波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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翌日、朝になった途端皆の驚愕した思考や、慌てている思考が寮を支配していた。

オールマイトが置いていった緑谷くんの手紙に気が付いたんだろう。

私の手紙には、ちゃんと挨拶せずに出ていくことに対する謝罪と、今までありがとうってこととかが、つらつらと書かれていた。

この手紙からして、緑谷くんはもう戻ってくるつもりがなかったのが容易に読み取れてしまう。

だけど、オールマイトが私の伝言を伝えてくれるはずだし、それで少しでも揺らいでくれたら嬉しいとも思う。

あの後、オールマイトはすぐに学校を出ていった。

今の緑谷くんに、オールマイト以上に信頼できる人なんていないから、私も特に何も言わずに見送った感じだった。

思考を見る限り、緑谷くんはGPSをつけて動いていて、それにオールマイト、エンデヴァー、ホークス、ベストジーニストがついていっている感じっぽい。

ミルコさんはいないみたいだけど、まあそれも当然かと思わなくもない。

緑谷くんを追跡して、それを餌にして待つだけって絶対にミルコさんの性に合わないし。

多分脱獄したヴィランたちを捕まえるために跳びまわってると思う。

 

それはいいとして、私も準備をしないといけない。

昨日校長先生に、朝9時までに例の窓がない会議室に来るように言われている。

急ぐ必要はないけど、制服を着ておいた方がいいと思うし、ササッと着替えてしまう。

 

 

 

「"オール・フォー・ワン"……!?ヴィランが……狙ってる……!?」

 

「緑谷……!何なんだよこれ……!!」

 

着替え終わって1階に降りると、案の定皆は困惑しきっていた。

まあ、あんな手紙だけ残して失踪しているような状態だと仕方ないことではあるけど。

 

「あ!瑠璃ちゃん!瑠璃ちゃんも手紙入れられてた!?」

 

私が周囲を見ていると、透ちゃんが駆け寄ってきた。

その手には当然のように緑谷くんの手紙が握られている。

 

「ん……昨日の夜……オールマイトが全員の部屋まわって……放り込んでた……手紙の内容は……ちょっと違いがあるくらいで……大きな差はないよ……」

 

「え、緑谷くんじゃなくて、オールマイトなの?」

 

「ん……手紙に書いてあった通り……オールマイトは……緑谷くんの師匠だから……」

 

「それは分かったし、オールマイトの贔屓も納得できたけど……瑠璃ちゃん、やっぱり知ってたの……?」

 

透ちゃんが恐る恐ると言った感じで確認してきた。

これは、手紙のことだけじゃなくて緑谷くんの個性のこととかも含めて聞いてる感じかな。

 

「入学してすぐのころから……知ってた……あの2人……隠し事下手過ぎるから……ちょっと聞いたら……全部思考から駄々洩れだった……昨日オールマイトが手紙入れるのも見てたけど……緑谷くんがいなかったし……止めようがなかった……たとえいたとしても……緑谷くんって……狂人みたいな思考してるから……止められないと思う……」

 

「きょ、狂人?みたいな思考って……」

 

「……自分を一切勘定にいれないで……どんな状況でも……他人を助けようとする感じの思考……あんな考え方する緑谷くんが……自分が狙われてるのが分かってるのに……このままここに残るわけないとは思ってた……だから……帰ってくるのを待ってたんだけど……オールマイトしか帰ってこなかった……」

 

「……そっか……」

 

私の説明に、透ちゃんは沈痛な面持ちで納得していた。

周囲の皆が困惑したり落ち込んだりしているのも相まって、寮が凄く暗い雰囲気になっている。

そんな中、納得し終わって私を見直した透ちゃんが、不思議そうに問いかけてきた。

 

「……そういえば、なんで瑠璃ちゃん制服着てるの?休校中なのに」

 

「……私は……私ができることを……しようと思って……」

 

「できること?」

 

「ん……私にしかできないこと……」

 

透ちゃんの頭に疑問符が浮かんでしまっている。

とりあえず、時間も近づいてきてるから行かないと。

 

「……瑠璃ちゃん、また無理しようとしてるでしょ」

 

「……そんなこと……」

 

「誤魔化そうとしなくてもいいよ。顔見れば分かるから……ねぇ、本当に瑠璃ちゃんがやらないとダメなの?この前だって、あんなに酷い状態になってたのに、また無理するの?もうあんな瑠璃ちゃん見たくないよ……」

 

透ちゃんが、顔を歪めて泣きそうになりながら問いかけてきた。

そう言ってくれるのは嬉しいけど、でも、私がやりたいからやらせてもらうんだ。

確かに無理はすることになるし、絶対に体調も悪くなると思うけど、それでも、緑谷くんのためにも、私が、やりたいんだ。

 

