あの後は、波動を増やすために色々と試したりして訓練をして、寮に戻った。
受け入れも落ち着いてきて、周囲の人間の思考も少しマシになって、緑谷くんも戻ってきた。
久しぶりに、少し気が抜けるような状態になったと思う。
そう思って、少し息抜きの意味も込めて、料理を作っていた。
ずっと訓練をしているわけにもいかないし、少しは休んだ方が効率も良かったりするし、皆も賛成してくれた。
とはいっても、食材がそんなに豊富にあるわけじゃないから凝ったものは作れないし、久しぶりに皆でカレーを作っていた感じだ。
「爆豪くん……そっちの鍋任せていい……?」
「あ?」
「辛いの……爆豪くんが調節して欲しい……私が作ってもいいけど……私は……私が一番うまくできる味付けでやりたいから……」
「……チッ……わぁったよ。どれだ」
「砂藤くんの隣の鍋……お願いね……」
爆豪くんにも味の調節をお願いしてしまう。
そこそこの大きさの鍋でいくつか作る予定だ。
甘口を砂藤くん、辛口を爆豪くん、中辛……というよりもお姉ちゃん好みのこだわりにこだわった至高の味付けを私が作る。
こんなに作ってる理由は、B組も呼んだからだったりする。
物間くんにはすごくお世話になったし、B組的にも息抜きにちょうどいいんじゃないかと思っての提案した。
お姉ちゃんたちも呼ぼうと思っていたんだけど訓練で忙しそうにしてたのと、3年生は3年生で今日は自炊しているみたいだからやめておいた。
まあこれは仕方ない。
ランチラッシュ先生は避難民の食事も作っているから、自炊ができる余裕があるならした方が負担軽減につながる。
食材も有限だから、もう向こうも作ってるなら無理に誘うほどでもない。
出来れば呼びたかったし、久しぶりにゆっくり話したりもしたかったんだけど、お姉ちゃんたちはお姉ちゃんたちでできることをしている。
邪魔をしたくなかった。
そんなことを考えながら鍋に隠し味とかを混ぜつつ味を調えていると、寮の扉がバァンっと音を鳴らして荒々しく開いた。
「待たせたねぇ!!待たせすぎたかな!?」
「お邪魔するよー」
まあ、当然のように物間くんだ。
午前中よりもマシになってはいるけど、顔色はまだだいぶ悪い。
ちょっと心配だった。
そんな物間くんの後ろに、拳藤さんを筆頭としたB組の面々もついてきている。
物間くんがいつもの煽るような表情で登場をしているにも関わらず、拳藤さんも特に制裁とかをするつもりはない。
ちゃんとこれがやせ我慢で心配させないためだっていうのが分かっているみたいだった。
それに、B組も鍋を1つ持ってきてくれていた。
カレーを作ってくれていたようだった。
「待っていたよ!上がってくれたまえ!」
「おー!物間!待ってたぜ!」
「いらっしゃーい!」
「……いつになく歓迎してくれるじゃないか」
皆も物間くんを快く迎え入れていて、その態度に物間くんが困惑するという珍しい状況が出来上がっていた。
私が物間くんが手伝ってくれていることとか、物間くんの考えとかを多少伝えたのもあって、態度の変化につながったみたいだった。
「おめぇが漢見せてることは波動から聞いてるぜ!ゆっくりくつろいで行ってくれよ!」
「……君、喋ったのか」
「……隠す意味……ある……?物間くんが頑張ってること……皆にも言っただけだよ……?」
「だからといって別に言う必要も「ほーら、いいから。さっさと席とか準備するよ。唯、お願い」
「ん」
物間くんが羞恥で顔を歪めながら恨めしそうに見てくるけど、そんな物間くんを拳藤さんが制してくれた。
B組はそのまま小大さんと柳さんを筆頭にソファの配置に取り掛かってくれた。
「俺、手伝うよ!」
上鳴くんが前回の反省を生かして、お茶子ちゃんが浮かせたりしているソファを動かしてスペースを空けたりする方向で手伝い始めていた。
まあそれはいいんだけど、群訝山荘の要請を受けた時に響香ちゃんのことを思い浮かべていたのはいいんだろうか。
もしかして、まだ意識してない?あんなに露骨だったのに?
