波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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主張

お茶子ちゃんが無重力にした緑谷くんを、障子くんが雨で体温を奪われないように包みながら運んで、雄英に辿りついた。

着いて少ししてから、ようやく気絶していた緑谷くんが目を覚ました。

 

「お、目ぇ開いた!」

 

「13号!起きました!」

 

「あぁ、良かった!聞こえるかい緑谷くん!」

 

「……はい」

 

皆がすぐに起きたことを13号先生に伝えると、先生は緑谷くんに声をかけてくれた。

先生は今、珍しくヘルメットを付けない状態でコスチュームを着ていた。

だけど、着ているコスチュームはボロボロで、先生がどれだけ大変な思いをしながら避難民の受け入れをしていたのかが窺える。

先生は、そのまま緑谷くんに説明を始めた。

 

「今現在、ほとんどの民間人は各地避難所に移動してくれてる。まだ外に残ってるのは、脱ヒーロー派の自警団と、ダツゴクに乗じて暴徒化した過激派。脱ヒーロー派も疲弊して避難所に入る人が増えてる。過激派は多くが徒党化している分、動きは追いやすい。避難が進み、どちらに対しても人員を割けるようになった。皆最善を尽くして状況を変えている。外で君がしてきた人助けは、他のヒーローや警察が肩代わりできる範疇になっている」

 

「ゆ……雄……英……?」

 

緑谷くんが物々しい巨大な壁を見上げながら、呆然としたように呟いた。

その言葉を聞いた透ちゃんが、嬉しそうに話し始めた。

 

「まぁ……この壁を見るだけじゃ……すぐには信じられないよね……」

 

「雄英バリア発動中なんだよ!この壁も機能の一部なんだって!システム聞いたらマジで腰抜かすよ!!士傑とガッチャンコするんだって!!」

 

「…………戻るのは……ダメなんだ」

 

緑谷くんが、そう呟いた。

まあ、理由は分かってる。

さっきから、すごく不愉快で、受け入れ難い自分勝手な思考を垂れ流す避難民が、感知範囲内で騒ぎ続けているから。

あの救助活動の時の地獄を見たり、避難民たちの負の感情に囲まれ続ける避難所として機能し始めた雄英での生活にある程度慣れたりしていなかったら、この場で吐いていた可能性があるくらいには、凄まじい負の感情が渦巻いていた。

緑谷くんも、声を聞いて察したみたいだった。

 

 

 

門を開いて緑谷くんと一緒に入ると、その不愉快な声が聞こえてきた。

 

「その少年を!!雄英に入れるなーーー!!」

 

「噂されてる"死柄木が狙った少年"って、そいつだろ!!」

 

「おい、校長から説明があったじゃないか。我々の安全は保障されてるって……」

 

「納得できるか!!できたのか!?安全だと言われたから家を空けて避難してきたのに!何故爆弾を入れるんだ!!」

 

「雄英じゃなくていいだろ!!」

 

「匿うなら他でやれ!!」

 

「OFAってのは脳無なんだろ……!?」

 

「死柄木が来る!!」

 

「雄英は安心と安全を保障するんじゃなかったのか!」

 

「また隠蔽してやり過ごそうってか!?」

 

ほとんどの人が、罵声に加担していた。

加担していなかったのは、本当に極々一部。

それを見た緑谷くんは、すぐに踵を返そうとしていた。

そんな緑谷くんの手を掴んで止めようかと思ったけど……やめた。

お茶子ちゃんが、私以上の覚悟と決意を持って、「大丈夫」って言いながら、緑谷くんの手を引いて止めていた。

 

「説得、できなかったの?瑠璃ちゃんも、頑張ってくれてたのに……」

 

「……さっきも言ったけど……私が弾いたのは……あくまで黒だけ……白は……弾いてないから……脱ヒーロー派……そこまで行かなくても……不満と、不安と、憎悪と、悲しみと、怒りと……すごく不快な負の感情を持っている人も……たくさん素通ししてるから……こうなるのは……仕方ないよ……」

 

「……ええ。理解を示してくれる人もいた。けれど、全ては拭いきれなかった」

 

マイク先生がメガホンで民衆を止めようとしたところで、入口の方からベストジーニストが歩いてきた。

 

「聞き入れ難い話だろう。こと教員からでは……提言したのは私だ」

 

「ジーニスト……!!私たちは、あなたの言葉を信じてここへ来た!!」

 

ベストジーニストが姿を現したことで、民衆はまだ声を上げ続けているけど、それでも話を聞こうとしてくれる人も、若干は出てきていた。

そんな人たちに対して、ベストジーニストは声を張り上げて語り掛けた。

 

「ああ!校長から説明があったように!ここは今最も安全な場所であり、あなた方の命を第一に考えている!我々は、先手を打つべく緑谷出久を囮に、ヴィランの居場所を突き止める作戦を取った!だが、十分な捜査網を敷けず、成果はごく僅かしか得られなかった!緑谷出久はヴィランの狙いであると同時に、こちらの最高戦力の一角!これ以上の摩耗は致命的な損失になる!確かに最善ではない!!次善に他ならない!不安因子を快く思わないことは承知の上で、この最も安全な場所で、彼を休ませて欲しい!いつでも戦えるように、彼には万全でいてもらわねばならないのです!」

