波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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深夜のお手紙

お姉ちゃんと透ちゃんとゆっくり話して、私も少し調子が戻った。

調子が戻ったとは言っても、罪悪感とかが無くなるわけじゃないけど、それでも透ちゃんやお姉ちゃんを頼ってもいいって言ってもらえて、少しだけ気分が楽になってはいた。

皆にも心配かけたことを謝りに行ったけど、謝罪は必要ないって口をそろえて言われてしまった。

皆、安心しているのは伝わってきた。

皆のその思考に、私も少し嬉しくなってしまった。

 

そんなこんなで気分も若干落ち着いて、今後起こり得ることとかをいろいろ考えた。

その結果、私は緑谷くんが帰ってくるのを待っていた。

あの狂人のような人助けに狂った思考の彼が、死柄木に狙われているこの状況でどういう行動にでるか。

自分1人が犠牲になれば、他が狙われなくなる可能性がある状況で、どういう行動にでるか。

予測自体は、簡単にできた。

緑谷くんなら、確実に出奔する。

1人でどこかに出て行って、避難民が、私たちが被害にあわないように、1人で戦い続ける。

正直、これを止めることが出来るとは思えない。

彼のあの根っこまで染みついた狂気的な思考を、捻じ曲げられるとは思えないから。

それならそれで、私にも考えがあった。

そのことを、緑谷くんに伝えたかった。

 

そう思ってたんだけど……

帰ってきたのは、オールマイトだけだった。

しかも、オールマイトが来たのも深夜、皆が寝静まってからだ。

緑谷くんが帰ってくるなら、皆に気付かれない深夜だろうとは思ってたけど、ここまで徹底してくるとは、思ってなかった。

……いや、もしかしなくても、私がいるから、自分が帰ってくることはしなかったのか。

感知されたら、止められるとでも思ったのかな……

 

そして、オールマイトが私の部屋の前に来た。

皆の部屋に、順番に紙を差し込んでいるあたり、多分緑谷くんからの手紙を届けに来てくれた感じかな。

オールマイトの思考からして、間違いないとは思う。

だけど、これから緑谷くんが1人で戦いに行くというなら、せめて……

本当なら、直接伝えたかったんだけど、そういうことをしてくるなら仕方ない。

どうせ先生たちには話して認めてもらわなきゃいけなかったんだから、ここで話してしまおう。

 

そう思って、オールマイトが手紙を差し込もうとした瞬間、扉を開いた。

 

「っ!?は、波動少女……」

 

「入ってください……話があります……」

 

「……分かった」

 

ビクって感じで飛び上がってびっくりしていたオールマイトだったけど、私が用件を伝えると、深刻な表情ですぐに頷いてくれた。

オールマイトはすんなり部屋に入って、すぐに口を開いた。

そんなに時間がない感じなんだろうか。

 

「それで、用件はなんだい」

 

「手紙を読まなくても……分かります……緑谷くんは……1人で行くつもり……なんですよね……」

 

「……あぁ。波動少女に隠し事をしても無駄だろうし、するつもりもないよ。その通りだ、としか言えない」

 

オールマイトは、曇った表情で言い返してきた。

この感じは、オールマイトも反対な感じか。

だけど、止められないと。

まあ、自分が緑谷くんと同じ思考の下で自己犠牲を体現し続けて不動のNo.1になったから、止めることなんてできるはずもないか。

 

「……オールマイトが……緑谷くんを止められないのは……もう理解してます……私が何かを言って……緑谷くんを止められるとも……思ってません……そんなに簡単に考えを曲げるような人なら……あんなに狂った……怖い思考はしてません……」

 

「怖い思考?」

 

「……自分を一切勘定に入れずに……人助けをしようとし続ける……狂人みたいな思考のことです……一応言っておきますけど……オールマイトもそうですからね……私、2人のことは……似た者師弟だと思ってるので……」

 

「っ……ああ、そうだ。その通りだよ。だからこそ私は、緑谷少年が自分がしてきたことと同じことをするのを、止めることが出来なかった。今彼を無理に止めようとすれば、間違いなく制止を振り払って行ってしまうのが分かってしまったからね」

