コスチュームに着替えて寮の中庭に移動して、爆豪くんと向かい合う。
正直勝てるとは思えないんだけど……
殺したいレベルの憎悪とかを意識して抱けるなら話は別なんだろうけど、そんなの意識的にできるようなものじゃない。
荼毘のことを思い出すとイライラするし、自分の波動の量が不安定になるのは分かるけど、あんなに莫大な量に増えているような感じじゃない。
皆は各々の訓練に取り組みながらちらちらとこっちを見ている感じになっている。
「おら、始めるぞ」
「ん……じゃあ321で……」
時間を無駄にしないように審判とかも頼んでないから、私がテレパスでカウントダウンすることで開始の合図にした。
まあそれはいい。
問題は爆豪くんをどう攻略するかだ。
正直機動力も破壊力も負けている自覚があるから、思考を読んで裏をかくくらいしか手がない。
でも、爆豪くんはそんな戦い方を望んでいるわけじゃないのは分かってる。
だから、どうにか波動の量を増やせないかを考えながら、思考を読んで裏をかきまくるしかないか。
そう思いながら、テレパスを始めた。
『3……2……1……』
「おらぁっ!!!」
爆豪くんはいきなり真正面に飛んできながら爆破を放ってきた。
私も波動の噴出で跳んで避けながら、回り込もうとする。
だけど、そんなのは爆豪くんにとっても予想通りでしかない動きだろう。
実際、思考が裏をかこうとする私に対する警戒でしかないし。
今警戒している方向を避けるようにして、爆豪くんの視界の外に回り込もうとしていくけど、爆豪くんもすぐに反応してくる。
「分かりやすい動きだなぁおいっ!あの時は正面からねじ伏せる戦い方してやがったのに、随分消極的じゃねぇかっ!」
「……っ……あの時がおかしかっただけで……私は元々こういう戦い方……」
近づこうとしたタイミングで、すぐに爆破で牽制されてしまって爆風に煽られる。
そのまま追撃されないように大急ぎで距離を取るけど、爆豪くんはそれにも追撃を仕掛けようとしてくる。
「おせぇよっ!!」
そのまま跳躍で逃げようとするけど、爆豪くんはさらに加速を掛けながら襲い掛かってきていた。
逃げられないなら、反撃するしかない。
そのまま手に波動を圧縮して、着地すると同時に爆豪くんに向かって発勁を繰り出す。
「発勁っ!!」
「攻撃が読みやすいんだよテメェはっ!」
爆豪くんに向かって放った掌底突きは、爆破で若干身体の軸をずらされたことで難なく避けられてしまった。
そのまま迫ってくる爆豪くんから逃れるために、大急ぎで爆豪くんがいない方に跳び込む。
だけど、そんなの予想できていたみたいで、すぐに追撃をかけてきた。
起き上がる暇もないくらいの勢いで迫ってくる爆豪くんに、波動弾を投げて牽制する。
「その程度の攻撃じゃ牽制にすらなってねぇっ!
小規模の爆発で波動弾をかき消しながら、周囲を極大の閃光が包んだ。
爆豪くんがゆっくりと私の頭に押し付けていた手を退けて、立ち上がる。
負け、か。
使った技が爆豪くんが使える技の中でも威力は低い
だけど、それでも、手も足も出なかった。
ミルコさんと特訓はしたけど、同じように訓練を積んでいたり、戦闘経験が豊富な人が相手になると、勝ち目が薄い。
今まで私が単体で勝てたのだって、あの時の荼毘を除いたら、その辺のごろつきとか、小物のヴィラン、あとは個性の相性がいい相手くらいだ。
こうなるのは分かり切っていた。
実際、私の戦闘能力はA組の中でも下から数えた方が早い。
正面から戦って勝てると思えるのは、透ちゃんとか個性の相性がいい人くらいだし。
だから勝てないのも仕方ない。
そんなことを考えていたら、爆豪くんが鋭い視線で睨みつけてきていた。
「なに諦めてんだよ」
「……別に……諦めてなんて……」
「お前今何考えてた。負けるのは当然だった、勝ち目なんてなかった……どうせその辺りだろ」
吐き捨てるように言う爆豪くんに、何も言い返せなくなってしまう。
図星でしかなかったし、実際最初から勝てると思って戦ってないんだから、言い返すことなんて出来なかった。
そんな私を横目に見ながら、爆豪くんは言葉を続けた。
「テメェにその辺のモブとは違うポテンシャルがあるのはもう分かり切ってんだろ。なんで食いついてこねぇ。なんで無難な方法しか取ろうとしねぇ」
「……それは……」
併せてかけられる言葉にも、言い返すことなんてなかった。
全部、爆豪くんの言う通りだ。
今、爆豪くんが、『あの時はこんな消極的な雑魚じゃなかっただろ』みたいな感じの、吐き捨てるような思考をしているのも伝わってきている。
「出久もテメェも顔金玉も、感情の昂ぶりとか怒りとか、憎悪とか言ってやがるが……あの時の本質はそこじゃなかっただろうが……!」
「ほん、しつ……?」
爆豪くんの言葉に、オウム返しをするように聞き返してしまう。
それを聞いた爆豪くんは、舌打ちをしたうえで荒々しく言葉を続けた。
「確かに最初は憎悪だった。轟たちが話してるの聞いてりゃそうとしか思えねぇしな。間違いなく憎悪とか怒りでブーストされてるんだろうよ。だけどな……テメェがあのデカブツに向き合ってた時はどうだったんだよ」
「ギガントマキアと……向き合った時……」