 

ベストジーニストは、一息でそこまで言い切った。

だけど、案の定過ぎる反応が、民衆から返ってきた。

 

「あんたらが失敗したから……そもそも今日本は無法になっちまったんだぞ。んでまた、失敗したから、皺寄せ受け入れろって、あんたそう言ってんだぞ……!?」

 

「ふざけるな!」

 

「それでヒーローのつもりなのか!!」

 

こいつらは、何でこんなに全部人のせいにして、怒れるんだろう。

不安が伝播する?パニックになる?

そんなの、何の言い訳になるんだ。

ここまで状況が悪くなったのは、ヒーローだけのせいじゃない。

確かにエンデヴァーのせいで信頼が揺らいだ部分はある。

失敗して被害が出たのも、そこに関しては何の言い訳もできない。

だけど、その後の所業はなんだ。

ヒーローを手当たり次第に批判したせいで、どれだけのヒーローが辞職したと思ってるんだ。

それでヒーローのつもりなのか、なんて……死柄木による被害とかで人手不足だったところに、さらに人を減らして、余裕がなくなる要因を作ったのは自分たちでもあるのに。

それに、この中にはもともと脱ヒーロー派で武装していた人間だって混ざってる。

自分たちでどうにかしようとしたけど、疲れました、無理でしたって、治安悪化の一助になっておきながら泣きついてきたのに、こんな主張をするのか。

この醜い人間たちをどうしてくれようかと思って、一歩前に出たところで、お茶子ちゃんが片手で私を制してきた。

 

「……お茶子ちゃん……?」

 

「ごめん瑠璃ちゃん。私に任せてもらってもいいかな」

 

お茶子ちゃんはそれだけ言うと避難民の方に向かって歩き出した。

 

「勘弁してくれ!!俺たちはただ―――安心して眠らせて欲しいだけだ!!」

 

その言葉があたりに響いた次の瞬間、お茶子ちゃんがマイク先生が持っているメガホンを奪いながら、助走をつけて飛び上がった。

お茶子ちゃんはそのまま校舎屋上の縁に着地すると、振り返って話し始めた。

 

『デ……緑谷出久は、特別な力を持っています……!!』

 

「だからそんな奴が!休みたいからってここに来るなよって話だろうが!!」

 

『違う!迷惑かけないようにここを出て行ったんです!!連れ戻したのは私たちです!彼の力は……!あの……特別で!AFOに討ち勝つための力です!だから狙われる!だから行かなきゃいけない!!そうやって出て行った彼が今、どんな姿か、見えていますか!?』

 

お茶子ちゃんは、核心に触れることが出来ないせいで拙い感じになってしまっている主張を、叫んでいた。

お茶子ちゃんが投げかける言葉に、避難民の人たちが、少しずつ緑谷くんに視線を向け始めていた。

 

『この現状を一番どうにかしたいと願って!いつ襲われるかも分からない道を進む人間の姿を!見てくれませんか!?特別な力はあっても!!特別な人なんていません!!』

 

「こいつらの命を守るシステムがある……でも―――不安は残っちまう。てめーが拭えねーもんはこっちで拭う」

 

「……お茶子ちゃんの言葉……少しずつだけど……響いてる……」

 

少しずつ、ちゃんと緑谷くんを見た人たちが、どれだけボロボロなのか、どれだけ戦ってきたのかを、直視し始めていた。

特別な力があっても、高校生なんだって、認識し始めていた。

少しずつ、不快な感情が減って、同情が、増えてきていた。

 

「……見たら……なんだよ……!?まさか……俺たちにまで泥に塗れろってのかぁ!?」

 

『泥に塗れるのはヒーローだけです!!泥を払う、暇をください!!』

 

お茶子ちゃんの反論で、もう批判の声は、上がらなくなっていた。

 

「緑谷くん、麗日くんは今、戦っている。君を含めた、全ての人の……笑顔の為に」

 

「麗日さん!」

 

飯田くんの言葉に、緑谷くんも涙を流し始めていた。

そんな中、お茶子ちゃんは、さらに言葉を続けていった。

 

『今!この場で安心させることは……ごめんなさいっ!できません!!私たちも不安だからです!!皆さんと同じ、隣人なんです!だからっ……!!力を貸してください!!共に明日を笑えるように―――……皆さんの力で!どうか!彼が隣でっ!休んで……備えることを、許してくれませんか!!緑谷出久は、力の責任を全うしようとしてるだけの、まだ学ぶことが沢山ある―――普通の高校生なんです!!』

 

この期に及んで、まだ反論しようとしている人もいるけど……もう少数派だ。

それだけ、お茶子ちゃんの言葉が、ここに居る人全員に響いていた。

 