 

オールマイトは、顔を歪めながらそう言ってきた。

緑谷くんに対する心配が、思考を埋め尽くしていた。

この感じだと、オールマイトは緑谷くんについていく感じだろう。

緑谷くんもオールマイトなら拒否しないだろうし、孤立した状況にならないなら、それはいいことだ。

むしろ、誰にも言わずに1人で行くというなら、全力で止めに行っていたかもしれない。

 

「……そうだ……ちょっと待ってください……」

 

オールマイトの思考を読んでいて、1つのことに気付く。

そういうサポートをしてくれるなら、私もちょっと協力するか。

緑谷くんのコンディションはいいに越したことはないし。

メモ用紙を取り出して、さらさらとレシピを書き出していく。

 

「……?どうしたんだい?」

 

「いえ……オールマイトが……緑谷くんのサポートで……食事を提供するつもりなのが分かったので……思考もお弁当に触れてましたし……緑谷くんの好みの味付けの……とんかつとか、好物の作り方を…………はい……レシピです……作るつもりなら……どうぞ……」

 

「ああ、助かるよ。ありがとう」

 

オールマイトは、私が差し出したレシピのメモを素直に受け取ってくれた。

渡したのはいいんだけど、これオールマイトが作るんだろうか。

エプロンをつけたオールマイトを想像して、ちょっと笑いそうになってしまった。

 

まあそれはいいとして、本題に入らないと。

 

「それで……本題なんですけど……」

 

「ああ、なんだい?」

 

「オールマイトは……避難民の受け入れに際して……AFOが何を仕掛けてくるか……予測はしていますか……?」

 

「……トガヒミコじゃなくて、AFOが、でいいのかい?」

 

「はい……トガじゃなくて……AFOです……」

 

オールマイトは、トガの侵入に関してはある程度リスクとして認識していたみたいだけど、それ以上の予測はしていないみたいだった。

だけど、それじゃだめだ。

トガ対策だけじゃ絶対に足りない。

トガの対策なんて、私が見なくても数日隔離してから校内に受け入れるだけで解決できてしまう。

問題は、避難民の方だ。

 

「考えてなかったみたいですし……私の予想を話します……青山くんの状況からして……AFOは……脅迫して従わせている人間を……捨て駒扱いしていると……私は考えています……」

 

「……ああ、言い方は悪いが、そうだろうね。私もそう思う」

 

「はい……それで……内通行為を働きかけてきたAFOが……使い捨ての駒に全幅の信頼を置くのかという話です……青山くんも……青山くんの両親も……まだ処分されていません……まだ、利用価値があるから残している……こちらに、何かしらの内通行為を仕掛けるつもりが……まだあるからだと……私は考えています……そして、信頼しきれない駒だけに……任せきることはないと思っています……」

 

「……確かに、その可能性もあるとは思うが……」

 

オールマイトも考え込み出していた。

むしろ、これまでAFOと向き合い続けてきたオールマイトだからこそ、悪辣な手を取ってくる可能性があることを否定できないようだった。

 

「避難民を受け入れる関係上……合理的な理由がないと受け入れの拒否なんて出来ません……もしそんなことしてるのがバレたら……それこそ手のつけられない暴動に……なりかねないので……」

 

「まあ、それはそうだろうね。つまり、AFOが避難民の中にスパイを紛れ込ませてくる可能性があると、そう言いたいのかい?」

 

「はい……そうです……それで……この話です……先生たち……私に遠慮してますよね……」

 

私が本題を切り出した途端、オールマイトは無言でこちらを見つめてきた。

思考的にも、間違いなさそうだった。

今まであれだけ侵入者とかの対策を打ってきた先生たちが、なぜか今回の避難民の対策を立てる会議をしている様子が見られなかった。

受け入れの準備をしている先生たちの思考から、トガ対策で数日個室に隔離して、待機してもらってから受け入れるというものが読み取れるにも関わらずだ。

つまり、わざわざ私が寝てる深夜に、会議をしたんだ。

私がこの市民のパニック状態の思考を読まないように、なるべくお姉ちゃんか透ちゃんの思考を深く読んでいたのもあったけど、先生たちの思考にあまり注意を払っていなかった。

