終わったら瑠璃ちゃんが武闘派に目覚めちゃってるかもしれないわけだ!」
そんな風に冗談めかして話してくる透ちゃんと会話していると、お茶子ちゃんが緑谷くんに声をかけた。
「デクくんはもう決めた?」
それに対して緑谷くんは特に返答しなかった。
というか、できなかった。
「まずこの40名の受け入れヒーローらの得意な活動条件を調べて系統別に分けた後、事件・事故解決件数をデビューから現在までの期間でピックアップして僕が今必要な経験もそうそうないし慎重に決めるぞ。そもそも事件がないときの過ごし方も参考にしないといけないな忙しくなるぞうひょー」
『『『芸かよ最早』』』
うひょーってなんだうひょーって。緑谷くんのテンションはどうなってるんだ。
緑谷くんがオタクモードになって、それを皆が生暖かい目で見るのがもはや定番になりつつある。
だけど緑谷くんのその考察は無駄になりそうだ。
今、オールマイトが緑谷くんの指名のことを考えながら教室に向かってきている。
きっと遅れて指名が入ったんだろう。
「わわ私が独特の姿勢で来た!!」
どうやったのか横にスライドしながらオールマイトが登場した。
汗がだらだら流れているけどどうしたんだろう。
走っただけじゃオールマイトは汗なんか搔かないと思うんだけど。
オールマイトはそのまま緑谷くんと退室していった。
もう贔屓していることを隠そうともしなくなっている気がする。
思考からして、緑谷くんを指名したのはオールマイトの先生らしい。
……オールマイトが新米教師過ぎて耐えきれなくなって指名してきたのかな?
まあオールマイトを育てた先生ならきっとすごい人なんだろう。
オールマイトも何故かすごく怖がっているし。汗を搔いていた理由はこれか。
そんなに怖い人なんだろうか。少し気になった。
ミルコはサイドキックは雇っていませんが、公安の要請で学生を受け入れたりすることはあります。(チームアップミッション)
なので卒業後サイドキックとして雇うことはなくても、ミルコにとっての利点があれば指名を出すこともあるかなと考えています。
学生ならプロに指示なんか出せるはずもなく、完全に自分の管理下に入りますしね。