波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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対話

エンデヴァーへの呼び出しの約束をしてから数日。

あれから私は、物間くんと協力して避難民の受け入れを続けていた。

緑谷くんを無理矢理にでも連れ戻すと決めたから、この選別は緑谷くんが戻りやすくするためじゃなくて、戻ってきた緑谷くんの危険を減らすための作業に、意味合いが変わっていた。

物間くんは私の負担を減らすためにって頑張ってる感じだったし、OFAのことを知らないから特に説明はしてない。

私が気合を入れて選別してるのを見た物間くんは、ちょっと不思議そうにしていたくらいで特に聞いてきたりはしなかった。

まあ、それどころじゃなかったのかもしれないけど。

 

そんなこんなで今日の午前中の選別が終わったところで、校長先生から一声かけられた。

溜まっていた順番待ちの避難民も捌けてきたから今日はここで選別を終わりするってことと、あとは、今日の夕方に、エンデヴァーが来るっていうことを伝えられた。

それを受けて、皆にすぐにテレパスをして備えておくように言っておいた。

皆もすぐに気合を入れなおしていた。

爆豪くんなんかは『やっとかよ』みたいな感じのイライラしてる感じの思考をしていたけど、トレーニングを中断してエンデヴァーを問い詰めるための準備を始めていた。

 

 

 

そして、数時間経ったところで、ようやくエンデヴァーが校長室に入っていった。

万が一早く来た時の為に、少し早めに待機していたのもあって結構待っちゃったけど、皆そんなことは一切気にしていなかった。

私が合図すると同時に、皆で校長室に向かって行く。

校長室の前まで着いたところで、先頭を歩いていた爆豪くんが一切の躊躇なく扉を開け放った。

 

「……校長……やはりこういうことですか……」

 

音に気が付いたエンデヴァーが、ちらりとこっちを見てから校長先生に視線を戻した。

エンデヴァーは私の個性を知っているから、ある程度予想した上でここに来た感じか。

……これは、緑谷くんの現状に、引け目を感じている感じか。

だけど、ここに来るなら轟くんの電話に出てくれてもよかったと思うんだけど……

轟くんと1対1で話すのが気まずかった?巻き込みたくなかった?

その辺はよくわからないけど、私の性格から考えて、1人で会いに来るのが本命だと思ってた感じなんだろうか。

爆豪くんに声を掛けられなければ、自分から動くことはなかっただろうからその予想をしていたとしたらほぼ正解だったわけだけど。

 

「彼らの話を聞いて、対話の余地があると判断した。私は常にアップデートするのさ」

 

「何で俺のことスルーした?燈矢兄を、一緒に止めようって言ったよな!?」

 

轟くんが、エンデヴァーに食って掛かるように言ってのけた。

そんなことを約束してたのか。

正直、荼毘は私がどうにかしようと思ってたんだけど……

轟くんがそう思っているのに、私が手を出すのは……

 

「焦凍、その気持ちだけで俺は救われているんだ」

 

「俺は救われてねぇよ!緑谷だけが例外か!?エンデヴァー!デクとオールマイト2人にしてるだろ!」

 

轟くんを心配するような思考をしながら、エンデヴァーは憮然とした表情で轟くんを見つめていた。

今のエンデヴァーの思考的に、オールマイトすら振り切った緑谷くんを、GPSだけで追っているような状態だっていうのが、伝わってきた。

……結局、振り切ったのか。オールマイトのことも……

付けているのを認識しているであろうGPSを外してないのだけが救いか。

だけど、そんなの、緑谷くんの意思一つでいつでも外すことが出来てしまう。

 

「っぱな……あぁ、正しいと思うぜ。概ね正しい選択だよ……!デクの事……わかってねぇんだ……デクは……イカレてんだよ頭ぁ……!自分を勘定に入れねぇ、大丈夫だって……オールマイトもそうやって平和の象徴になったから、デクを止められねぇ!エンデヴァー!2人にしちゃいけない奴らなんだよ!」

 

爆豪くんは、絞り出すように訴えかけた。

エンデヴァーは、それを受けてホークスたちと緑谷くんのことを話している様子を、思い出していた。

 

「……エンデヴァー……なんで……緑谷くんをそのままにするんですか……」

 

「……緑谷の位置は、分かっている。俺たちも「そんな誤魔化し……いいです……なんで、刺客の襲撃を何度も受けている緑谷くんを……オールマイトすら振り切って、1人で行動し始めてる緑谷くんを……放置するんですか……!?」

 

私が問い詰めると、エンデヴァーは言葉に詰まったように何も言わなくなってしまった。

やっぱり、ここに引け目を感じているのか。

思い起こすように色々な情報が過ぎ去っていくエンデヴァーの思考から、刺客のことも、何もかも、嫌というほど、緑谷くんの現状が伝わってきていた。

ズタボロの状況で、元公安の暗殺者でスナイプ先生の実力を上回る、レディ・ナガンにも襲撃されて、それすらも退けて、レディ・ナガンから聞き出したAFOがいる可能性がある場所に行ったのに、案の定罠だったこと……

