波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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変化

「爆豪くん……?今、名前……」

 

爆豪くんに名前で呼ばれたの、初めてな気がする。

爆豪くんがちゃんと名前で呼んでるのって、切島くんと常闇くんとお茶子ちゃんくらいじゃなかっただろうか。

轟くんに対しては最近は思考の方では轟呼びしてることがあるけど、口に出すのはてめーとかおまえとかこいつとかばっかりだ。

実際に轟呼びしてるのは、多分あの蛇腔の時に死柄木に対抗しようとしたときだけだったはず。

……メンバーからして、爆豪くんに認められてる人しか名前呼びされてなかったと思うんだけど、私も名前呼び?

それを不思議に思って、爆豪くんに問いかける。

 

「んなこと今はどうでもいいわ!とりあえず来い!」

 

爆豪くんが叫びながら私を先導してくる。

まあ、聞きたい内容は全うで正当な内容だし、拒否する理由がない。

そのままついていった。

 

少し歩いて、寮から離れたあたりで、爆豪くんが足を止めた。

そのタイミングで私も足を止めると、爆豪くんは振り返って口を開いた。

 

「てめぇ、どこまで知ってやがる」

 

「……緑谷くんのことで間違いなければ……多分爆豪くんとそんなに差はないよ……」

 

「……止めなかったのか」

 

私がどの程度知っているかを今の返答で察したみたいで、端的に聞き返してきた。

 

「透ちゃんに聞いたのか……自分で推測したのかは知らないけど……手紙入れたのが誰か……爆豪くんも察してるんでしょ……オールマイトに、今の緑谷くんを止められるわけ……ないよ……」

 

「デクのイカレ具合分かってんだろ……それを理解した上での意見か」

 

「……分かってるからこそ……止められないよ……オールマイトを説得して……止めてもらうとしても……そんなことをした瞬間……オールマイトすら振り切る可能性がある……それなら……」

 

私がそこまで言ったところで、爆豪くんが遮るように口を開いた。

 

「その結果が、この日課か。なんでてめぇは受け身な考えしかでねぇんだ」

 

「……受け身、かな……これでも……緑谷くんが戻って来ることができるように……頑張ってるつもりだったんだけど……」

 

私は私なりに頑張ってるつもりだったんだけど、爆豪くん的には不十分だったらしい。

それどころか、意味がないとは言わないけど、絶対に緑谷くんが戻ってくる結果に結びつかないとも考えていた。

なんだったら『だからてめぇはクソチビなんだよ』とか考えてる。

あまりにも不服過ぎるあだ名を、頭の中に過らせている。

 

「受け身だろーがよ。どうして無理矢理連れて帰るって考えにならねーんだ。確かにAFOの影響を完全に排除すれば、帰ってきやすくはなるだろうよ……普通の奴ならな」

 

「……緑谷くんだと……違うって言いたいの……?」

 

「あのクソナードがその程度のことで自分から帰ってくるわけねぇだろ……!オールマイトにそれを伝えられても、精々頭ん中で礼言うくらしかしねぇよ、あいつは」

 

……正直、それは考えていないわけではなかった。

あの狂った思考をしてる緑谷くんなら、AFOの手先を排除しても、自発的に帰ってくることはないんじゃないかとは思ってた。

だけど、せめて、無理だと思った時の帰れる場所を、傷付いた時に、少しでもいいから休める場所を、作ってあげたかったから……

 

「てめぇのそれだと、デクの行動を消極的に肯定してんのがなんで分からねぇ。AFOの影響を排除するのが悪いことだとは言わねぇよ。むしろ、デクのこと抜きにして現状を考えたら最善の行動だ。だけどな、デクのためにってことでんなことしてんなら、足りねぇんだよ……!」

 

「……私も、緑谷くんには戻ってきて欲しいよ……無理なんて、しないで欲しい……だけど……それなら、どうすればいいの……!?緑谷くんの狂った考え方を変える方法なんてっ……私には分からないよっ……!!」

 

「結局、てめぇの根っこはそれか……他人の思考に干渉するのが怖いってか?だから消極的で受け身な考え方しか出て来ねぇんだろ。てめぇも、デクと違った方向で拗らせてやがる」

 

正直、図星だった。

私は、他人の思考が怖い。

嫌悪感だなんだって言ってたけど、結局のところ、人の負の感情が怖かった。

私が他人に干渉しようとすると、大部分の人が強い負の感情を発露してきた。

それが、トラウマになっていた。

お姉ちゃんや、お父さんやお母さん、友達になってくれた皆にだって、無理矢理考え方を変えさせたいとは、思えなかった。

あれだけ毛嫌いしてる峰田くんの考え方だって、妄想だけに留めて欲しいと思ったし、その場その場で行動に対する制裁はしていたけど、考え方を無理矢理変えさせようなんて、思えなかった。

それをすることによって、負の感情を向けられるのが、怖かったから。

仲良くなった後に、負の感情を向けられたらって思ったら怖くて、行動に移すことなんて出来なかった。

だけど、それを、爆豪くんが言うのか。

 

「……爆豪くんが……それを言うのっ……!?爆豪くんだって……緑谷くんに対して、拗らせてるくせにっ……!」

 

「っ……ああっ、そうだっ……!俺は、デクのことを見下してたっ……認めたくなかったっ……!」

 

