皆で寮に戻ってきて、すぐにお風呂に移動した。
雨の中で動き続けていたのもあって皆びしょびしょだったし、緑谷くんを早くお風呂に入れないとって感じだったのだ。
正直緑谷くんは見た目も臭いもすごいことになってたし、お風呂に入るのは当然とも言えたし、疲れを取るためにもありだとは思った。
ただ、緑谷くんは疲労が凄い溜まってるみたいだし、お風呂で眠って沈んだりしないように注意しないといけないとは思うけど。
とりあえずそんな事情もあって、男子たちが凄まじい勢いで緑谷くんをお風呂に担ぎ込んでいた。
私たちもお風呂に入る準備をしてるけど、峰田くんが珍しくこっちを一切気にしないで緑谷くんをお風呂に連れて行くくらいには必死だった。
私たちも身体を洗ったりしているタイミングで、緑谷くんも洗われていた。
「洗えーーーー!!」なんて騒ぎつつ、シャワーをぶちまけながら多人数で緑谷くんの周りをぐるぐる回っている。
なんだあれ。
いや、まあ緑谷くん汚かったから仕方ないんだけど。
「ぷっ……ふふっ……」
「どうしたの?なにか面白いことあった?」
緑谷くんが頭からお風呂に放り込まれて、それに爆豪くんがキレている姿に思わず笑ってしまうと、透ちゃんが確認してきた。
「ん……緑谷くん……すごい勢いで全身洗われて……お風呂に突っ込まれた……それに……爆豪くんが……金タワシと業務用洗剤原液でこそげってキレてて……」
「あー、緑谷くんすごいことになってたもんね。それも仕方ないかぁ」
透ちゃんもすぐに納得してくれて、洗う作業に戻っていく。
まぁ男子のお風呂の様子なんて伝えられても困るか。
とりあえず緑谷くんが逃げようとしなくなっただけで私も嬉しいし、これ以上言うこともない。
その後はササッと洗い終わって、皆でゆっくり湯船に浸かってしまう。
お茶子ちゃんは疲れちゃったみたいで、一言断ってから梅雨ちゃんと一緒に部屋に戻ってしまった。
あれだけ頑張った後だし、そうなるのも当然か。
これに関しては仕方ないことだし、ゆっくり休んで欲しいと思っている。
私は私で、周囲の思考がだいぶ緩和されたのと、緑谷くんが戻ってきてくれた安心感とで、久しぶりに気を緩められていた。
「いやー、でも無事に連れ戻せてよかったねぇ」
「ん……ほんとに……」
「それにしても緑谷も水臭いよねぇ、ずーっと隠してたってことでしょ?OFAのこと」
「ですが、おいそれと話せる内容でないことも確かです」
「まあオールマイトの個性だなんて、言えるわけないよね」
三奈ちゃん的には相談して欲しかったみたいで、表情はあっけらかんとしているけどぼやくように呟いていた。
そんな三奈ちゃんに、百ちゃんがすぐに仕方なかったことを伝えてくれる。
実際その通りで、言うわけにはいかなかった。
オールマイトからの指示でもあったし。
「ん……隠してたのは……オールマイトの指示でもあったし……混乱を防止するためでもあった……仕方ない……」
「波動はいつから知ってたの?」
三奈ちゃんが何気なく聞いてくる。
これは透ちゃんからは聞いてない感じか。
それにしても、いつから。いつからと来たか。
もうほぼしょっぱなからなんだけど……
「……初めての戦闘訓練の後……保健室で……がりがりの姿のオールマイトを問い詰めて……その時にOFAって個性の名前と……オールマイトと緑谷くんが師弟なことは分かった……その後……皆でクラスで反省会してる時に……緑谷くんが爆豪くんを追っかけて……『人から授かった個性なんだ!』って……啖呵を切ってたから……それで全部推測できた……」
「がりがりの姿って、間違ってはないけどさ」
「それ最初も最初じゃん」
「隠しているはずなのに、なぜ爆豪さんにそんな啖呵を切っているんですか、緑谷さん……」
「正直……私も絶句した……オールマイトが私に話さなかった内容の……核心部分だったのはすぐに分かったし……」
百ちゃんが頭に手を当てて理解に苦しむ感じになっている。
まあOFAの重要性を聞いた後に、緑谷くんの初期の行動を聞いたらこうもなるよね。
私も困惑することしかできなかったし。
「……ってことは、もしかして爆豪くんも知ってた感じ?」
「最初からじゃないけど……神野の……『次は君だ』っていうのを聞いた時の……緑谷くんの反応を見て……確信したみたい……あの2人が謹慎した日、あったでしょ……」
「ああ、あったねそういえば……って、もしかして、あの2人それで喧嘩したの?」
「爆豪くんが……喧嘩を吹っ掛けた……オールマイトが仲裁して……全部話して……読心で知ってる私も含めた4人が……学校内の秘密の共有者になった……あと知ってたのは……学校だと校長先生とリカバリーガールくらいだよ……」
「なるほど……そういえば瑠璃ちゃん、緑谷くんが暴走した時も呼び出されてたもんね。そういうことか」
「ん……そういうこと……」
皆も納得したような顔で頷いている。
実際呼び出しとかは普通にされてたし、オールマイト、緑谷くん、爆豪くんもセットで動いてることもそこそこあったし、腑に落ちる部分が多いとは思う。