『ここを!!!彼の!!!ヒーローアカデミアでいさせてください!!!』

 

お茶子ちゃんがそう叫んだ瞬間、緑谷くんは、泣きながらしゃがみこんでしまった。

それを見て峰田くんが駆け寄ろうとしているけど、すぐに飯田くんが止めてくれた。

それで、いいと思う。

ここで私たちが緑谷くんに駆け寄っても、意味がない。

背の高い異形型の人と、洸汰くんが、こっちに来ようとしているのは分かっている。

それなら、市民側の人たちが駆け寄ってくれた方が、軋轢は軽減できそうだと思えた。

 

「緑谷兄ちゃん!!ごめんね……!僕っ……怖くて動けなかったんだ!ごめんよ!ごめん!でも!あのお姉ちゃんが頑張って話してて!僕、行かなきゃって……!兄ちゃんみたいにならなきゃって……!!だから僕……来たよ!だから、もう泣かないでよ!」

 

「洸……汰くん……!!」

 

顔を上げた緑谷くんを異形型の人も、緑谷くんを抱き起して話しかけていた。

お礼を言っている感じからして、出奔中に助けた人みたいだ。

本当に、お人好しだけど……ここに来てそのお人好しが功を奏したらしい。

2人と緑谷くんのやり取りを見て、最初から不快な感情を少ししか感じなかった人が、動き出していた。

 

「ヒステリックに糾弾する前に、話ぐれぇ聞いてもいいんじゃねぇのか……?その兄ちゃんはここに常駐するわけでもねぇんだろ!?物資も人材も足りねぇ今、兄ちゃんがすり減ることなく休めるのが、ここしかねぇってこったろ!?そういう説明だったよな、ヒーローさんよ!?」

 

「ええ」

 

校長先生が、すぐにそれを肯定した。

「士傑じゃだめなのか」とか叫んでる人がいるけど、それがなんの問題解決になるのか。

同じことになるだけだし、士傑生じゃないのに士傑に迎え入れてもらう方が難しいというのが分からないのだろうか。

ただ、そのこと自体は、他の人もすぐ気付いたみたいで、指摘してくれて黙らせてくれていた。

そんな中、最初に口火を切った人が、さらに言葉を続けた。

 

「俺ぁよう、こうなるまで、気付かんかったよ。俺は"客"で、ヒーローたちは舞台の上の"演者"だった。かつてオールマイトっつう不世出の男がヒーローを示したよ。皆そいつをなぞった!囃し立てた!そうしていく内に、いつの間にか皆、そこに込められた魂を忘れちまったんだ。だが、舞台は取り払われちまった。失敗を重ねて、金も名誉も望めねぇ。ヒーローと呼ばれた大勢の人間が投げ出した。そん中で今残って戦う連中は、何のために戦ってるんだ?今戦ってる連中まで排斥していって、俺たちに何が残る!?どうやってこれまで通り暮らす!?辛ぇのは分かる!けど、冷静になろうや!俺たち、いつまで客でいるつもりだ?」

 

この人の言葉は、核心をついていると思った。

一般人は、ヒーローのことを他人事として見ていたから、あそこまで批判が出来た。残ったヒーローまで貶めた。

だから、さらに状況は悪化した。

そんな言葉を受けて、反論しまくっていた人も、ようやく観念したらしい。

確認するように、緑谷くんに問いかけ始めた。

 

「ふ、複数の"個性"を操る……襤褸切れのような男が噂になってる。ヴィランの扇動役とも、真のヒーローとも言われてる……答えろよ。おまえがここで休んだら、俺たち元の暮らしに戻るのかよ?」

 

男は、縋るように緑谷くんに問いかけると、緑谷くんも涙ながらに、それに答え始めた。

 

「皆が一緒にいてくれるから……全部、取り戻します」

 

緑谷くんも、ようやく皆で一緒に戦うんだって、決意してくれたらしい。

その言葉を聞けて、本当に良かった。

この状態になれば、きっと、もう飛び出したりなんて、しないと思うから。

緑谷くんの返答を受けて、もう文句を言うような人はいなくなっていた。

 

「よかった……」

 

「うんっ!本当にっ!それに、お茶子ちゃんもすごかったねっ!」

 

「ん……あのままだったら……私の苛立ちで……全部台無しにしかねなかったし……お茶子ちゃん……すごい……」

 

私のつぶやきに、透ちゃんが涙ながらに答えてくれた。

そんなことを話している内に、緑谷くんのお母さんが凄い勢いで緑谷くんに駆け寄っていって、他の人たちも、パラパラと私たちの方に歩いてきてくれていた。

そのまま傘に入れてくれたり、謝られたりしながら、緑谷くんを皆で支えて寮に向かって行った。

爆豪くんが途中で反論しまくってきていた人にガンを飛ばしていたけど、まあそれも仕方ないことだとも思う。

正直、不安が読み取れてる私でも身勝手過ぎてイラっとしたし。

でも、とりあえずこれで、友達が避難所に受け入れてもらえたから、少し安心できた。

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