それを受けて、緑谷くんの精神状態がいよいよおかしくなって、オールマイトすらも振り切って行動を始めたこと。

正直、私が干渉しすぎたらこうなるだろうと思っていた、最悪の状況に陥っていた。

こんな薄氷の上を歩いているような状態の緑谷くんを、とてもじゃないけど放置できない。

このまま緑谷くんを放置したら、暴走し続けて1人でAFOに立ち向かって、そして、死ぬと思う。

友達が、そんな死に方をするなんて、とてもじゃないけど許容できなかった。

 

「今はもう……GPSで追ってるだけになっちゃってるんですよね……!?それを緑谷くんが自分で外したら……どうするつもりなんですか……!?それに、今のホークスとベストジーニストの状態じゃ……万が一、今緑谷くんに何かあっても助けられないですよね……!?今のあの2人だと、緑谷くんの速度についていけない……!ついていけるとしたら、エンデヴァーだけだったはずです……!なのに、なんでここに来ちゃってるんですか……!?」

 

「それは……」

 

「緑谷くんの思考は……爆豪くんの言う通り、人助けに狂った狂人のそれですっ……!もっとも信頼するオールマイトすら頼らなくなった緑谷くんが……いつまでもGPSをつけておく保証が、どこにあるんですか……!?緑谷くんは、他人の命を危険に晒すなら……迷いなく自分の安全を切り捨てる決断をしますっ……!オールマイトと、あなたたちがいたから……無理に止めて、1人で飛び出されるよりもマシだと思ったから……止めなかったのに……これじゃあ……いつ自分から死にに行くか、分からないじゃないですか……」

 

エンデヴァーが、自分のポケットに入っているスマホを気にしている。

それが、GPSの位置情報を見ることが出来る端末か。

 

「……しかし……」

 

エンデヴァーが何かを言おうとしたタイミングで、駆け出して一気に距離を詰めた。

絶対に反応できるような挙動なのに、エンデヴァーは棒立ちのまま、動こうともしなかった。

そのまま、彼のポケットに入っている端末を強奪してしまう。

 

「これがGPSの受信端末ですよね……こうなったなら……もう緑谷くんを放っておけません……」

 

これを使って、強引にでも連れ戻そう。

力づくでもいい、緑谷くんの同意なんて取れなくてもいい。

1人で暴走して死んじゃうよりも、絶対にマシなはずだから。

そう思っていたら、皆も覚悟を決めた表情で、エンデヴァーを見据えていた。

 

「OFAの悩みを打ち明けてくんなかったのも、あんな手紙で納得すると思われてんのもショックだけど―――」

 

「我々A組は、彼について行き、彼と行動します。OFAがどれだけ大きな責任を伴っていようが、緑谷くんは友達です。友人が茨の道を歩んでいると知りながら、明日を笑うことはできません」

 

轟くんの言葉に続けて、飯田くんが決意表明をするように言い放った。

皆も、緑谷くんについていく覚悟を決めている。

校長先生は、内心で受け入れる覚悟をしてくれている。

だけど、問題は避難民の方だ。

彼らが受け入れてくれなければ、緑谷くんは強引に連れ戻しても出て行ってしまうだろう。

……私も、今の緑谷くんの状況なら、ついて行きたいって、思ってしまっていた。

 

お姉ちゃんのことも心配だから、ここにいたい気持ちはある。

だけど、お姉ちゃんは雄英にいる。

ここは、私がAFOの影響も最小限になるように選別したし、避難システムもある。

だから、大丈夫なはず。

安全地帯にいるお姉ちゃんと、今にも死に向かいそうな友達……

友達を見捨てて、必要かどうかも分からないお姉ちゃんの護衛目的で安全地帯に残るなんて、出来るはずがなかった。

 

「……外は危険だ。秩序が無い。おまえたちまで―――「大人になったね……轟くん……!!」

 

エンデヴァーはまだ納得できないみたいで、止めようとしてくる。

だけど、それを遮るように、校長先生が話し始めた。

 

「私は……ヴィランの目的である彼が、雄英に戻りたがらないことを踏まえ、チームアップを是とした。でも、いいのさ。戻ってきても」

 

「え!?」

 

校長先生が、内に秘めていた考えを話し始めた。

皆は驚愕に固まってしまっている。

 

「合格通知を出した以上は、私たちが守るべき生徒さ」

 

「しかし避難者の安全が……それに、彼らの中にはまだ―――」

 

「……AFOの内通者は、波動くんが尽力してくれて、侵入を防ぐことが出来ているよ。不満に思っている者は数多くいるだろうけど、彼らには、私からなんとか伝えよう。それに、何も敷地面積だけで指定避難所にすることを受け入れたわけじゃない。ヴィラン連合対策で強化していたが、結局出番のなかったセキュリティ、"雄英バリア"がある。それを彼らに伝えて、説得を試みる。いいんだよ……オールマイトだってここで育った!君たちの手で……連れ戻してあげておくれ」