「あの時のテメェは、異常な執着見せてる姉の仇を無視してでも、兎を、ジーパンを……俺を守るために止めに入りやがったっ……!あれは、憎悪でも怒りでもねぇっ……!」
爆豪くんは、すごく悔しそうに顔を歪めながら、絞り出すようにそう言った。
そこまで言われて、ようやく気が付いた。
確かにあの時は、怒りとかは、頭から消えてた。
必死だったのもあるけど、ミルコさんや、爆豪くんに、死んでほしくなかったから、守りたかったから、いつの間にか、身体を滑り込ませた。
大切な人たちが死んでしまう可能性に気が付いた瞬間、波動が跳ね上がっていた。
それは、荼毘に対する憎悪で増えていた波動よりもはるかに多くて、さらにブーストのようなものがかかる結果になっていた。
そこにお姉ちゃんが、私を助けるために来てくれて、お姉ちゃんまで死んじゃうって思ったところで、さらに波動は跳ね上がった。
あの時の波動のブーストのかかり方を考えると、荼毘への憎悪、師匠や友達の命の危機、お姉ちゃんの命の危機……この3回、ブーストがかかっていた。
その中で波動の増え幅が一番大きかったのは、お姉ちゃんの命の危機。
次が、ミルコさんと爆豪くん、通形さんの命の危機。
最後に、荼毘への憎悪だった。
確かに、憎悪や怒りでも波動は増えてる。
あの時は、憎悪で増えた波動と、過去の増えた時の状況を考えて、感情の昂ぶりとか、怒りとか、ピンチになったら増えるのかなんて、思ったりもしたけど……
憎悪でも増えるのは間違いないのかもしれないけど、一番効率よく、莫大な量に増えたのは、間違いなく、"大切な人の命の危機"と、それを許容できない私の、どうにかするんだって想いと、それに呼応した感情の昂ぶりだった。
そこまで思い至ったところで、私は確かめるように口を開いた。
「そういう、こと……?」
「……テメェのそれは、憎悪や怒りによるものじゃねぇ。魔王に相応しい力なんかじゃねぇ。むしろ、真逆だ。俺はそう考えた」
爆豪くんは、私がAFOに言われていた言葉も聞こえていたみたいだった。
それを含めて、爆豪くんは、『勇者みてぇな力』っていう認識を、持っていた。
AFOに言われていたことに対して、それを打ち消すような言葉を、かけてくれていた。
「……ありがとう……爆豪くん……」
「……借りを返しただけだ。早く使いこなして、俺の練習台になりゃそれでいい」
照れ隠しのようにそこまでいうと、爆豪くんは静かに離れていった。
爆豪くんは、そのまま緑谷くんの方を見に行ったようだった。
私は、離れていく爆豪くんを尻目に、考えていた。
あの波動の力を、使いこなしたい。
こんな状況になって、お姉ちゃんも、皆も、ミルコさんも、皆危険に晒されていて、傷付き続けている。
こんな状況は、一切許容できない。
それに、超常解放戦線の所業。
監獄破りとか、そういう犯罪は、今はどうでもいい。
どうでもよくないけど、それよりも、私にとって大事なことがある。
ミッドナイト先生を殺されたのも、許せることじゃない。
大事な恩師で、信頼していた先生で、信じても大丈夫だって最初に思わせてくれた、優しい先生だった。
そんな大切な人を殺されたという事実を、許容出来るわけがない。
私たちのことをすごく気遣ってくれている相澤先生だって、重傷を負わされた。
こんな状況で、そんな仇と、凄まじい力をもつ連中と、皆、命の危険を無視してでも戦おうとしていて、オールマイトは、自分の死の予知すらも受け入れて戦おうとしている。
こんなの、許容できるわけがなかった。
皆を、大切な人を、救けたい。
一般市民を、なんて、やっぱり言うことはできないけど……
それでも、大切な人の為に、私は戦いたい。
そう思ったところで、少しずつ、波動が増えていることに気が付いた。
皆の命の危険を認識して、救けたいって思い始めたからかな。
きっと爆豪くんの予想が、当たっていたんだと思う。
今までだって、波動が増えたタイミングは何回かあった。
多分、普段の私の波動が、あの増えた時の量の足元にも及ばなかったのは、私自身の感情の動きが、お姉ちゃん以外に対する関心が、薄かったせいだっていうことにようやく気が付いた。
今まで、嫌な感情とか思考を無視するために、意識して他人の波動を気にしないようにしていたけど、それが成長の妨げになっていたんだと思う。
でも、やっとそのことに気が付くことができた。
一般人に対しては、そこまで変わっているかと言われれば変わってないと思うけど……
私が大切だって思える人たちは、だいぶ増えた。
なら、後は練習あるのみだ。
大切な人たちを想う気持ちと、この状況をどうにかしたいっていう必死さがあれば、きっと……
身体から緩やかに立ち昇り始める波動を見ながらそう考えていると、訓練が落ち着いたらしい透ちゃんが私の方に駆け寄ってくるのが見えた。
そんな透ちゃんに笑顔で応えながら考える。
ミッドナイト先生は、大事なものを守るために戦うのもヒーローだって、そう言ってくれた。
それなら私は、お姉ちゃんを、皆を守る、ヒーローになりたい。
今まで、一度だって心からヒーローになりたいなんて思ったことはなかったけど、それでも、それが今の正直な気持ちだった。