翌日、窓のない会議室に行くと、そこには何故か物間くんがいた。
「……なんで……物間くんが……?」
「アハハハハ!!君、まさか手柄を全てA組のものにするつもりだったのかい!?」
「ん……誤魔化さなくても……読心で照れ隠しなの……分かるから……なんでいるの……」
物間くんが盛大に照れ隠しをしながら煽ろうとしてくる。
でも、私にそんな煽りは意味がないのは、物間くんが一番分かってるだろうに。
私がさらに問いかけると、すぐ横にいた校長先生が、小さな手をちょこんと上げながら口を開いた。
「昨日の夜、彼から直談判があったのさ!波動くんが憔悴していたのは、受け入れに協力しているからだろう、自分にも協力させろってね!」
「ちょっ!?こ、校長先生!?」
どうやら、昨日の下校時の様子を見られていたらしい。
そこから私がしていることを推測して、読心が関係しているなら自分でも協力できるだろうってことで、立候補したみたいだ。
校長先生の暴露に対して、慌てて抗議している物間くんに確認するように声をかける。
「……物間くん……本当にいいの……?今の状況……分かっててその提案してる……?」
物間くんは、私の問いかけに一瞬フリーズした。
だけど、すぐに動き出して私の方に向き直した。
さっきみたいな煽ってるいつもの表情も、今先生に暴露されて慌てていた時の様子も、全部引っ込めて、真剣な表情で私を見据えながら、口を開いた。
「……ああ、分かってるさ。僕が散々苦しんだあの時の状況で、ケロっとしていた君が、これだけの状態になっているんだ。分からないはずがないだろう」
「なら……」
物間くんは、状況をしっかりと理解していた。
今の世間の状況、ヒーローへの不信感、現状への不満、未来への不安……
一般市民は皆負の感情を抱えていて、不快感を感じない人なんて、この状況でも活動し続けているプロヒーローとA組とかの持ち直したクラスだけだ。
一応、B組もそこそこ持ち直して来てるけど、結構ミッドナイト先生のことを引きずってたりする思考が読み取れてしまう。
そんな風に、ヒーロー科の学生すらも不快感を感じる感情と思考を発している状況で、物間くんがまともでいられるはずがない。
私には、そうとしか思えなかった。
「……僕だってヒーロー志望なんだよ。君1人にすべてを背負わせて、作ってもらった安全地帯でぬくぬく過ごすなんて、できるわけないだろうっ!!」
物間くんは、私の言葉を遮るようにして、啖呵を切った。
私が口を挟もうとしても、彼はそのまま、すごい勢いで、胸に秘めていた思いを吐露し始めていた。
「君がどういう状況かなんて分かってるさっ!ここに来ている避難民たちが、どれだけ不愉快な思考を垂れ流しているかも、考えたくもないくらいにっ……!だけどね……僕は、青山の状況も把握しているっ!!AFOがどれだけ悪辣な男かも、嫌と言うほど理解させられている!!こんな状況になれば、青山のような捨て駒を送り込んでくることくらい、容易に想像できるさっ!!そんな中で、君が憔悴しながら、僕が浅く見ただけでも不愉快で耐えきれなかった感情を、思考を、自分から深く読みに行ってるんだぞ!!こんなの、放置できるわけがないだろうっ!?」
「物間くん……」
物間くんの感情が、思考が、全てダイレクトに伝わってきていた。
彼は、今の私がどういう状況かを、すごく正確に理解してくれている。
周囲がどれだけ不愉快で、吐き気を催すような感情で溢れているかを理解していて、私がそれから逃れる術を持っていないのも分かってる。
そのうえで、他の誰かのために、受け入れに協力していることまで理解してる。
この協力の申し出で、それが自分に降りかかることだって、全部、全部分かってる。
それでも、私1人に任せるのは、自分の矜持に関わるって、私1人に任せるのは、心配だから、協力させろって、申し出てくれていた。
「……本当に……辛いと思うよ……8月にやったのとは……比較になんて……ならないくらい……それでも……いいの……?」
「覚悟の上だよ」
物間くんは私の確認に、静かにそう言って、無理矢理私の手を掴んできた。
その瞬間、物間くんの顔が、一気に真っ青に染まった。
凄まじい嫌悪感と、吐き気を感じてしまっている。
思考も、すごくつらそうな感じの言葉ばっかりが浮かんでいっている。
もし、無理だって言うなら、それでいい。
物間くんが協力しようとしてくれただけで、十分嬉しかったし……
そう思ったところで、物間くんは、真っ青な顔で口を押さえながら、確かに私を見据えてきた。
「こ、この程度かい……これくらいなら、どうとでもなるよ。さぁ、受け入れ作業を始めようじゃないか」
「……物間くん…………ありがとう……」
物間くんは、明らかに無理をしていたのに、意地だけで始めるように促した。
先生たちも心配そうにはしてたけど、それでも、物間くんの気持ちを汲んで、受け入れ作業を開始した。
私と物間くんは、手をつなぎながら会議室に座って、面接の様子を感知していた。
「深く読む感覚……忘れてない……?」
「……ああ、問題ない。僕に任せれば、君は座ってるだけでも十分だ。波動先輩でも葉隠でも先生でも、好きな人の思考を深く読んで気を逸らしてればいいだろう」
「……それは助かるけど……物間くんもつらいよね……最初に何人か……一緒に読心して……問題ないのを確認したら……交代でやっていこう……」
「……君がそれでいいなら……」
物間くんは全然大丈夫そうじゃないのに、私に気を遣ってお姉ちゃんや透ちゃんの思考を読んでていいとまで言ってきた。