というよりも、深く読んでいる人以外の思考を、意図的に読まないように努めていた。

もちろん読まないなんてできないから、気を逸らしているだけでしかないんだけど。

そんな中でも、『会議が―――』みたいな曖昧な思考は読めていたけど、具体的な日時を思い浮かべる先生が一切いなかった。

深夜に予定がある程度しか、表層では過らせていなかった。

明らかに、私に読まれないように意識していた。

具体的な方法は分からないけど、忙しそうに色々考えを巡らせていた校長先生が、深夜に急に連絡を取ったりでもしたんだろうか。

まあでも、今はそんなことはどうでもいい。

 

「なんで先生たちは……私に読心を頼まないんですか……私が読心をすれば……トガだけじゃなくて……よからぬ考えを抱いている人まで……弾けるのに……」

 

「……それは波動少女自身が、もう分かってるんじゃないかい。理由は、君の負担が、あまりにも大きすぎると判断したからだ。蛇腔から帰ってきた君を見た時、正直に言って絶句したよ。あれほど憔悴した君は、見たことが無かった。その後の世間の風評も、さっきの会見も、波動少女がどれだけ傷付いたか……他の教師も、同じ思いだったんだと思う。それをするように頼むということは、受け入れることになる市民全員に対して、詳しく読心してもらう必要がある。今の状態の波動少女に、そんなことを頼めるわけがないだろう」

 

「そんなの……避難所として一般市民を受け入れるなら……そんなに変わりません……それなら……せめて……友達が、安心して帰って来られる場所を……作ってあげたいんです……私なら、それができます……私にしかできません……」

 

「波動少女……」

 

オールマイトは考え込んでしまった。

しばらく見つめ合うような状態になってしまって、少ししてからオールマイトは眉間にしわを寄せながら口を開いた。

 

「……私だけで返事ができることじゃない。校長にも相談する。それでいいかい」

 

「はい……問題ないです……」

 

オールマイトだけで返答できる案件じゃないのは分かっていた。

相澤先生も、まだ入院してるから頼ることもできない。

校長先生に相談するというのは、まあそうなるなという感想でしかなかった。

 

それから、もう明日には避難民の受け入れが始まってしまうことと、まだ校長先生が起きているというのもあって、今日の内に相談するという方針になった。

オールマイトが残りの手紙を差し込んでから、一緒に教師寮に向かった。

 

 

 

「やぁ、来たね」

 

「すいません……こんな夜中に……」

 

校長先生は教師寮のソファに座りながら、明日の段取りと思われる紙の束や、いろいろな資料とにらめっこしていた。

校長先生には、さっきオールマイトが話を通すために電話した時に概要は伝えてある。

そのおかげもあって、すぐに本題に入ることが出来た。

 

「いや、それはいいんだ……聞いたよ。なんでも、避難民の受け入れに協力したいそうだね」

 

「……はい……」

 

「……なぜ私たちが君にそれを頼まなかったかも、分かったうえでの提案だということだね?」

 

「……はい……そうです……分かっています……先生たちが……私のことを心配してくれていることも……救助活動の告発を受けて……警戒してくれていたことも……」

 

先生たちからは、本当に、心底心配してくれている思考と感情が私に向けられていることは、分かっていた。

お姉ちゃんにも顔色が土みたいになってるって、ボカして言われてはいたけど、それだけ酷い状態だったのも自覚はしていた。

さっきの告発を受けた記者会見での質問だって、心を抉られるような気がした。

正直にいうと、今も全然状態は良くなってない。

私が見捨てた死体の山も、見捨てた人の家族からの罵倒も、さっきの記者の言葉も、頭からこびりついて離れない。

それだけじゃなくて、周囲の負の感情のせいで常に吐き気を感じているのと、悪意とかも感じるせいで、良くなるなんて思えなかった。

 