「緑谷たちもだけど、波動もすんごい秘密主義っていうか、口固いもんねぇ……これでもう隠してること全部?」
「……全部ではないけど……守秘義務があるから言えない……」
三奈ちゃんがちょっと気になったみたいな感じで何気なく聞いてくる。
でも、流石に隠し事に関していうのはちょっと難しい。
あと私がしている隠し事となると、青山くんのこととかになってきちゃうし。
流石に言えない。
「守秘義務か。じゃあ仕方ないかぁ」
「波動抱え込みすぎるし、言えるようになったらちゃんと言ってよー?緑谷のためだったんだろうけど、あんなに取り乱すくらい抱え込むなら、相談してくれた方が絶対いいって」
「……ん……そうだね……ありがと……三奈ちゃん……」
三奈ちゃんが気を遣ってくれるのに対してお礼を言う。
そのくらいのタイミングで、緑谷くんたち男子はお風呂を出始めていた。
「……緑谷くんたち……あがったし……私たちも出よ……皆……緑谷くんと話したいだろうし……」
「そうだねー、上がろっか!」
皆も特に拒否する気はなかったみたいで、ササッと上がった。
共有スペースに行くと、緑谷くんを筆頭にした男子たちがソファで寛いでいた。
そんな寛いでいる緑谷くんに近づいていくと、確認するように声を掛けられた。
「麗日さんは……?」
「寝ちゃった。安心したら力抜けちゃったみたい。梅雨ちゃんもそんな感じ」
「そっか……皆、ありがと。そして迷惑かけてごめん」
緑谷くんが深刻な表情で謝ってきた。
そんな緑谷くんに対して、三奈ちゃんが声を何気ない感じで声をかけた。
「そだよー。OFAねー、言ってよねー。手紙のおかげでもう驚きとかそういうのはないんだけどさ」
「無個性からトップオブトップの力なんて……大変だったろ」
「ホークスに電話に出るように言って欲しかった」
「どういう感覚なの?」
三奈ちゃんに続くように、皆思い思いの言葉を緑谷くんにかけていく。
そんな緑谷くんを心配するような感じで、轟くんが髪を拭きながら近づいてきた。
「緑谷が一番眠ぃだろ。寝かせてやれよ。何のために連れ戻したんだよ」
「おまえ登場そのポーズって素でやってんの?」
峰田くんが轟くんに対してツッコミを入れる。
まあ多少は気になるか。
透ちゃんとかイケメンの轟くんが様になるポーズをしているから、ちょっと興奮気味になってるし。
「大丈夫……っていうか、まだ眠れなくて」
緑谷くんがちょっと困った感じで返事をしている。
その裏で、空いている椅子に座った私と透ちゃんの方に向かって、轟くんの真似をした峰田くんが声をかけてきた。
「どう?何点?」
「……私たちに聞くの……?……0点……」
「あれは轟くんがやるからいいんだよねー」
かっこつけた表情で轟くんの真似をしているけど、正直なんとも思わない。
むしろかっこつけた表情がバレンタインの時の白々しい表情を思い出してしまってダメだ。
透ちゃんも別に峰田くんがダメだって思っているわけではないけど、イケメンの轟くんと比べてしまうとダメらしい。
そんなやり取りをしている間に、オールマイトが寮の中に入ってきた。
さっきまで緑谷くんと轟くんが話していた謝りたいって話をオールマイトも聞いていたし、無事の確認以外にも謝るのが目的にあったのは明白だった。
「こちらこそ、力になれずすまなかった緑谷少年!!」
「そんな……!オールマイトは十分力になってくれてます」
「謝るなら私たちにも謝ってよねオールマイト!!黙ってどっか行っちゃわないでよー!」
三奈ちゃんがプンスカしながらオールマイトに憤りを伝える。
だけど、オールマイトはそれに返事をするわけでもなく、語り出していた。
「……決戦の日は恐らくもうすぐそこだ。心労をかけてすまなかった……詳しい話は避けるが、情報は得ている。近いうちに答えが分かる。総力を以てあたる。私も……この身でできることは限られているが、それでも「オールマイト!」
オールマイトが語っているのを、緑谷くんが遮った。
緑谷くんや飯田くんは、「一緒に守りましょう!」なんて決意表明をしているけど、私はそれどころじゃなかった。
『私自身が決めつけていた』とか、『地を這ってでも、私も戦うぞ』とか、『火の征く先を、見届けるために』とか、とにかく、そんな思考が読み取れた。
なんだ、これ……
オールマイト、戦うつもり?でも、どうやって……
それに、この覚悟の決め方、すごく嫌な予感が……
でも、これを言ったら緑谷くんの自分を責める感じの思考が再発しそうだし、下手なことを言えない。
オールマイトが1人の時、少なくとも皆がいない所で問い詰めない限り、どうにかできるものじゃない。
そう思って、黙っておくことにした。
オールマイトは、『すまない、波動少女』なんて頭の中で謝ってるけど、隠して欲しいなら、私にも隠し通して欲しかった。
『この少年たちに追いついてみせる』じゃないんだよ。
そんなの、今のオールマイトがしようとしたら、それこそ、死んじゃう可能性が……
凄惨な、死……?ナイトアイの予知って、そういうこと……?