響香ちゃんもチラッと見て流しちゃってるし、多分2人ともまだ自覚してないけどちょっと気になるくらいでしかない感じか。
外野がツッコむことじゃないし、自覚してない所に口を挟むのは馬に蹴られそうだしするべきじゃないから放っておくけど。
そんなこんなで準備が終わった。
この情勢のこともあって、最初の方は皆騒ぐような感じはなかったけど、好きな味のカレーをよそって食べ始めるころには賑やかなに話しながらの食事会になっていた。
「避難民の事とかもあるし、気を抜き過ぎるのがよくないのは分かってるが……うめぇ!!」
鉄哲くんが叫んでいる声が聞こえてくる。
隣にいる切島くんもすぐに同調し始めて、熱血な感じで意気投合して騒ぎ始めていた。
さらにその近くでは、百ちゃんがこんもりと盛られた超大盛のカレーをパクついている。
「自分たちで作ったカレーを食べるというのは、やはりいいものですわね」
「相変わらずの量だねヤオモモ」
「ええ!今日は訓練でだいぶ消費しましたし、その分を補給しなくてわ!」
「あ、暗黒の渦……」
「フッ、それはもう俺が通った道だ。深淵の理解者よ」
にこやかな笑顔でカレーの山を消していく横で、響香ちゃんが慣れた様子で声をかける。
それを見ていた黒色くんが、引いたような感じで呟いていた。
意味が凄く分かりづらいけど、ブラックホールとか、そういう感じのことを言いたいんだろうか。
常闇くんもそれに同調してる感じになってるし、あの2人が揃うと会話が分かりづらくて仕方ない。
「これは……!何種類ものスパイスの独特な香りが絶妙なバランスで混ざりあって香り豊かで奥深い味になってる!唐辛子だけじゃなくて色んなスパイスが混ざってるのもあって辛味以外にも酸味と爽やかな香りが混ざり合ってて辛いはずなのにどんどん食べたくなるこの感じは「鼻につく食レポすんなっつってんだろうがよ出久ぅ!!!」
緑谷くんも緑谷くんでいつものブツブツを始めて爆豪くんがキレ散らかしている。
一応デクとかナードとか言わなくなってるけど、この辺りは全然変わってない。
根っこの部分が簡単に変わったらむしろ怖いから、当然のことではあるんだけど。
「あれ、爆豪っていつの間に緑谷のこと名前で呼ぶようになったの?」
「昨日緑谷ちゃんを連れ戻すときに色々あってね」
そんな爆豪くんの様子を見ながら、拳藤さんが近くにいた梅雨ちゃんに事情を確認していた。
まあもとの爆豪くんを知ってたらそういう感想になるよねとしか思えない。
私がそんなことを考えていると、隣でカレーをがっついていた透ちゃんが、口の中の物を飲み込んでから話しかけてきた。
「瑠璃ちゃんのカレーおいしいね!?自信がある味付けって言ってただけある!!」
「ふふ……当然……だってこれは、お姉ちゃんが大好きな味だから……!!おいしいのは、当然なんだよっ……!!」
透ちゃんの当然すぎる感想に、思わずドヤ顔を返してしまう。
これは、久しぶりに布教をしなければいけないんじゃないだろうか。
「あ、あ~……久しぶりのこの感じ……」
「今日作ったカレーは私がお姉ちゃんのためにこだわりにこだわりぬいた至高の一品なんだよ……!若干甘めの味付けだけど確かに辛さもあって、そんな中にもスパイスとフルーツの香りが絶妙なバランスで香るように調整しててね―――……」
お姉ちゃんの好みの味を絶賛してもらえて私はもう有頂天だった。
三奈ちゃんとか物間くんとかが、若干引いたような感じでこっちを見ているのが分かる。
これは布教が足りてないな。
また今度余裕がある時に徹底的に布教しとかないといけない。
そんなことを考えながら透ちゃん相手に今できる範囲で布教をしていたら、寮の扉が開いた。
「おまえら、何騒いで「相澤先生!!?」
扉から姿を現したのは、相澤先生だった。
右目に眼帯を付けているけど、普通に歩いて扉から入ってきた。
その姿に皆驚愕して、大声を出して固まってしまっていた。
「もう退院できたのですか!?」
「大丈夫なんですか!?」
「ああ。ついさっき退院してな。もう大丈夫だ」
先生はなんてこともないようにそう言い切った。
だけど、先生の右目は、もうまともに機能していない。
死柄木に完全に潰されてしまっていた。
顔の傷も、くっきりと痕が残ってしまっている。
確かに体調は問題ないんだろうけど、とても万全の状態での退院とは言えなかった。
そんな先生に対して、峰田くんが恐る恐る口を開いた。
「な、なぁ、目は……」
「問題ない。気にするな。それで、お前たちは……カレーパーティーでもしてたのか?」
「はい!避難民のことも、緑谷くんのことも、ある程度は落ち着いたので!訓練も行っていたのですが、それだけではオーバーワークになってしまいますし、気が滅入るということで、気分転換も兼ねて!」
先生の質問に、飯田くんが代表して返答した。
先生もこの集まりを否定する気は一切なさそうだし、さっきくらいの騒ぎ方ならいいと思っているらしい。
「それを否定するつもりはない。合理的に動くためには休める時に休むことも重要だからな。まぁそれはいいんだが……すまん、こういう集まりをしてるなら、エリちゃんを連れてきてもいいか?どうも最近気が滅入っているらしくてな。気分転換をさせてあげたい」
「ん……大丈夫です……どうぞ……連れてきてください……砂藤くん作の甘くておいしいカレーもあるよって……伝えてあげてください……」
「助かる、ちょっと待っててくれ」
私が皆の思考に拒否してる感じがないことを確認してから返答すると、先生は寮を出て、教師寮の方に向かって行った。
先生が言ってくれていた通り、エリちゃんも最近気が滅入っていた。
まあ、こんな世界情勢になって、護衛もつけられて、行動も制限されて、ミッドナイト先生が殉職して、忙しすぎる先生たちも教師寮になかなか帰ってこなくなって、私たちもエリちゃんと会う時間が取れなくて、気が滅入ってしまうのも仕方ない状況が出来てしまっていた。
そんなエリちゃんの気分転換になるというなら願ったり叶ったりだ。
先生にもちゃんと休んで、気分転換して欲しいし、戻って来たら先生も巻き込もう。
A組は皆その気みたいだし、B組も特に嫌がっている様子はない。
鍋を温め直して先生をまった。
そんな感じで、エリちゃんと先生も巻き込んだAB合同カレーパーティーは問題なく終わった。
久しぶりに楽しく過ごせて、ちょっとだけ気分が晴れた気がした。