翌日になった。
起きてすぐに緑谷くんがいなくなっていないことを確認して、もはや日課になっている受け入れの手伝いに出かける。
物間くんも当然のように毎日来てくれている。
人数が少なくなってきているから私だけでもいいって言ったんだけど、固辞されてしまった。
たとえ人数が少なくても、私に任せっきりというのは良心が咎めるらしい。
そんな物間くんも最近はすごく慣れてきていて、青い顔はしていても吐くようなことはなくなっていた。
物間くんが判断に困った時だけは私も確認するけど、それ以外はもう任せてもいいと思えるような精度で選別できていた。
お昼くらいになって、物間くんを迎えに来た拳藤さんに引き渡してしまう。
そのまままっすぐ寮に帰ると、ちょうど皆で昼食を取っているところだった。
午前中の訓練は一段落着いたらしい。
「ただいま……」
「あ、おかえりー!ご飯食べられそう?食べられるなら瑠璃ちゃんの分も準備しちゃうよー?」
「ん……食べる……ありがと……」
私が返事をすると、透ちゃんは軽やかな動きでご飯を準備しに行った。
……あんまり疲れてないのかな?
どんな訓練してたんだろう。
まぁいっか。今日は私も午後は手が空いてるし、訓練に参加しよう。
そんなことを考えたり、透ちゃんと話しながらご飯を食べていると、爆豪くんがちらっとこっちを見てから話しかけてきた。
「……波動、今日は訓練に参加すんのか」
「ん……受け入れ作業も……午前中で区切りがついたから……午後はそっちに参加する……」
「受け入れ作業って、波動さんが伝言してくれてた……?」
爆豪くんに返事をしていると、緑谷くんが聞いてきた。
まあ、緑谷くん的にはそっちの方が気になるか。
皆は爆豪くんの私の呼び方が"クソチビ"じゃなくなっていることの方が気になってるみたいだけど。
「そう……AFOの内通者の……選別作業……校長先生とかが面接してるのを……私と物間くんで読心して……内通者……黒を弾いてる……」
「校長先生もそんなこと言ってたけど、物間くんもなの?」
「ん……私の様子を見て……何をしてるのか察して……校長先生に直談判して参加してくれた……今の状況で私の個性をコピーするの……辛いと思うって全部伝えたんだけど……私1人に任せて……安全地帯でぬくぬくするのは……プライドが許さないって……」
物間くんのことを伝えると、皆ちょっとビックリしたような表情をしている。
……皆の中の物間くんの評価が低いのは分かっていたけど、ここまでか。
「……そんなにびっくりすること……?私……物間くんのことは……口が悪いだけで……ヒーロー志望の人の考え方してるって……ずっと言ってたと思うんだけど……」
「……うん、分かってる、分かってはいるんだけど……普段のあの姿が焼き付いてるせいで、理解するのに時間がかかる……」
「やっぱ物間、あの性格ですげぇ損してるよな……」
皆も納得自体はしてるけど、それはそれとして理解に苦しむって感じみたいだった。
うん、やっぱり普段の積み重ねって大事だな。印象が違い過ぎる。
「……ねぇ、波動さん、やっぱり、いるの?潜り込もうとしてくる人……」
今まで考え込んでいた緑谷くんが確認してきた。
まあ、緑谷くん的にはそっちが気になるよね。
「……ん……いるよ……もともと信奉者だったと思える人もいるけど……最近になって……取り込まれたんだろうなって人も……未来の保証とかを条件に……内通行為をしようとする人もいる……今のところ……全員弾いて……逮捕してるけど……」
「そう、なんだ……」
緑谷くんが辛そうな表情で俯く隣で、青山くんまで居心地が悪そうにしている。
居心地悪そうにするのはいいけど、余計なことは言わないでよという意思を込めて、青山くんに視線を送っておく。
一応、青山くんもすぐに理解はしてくれて、態度もちゃんと取り繕ってくれた。
そんなちょっと暗くなってきた雰囲気の中、爆豪くんが口を開いた。
「んなこたぁ今はどうでもいいんだよっ!!訓練参加するっつったな!?」
「……ん……参加するけど……」
爆豪くんが何を言いたいかは分かったけど、多分望み通りの展開にはならない、というかできないと思うんだけど……
「なら俺と戦えや。あれ見た後からずっと待ってたんだ」
「爆豪何言ってるの!?瑠璃ちゃんが爆豪となんて……」
「外野は黙ってろ。で、受けんのか、受けねぇのか」
透ちゃんが爆豪くんを止めようとしてくれるけど、爆豪くんはそれを切って捨てた。
まあ、正直あの時の様子を見てないとそういう反応になるのは分かる。
というよりも、あの時みたいな波動の増やし方なんて分からないから、どうしようもないというのが実情だ。
一応、感情とか、状況が影響しているんだろうなっていうのは分かるけど、それをどうすればああなるのかが分からなかった。
「……爆豪くんが望んでるもの……出せないよ……あの時みたいなの……どうやればいいのか……分からないし……」
「うだうだ言ってねぇでどうすんのか答えろや!!」