 

校長先生は、そう言って目を閉じた。

エンデヴァーも、それ以上何も言ってこなかった。

 

「雄英バリアの真価……と、仰いましたが……我々も緑谷くんの気持ちは理解して来ています。彼を連れ戻すのであれば、相応のエビデンスを要します。避難されている方々の安心と安全に関わります。だから"彼についていく"と……」

 

「もちろん感情論じゃないさ。緑谷くんは今や、ヒーロー側の貴重な最高戦力。情勢を踏まえても、半端な施設で保護するのはリスキーさ。雄英には国の最新防衛技術が卸されている。レベルで言えば、タルタロスと同等の防御力を誇るのさ」

 

飯田くんが、連れもどすための根拠を確認し始めた。

まあ、緑谷くんの思考的に、何も無ければ絶対に戻ってこないと思うし、聞いておかないとダメだ。

これで何もないってなったら、緑谷くんを気絶させてでも連れもどすとかしないといけなくなってしまう。

 

「そのタルタロスが、死柄木に容易く破られていますが……」

 

「去年雄英も破られた。死柄木の脅威には私も目をつけていた。そこで強化時雄英のシステムに私独自の改修を加えた」

 

「そんな事可能なのですか!?」

 

「……パワーローダー先生が……駆けずり回ってたやつですね……」

 

私は、散々その様子を感知し続けていた。

パワーローダー先生による地下深い所までの改修作業。

それに時折駆り出されているサポート科。

トガの士傑の生徒への成り替わり以降に本格的にスタートして、凄まじい時間と労力を費やして作られた、超巨大なシステムだった。

 

「ああ。結論から言えば、今この瞬間に侵略が始まろうと、避難民及び生徒が毒牙にかかることなく、ヴィランの侵入を許すことはない。今、雄英バリアは単なる防壁に留まらない。雄英は、動く!敷地を碁盤上に分割し、それぞれに駆動機構を備え付けた。有事の際には区画ごと地下に潜りシェルターとなる。そして、シェルターは超電導リニアシステムによって、幾通りものルートを適宜移動する!」

 

「ロボアニメっぽくなったぞ!!!」

 

「その仕組み自体が崩されれば、元も子もないさ。なので、周辺地下には計三千層の強化プレート、それらが異常を検知すると迎撃システムが発動。また支柱がアンロックされ、防壁も独立稼働。どんな攻撃でも到達を遅らせられる。その間にシェルターは安全なルートを辿り……雄英と同等の警備システムを持ち―――波動くんたちが見抜いてくれた"入れ替わり事件"を契機に連携を強化した、士傑高校を筆頭に、いくつものヒーロー科高校へと逃げられる」

 

「そういや言ってたような」

 

あまりにも膨大なシステムに、皆も絶句してツッコむことしかできなくなってしまっていた。

でも、これだけのシステムがあるからこそ、今の状況でも私はお姉ちゃんの側を離れてもいいと思えた。

これが無ければ、私はお姉ちゃんを感知範囲内から出したいなんてとてもじゃないけど思えなかったと思う。

そして、システムを聞いていて不思議に思ったのか、常闇くんが疑問を口にした。

 

「"伝播する崩壊"対策と見受けられますが……文化祭時点ではまだ分からなかったはずしょう?」

 

「それこそなんのエビデンスもない。私の勘だよ。だから費用は私の持ち出しさ!」

 

「億とかじゃすまなさそうですが!?」

 

上鳴くんが思わずツッコんでいるけど、本当にその通りだと思う。

これだけの規模の敷地と地下の開発。

高度なシステムの開発と導入。

多分桁は兆で足りるかも分からない程じゃないかなって思う。

 

「校長は"個性"道徳教育に多大な貢献をし、世界的偉人となられた。今なおご尽力されているのだ」

 

「ほえぇ」

 

震える上鳴くんに対して、エンデヴァーが説明してくれた。

だけど、これだけの規模となると流石にポケットマネーじゃ足りないんじゃないかなと心配になってしまう。

皆が驚愕することしかできない空気の中、校長先生はそれを気にした様子もなく話を続けた。

 

「不理解、不寛容……何れも"あと一歩"、近寄ることのできなかった人々の歩み。動き、犇めき、その"一歩"が、如何に困難な道であるか……ともかく―――彼がここに居ていい理由も理屈も在るよ。避難民の方も、波動くんと物間くんが最低限のラインを整えてくれた。君たちはただ、全力でぶつかっていけばいい」

 

「はいっ!」

 

校長先生のその言葉に、皆で力強く返事をして話は終わった。

私たちは、そのまますぐに行動を開始した。

向かう先は、GPSの示す地点だ。

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