「私たちは、君に無理はしないで欲しいと思っている。君がどういう状態なのかも、理解しているんだよ。その上での判断だった。確かに、君がさっきオールマイトに話したという、青山くん以外のAFOのスパイが紛れ込む可能性というのはあると思う。だけど、それとこれとは話が別だと、私は思うんだよ」

 

「確かに……そうかもしれません……だけど……緑谷くんが……1人でAFOに立ち向かう決意をしてるんです……!たとえプロと一緒にいるとしても……彼の性格だといつそれを振り切るかも分かりません……!ならせめて、彼がAFOの手が入っていないって、安心できる場所を、帰ってくることができる場所を、作ってあげたいんです!緑谷くんは、私の大切な友達なんです!彼がこのまま死ぬなんて、嫌なんですっ!」

 

「友のためだと……そういうのかい……私はてっきり、姉に危険が及ぶのを防ぐために、こういう提案をしに来たんだと思ってたんだけどね」

 

校長先生が、溜息を吐くようにして考え込み始めていた。

確かに、お姉ちゃんをこれ以上危険に巻き込まないために、不安要素を排除したい気持ちがないわけではない。

でも、お姉ちゃんは雄英にいる。

私の感知範囲内にいる。何かあれば、私が守りに行くことが出来る。

あの時の力がまた使えるかなんて分からないけど、それでも、私が動くことができる。

だけど、緑谷くんは違う。

これから、こんな荒れ果てて、治安も崩壊した街を、彷徨うことになってしまう。

そんな状況で、AFOとも、脱獄した大量のヴィランとも、向き合うことになってしまう。

彼の性格からして、AFOとつながりがないヴィラン相手でも、一般市民が困っていれば救けに向かうのは容易に想像できる。

狙われることによる周囲への被害を気にしているであろう今の状態で、帰る場所があるなんて、思っているはずがなかった。

 

だけど、死柄木の襲撃の可能性はどうしようもないけど、私がAFOの手の者を排除すれば、少なくとも内部の人間に関して心配する必要が無くなる。

不安要素が減るから、帰ってきやすくなる。

だから―――

 

「私は、緑谷くんにちゃんと帰ってきて欲しいんですっ!このままさよならなんて嫌なんですっ!A組の皆は、私なんかを受け入れてくれてっ……初めてできた友達なんですっ!誰も、欠けて欲しくないんですっ!!だから、せめてっ……帰ってきやすいように……」

 

「波動少女……」

 

オールマイトが顔を歪めながら、呟いている。

校長先生も、頭を押さえて考え込んでしまっていた。

 

「……私の考えは、正直に言うと変わってないよ。ギガントマキアの対処も、崩壊した街の救助活動も……君は十分過ぎるほど尽力してくれた。だから、君の精神的な安寧のためにも、やるべきではないと考えている……」

 

校長先生はそこまで言うと、溜息を吐いてから話を続けた。

 

「だけどね……今の君を放置すると、勝手に選別を始める可能性が高いと、話を聞いて思ってしまったのも事実さ……分かった、認めるよ。だけど、こちらの指示には従ってもらうよ。君の負担を最低限に出来るように、指示を出させてもらう。それでいいかい?」

 

「はい……!大丈夫です……!ありがとうございます……!」

 

校長先生は、諦めたかのような顔で認めてくれた。

良かった。認めてくれなかったら、校長先生の言うとおり、先生たちに内緒で勝手に選別して、処理の方法とかを考えてしまうところだった。

 

「オールマイト……!そういうことなので……!緑谷くんにちゃんと伝えてください……!私が、AFOの手が及ばない場所を作るからって……!いつでも帰ってきていいって……!」

 

「……必ず伝えるよ……すまない、ありがとう」

 

オールマイトも、確かに頷いて承諾してくれた。

その目じりには、少しだけ涙が浮かんでいた気がした。

 

その後、校長先生から明日の予定を教えてもらった。

明日の受け入れは、9時から始めるらしい。

緑谷くんのためにも、明日から頑張らないと……

そう思って、気合を入れなおした。

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