「……分かった……結果……見えてるけど……」
イライラしながら問い詰めてくる爆豪くんに、仕方なく了承を伝える。
そんな中、やり取りを聞いていて分からなかった部分が多かった皆を代表するかのように、上鳴くんが問いかけた。
「あの時って?」
「……すまない、波動くん。皆にも最低限説明するぞ」
「ん……どうぞ……」
飯田くんが私に確認を取ってくれた。
正直、あの場にいたメンバーの中では一番説明役に適任かもしれない。
爆豪くんはこの調子だし、緑谷くんは暴走しかねない。
私と轟くんは口下手だから無駄に時間がかかる。
やっぱり飯田くんが説明してくれるのが一番マシだな。
「蛇腔で、波動先輩が重傷を負った直後に、感知した波動くんが跳んできたんだ。そして、波動先輩の怪我を見た直後に、波動くんの様子が変わった」
「様子が変わった?」
「ああ。全身から、俺が見ても異常と思えるほどの量の波動を、滲ませ始めた。そこからは一方的だったよ。エンデヴァーの技、プロミネンスバーンすらも使うことが出来た荼毘を、一切の反撃を許さずに蹂躙した」
「蹂躙って……」
「……間違った言い方をしてるわけじゃねぇ。それだけ、あの時の波動はやばかった。俺が火力負けした技も、波動の塊一つで相殺してたしな」
轟くんも、飯田くんの説明を補足するように付け足した。
皆の視線が集中してて居心地が悪い。
「極めつけはその後だ。ベストジーニストが拘束してくれていたギガントマキアが、拘束を破ってしまったんだよ」
「なっ!?で、でも、あのデカブツは確保したって……」
「ああ。確保した。皆の麻酔の成果と、波動くんの戦果が合わさって、行動不能になったからな……」
飯田くんはそこで一度言葉を区切った。
皆はもう黙ったまま、静かに聞いている。
そのまま思い出すようにしながら、飯田くんは続きを話し始めた。
「動き出してベストジーニストを殺そうとしたギガントマキアに対して、波動くんは、ベストジーニストとギガントマキアの間に身体を滑り込ませ、波動先輩以上のビームを、放ったんだ。その後に、ミルコや波動先輩のアシストが入って、さらに波動くんの全身から溢れる波動が増えた。そして、ビームがギガントマキアの上半身を覆うほどの大きさになって……ギガントマキアの左腕を切り飛ばしたんだよ」
「切りっ!?」
「ギガントマキアって、あの巨人で間違いねぇよな!?」
「あれの腕を、切り飛ばした……!?」
皆、絶句していた。
困惑したような視線を向けられて、こっちも困惑してしまう。
「……お姉ちゃんをやられたと思ったら……頭が真っ白になって……怒りに任せて暴れまわっただけ……なんで波動が増えたのかは……今までの傾向から予測はつけてるけど……じゃあどうしたらまた増やせるかとか……分からない……今はもう……元の量よりちょっと増えた程度まで戻っちゃったから……」
「い、いや、それでも……あれの腕を切り飛ばすってやべぇだろ」
「条件って……もしかして、怒ったりしてたからとか……?ナインの時とか、合宿で私を助けてくれた時とか、いつも以上の動きしてた覚えがあるんだけど……」
透ちゃんがちょっと考え込むようにしながら聞き返してきた。
そんな透ちゃんの問いかけに対して、緑谷くんがいつもの分析を始めた。
「怒り?いやでもそれだけだと説明がつかない時もあったような……波動さんが明らかに普段よりも力を発揮していた時となると、体育祭と林間合宿と那歩島と蛇腔だ。だけど怒りとなると体育祭で増えるのはおかしい。そうなると感情の昂ぶり?種類は問わない感じ?でもそれだともっとそういう場面がないとおかしかったと思「そのブツブツやめろやぁ!!!サブイボ立つんだよ!!!」
ブツブツを聞いている皆は、生暖かい視線を緑谷くんに向けていた。
だけど、そんな緑谷くんのブツブツは、爆豪くんに怒鳴られて強制終了させられてしまった。
いつもならこういう時はクソデクとかクソナードとか罵声とセットだったはずだから、一応柔らかくはなっている、はずだ。
思考でも蔑称のようなあだ名は使ってないし。
とりあえず強制的にブツブツを止めさせて満足したらしい爆豪くんは、さらに私に声をかけてきた。
「だから戦えっつってんだろうが。俺が戦いてぇのもあるが、こいつが意識してあの時の状態になれるなら戦力になる。模擬戦で条件考えてろ」
爆豪くんが念を押すように言ってくるけど、戦ったからってそう簡単にあの時の状態になれるとは思えないんだけど。
9割以上爆豪くんが個人的に戦いたいだけじゃないだろうか。
「……合宿で……常闇くんに対しても……残念だみたいなこと言ってたし……これ……9割爆豪くんの趣味だよね……?」
「……ああそうだよっ!!わりぃか!?」
まさかの逆ギレだ。
まあ、あれが使えた方がいいのは確かだからいいんだけど……
皆は、私に対して困惑と驚愕といったような感情を向けつつ、爆豪くんのいつも通りのキレている姿に、なんとも言えない感情を抱いていた。