「ん……私じゃなきゃだめ……緑谷くんが……少しでも帰ってきやすい場所を……作りたいから……無理は、することになるけど……それでも……私がやらせて欲しいって……頼んだことだから……」

 

「緑谷くんの、ため?」

 

「うん……緑谷くん……大切な、友達の……ためだから……だから、頑張りたいって思った……」

 

「……そっか……」

 

透ちゃんは、顔を伏せて何も言わなくなってしまった。

とりあえず、時間が迫ってるしあんまり遅くなると校長先生を筆頭とした先生たちにも迷惑だ。

 

「じゃあ……行ってくるね……」

 

透ちゃんが逡巡して、止めたいけど止められないなんて考えながら迷っているのを感じながら、学校に向かった。

透ちゃんだけじゃない……お茶子ちゃんも、緑谷くんがいなくなって、『ばかやろう』なんて言いながら、悲しんでる。

皆、友達が苦しい道のりを選んだことを、嘆いている。

ここが、頑張りどころだ。

 

 

 

会議室に着くと、そこには校長先生とセメントス先生、スナイプ先生がいた。

他の先生は、今は周辺の警備や避難民の初期対応とか、いろいろと忙しそうにしている。

校長先生以外のメンバーは、この後やる避難民の初期選別、その時に万が一暴れられても対応できる人選って感じみたいだった。

……本来なら、ここには相澤先生とか、ミッドナイト先生がいた方がよかったんだと思う。

相澤先生なら個性を消してしまえるし、ミッドナイト先生なら、男に対して無類の制圧力を持っているから。

だけど、相澤先生はまだ入院中だし、ミッドナイト先生は、もういない。

それなら、ワンテンポ遅れても制圧力があるセメントス先生と、打ち抜けるスナイプ先生を選んだって感じっぽかった。

そう思いながら周囲の波動を色々見ていると、校長先生が話し始めた。

 

「よし、じゃあ流れを説明するよ。初期対応をしているマイクと13号が、1人ずつ順番に隣の空き教室に案内してくれることになっている。そこで、まずは面接を行うつもりさ。人数も多いから、そんなに多くの時間は取れない。だけど、自己紹介以外にも、来ることを選んだ理由とか、そういうのを聞いていくつもりだよ。そこで波動くんには、面接時の読心をしてもらいたいと考えている」

 

「……読心だけで……いいんですか……?トガかどうかとかも……見るつもりだったんですけど……」

 

「ああ、そっちに関しては、気が付いたら教えてくれるくらいで大丈夫だよ。そもそも、トガヒミコの個性が成長している可能性もあるからね。君が分からない程正確に変身できるようになっている可能性もある。その場合に備えて、面接後は3日程個室に隔離して、その後に受け入れるつもりさ」

 

「……避難民……納得してくれますかね……怒ってたり……ヒーローを恨んでる人も結構いますけど……」

 

「納得させるよ。それが避難所として開く最低限の責任だと考えている。そうしないと、変身の個性を持つヴィランが紛れ込む可能性を排除できないことを説明して、必ず納得させる」

 

校長先生は静かにそういった。

まあ、先生たちがそれで避難民を納得させられるというならそれでいい。

 

「それで、波動くんには面接時の読心の結果、怪しいと感じた者、黒だと確信した者を、テレパスで教えて欲しい。その結果を受けて、対応が変わってくるからね」

 

先生の説明は、当然の指示だと思った。

怪しいけど判断がつかない人は、まとめて一括で管理して、黒は即刻警察に引き渡す。

避難民に内部区画がどうなっているか説明してないみたいだし、その対応が普通の人と異なる対応をされているかなんて分からないだろう。

それ以外は変身確認のための隔離さえパスすれば、普通に内部の避難ブロックに招き入れるつもりみたいだ。

だけど、その怪しい人と言う部分が曖昧だ。

もっと確認しておかないと判断に困ると思う。

 

「……AFOとつながっていない……ヒーローに対する恨みや嫌悪感……悪意が強すぎる人とかは……どうしますか……?」

 

「それは素通ししてもらって構わない。僕たちが弾きたいのは、ヴィラン本人やAFOとつながる者、何らかの内通行為を企んでいるものだけだよ」

 

「その内通行為が……ヴィランじゃない者……脱ヒーロー派とのものだった場合は……?」

 

あらかじめ聞いておきたくて、先生に細かく確認していく。

一応、可能性は低いとは思うけど、脱ヒーロー派に内部情報を渡そうとする人がいるかもしれない。

内部情報の漏洩は、AFOに対して隙を見せることにもなるし、判断に困る。

 

「……内容は問わないよ。今は情報漏洩が致命傷になりかねない状況にある。もし外部との内通行為をしようとするものがいたら、その内容を教えて欲しい。内通先にもよるけど、犯罪にならない程度なら隔離で済ませる可能性もあるからね」