あり得ないことじゃない。
こんなの、私1人でどうにかできることでもない。
皆は巻き込めないにしても、せめてナイトアイはどこかで巻き込むべきだ。
私がそんなことを考えている間に、オールマイトはまた出て行った。
そんなオールマイトに対して、常闇くんがホークスへの「メールくらいくれ」なんていう伝言を頼んでいた。
「おこじゃん、オコヤミ君じゃん」
「心配だったんだよ」
「……気持ちは分かる……返事をしてくれるだけマシだけど……私もミルコさんが……心配……」
オコヤミ君……まあ常闇くんの思考はちょっと怒ってるくらいではあったけど、確かに怒っていた。
私も私でミルコさんのことが心配だけど、音信不通の常闇くん程ではないとは思う。
その後は、皆エンデヴァーが入ってこない理由とかを話し始めていた。
そんな中、オールマイトのことが落ち着いて安心したのか、緑谷くんが眠ってしまった。
皆その様子を見ながら安堵の溜息をもらしている。
轟くんなんかは、毛布を掛けてあげていた。
……私も、少しでも緑谷くんが楽になるように手伝おうかな。
そう思って、緑谷くんの隣に腰かけて、緑谷くんの手に自分の手を重ねて、癒しの波動を使い始めた。
そんな中、轟くんはエンデヴァーの話を聞いて思うことがあったのか、口を開いた。
「荼毘の兄弟、エンデヴァーの息子……内心ではきっと、俺の存在も未だに不安だろう」
「家庭事情で……悔しいよなぁ、轟が何かしたわけじゃねぇのになぁ」
「したよ。血に囚われて、原点を見失った」
……轟くんの言う通りで、実際轟くん自身のことを不安がっている人もいる。
だけど、それを言い出したら私も結構な地雷だ。
トガに執着されてるし、トガは神出鬼没過ぎてどういう動きをしてくるか分からない。
ここで言うのは不安を煽るだけだし、言うつもりもないとはいっても、無視できないリスクだった。
轟くん自身が気に病むのは分かるけど、気にしすぎもよくないとも思った。
「でも今は違うから。違うって証明する。皆に安心してもらえるように」
「……ん……轟くんも……成長してる……頑張って……」
「……漢だよおめぇは……!俺、なんだか涙が出てくるよ……!」
切島くんなんか涙を滲ませながら震えて感動してしまっていた。
そんな切島くんの様子を見ながら、響香ちゃんが話し出した。
「避難してる人たち全員が全員、見方が変わったワケでもない……か。あれだね、なんかあれ。同列に言っちゃうのもおかしな話だけどさ」
「何?やだやめて」
「きゃっ」
「ム」
そこまで言うと、響香ちゃんイヤホンジャックを伸ばして、上鳴くんと百ちゃん、常闇くんを引き寄せた。
響香ちゃんはさらに爆豪くんの襟首をひっつかむと、強引に引き寄せてAバンドのメンバーを周りに集めた。
「ウチら不安視してた人たちがいてさ。みんなに安心して欲しくて、笑って欲しくてさ。やれること考えてさ。あの時みたいに、最大限の力でやれることやろう!ウチら出来たじゃんね!」
「そうだな」
「ん……文化祭の時もそうだったし……さっきお茶子ちゃんが見せてくれた……人の考えは、変えられるってところ……」
「取り戻すだけじゃなくて、前よりももっと良くなるように、皆で行こうよ!更に向こうへ!」
響香ちゃんのその力強い言葉に、皆気合を入れなおしていた。
実際その通りだと私も思うし、そうなるように頑張りたい。
そうしたら、きっと私も、お姉ちゃんも、皆も、過ごしやすい世界になると思うから。
だけど、とりあえずそれはそれとして、ブドウ頭はなんで変なキメ顔してるんだ。
緑谷くんに癒しの波動をしてるから頭を叩くこともできないし、皆気合を入れなおしててツッコんでくれる人がいない。
なんとも言えないその感じに、ちょっと気が抜けて肩の力が抜けた気がした。