私が言い返すと、爆豪くんはすごく顔を歪めて、唸るように声を絞り出した。

……なんで、爆豪くんの思考が、こんなに変わってるんだ。

緑谷くんを、1人にしたくないって、勝つために、救けて勝つために、緑谷くんを、連れ戻すべきだって、考えていた。

その思考の中で、今までだったら必ずと言っていいほど使われていた『デク』という表現が使われてなくて、ちゃんと緑谷くんのことを『出久』って呼びながら、考えをまとめていた。

 

「勝つためだっ……!勝つために、デクの野郎を連れ戻すっ!波動っ、お前も協力しろっ!」

 

「……勝算は……あるの……あの狂った思考を、無理矢理捻じ曲げるだけの、勝算が……」

 

「それをこれから考える……そのために力貸せっつってんだよ」

 

爆豪くんが、意志の籠った力強い視線でこっちを睨みながら、決意を固めていた。

なんで、こんなに自信満々になれるんだろう。

それが、私には分からない。

 

……だけど、爆豪くんのその決意に、私も、賭けてみたいと、思ってしまった。

私だって、緑谷くんが戻ってきてくれるなら、その方が嬉しいのだ。

友達が、ちゃんと戻ってきてくれた方が……

 

「……分かった……協力、する……」

 

私が返事をすると、爆豪くんは鼻を鳴らした。

とりあえず満足はしたっぽい。

まあそれはいい。

緑谷くんを連れ戻すって言うなら、相応の行動が必要になると思う。

 

「……じゃあ……どうすればいい……?」

 

「……てめぇ、あの兎の連絡先持ってんだろ。連絡取ってデクが一緒に行動してねぇか確認しろ。ジーパンもヘラ鳥もエンデヴァーも、誰も電話に出やがらねぇ。あいつらと兎は、病院でオールマイトに接触してやがる。可能性はゼロじゃねぇ」

 

「……私、爆豪くんにミルコさんの連絡先持ってるって……言ったっけ……?」

 

「透明女が散々言ってただろうが。それに、言われてなくてもインターンがねぇタイミングでもズブの素人だった動きが兎に寄っていってたんだから、嫌でも気付くわ」

 

……嫌でも気付くって部分、私だと思考が読めないと気付けないと思うけど、爆豪くん的には余裕で気付ける案件らしい。

そんなに分かりやすかっただろうか。

まあそれはいい。

その情報は、オールマイトの思考から読めてた部分だ。

 

「……一応この後電話はしてみるけど……その情報は手紙を入れに来たオールマイトから読めてる……エンデヴァー……ホークス……ベストジーニストが……緑谷くんの後をついていってるはず……」

 

「知ってんじゃねぇかよっ……!」

 

爆豪くんが少し怒りながら唸るように返答してきた。

最初に爆豪くんと同じくらいしか知らないって言っておいて、爆豪くんが知らない情報を知っていたから怒ってるっぽい。

 

「……ただ……それはここを出る前の情報だから……今も一緒に行動してるかは分からないよ……緑谷くんが振り切る可能性……普通にあると思うし……」

 

「んなの分かっとるわっ!確認のためにはよ電話しろっ!」

 

爆豪くんの怒りの咆哮を受けて、慌ててスマホを取り出した。

そのままミルコさんの番号に電話をかけてしまう。

少ししてから、ミルコさんは電話に出た。

 

『何の用だ?こんな状況の時に』

 

「ミルコさんに……聞きたいことが……」

 

『手短にしろ。今ヴィラン追ってんだ』

 

……言われてみれば、確かにミルコさん側の音がちょっとガサガサ鳴っている。

風がマイクの辺りに当たってる感じか。本当に走ってるっぽい。

 

「ミルコさん……緑谷くん……デクの居場所……知ってます……?今、エンデヴァーたちが……一緒にいるかとかも知りたいんですけど……」

 

『あー、病院でそんな話してたな。私はそれには乗らなかったが。まあ当初の作戦からして、逃げられてなければ一緒にいんだろ。これ以上は私は知らないぞ』

 

「エンデヴァーと連絡が取れたりは……」

 

『よほどの理由がない限り、今その回線に掛けるつもりはねぇ』

 

「分かりました……すいません、忙しい時に……」

 

『おう……お前、またなんかやってるみたいだが、無理すんなよ』

 

「はい……ありがとうございます……」

 

心配してくれるミルコさんに、ちょっと嬉しくなりながらお礼を言って、電話を切った。

ミルコさんから、最低限の確認は取れたと思う。

エンデヴァーに連絡しないのは、世間の状況が状況だし、緊急回線を他の用途に使いたくなかったのと、目の前にヴィランが出たのとって感じの理由かな。

まあ、少なくとも「逃げられてなければ一緒にいるだろ」って発言は助かる。

とりあえず、今後どうするかを聞き耳を立てていた爆豪くんと相談するか。

 

「……って感じみたいだけど……」

 

「チッ………まあいい、寮戻るぞ。これ以上情報が出ねぇなら、他の奴も巻き込んで方針決める」

 

「分かった……」

 

爆豪くんがスタスタと寮に向かって歩いていく。

なんか、今日の爆豪くんは違和感が激しい。

まあ、多分私が気付いてなかっただけで、今日からっていうよりも、蛇腔の件の後からなんだろうけど。

とりあえず、私は私で緑谷くんを連れ戻すために気合を入れなおしながら、爆豪くんの後を追いかけた。

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