 

「……分かりました……」

 

「後は……無理だと思ったらすぐに教えて欲しい。あの時見せてもらった物間くんの個性の特訓の時の様子からして、今の状況でのこの作業が、君にどれだけ負担がかかるか……」

 

「……ありがとうございます……無理だと思ったら……言いますね……」

 

先生が私を心配してくれているけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。

頑張らないと。

 

そして、面接が始まった。

隣の部屋で、先生3人が簡単な面接を進めていく。

最初に入ってきたこの人は白だ。

ヒーローに対する不信感と、現状に対する大きな不満を持っていて、負の感情も大きいから不快感はすごいけど、悪意はない。

間違いなく白だと思う。

先生たち3人に白であることをテレパスで伝えると、いくつかの質問をしてからすぐに次の人に移っていった。

 

 

 

そんな感じの作業を数時間した頃、そいつはやってきた。

『あの方の指令』、『未来の保証』そんな思考が、確かな悪意とともに、感じ取れた。

 

『……先生……黒です……この人……AFOと取り引きしてます……取引材料は……未来の保証……目的は……潜入そのもの……まだそれ以外の指示を受けてません……』

 

『……そうかい。ありがとう』

 

校長先生は、自分の未来のために周囲の人間を売り払うその所業に、悲しみと失望と、複雑な感情を抱きながら、そう返答してきた。

 

男は、面接が終わって移動を促される。

連れ添っているのは、ハウンドドッグ先生だ。

ハウンドドッグ先生は、そのまま裏口まで男を連れて行くと、待ち構えていた警察に、男を引き渡した。

男が凄まじい勢いで喚いているのが分かる。

反撃しようとしたみたいだけど、ハウンドドッグ先生にすぐに取り押さえられていた。

それでもなお、男は喚き続けている。

だけど、ハウンドドッグ先生が遠吠え交じりにAFOのことを指摘すると、絶句して何も言えなくなっていた。

『なんで!?』とか、『失敗した失敗した失敗した失敗した』とか、絶望しながら考えている。

男は、そのまま警察に連れていかれた。

 

 

 

それからも、悪意があって判別がつかない怪しい人を何人か弾きつつ、今日の作業は終わった。

私が寮に戻ると、皆の様子が朝と変わっていた。

気合が、入ってる?

思考的に、多分ワイプシが林間合宿で指導してくれた圧縮訓練みたいなことをしていたっぽい。

緑谷くんのことも、ミッドナイト先生のことも、世間のことも、受け止めきれるわけじゃないけど、いつまでもくよくよしてても仕方ないってことで、備えることにしたらしい。

活気が戻ってるのはいいことだし、私から言うことは何もないかな。

 

「あ!瑠璃ちゃん帰ってきた!お帰り!」

 

「ただいま……」

 

「大丈夫だった?顔色、朝よりも悪くなってるけど……」

 

透ちゃんが心配そうに問いかけてくる。

だけど、とりあえず大丈夫だ。

正直、救助活動で感じ取り続けた負の感情に比べれば全然マシだった。

まあ、それでも不快感は感じるし、吐き気もするから、なんともないかと言われるとそうではないんだけど。

 

「大丈夫……救助活動してた時よりは……全然マシだから……」

 

「そっか……」

 

私の返答を聞いた透ちゃんは、少しの間俯いていたけど、すぐに気を取り直して顔を上げた。

 

「瑠璃ちゃん!食欲はある!?」

 

「ん……まあ、普通に食事ができる程度には……」

 

「よし!じゃあこっちに来て!」

 

透ちゃんに手を引かれて、そのまま共有スペースの食卓の方に連れていかれた。

 

「ちょっと待っててね!」

 

そのまま席に座らされると、透ちゃんがキッチンの方にかけていった。

……思考的に、用件は分かった。

透ちゃんが私のことを、心底心配してくれていたのも伝わってきていた。

 

「はい!朝別れてから、瑠璃ちゃんの為に出来ることがないか考えて……私が作りました!手作りのキャラメルシフォンケーキ!砂藤くんの全面指導を受けてだけど!!」

 

「いいの……?」

 

「もっちろん!瑠璃ちゃんの為に作ったんだよ!……出来れば、私も少し食べたいけど」

 

「ありがと……一緒に食べよ……」

 

透ちゃんが一緒に持ってきてくれた、ミルクティーと一緒にシフォンケーキを食べ始める。

甘くておいしい。

透ちゃんの優しさと、大好きな甘いお菓子で、少しだけ気が紛れた気がした。

 

その後は、皆と一緒にご飯を食べて、シャワーを浴びて、早めに就寝した。

明日も朝から、今日と同じ選別作業だ。

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