だけど、それじゃあ物間くんが潰れちゃうと思う。
私は、私だけしかできないと思い込んでいたことを手伝ってもらえるだけで嬉しいし、交代でやっていくようになるだけでもすごく楽になる。
これだけで十分だ。
むしろ、物間くんが慣れるまでは私が全部読んでもいいと思ってたくらいだし。
読心自体は、ちゃんとできてる。
今はパトロールをしているブラドキング先生の思考を読んで誤魔化してるみたいだけど、ちゃんと私が読み取れるのと同じくらいの内容が読み取れてる。
これなら、頼りに出来そうだと思った。
そして、今日1人目の面接が始まった。
「物間くん……この人の判定……出来る……?」
「……感じるのは、脱獄したヴィランに家族を殺されたことへの怒り、悲しみ、ヒーローへの憎しみ、今の状況に対する嘆き……あとは、自殺願望だ……あってるか?」
「ん……正解……じゃあ……白ってテレパスしとくね……」
物間くんは、問題なく読み取れている。
私はすぐに白であることを先生たちにテレパスして、ついでに自殺願望を持っていることも伝えてしまう。
先生たちは、そのまま個室への隔離のために誘導する先生にその人を引き継ぐと、自殺願望の件を個室の映像を監視している警察に伝えて注意を促してくれた。
その後も何度か物間くんと一緒に読心して、答え合わせするのを繰り返して、本当に問題なく読み取れていることを確認した。
それからは、順番に読心をするようにしていった。
物間くんはテレパスはできないから、連絡は私がしないとダメかなと思ってたけど、音もなく白黒判定を伝えられるように、パワーローダー先生謹製の装置を受け取っていたらしい。
それで問題なくコンタクトを取れていた。
まあ、やること自体は問題なかったんだけど、やっぱり物間くんにとってはすごく負荷が大きかったみたいで、休憩中に何度か吐いていた。
これは仕方ない。
私も、救助活動に参加していた時は何度も吐いてしまったし、慣れてない物間くんが今の状態でコピーなんてすればこうなるのは予想できたことだ。
物間くんは休憩中は個性のコピーを切ってるみたいだけど、それでも吐き気はすぐになくなるものじゃない。
どうしようもなかった。
正直、物間くんがげっそりしてきててすごく心配だけど、それでも彼は、今の状況でも読心で協力し続けている私の負担を減らすために、意地で頑張り続けてくれていた。
「……すまん、波動。流石にこれは、君にも確認してもらいたい……」
物間くんは、自分の順番の時に、顔を一際真っ青にしながらそう言ってきた。
今面接を受けている人からは悪意を感じるから、判断に困ったのかななんて思いながら私も読心をかけていく。
その男の内心は、強い嫌悪感を感じてしまう物だった。
『あのお方』、『内部へ侵入し、緑谷出久の居場所を』、『信頼に応えてみせる』とか、とにかく色々なものが読み取れる。
これは、信者か。
昨日みたいな、未来の確約とかで協力するようになったクズじゃない。
AFOに心酔して、妄信している信者だ。
似たような思考のやつらは、1ヶ月前に嫌と言うほど読んだからすぐにわかった。
「……黒……AFOの信奉者……物間くんの最初の判断であってる……間違いないよ……」
「そう、か……」
「……私から伝えるね……」
「頼む……」
物間くんに声をかけてから、先生たちにテレパスをかける。
『黒です……AFOの信奉者……多分……実力とかはそこまでじゃないですけど……AFOに心酔してます……暴れる可能性が高いです……セメントス先生とスナイプ先生で確保するべきかと思います……』
『……分かった』
セメントス先生がそう答えると、先生たちは動き出した。
校長先生が机のところにあった謎のボタンを押した瞬間、教室の入り口にシェルターのような鉄の壁が下りてきて、部屋が閉ざされた。
それに信奉者の気が取られた瞬間、セメントス先生が隠してあったセメントを動かして、閉じ込めることでとらえようとする。
信奉者もすぐに反応して、個性を使ってどうにかしようとしたみたいだけど、信奉者があげてきていた手を、スナイプ先生が打ち抜いた。
男はそのまま確保された。
先生たちは、そのまま男を雁字搦めに拘束すると、大急ぎで警察の方に運びだして、
それからも何度か隔離したり確保したりするようなことはあったけど、大きな問題はなく過ぎ去っていった。
確保してくれるのがプロヒーローの中でも実力者の先生たちだから、私たちも安心して任せられた。
夕方、今日の受け入れ作業が終わる頃には、物間くんは憔悴しきっていた。
「物間くん……大丈夫……?」
「……ああ……大丈夫……問題ないよ……吐き過ぎて食欲はないけどね……」
「……ごめんね……」
「……謝るな……僕がやらなければ、これを君1人に押し付けることになっていた……それを、僕のプライドが許せなかっただけだ……」
「……ん……ありがとう……」
物間くんと、その後にもいくつか言葉を交わして、B組の寮に送り届けた。
拳藤さんが物間くんの様子を見て大慌てですぐに介抱してあげ始めていた。
物間くんには厳しい感情を向けていることが多い小大さんすら、物間くんのことを心底心配していた。
物間くんのことは任せて、私も寮に戻ろうと思ったところで、物間くんは「また明日だ」って言ってきた。
これだけ酷い状態になったのに、まだ手伝ってくれるみたいだった。
その優しさが、気遣いが、すごく嬉しかった。
「波動、話がある」
そして、B組の寮を出てA組の寮に近づいたところで、待ち構えていた爆豪くんに声を掛けられた。